152 処刑
■ オペレーション・エクスルード開始から十分経過 十一時十五分
拡声器を使って呼びかけていたロッタが、領事館の異変を本部に伝えて来た。ロッタの呼びかけには一切反応しないものの、五名の人質を盾代わりに武装集団が現れたのだ。
入り口に組んだ「やぐら」から人質たちの様子を伺うと、やはり沈静化の魔法の影響下にあるのか動きは緩慢でその足取りは重い。両手首をロープで正面に固定され、腰に巻かれた別のロープは人質五人を数珠繋ぎにして一列にまとめており、行動の自由は皆無と言って等しい。
ロッタにとっては、仕事柄普段から交流のある屈強な五人の男たちなのだが、黒い布で目隠しをされて視線こそ読めないものの、表情全体から見て取れる圧倒的な絶望感は、たやすく読み取る事が出来た。
「……ロッタからマザーズネストへ。正面玄関から現れた人質は五名、彼らはフィリベルト大尉麾下、領事館警護隊の兵士たちだ」
軍服の袖に装着しているマイクを使い、刻一刻と変化する正面玄関口の状況を実行本部へ報告し続けるロッタ。
小銃を構えた武装集団の兵士たちが、目隠しされた人質五人のロープを引っ張り中庭に誘導している事と、ロッタがこれだけの音量で語りかけているのに、一切視線を合わせずに無視する事で、この後に起こる展開が最悪の事態に発展するのではと懸念し始める。
拡声器で武装集団に対して「君たち!」と語りかけながら、合間合間でマザーズネストに思念通信で報告を送るその声も、段々と切羽詰まった声色へと変わり始め、みるからに焦りの色が滲み出ているのが把握出来た。
フィリベルト大尉以下、合計五人の人質が中庭の噴水池の前に並ばされる。それぞれを繋いだロープが緊張して見事な等間隔に並ばされるのだが、その後ろに武装集団の兵士たちが小銃を持ちながら同じ等間隔で並んだ事からロッタは確信した── “処刑だ、彼らは処刑されるのだ” と
(こちらロッタ、人質五名は処刑される可能性あり!訂正、処刑される可能性大です!あっ、あっ……今領事館正面玄関から敵勢力のリーダーらしき人物が出て来ました!)
この報告を受けた途端、雷に打たれたかのようにオレルが瞬時に立ち上がった。
「首謀者らしき人物を直接見たい!私はロッタに合流する!」
そう言うと、ハンディタイプの念話送受信機を掴むがコートも羽織らずに部屋を出ようとする。
「中佐、危ないので護衛を付けますよ!」
「構わん、急げ!」
慌ててオレルの背中に声を掛けたオスティンは、自身も立ち上がって部屋の外へ。廊下に待機していたベルメル大佐麾下の現地軍護衛班の兵士二人にオレルの護衛を命じる。
(マザーズネストよりオールユニットへ、コヨーテは巣を離れロッタと合流する!)
作戦実行本部の陣容が変わった旨をマザーズネストが仲間に報告する中、エレベーターなど待っていられないとばかりに廊下から階段に向かって全力疾走する。
オスティンの指示でオレルに付いた二人の兵士も、引き離されては面目丸潰れだと必死でオレルに食らいついて走る。その様はまるで、ジェット戦闘機三機が見事な編隊飛行で空を駆けているようだ。
(マザーズネストからコヨーテ、ロッタから報告が入った。首謀者らしき人物は人質の背後に立って何やら説教らしき話を始めたとの事。首謀者らしき人物の詳細、白い神官服をまとった白髪の老人、推定七十歳前後、面識は一切無く初対面との事!)
「こちらコヨーテ、それは処刑前の最後の説法だ!ロッタに拡声器でひたすら語りかけるように指示しろ!説法をかき消して神経を逆撫でするんだ」
階段を駆け下り、ホテルのロビーへと躍り出ると、そのまま入り口の回転扉へ。
厚手のコートを身にまとい、首をすくめて歩かなければならないこの寒空の下、薄手の服にボディアーマーだけをまとったオレルが飛び出した。
(こちらマザーズネスト、ジョーカーより通信が入った。領事館内に侵入成功。納戸を発見したので避難、指示を乞うとの事)
「コヨーテ了解、二分待てと伝えろ!」
もうすぐ領事館の正面門に到着するが、それよりも早く拡声器の音がオレルたちの鼓膜を振動させ始めた。何とか処刑を中止させようと試みるロッタの言葉には、悲壮感がたっぷりと漂い、相手に向かって助けを乞うような願いも過分に含まれている。
だが、オレルと護衛役の兵士たちが後数メートルでやぐらにたどり着こうとした瞬間、それは始まり、そして終わった。
“パン!”と、耳をつんざく炸裂音の合唱を奏で、そして辺りに静寂が訪れたのである。
■事件発生から三日目 十一時二十六分
領事館に勤めていたアムセルンド人の人質五名、射殺される




