自由な旅~夕方の虹砂糖
旅の一行、ファンテーヌ、ヴィオレット、ラウル、ゾエは甲板で寛いでいた。
「…ラウル、この波はまさか!」
「…や、やばいです。アレで間違いないでっさ、ファンテーヌ様!」
「ど、どういうこと!」
「伝説の人食い魚ですよ、ゾエ様。」
私のドレスを飾るアクアマリンの鱗は父さんが倒した魚のものだ。私が成人したときに着られるように鱗を王室に預けていたらしい。
…人々はこの美しい鱗を見て、夕方の虹砂糖と呼んだ。夕方になると、鱗がほんのりと翡翠色を帯びてアクアマリンの色と溶け合う。そして、何故かそれは砂糖のように甘く、会いたい人を見せてくれる幻想を奏でるらしい。
「夕方の虹砂糖、歌姫を知らないか。モヴィラードから呪いの祝福を受けた歌姫を。」
『お前は、ザラームを手に入れた男の娘。…同族の鱗を少しばかり返してくれたら、ミンナスの居場所を教えよう。』
「これで良いか。」
私がピアスを外して彼に渡すと、満足した様子で。
『宴じゃ~!おい、皆出てこい。』
「な、何が始まるの?」
『なに、食ったりせんから安心して良い。ゾエちゃん。』
「ゾエちゃんは、あっしのゾエちゃん。ああ、人食いに『ちゃん付け』で呼ばれるとは…」
『何を言うか、薄っぺらい海草め。まあ、楽しんでいくが良い。』
夕方の虹砂糖たちは雪を回らす。ザブンと豪快な音と、波しぶき。水面はオーロラの輝きに包まれている。何万という彼らの巨体が沈んだり、飛び跳ねたり。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
『ファンテーヌ、この先は極寒の地レフォコ・コスモじゃ。まあ、嵐の日に生まれた者なら平気じゃろうな。』
「ありがとう、送ってくれて。」
『鱗があるうちは食ったりせんから何時でも言え。」
親切にも、目的地まで送ってくれた。そんな彼らに別れを告げ、私たちは彼女の棺を目指し、歩き始めた。




