【第6章】大丈夫の罠
それまで、私は必死に「平気」を取り繕ってきた。
家族に心配は掛けられない。
だから「私は平気」だと思う事でかろうじて保っていたのだろう。
だけど今思えば、かなり無理をしていたのが周囲にも伝わっていたのだと思う。
「心の病院に行って欲しい」
かつて自分が苦しんだ過去と照らし合わせ、危機を感じた友人が私にそう言った。
それでも、「そこまでじゃない」と思っていたのだから、麻痺というのは恐ろしい。
しかし身体も心も限界のサインを出していた。
突然起きられない日があり、仕事のことを考えると猛烈な吐き気を催した。
休みの日でも、誰も起きていない早朝に、従業員用の入口が開くのを待って、やり残してしまった仕事をしに行ったことが何度もあった。
声が聞こえると思考が止まり、今まで苦もなくやっていた事が出来ない。
自己否定がつのり、人のいない場所で声を殺して泣く毎日。
自傷の果ての死をも考えている自分。
命の危険を感じた時、
(このままではいけない)
体の底から震えるような声を聞いた。
勇気を振り絞って立ち上がる。
職場からなるべく遠いメンタルクリニックを選んだ。
自傷のことは言えなかった。
けれど、眠れていない、食べられていない、仕事に向かう足が止まると訴えた。
「1週間、お休みを貰いましょう」
医師がそう告げてくれた時、温かな安堵が広がり、やっと息がつけた。




