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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◇◆◇ 第3部 アムセルンド領事館人質籠城事件 編
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117 ユア・マジェスティ(御身のままに) 後編


 カール・オーウェンミュラーは盛大に後悔した。

 調査活動で街に出る際は、必ず駐在武官の護衛を付けるのだ── そう副領事から言われたのですがとレベッタの顔色を伺うと、彼女はまるで「イエス!イエス!イエス!」と叫ばん限りに高揚して、活動内容など一切知らないままに即答で快諾したのだ。

 軍人同士の場合ならば、この才女はもっと堅苦しく接するのであろうが、民間人がふらりと訪問して来て退屈しのぎの話を持ちかけた事から、警戒のハードルはユルユルであったと想像出来る。無意識に口角が上がり素の自分をさらけ出してしまっていたのだ。


「いや、ハウトリムセン少佐、民間の経済調査活動と言っても、市場や一般企業を回って物品流通価格を教えて貰うのとは訳が違うんですよ」

「ええ、もちろん。闇経済の動向調査なんですよね?」

「そうです、とても危険なんですよ。麻薬組織だけでなく鉄道労働者の手配をしてるマフィアなども調査対象なんです。下手をしたら相手の不興を買って襲われる事だってあり得るんですよ」

「元より承知の上です。そのための護衛役だと承知していますが……私では役不足でしょうか?」


 はい、その通りです、役不足ですとは一切言わせないぞと言う気迫に溢れるレベッタ。その強い意志を秘めた笑顔にカールは圧倒されながらも、華やかな出世街道を歩いて来た貴族令嬢に対して、綺麗事では済まない社会の闇を説明する。


 ──フォンタニエの首都ファボロフスクでの話を例に出しましょう。首都での麻薬汚染は深刻な状態に陥っており、統計的には百人中二人が重度の麻薬中毒者であると発表されています。首都を拠点として麻薬を販売しているマフィアは、今現在四つの勢力となっており、日々血で血を洗う抗争が繰り広げられています。

 首都警察も麻薬を扱うマフィアの摘発に力を注いでいますが、いかんせん暴行、恐喝、窃盗、殺人などの犯罪発生率も高く、専任麻薬特捜班が充実しきれていない現状があります。現状打破を考えた政府が首都に国軍部隊を投入しようとしたところ、野党労働党の反対議決で白紙になったのが昨年の事。これは新聞でも報じられているので少佐もご存知のはず。

 勢いに乗ったマフィアは、警察に対しても露骨な敵対行為を取るようになって来ました。麻薬捜査官の暗殺などまだ可愛い方で、昨年あたりからは麻薬捜査官や警官とその家族を皆殺しにして、家の塀に切り取った首を並べるようになりました。

 これは敵対するマフィアや協力しない一般市民に対する威嚇行動と同じであり、彼らにしてみれば警察も怖くなくなった……または殺してでも排除すべき存在となったのです。


「新聞記者やジャーナリスト、地下経済の実態調査をする者も例外ではありません。彼らの不興を買った者たちは、首だけの置き物となって虚空を見上げるか首吊り死体となって、街のあちこちで風に揺れています」


 さあ、これだけ実態を話せば、さすがの貴族令嬢も臆して身を引いてくれると踏んでいたのだが、予想はあっさりと裏切られる。グロテスクな光景を想像して顔をしかめ、そのあまりの残酷さに怯えて及び腰になる事を期待していたのだが、全く予想と違う反応を示したのだ。


「いやあ、それは凄い!まさしく危険極まりない世界だね。そう言う世界に踏み込むならば、私のような護衛役は必要かも知れないね」

「……はい?」

「ファルセン伯も粋な人選をする。領事館付きの警備隊を護衛としてあなたに付けたとしても、彼らは根っからの兵士であり直ぐに勘付かれる。ならば私が適任と言う論理は称賛に値する」

「いや……だから少佐?」

「私はね、公国陸軍において出世したいと望んでいる、それも軍政部ではなく軍令部の軍人としてね。私は制服組としてキャリアを重ねたい訳じゃない、実戦部隊の指揮官として名を上げたいのだよ」


 地下経済・闇経済の調査と言えば、少なからず"そちらの"人間とも接触するケースが出て来る。その恐ろしさや死に対する恐怖を一切抱きもせずに、天真爛漫とも言うべきにこやかさで話に応じる彼女を見て、カールは腹の内でため息を吐く……ああ、この方は退屈を敵とする冒険心旺盛な姫さまなのだと


 だが、このレベッタ・ハウトリムセンなる少佐、ただ単にお勉強が出来て退屈を持て余す貴族のお嬢様ではない瞬間を垣間見る。

 ほとほと困り果てていたカールに向かって、度肝を抜く一言を放って来たのだ。


「カール・オーウェンミュラー、これはあれだね、偽名だね」


 カールは内心凍り付くが、もちろんそれを悟られる訳にはいかない。終始ニコニコしながら話しかけて来る彼女に向かい、目を丸々に剥いて「はい?」と口にした。突然何を言い出すの?と言うジェスチャーだ


「いや、あなたの名前だよ。カールは大陸各地のお伽話や寓話で愛用されるポピュラーな名前で、愛着があるから呼ばれやすい。ひるがえってオーウェンミュラーは相手に呼ばせる事で試してるね?アムセルンド人かフォンタニエ人かを」


 いや、言ってる意味が分からないと言う顔をしていたカールも、彼女の説明が饒舌になればなるほどに態度を厳しく変化させ始めた。──腹の内を探られないように無表情へのっぺりと変化し、彼女の真の意図を見破ろうと、瞳の奥が厳しく輝き出したのだ


「オーウェンミュラーのオーウェンをフォンタニエ人は発音出来ない、だがアムセルンド人とアークヴェスト人は発音が出来る。それを鑑みるとどうだろう……あなたは実は公国軍人で、何かしら民族的な問題や民族衝突の可能性についてプロニスラフで調べなければならない事がある、それも緊急にね。私の推察は間違っているかな?」

「間違っているも何も、そもそも少佐はそれを知ってどうするお積もりですか?」


 カールの視線がな微かに鋭くなる

 時代背景的には、まだ軍と言う組織が非正規活動を邪道だと認識している、軍事ロマンチシズム全開の時代である。この少佐はカールが諜報作戦を行なっており、それが(よこしま)だと告発する可能性を危惧しているのだ。

 だがしかし、これもカールの想像の遥か斜め上を行く結果となる。彼女は破顔しながらこう言い放ったのだ──


「あはは、知っても何もしないよ。あなたの正体を大使館の駐在部に問い合わせる方法もあるが、そんな無粋な真似をしてどうする?むしろ私はワクワクしているんだ。あなたの護衛任務に就いていれば、様々な出来事に遭遇出来るとな」


(あああ、この人はこれだけの頭脳を持ちながら、正真正銘退屈しのぎで俺に付きまとう気だ)


 カールはがっくりと肩を落とし、レベッタの随行を渋々認める事となった。いや、秘密の断片を握られてしまい、認めざるを得なくなったのだ。


「よろしくな!あっと、ええと……あなたの事は何と呼べば良い? あなた (ミスター)か?それとも君 (ユー)か?」

「どちらでも構いませんよ、少佐“殿”」


 苦笑しながら答えたその内容に気付き、レベッタは満面の笑みをたたえて満足そうにうなづく。それもそのはず、カールはレベッタの階級に「殿」つまり「サー」を付けて呼んだ事で、彼は公国軍人であると暗に打ち明けたのである。それは間違いなくレベッタの勝利、カールの根負けであった。


「ならばそうだな、あえてカールと呼ばせて貰おう。街に出た時はその方が都合が良いだろ?」


 ソファから立ち上がり、握手を求めるレベッタ

 毒気の無いその笑顔と胸の内に終始かき回されてしまったカールだが、彼も渋々認めて手を握った。


「私の事は気楽にレベッタと呼んで良いから、よろしく頼むぞカール」


 世間知らずの護衛が同行する事をやむ無く認めたカール、彼女のその曇りなき笑顔に向かい、(イエス・ヨア・マジェスティ)と心の中で皮肉混じりに唱えた。

 つまり、御身のままに致しますと言う意味。わがまま姫様の道楽に付き合う事を承知したのである──



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