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空母 双龍 東へ  作者: 銀河乞食分隊
燃えるミッドウェー
12/62

零戦二一型 振動

この機体の補助翼、マスバランスを付けるのか、トリムタブなのか、そう言えば布張りなのか、金属製なのかも。考えていませんでした。その内出るかも知れません。

方向舵と昇降舵は、布張りでトリムタブです。

 零戦の震動問題を解決するよう、社命を仰せつかった彼らであるが、今イチ事態の深刻さを理解していなかった。


 九十六戦の時は主翼と主脚スパッツの小さな改修ですんだ。今回も同様に小さな改修ですむかと思っていたのであった。




 どうする

 

 どうするかな


 とりあえず見てみないとな


 そうだな、まずは確認だ


 現物見たいよな


 だが俺たちが操縦するわけには行かん。何しろ操縦なんて出来ない


 当たり前のことを言うな


 目視できたと言っていたよな


 言っていたな


 それならカメラで撮ればいいんじゃないか


 それだ


 でもどうやって撮る?


 主翼には取り付けできないし、風防の後ろにはカメラを入れるスペースは無いし、胴体に埋め込むしか無いのか


 胴体外板に穴開けか、許可が出るかな


 言うだけ言ってみよう


 


 許可は出た、会社が開発・改修用に海軍から借りている形になっている二一型だ。自社製品なのに借りているってと思わない訳では無い。戦闘機は高いのだ。事実上は社有機なのだが。


 操縦席後方の防弾鋼板を外してスペースを確保し、左右の補助翼が見える位置を確認する。


 カメラは風洞実験などで使用される高速度カメラだ。


 実験室からは「お高い」のでくれぐれも大事に扱うよう念押しされている。


 試作工場の人たちに手伝ってもらってと言うか自分たちは口出しするだけで実際に取り付けたのはあの人達だった。


「おい、レンズ部分が収まらんぞ。胴体の外に出てしまう。どうする」


「そうだな20cm近くは出るぞ。実験室から大切に扱うよう言われてるだろ。どうする」


「今から聞いてきます」


「急げよ」


「聞いてきました。カバーを付けて風圧でレンズが傷まないようにしてくれればいいそうです」


「カバーの製作か。適当な形でいいのか、良ければすぐ作るぞ」


「いえ、待ってください。速度が時速700kmを超えます。影響が最小限になるような形を見つけてきます。それまで待ってください」


「急げよ」


 試作工場の人たちから見れば、まだまだ下っ端な彼らだった。彼らが認められる日はいつだろう。


 くさび形のカバー原案を元に試作工場の人たちは瞬く間に作り上げていく。さすがだ。

 

 取り付けは出来たので、会社に飛行許可を取り飛んでもらう。パイロットには「気を付けて、何か変な兆候があったらすぐに止めて欲しい」と言っておく。


 向こうも「それは当然だが、判断は自分がする」と言って飛んで行った。


 無線で「カバーの出っ張りのせいか少し昇降舵が重い。操縦には差し支えないので続行する」と言ってテストを開始した。


 無事テストは終了した。試作機では出さない速度なので緊張したと言っていた。お疲れさまです。

 

 社内の現像室に現像を依頼してその日は終わった。


 現像から上がってきたフィルムを上映してわかった。意外な重傷であると。彼らは困惑していた。


 零戦は空母艦載機であり、格納庫内での取り回しの良さを求めて主翼が翼端から2m(注)で折りたためるようになっている。

 

補助翼もその位置で分割されている。その分割された補助翼が外側と内側で微妙にずれて振動していた。

 

これは誰が見てもわかる。非常にまずい。 直ちに上司に報告し、海軍にも連絡を入れて急降下制限速度は絶対に超えないように通達を出してもらう。


 対策会議である。





 速度が四百三十ノットを超えると振動が出るという問題に対処するため、皆さんの意見を聞かせてください


 どういう振動だ

 

 良い質問です。設計主任


 何か言い方にトゲが無いかね


 そんなこと有りません。今回の改修も九十六戦の改修と一緒で、協力して解決しましょう 


 何か言い方が変じゃないか

 

 そんなこと有りません。後始末を放り投げて自分は新型の設計で浮かれているなんて思ってもいません


 おもいっきり思っているじゃ無いか


 ま、それはほっといて、手元の資料をご覧ください


 ほっとくのか、何か含んでいそうだが、まあいい。仕事をしなければな


 はい。そうです。振動問題についてですが・・・・・


 ・・・と言う訳で困っています。

 主翼の設計に手を入れるか、補助翼の分割を止めて一体として内側ヒンジ部分を工夫してやるか。

 それとも気が付かない他の方法があるのか。協力をお願いします


 まあ後輩の頼みだ。協力するのはやぶさかでは無いが、君たちが中心だな?私は意見を聞かれた時に助言する程度でいいのか


 本来ならそれがいいのですが、物が物だけに全面的な協力をお願いします


 いいのか


 はい、是非


 わかった。力を尽くそう




翌日、皆素案は考えてきたらしい。




 では、設計主任お願いします


 宜しいが、いつまで設計主任なのだ。もう少し呼び方があるだろうに


 いえ、十四試局線の設計主任と伺っています。間違いではありません(一二試、まだ終わってないんですよ)


 なにか、心の声がしたような気がするが


 気のせいです!!


 そうか、ではまず、補助翼の分割を止めて一体にする案だが、そうすると内翼側の長さがそのまま折りたたみ部分から下に突き出るぞ。いいのか


 それは、言われるとおりでして、甲板に接触する可能性もあります。ですのでその案は無しです


 では、何か良い案があるのだな


 良い案と言われると自信はありません。しかし確実かと思います。


 言ってみなさい


 主翼外翼部の再設計です。

形状は原型のままとし折りたたみ部分の短縮や補助翼形状見つめ直し等で対処したいと思います


 主翼折りたたみ後の寸法を拡げると言うのか


 そうです。海軍には確認済みです。それで搭乗員の不安が解消されるなら良い。と


 搭載機数や格納庫内での取り回しのしやすさはどうなる


 搭載機数の減少は、露天繋止で対応すると言うことです。

 格納庫内での取り回しについては、多少不便になる程度で問題は無い。との回答を戴いています


 海軍さん優しくないか


 九十六戦の改修で培った信頼関係の賜物かと


 そうか、海軍が良いのなら何も言うまい。君たちの責任においてやりなさい


 はい、ありがとうございます。またわからないことは聞きに行きます


 いつでも来ると良い




 結論は出た。後は実践するのみ。

 

 計算をし、概略図を書き、計算をし、図面を引き、模型を作り、風洞テストをし、

 

 三ヶ月後にようやく満足のいく形状になった。


これが早いのか遅いのかはわからない。


住友金属に新設計の桁材製作依頼をして試作工場で試作をお願いする。


「出来たか」


「待っていたぞ」


「どんな形だ」


「任せておけ」


 頼もしい人たちである。少しは認められたのかも知れない。


 三週間後、新形状の主翼を搭載した試作機が出来た。もちろん荷重試験から行っている。


 会社から飛行許可を取り、試験飛行の始まりだ。


 テストパイロットには、従来以上の強度がありますと伝えてある。

 任せとけ。見切るのも仕事だ。頼もしすぎます。


 各種飛行をし、水平全速以下の速度域でのテストをまず行った。

 二百五十ノット以下の領域ではどんな機動をしても従来と変わりないどころか切れが良くなっていると言われた。

 


 この機体、どういう改修をしました


 翼端の折りたたみ部分を短くして、補助翼は分割して在った物を一体化しました


 それでか、今まででも十分な機動性だと思いましたが、この改修はすごいです


 そんなに違いますか


 違います。今までの機体に比べると一瞬ですが早く機動が始まります。

 これは空中戦ではすごく有利に働きます。

 左旋回は入るタイミングが早くなったのでどの速度域でも今まで以上に廻ります。

 搭乗員みんな褒めると思います


 それは良かったです。改修した甲斐がありました


 それ以外は今までの特性をそのままですね。二百ノット以上で徐々に補助翼が重くなります


それでは今日はこれでと言って控え室に帰っていった。



 ふふふ・ははは・ふはふはふは、よっしゃー!やった、褒められたよ、うれしいね。

 これで明日の急降下試験さえ結果が良ければ、クックックック、ハーハッハッハッハ・・・

 

 おい、頭大丈夫か、熱でも出たか


 何をおっしゃる、これが喜ばずにいられましょうか。そうだろう同僚


 まだ、明日がある。明日が肝心だ


 硬いな、なんか頭が冷えてきた。そうだ明日だ


 やっぱり熱が有ったか


 違う、そっちの熱じゃ無い



その日は終わった。同僚は冷静を装っているが、きっと喜んでいるに違いない。

 

翌日、急降下速度試験である。



 ドキドキするな、同僚


 何か言ったか


 何か言ったかって、その手の震えは何よ


 気にするな、はげるぞ


 まだフサフサだ


 あ、離陸した


 何


 ちゃんと見てろよ


 試験機が離陸していった。

いつものように見事な曲線を描いて上昇していく。奴はうまい。と、北基地の搭乗員達も褒めていた。


 何回かの急降下速度試験を終え、無線からは「これより四百ノットを超える」と声が聞こえる。


「四百」「四百十」「四百二十」「四百三十」降下を止めて緩やかに上昇していく。


「四百三十ノットまでは異常なし」


「もう一度やる。今度は四百四十ノットだ」


 降下してくる、速い


「四百四十ノット異常なし、帰投する」



「異常なし」「四百四十ノット異常なし」「四百四十ノット異常なし」


 いつまで反芻してんだ、お前は牛かと頭を小突かれる。止めて同僚、喜びがこぼれ落ちる。


テストパイロットが帰ってきた。見事な着陸だ。



 四百四十ノットで振動発生しませんでした。うまくいったようです


 ありがとうございます


 ですが、四百ノット、この機体の急降下制限速度を超える速度域での機動は会社から許されていません。

 海軍でどこまでやるかはわかりません。安心するのは早いと思います


 そうですか。でも、我が社で行えるのはここまでですから


 おい、良かったじゃ無いか。試作工場もほっとしてるんだぞ


 ありがとうございます


 さっきから、ありがとうございますばっかだな。まあ感謝できると言うことは良いことだ


 ありがとうございます


 もういいぞ、感激してるかもしれんが、ちょいと用事がある


 用事ですか、なんでしょうか


 実はな北基地の連中が、鹿の群れを地元の猟師と合同で仕留めた。

 珍しくデカい群れだったんで猟師だけでは手に余ったらしい。地元に頼まれて出動してうまくやったらしい。

 北基地も会社も何頭かお裾分けに預かったんでな、しか鍋と鹿焼き肉をやることになった。お前達設計陣もどうだ来るか


 行きます。ごちそうさまです


 よし後で来いよ




 みんなから認められたようだ。本当にうれしい。


  なあ、同僚。おい、泣くなよ。移るじゃないか。





無事社内では解決できました。

一人フラグ臭いことを言っていますが

今後零戦の改修はあの二人が主役です(名前設定していない)

と言うか今まで3人しか出ていません。

しかもフルネームは一人。名字だけが二人。しかも1回出ただけという

これだけ名前の出ない駄文も珍しいかも


(注)火龍・雷龍の格納庫内でエレベーターの位置に関係なく機体を動かせるのが八メートルであるため

他の空母はこの芸は出来ないので、翼幅は関係ないが格納庫で動かしやすいことは確かである

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