泥をすする「正義」と、最高に美味い「味噌汁」
異世界、クソッタレな砂塵が舞う荒野。
「はぁ、はぁ……っ! くるな、くんじゃねえ……!」
五味の声は掠れていた。手にした安物の鉄剣はボロボロで、目の前にはレベル20の『ブラッドウルフ』が群れをなしている。転生して一週間。王宮での華やかな歓迎は初日だけで終わり、翌日からは「戦力外」としてこの魔境へ放り出された。
「みんな、諦めるな! 俺たちが……俺たちが、この世界の希望なんだろ……っ!」
五味が叫ぶ。後ろではクラスの女子が泣きながら、泥にまみれた手で回復魔法を唱えていた。
空腹、恐怖、そして不潔な環境。
「帰りたい」「怖い」「白夜の野郎、どこへ消えやがった」
そんな恨み言だけが、彼らの絆(笑)を辛うじて繋ぎ止めていた。
同時刻、現代日本。四月一日家の食卓。
「白夜、おかわりいる? 今日はいい出汁が入ったのよ」
エプロン姿の佐藤恵が、穏やかな笑みを浮かべて炊飯器の蓋を開ける。湯気と共に、炊きたての米の香りが部屋に広がった。
「あはは、恵さんの味噌汁は世界一だね。どっかのドブカスな異世界のスープとは大違いだ」
白夜はテレビのリマインダーで、予約していた深夜アニメの録画を確認しながら、至福の一杯を口にする。
「……ふぅ。さてと、あいつら今頃何してるかな」
白夜は食後、自室に戻るとベッドに寝転び、スキル『迷宮主宰』を発動させた。
彼の網膜には、異世界に「観測用」として設置した極小ダンジョンの視覚情報が流れ込んでくる。
画面(視界)の中では、五味たちが一匹の狼に囲まれ、情けなく悲鳴を上げて逃げ回っていた。
「あははは! 傑作! あの五味くんが、犬っころ相手に腰抜かして漏らしそうじゃん。全米が鼻で笑うどころか、YouTubeに上げたら一晩で100万再生確実だね」
白夜は手元のポテトチップスを口に放り込み、空中に指で魔法陣を描いた。
『現世接続』の応用――異世界への「干渉」だ。
「ちょっとだけ、ボーナスステージをプレゼントしてあげようかな」
白夜が指を弾くと、五味たちの足元の地面が突如として隆起し、巨大な『迷宮の壁』が彼らを分断するように競り上がった。
「うわあああ!? なんだ、これ! 壁が……!」
「五味くん! どこ!? 助けて!」
阿鼻叫喚のクラスメイトたち。白夜はそれを見て、ベッドの上で転げ回って笑う。
「あはは! 分断されたね! 絆パワー(笑)で見捨てずに助け合えるかな? それとも、醜く押し付け合って死ぬのかな? どっちに転んでも、僕にとっては最高のデザートだよ」
白夜はスマホを取り出し、匿名掲示板にスレッドを立てた。
【朗報】異世界の勇者様、たかがワンコ相手に絶望中www【観察日記】
「さーて、3年後が楽しみだ。君たちが死に物狂いでこの『壁』を乗り越えて、ようやく帰ってきたその場所に……」
白夜の瞳に、禍々しい紫の光が宿る。
「僕が作った、本物の地獄を招待状代わりに置いておいてあげるからさ」
現代の平和な夜景を見下ろしながら、ドブカスの悪魔は、誰よりも楽しそうに喉を鳴らした。




