ミッドウェー攻略戦/前段1 こんなこともあろうかと 双龍抜錨
こんなこともあろうかと
最強の台詞です。
誰もが一度は言ってみたいもの
双龍抜錨します。予想は付いていたと思いますが、あの形態です。
かなり無理矢理です。だってこうする必然性が皆無。
いつの世でも浪漫は大事です。
ミッドウェー攻略
この言葉を実現するために様々な人間が動き出した。
「軍令部としては、ミッドウェー攻略とその後の基地機能維持について五千トン級貨物船を月二回運航させる必要があると考え、連合艦隊(注)に護衛付きで運航していただきたい」
「まだ攻略もしていませんが、攻略後と言うことであれば無理とお答えします」
「なぜですか。五千トン級貨物船の護衛など駆逐艦の二隻も居れば十分でしょう」
「駆逐艦の二隻で護衛ですか。ハワイから二千kmですよ。奴らの潜水艦や水上艦艇、果ては空母まで出てくるでしょう。それの相手を二隻の駆逐艦でしろと」
「マーシャルではほとんど沈めたではありませんか」
「水上砲戦では敵はミスをしませんでした。むしろミスをしたのはこちらだった。隻数の優位を生かせなかった。戦艦の性能差を隻数で躱そうとしましたが、かなり無理が生じてしまった。おかげさまで、当分戦力が回復しません」
「空母部隊が居るでしょう。空母に護衛させればいい」
「空母の護衛にどれだけの船が必要かおわかりか」
「自分で護衛できるでしょう。駆逐艦いや直衛艦でしたな。アレを二隻も付ければ十分でしょう」
「話になりませんな、軍令部はどうやってこう言う結論になったのですか」
「輸送船などに護衛を付けるなどと言う贅沢をさせるのだ。二隻か三隻で十分だ」
「本気でそう考えるのですかな。軍令部は」
「輸送船ごとき。本来なら護衛など付けたくも無い。ハワイに近いから付けるだけだ。なぜ艦隊はその程度の護衛任務もこなせないのか」
「その程度ですか。その程度の考えしか出来ない方はお帰りください」
「貴様、軍令部を馬鹿にするのか。この件は問題にするぞ。後で吠え面掻くなよ」
「どうぞ、ご存分に」
「貴様!敢闘精神をもっとらんのか。アメリカなど一ひねりだろう」
「マーシャルで一ひねりされそうになったのは我が方です」
「貴様!後で軍令部から抗議する」
粗っぽく出て行った。ああいう奴の相手は疲れる。
「従兵、塩だ。塩を持ってこい」
「は、清めの塩を持って参ります」
清めの塩か、確かに必要だろう。
「清めの塩持って参りました」
「済まんな」
「しかし、こう言ってはなんですが、清めの塩が効きますでしょうか」
「なぜだ」
「あの軍令部作戦課の方、名前に神が付いておりました」
「そうだったな。まあいい。名前だけだ。入り口に蒔いてくれ。後盛り塩も四隅にしておこう」
「了解です」
神か、完全に名前負けしているな。
「大和の修理完了はいつになりますか」
「五月初めとしか」
「それでは遅いです、なんとかなりませんか」
「アレとアレをあれすればなんとかなりますが」
「アレとはなんですか」
「高角砲と菊の御紋章です」
「高角砲は一式12.7センチ高角砲ですか。菊の御紋章も」
「高角砲は完成間近の夕雲級駆逐艦から持ってきてしまえば良い。御紋章も甲斐の物を使います」
「それでは駆逐艦の完成が遅くなります。御紋章も甲斐の進水式に間に合うのですか」
「間に合いません。急がせるからです。他の迷惑を考えていただきたい」
「判りました。しかし高角砲はどうなりますか。御紋章は」
「高角砲は従来の八十九式連装高角砲改二を使います。御紋章は無し。装備しません」
「そうすれば早くなりますか」
「四月二十日過ぎくらいだと思います。ですが大和の方がどう言うでしょうね」
「説得します。でないと訓練期間が取れません。作戦日時から逆算すると、五月二十日には集合して居なければなりません」
作戦日時はそのくらいか。いいのかそんなおおっぴらに言っても。
「意図的にリークすると?」
「そうです。敵機動部隊を引っ張り出します」
「いやですよ。そんなどちらが本命か判らないような作戦行動」
「軍令部では確実に出てくると予測しています」
「では、優先順位は?ミッドウェーですか、敵艦隊ですか?はっきりしていただきたい」
「そこは臨機応変に」
「要するに行き当たりばったりなのですね」
「いや違う、出てきた敵をたたけば良いだけです」
「そういうのを行き当たりばったりと言わずなんと言う」
「ですが、敵の出方が判らないので臨機応変としか言いようが無いのです」
「せめて、敵の戦力予想くらい出来るでしょう。それをやってからまた考えましょう」
「では、必ずや戦力予想を立ててきます。その際には軍令部の意向に従っていただく」
「そのときの状況次第ですね」
「なんですかそれは。やる気が無いのですか。なぜ敵艦隊など一蹴してやる位は言えないのか」
「ですから臨機応変です」
「判りました。艦隊の意向がそうであれば、軍令部の作戦指導も変わってくるでしょう。ではまた」
臭い奴だった。まだ匂う。黒島とか言ったっけ。良く軍令部で文句を言われないものだ。艦隊だったら、上官命令で無理矢理入浴と洗濯だろう。まだ寒いけれど窓を開けるか。
「高射装置が間に合わないですか。困るのですが」
「そう言われましても、生産能力の限界でして、残業と休日出勤でこなしている状態です。高射装置製造は不慣れな者にやらせると、どんな手違いがあるか判りませんから熟練工だけが作業に当たっています。今でも疲労が蓄積して細かいミスが増え、生産効率が落ちています。軍令部などはもっと増やせとか言ってきますが、無責任なものですね。言うだけなら誰にでも出来ます」
「判りました。雷龍と火龍用高射装置は四月中、いや五月初めでも無理と言うことで間違いありませんね」
「申し訳ありません。ですが限界なのです。これ以上作業を増やせば、逆に効率が落ち生産量が減ります」
「仕方有りません。限界まで努力されているようですし、作戦から帰ってきたら装備したいと思います」
高射装置が手に入らないと高角砲があっても有効な射撃は出来ないな。どうしよう、やはりやるか?
おお、どうした浮かない顔して
雷龍と火龍の高射装置が間に合わん
どうして
需要が多すぎるんだと。残業に休日出勤と来たよ
それはまたなんとも。無理も言えんな
どうしよう
やると言っていたでは無いか
冗談だよ。
雷龍の方も問題があってな、飛行甲板のめくれが意外に重症で格納庫までゆがみが出た。時間が掛かりそうだ。もうドックは空いていないし、艤装岸壁も追い出された。どこでやれと
そうだよな。それなら。うん、やるか
やるって本気でか
本気だ。雷龍と火龍は高射装置が来ない。なら片舷の対空火力は無い。無ければ両舷に装備すればいい
やれやれ、まあ候補地はある。瀬戸内海で一番朝夕の影響が少なく潮流も弱い所だ。水深がやや不安だがバラストも排水すればいけるだろう
持つべきものは友。良しやろう。男の浪漫を見せてやる
いや違うだろう。浪漫もいいが、こう言う時はこう言うべきらしいぞ
「「こんなこともあろうかと」」
早速、申請と交渉だな。工員の確保もしなければ
やる気あるな。おい
こんな時こそ、あの時に「黙っているから後でお願い聞いて下さい」と、約束したのが効くんじゃ無いか
ひどい奴だ。相手が覚えているのか
時々聞いているが、縁が切れない人が多いらしい
どんな手を持っているんだお前は
ないしょ
あいつ、本当に許可と工員の確保をしやがった。この非常時に自分の趣味いや浪漫か、優先順位がそれでいいのか。
雷龍と火龍が舷を接して停泊している。ここは事前に調査された中で一番いい場所だった。ここなら、朝夕や潮流の影響は少ない。
舷を接するまでが一苦労だった。まず、残っている雷龍の左舷側装備の撤去、火龍の右舷側装備の撤去。高さが合わない。前後にずれた。トリムが狂った。大変だった。
舷を接した所で、バチバチだな。ビームをそれぞれ所定の位置において、電気溶接だ。
建造中に工廠関係者が何でこんな所に異常に強度を持たせるのかという質問を散々されたが、この時のためだ。
そう、こう言うために。
こんなこともあろうかと
今こそ真価を発揮する時。あの時設計したのが俺たちで良かった。でなければこんな事は思いつかん。艦橋を左右に付けろというので、こうなることは必然だったのだ。
ガギゴギ言っていますが、もう少し接合が進めば言わなくなります。ドゴーンと破断したがいいのかこれ。大丈夫です、接合が進めば破断しなくなります。ゴーンじゃ無いから大丈夫です。
工事は進み二週間。一番苦労したのが、両艦の水準を合わせることだった。中心付近を最初に接合し前と後ろを様子を見ながら接合していく。ところが頑丈なドックの中では無く海に浮いているのだ。まさか百人程度乗ったらバランスが崩れるなんて思わなかった。考えてみれば、百人で五トン以上になる。バランスも崩れるな。
水準を取ることの次に苦労したのが煙突。今まで下を向いていた奴を今度は上に向ける。一言では言えん。苦労した。取り敢えず上には向いた。高さを延長しないといけないのだが、ここではできんので工廠に戻ってからだ。
三週間目。今では接合点も増え、ガギゴギ言わなくなった。
四週間目。接合点は全て接合した。最初の図面では予備だった場所も接合した。
計算上は大丈夫なはずだ。以前火龍・雷龍を建造した時に水槽で試した。試験ではもっと低い強度でもいけた。
五週間目。内部の片付けも済み、工廠への回航をする。
機関始動でボイラーに火が入る。ボイラーの温度が上がってくると煙路にたまっていた煤が盛大にまき散らされた。
たまりません。飛行甲板が黒くなっていく。煙突直前の艦橋なんか真っ黒じゃ無いか。
機関科の人間が、
「煙路の温度が上がるまでは出るよ。掃除ならそれからにしないと意味が無いぞ」
「いや、もっとゆっくり温度を上げられば良かったんだが、抜錨時間から逆算するとこのくらいで無いと蒸気温度が上がらないんだ」
蒸気温度も上がりタービンの始動に問題ないくらいの蒸気らしい。まず注排水ポンプを動かしてもらう。ホースで水を流し煤を払い落とす。さすがにあの真っ黒な艦橋ではみっともない。
艦橋が大雑把に綺麗になった所で、皆で艦橋に入る。暑い、いや熱い、なんだこれ、すごく息苦しいし変な臭いがする。またもや機関科が、
「煙突から排気が流れているな。大丈夫前進すればいい。風速より早ければ排気は後ろに流れる」
取り敢えず耐えられんので、艦橋の外に出る。艦長にお願いして外で指揮を執ってもらう。艦長も苦笑いだ。
抜錨。碇が定位置まで巻き上げられる。艦首は浅瀬側だ。万が一と言うこともあり舵とスクリューが傷つかないよう、そう係留していた。
「機関、後進最微速。両舷だぞ。両舷て火龍と雷龍両方だぞ。間違えるなよ」
「大丈夫ですエンジンテレグラフはどちらも同じ所を指しています」
「少し流れたぞ。雷龍側機関少し回転を落とせ。あいや違う、もとい、火龍側だ。火龍側機関回転落とせ」
両方の機関長が飛行甲板まで上がってきて、延長した電話で指示を始めた。艦長には任せられんのだろう。
艦長は火龍艦長が戦死しているので、雷龍艦長が暫定で艦長だ。
広い海域に出たので少し動かす。操舵員長まで航海艦橋から出てきた。
外は涼しいですねと言われる。
そう言えば戦闘艦橋の人間だけだった出てきたのは。すまなんだ。
操舵はどうすると聞いたら艦内電話で舵機室に指示するという。
迎えに来た駆潜艇がオルジスを送ってくる。済まん俺は読めん。
どうするのか指示をくれというので、周辺の警備をお願いする。信号員もオルジスを延長コードで使った。
いろいろな動きをして試す。前進微速くらいでは異音は出ない。少しほっとする。
だんだん両側機関の回転数の制定が出来てきたようで直進できるようになった。
よし、これなら進める。呉に行きます。
双龍始動だ。
双龍抜錨しました。取り敢えず行き先は呉。
軍令部は結構ひどい人間も多く存在しているようです。艦隊派なのかな。
(注)マーシャル海戦まで艦隊全体の統合指揮を執る必要の無かった日本。ここに来て必要になり、連合艦隊創設。司令部は陸上、神戸市須磨。軍令部や海軍省の方が上位であるが、ある程度の独立性は持たせた。
破断の音がゴーンだと後で悪くなります。




