双龍の世界 日清戦争での ロシアとその後
日清戦争へ介入したロシア
その目的とは
まあ領土、特に不凍港が目当てでしょうが
ロシア
日本と清の間でもめ事が起きていると聞いたロシア皇太子ニコライ2世は、これはチャンスと思った。
父であるロシア皇帝アレクサンドル3世に相談すべきだなと。
「父上、日本と清の事、聞いておいでですか」
「いや聞いていないな。どうしたのだ」
「もめているそうです」
「もめていると」
「はい、詳細はわかりませんが、政府間で慌ただしい動きがあると、ウラジオストックから報告がありました」
「ふむ、余は聞いておらんな。まだ余の所まで報告が上がっていないと見える。そなた達、そのような報告は聞いているか」
「は、真偽さえ定かでは無く皇帝陛下にはお耳汚しかと思われ確認が取れるまではと思い・・」
「良い、そなたらには日本と清の動きをよく見ておくよう下命したはずだがな、そなた達の耳や目はどうなっているのかな」
「今すぐ確認して参ります」
「父上、あの者達は役に立つのでしょうか」
「さてな、もとより当てにしておらぬ者だ。ただ貴族というのはやっかいでな、あの者達でも役目に就けないと問題になるのだ」
「そうですか、それで日本の事ですが」
「うむ、執務室に行こうか」
「はい」
「日本と清の間に何があると思う」
「詳細次第ですが、日本側はなにやら怒っているようだと」
「戦争があるか?」
「そこまでは」
「そなたは日本に行った事があるな。結構気に入ったと聞いている」
「はい、なかなか良い所でした」
「そうか、シベリア鉄道委員会の議長になったばかりで大変だろうが、日本と清のことを任そうと思う。そなたが良いと思ったことをやるがいい。ただ戦争になる時は必ず相談するように」
「お任せください」
とりあえず情報収集に専念するか。シベリア鉄道のこともあるしな。そう言えば日本と清の隣に朝鮮という国があったな。そこの調査もさせてみるか。
そうこうしているうちに、清がとんでもない要求をしたことがわかった。しかも政府の頭越しに西太后とか言う奴が直接要求したらしい。
西太后は日本から何が何でもむしり取りたいらしい。これは戦争になるな。準備をしなければ。
父を説得し戦争準備に入る。ただ日本や清にばれないよう注意してやらねば。シベリア鉄道の工事のフリして人を送るか。ウラジオストックに10個師団も送っておけば良いか。
送っておけば良いかという人は気楽だが、実務担当者は気が遠くなりそうだった。
どうやってあの距離をできるだけ隠密裏に移動させるのか。しかも10個師団。鉄道はまだウラルを越えた所だ。
そこから、どうする。5000kmを超える距離を人馬で10万人も行くのか。うん、途中にクソの道が出来そうだな。食料どうするんだよ。
皇太子は今年8月までにと言うことだが、今1月なんですが。冬なんですよ。河川で運搬するにも川が凍結して動けない。何しろ寒さが厳しい。容易に凍死する世界だ。
実務担当者の彼が想像を絶する無茶振りに苦労していた頃、無茶振りした本人は極東地域の地図を見て一人悦に入っていた。
結局、シベリア内陸部を移動するのは補給と途中の船の手当が付かず困難で、船でアメリカに送り大陸横断鉄道で西海岸へ、港からまた船でウラジオストックに送ることになった。名目上は、シベリア鉄道建設要員である。銃砲弾薬など、軍需物資は貨物船で直接ウラジオストックに送ることにした。
皇太子は経費を見て頭を抱えていたそうな。
1894年7月無事ウラジオストックに集結が完了した。間に合った良かったとは、実務担当者の弁である。
ウラジオストックの軍司令部で皇太子が司令官達と話していた。
「皇太子、目標は。清ですか」
「君たちが10個師団でやれるというなら、やっても良いぞ」
「無理ですな。ではどこを」
「ここだ」
「そこだと名目がありませんが、あ、いや有るか」
「そうだろう。君たちには悪いが、調べさせてもらった」
「では朝鮮から密貿易に来る連中を取り締まるという名目で?」
「そうだ」
「ちょっと弱い気がしますが、なんとかしましょう」
「頼むぞ」
その頃日本では、
「ウラジオストックに10万人くらい入っているんだがアレなんだ」
「ああ、アレか、何でもシベリア鉄道建設を早めるとか言ってたな。皇太子まで来ている。あの人シベリア鉄道建設委員会の議長だから」
「ほんとかな。時期的に怪しすぎるんですが」
「でも、実際に工事しているぞ。国鉄の奴が見学に行ったらしい。人数を掛けるとすごいのねとか言ってた」
「貿易会社がいきなり出来た10万人の需要を満たすためにかなりの苦労をしているらしい」
でも儲けているよね。とか言って一応頭の中には入れていた。
アメリカでは、10万人の外国人が短期間に大陸を横断するというので、かなり警戒していた。
ロシアより申し出があったシベリア鉄道建設要員だ。
おいあいつら普通の鉄道建設員じゃ無いよな。そうだな、妙に足並みが揃っていやがる。軍隊だなあれは。でもな軍の中にも鉄道工兵部隊はあるぞ。あんな大量にか。無いな。でもシベリアはうちの内陸部よりも広いらしいぞ、あのくらいの人数がいるんじゃ無いか。武装はしていないがあの人数が一気に来られたらまずいな。まあ警戒はしておくか。大丈夫だ、奴らは酒を与えておけばおとなしい。大陸鉄道の良いお客さんだ。等と日本ほどのんきでは無かった。
しかし彼らはおとなしく、与えられた食事と酒に満足し、道中あまり金は使わなかったが人数の効果ですごく儲かったのであった。特に大陸横断鉄道は運賃でウハウハであった。
ウラジオストックでは、一部本当に鉄道建設に従事させ海外の目をごまかすことに苦労していた。あまり遠くまで行ってしまうといざという時に集まらない。
だが、皇太子は言った。
「ニコラエフスクから北へ伸ばすぞ」
夏の間にやるのだ、などと当初の目的を忘れかけているのだった。側近は
「あんな北に何も無いですよ」
「いや有る。内緒だがな、とてもいい鉱山が見つかった」
「何ですと。ではこいつらは戦争が終わっても帰れない?」
「さすがに全員とは言わんよ。暴動を起こされても困る。一部希望者だよ」
日清戦争が始まり夏が終わろうとしていた頃、コサック軍団がやってきた。近代戦の補給の要となる軍馬と馬車を大量に引き連れて。皇太子は行動を起こそうとしていた。
「どうだ、征けるか」
「まだ物資の集積が十分ではありません」
「どうした。時間はあったのでは無いのか」
「貨物船の数が十分ではありません。軍需物資の輸送に他国の船を使うわけにもいかず時間が掛かっています」
「そうか、それは仕方無いな。では物資の集積が終わるまで本業に精を出すとするか」
「本業?」
「君、忘れてはいかんよ。我々の本業はシベリア鉄道建設だ」
シベリア鉄道建設は継続された。この大量の鉄鋼を始めとする必要物資を近場で供給できるのは日本とアメリカだけだった。
特にレールや関連するボルト類は品質上アメリカ製とされた。笑いが止まらなかった。よって信じた。清に対する野心無しと。
シベリアに冬がやってきた。さすがに全員鉄道建設とはいかず、一部人員のみだった。
ロシアは食料などの必需品の購入量から、内陸で来たコサック兵2万の存在がばれるのではと警戒していた。
だが日本もアメリカも気にしていなかった。だいたい両国が輸出した量をすりあわせるわけも無く、ロシアの杞憂であった。
年が明け春も近い。行動の時である。
「どうか。征けるか」
「はい。冬の間になまった体を締める必要はありますが、たいした時間ではありません。まだ寒いですが、ロシアの寒さに比べればたいしたこと有りません」
「では始めよう。日本はかなり進んでいる。終わりも近い、間に合わせねば」
「作戦開始します」
ロシアはまず密入国者や密輸を取り締まるとして国境の豆満江沿いに大量の人員を配置。
李氏朝鮮に圧力を掛けていく。
まだ国境付近は雪深く水は冷たかった。本物の密入国者や密輸犯が見つからなかった時に備えて、偽物を用意していた。
しばらくして本物の密輸犯が出た。
そいつらを追って容赦なく川を越え越境する。すると李氏朝鮮の国境警備隊がパニックになったのか実に都合良くこちらに発砲してくれた。
大チャンスである。理由を見つけてしまえば、こちらのもの。後は予定に従い、侵略・蹂躙するだけである。特にコサック兵の威力はすさまじく素晴らしい勢いで進んでいく。
日本やアメリカが真の意図に気がついたのはこの頃だった。誰もいないし電信電話網も無い所では、情報は伝わらなかった。
4月初め、釜山まで到達したロシア軍は進軍を停止した。無人の野を征くがごとしであった。
その早さに半島から脱出できた人間はわずかだった。
進軍途中で分離した4個師団が遼東半島を目指している。4個師団が遼東半島を望む頃、日清戦争は終わった。
日清戦争が終わり、日清間で講和条約に向けての交渉が行われている場にロシアが来た。
本来、参加資格が無い国である。
言い訳を聞こう。
李氏朝鮮の密輸犯を追っていて清国国境も侵してしまった事を言いに来たのだった。
そのとき李氏朝鮮の国境警備隊より銃撃を受け反撃を始めた所、本格的な交戦になってしまいそのまま李氏朝鮮との戦争に発展してしまった。
我が国は李氏朝鮮に宣戦布告してかの国を占領した。
実に白々しい言い分である。開き直り方が半端ではなかった。
更に、
かの国は清国の属国と聞く。清国の責任を問う。
日清両国の代表はあきれてしまい何も言えなかった。
交渉の正当性を確保するために両国で呼んだオブザーバーである、イギリス・フランス・ドイツ・アメリカの各国代表もあきれていた。
いくら何でもやり方がずさんでひどすぎると。ただアメリカ以外の国は、アメリカも同じじゃないかと思った。
しかし、密輸犯追撃のことが事実らしいし(事実らしいと言うのは、清国国境警備隊の証言とロシア側の申告だけが証拠であった。朝鮮側は殲滅されたという)宣戦布告して朝鮮を占領、王を始めとする王族や重鎮も全員確保された後では結果を翻せなかった。
更に、(まだあるのかよ)
遼東半島の租借を申し入れてきた。
さすがにこれは全員の反対で撤回した。ロシアも本気では無かった。
ロシアはウラジオストックに次ぐ太平洋への出口と暖かい不凍港を確保する目的が果たされたので、後はおまけだった。
清国は宗主権を放棄した。清国にはロシアと戦う力は無かった。半島はロシアの物になった。
その場では、ロシアから清国以外の国々に根回しが行われていた。チタから半島まで清国国内を通る鉄道を曳きたいから協力しないか。さすがにその場での返答は出来ず、一応持ち帰ってみることになった。
ロシアは半島の人間をシベリア開発に使っているようであるという報告が各国にもたらされた。
かなりの人員を投入しているようだと。
日本とアメリカは、シベリア開発の食料・資材の提供先として利益を得ていた。特にアメリカの鉄鋼各社は大量のレール・鋼材の注文が入りうれしい悲鳴を上げていた。半島の人々の扱われ方など気にしてはいなかった。
アメリカは最近奴隷解放を行ったばかりであり、自らの正当性を証明するためにもロシアに奴婢と呼ばれる奴隷階級からの解放を申し入れた。
が、申し入れただけであった。シベリア開発で得られる利益の前には、アメリカ人以外はどうでも良かったし、外交筋からはこれ以上強く申し入れると内政干渉になりかねないとの懸念を受けてのことである。
日本は、ロシアとの友好関係が長く奴婢の扱いがロシアの農奴と同程度と聞き、なら自国民と同程度の扱いなら問題ないですねと。こちらもロシアの国内問題として扱った。
「皇太子、ニコラエフスクから北と言いますがどのあたりまでですか」
「マガダンまでは行きたい」
「ニコラエフスクからえーとですね、1600km以上は鉄道を曳かなければいけません。以前言った鉱山とはそんなに価値にある物ですか」
「銀が出た。マガダンの向こうだ。カムチャッカの手前だな」
「では財政的に苦しくてもアラスカを売らなかったのは」
「そうだ、その頃には銀鉱山がありそうだという感触があったという。ならその向こうのアラスカにも期待できるのでは無いかと言うことだ」
「朝鮮人を大量に投入しているのも早く曳きたいからですか」
「そうだ。早ければ早いだけ後で楽になる。他にも各種地下資源の兆候があると報告がある。銀だけなら鉄道は必要ない。だが、他にも在るとなると鉄道は必要だ。何しろ冬は凍結して船が動かせない所だ」
その後ロシアは朝鮮人を大量投入して、鉄道敷設や各種開発を行った。
環境が厳しい所でありかなりの死者が出たが、開発は続けられた。
一説によると西から連れてきたロシア人農奴が20万人、朝鮮人が200万人死亡したという説も在る。当時の半島人口の4人に1人がシベリアで死亡したことになる。
ただロシア人農奴は、ロシア人(スラブ系白人)では無くアジア系だったという説である。
ロシア国内ではその後も朝鮮人労働者を使った開発が続き1900年頃には朝鮮人人口は三分の二に1910年には半分にまで減ったという説がある。
朝鮮人は半島から強制的に移住させられてシベリア各地に散ってしまいその後の人口動向は定かでは無い。
シベリア鉄道は1900年にはロシア国内を横断して、ウラジオストックまで開通。労働者の大量投入による史実より早い開通であった。
半島はウラジオストックやニコラエフスクを始めとする東シベリアへの食糧供給地として再開発されるのであった。ロシアとしては、いつまでも輸入に頼るのは面白くなかった。今後カムチャツカ方面に人員を投入するのであれば、シベリア鉄道が有ると言っても複数の入手手段があれば安心できる。
シベリア鉄道建設という名でかり出されたロシア軍10万は、アメリカという国を体験した。
驚きの世界であった。食事にしろ宿泊施設などの待遇にしろ自分たちの国とは段違いであった。
これには騒ぎを起こされたくないアメリカ側が通常より若干色を付けていたと言うこともあるが。
彼らは自分たちの待遇に不満を持った。各地から抽出された者達だった。体験談とその不満が広がるのは早かった。
そのような目的が
さすが大陸の国で有ります
気が長い
当時ロシア兵の扱いは奴隷に毛が生えた程度だったと言う事です。貴族と一般兵の間には隔絶したものが有ったようです。ですのでアメリカ大陸横断中の食事でも自分たちが普段食べているものよりは良い物であり、不満は無かったようです。ただ、10万人の体験はその後広く広がり、内政問題となっていくのでした。




