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暇を持て余した青年 初めての戦いとマゼンタ警察


1. 5月18日 昼 弧門私立探偵事務所



私がこの探偵事務所に来てはや2ヶ月が経った。私もいい加減、この事務所の独特の雰囲気にも、仕事にも慣れてきた。

でも、ここのところこれといった仕事が無い。比嘉くんはまるでいつもの事のように、イスでだべっている。門矢さんはパソコンで何か作業をしていて、弧門さんも何かやっている。

私はというと、比嘉くん同様仕事がなくて少し暇を持て余していた。


「弧門さん、俺と三浦なんも仕事無いですけどいいんですかぁ?」


比嘉くんはあくびをして、奥の机にいた弧門さんに声をかけた。彼はかなり暇だったのだろう。


「安心しろ、俺も仕事はしてない」


自信満々な弧門さんに思わずイスからずり落ちそうになった。何をしているのかと比嘉くんとパソコンの画面を覗き込むと、そこに写っていたのは国会での話し合いだった。


「あー、これ見てたんですか。面白いですかコレ?」


「ああ、面白いぞ。グダグダしてて下らない辺りが」


「……それ面白いって言わなくないですか?」


比嘉くんは苦笑いをしてディスプレイに視線を落とす。


「国民は生活苦しいってのに、よくもまぁグダグダ話し合いできるよな」


そう呟いた彼の眼には失望の色を映している。それは言葉の中にも現れていた。


「でも、俺たちには何もできない。政治に多少関わることが出来るとはいえ、結局決めるのは一部の権力者だけだ」


「……まぁコレばっかりは、いち探偵事務所としての仕事の範疇を超えてるからどうしようもない。

それより、そんなに暇なら三浦と稽古でもしたらどうだ?今のトコ無いが、いずれ荒事もやるようになるんだから、今のうちに戦っておいて差し障りは無いだろ?もっとも、三浦がいいならな」


「稽古って、戦うんですか?比嘉くんと?」


弧門さんは当たり前の事のように頷いている。

ただ私としても比嘉くんとは一度戦ってみたい。3月のあの夜、如月は長刀を武器にしていたにも関わらず、彼は足や顔を少し斬られただけで済んでいた。

只者では無い事は分かっていたから、尚更戦ってみたかった。


「私は……私は戦いたいです。比嘉くん、暇なら相手してくれるでしょ?」


「……OK。なら、一回家に戻って動きやすい服か何か取ってきてから、加藤さんの会社に行こう。あそこなら格技場もあるし、戦うならもってこいだ」


結局弧門さんの提案で、比嘉くんと稽古もとい模擬戦をする事になった。


「そうと決まればさっさと行くぞ。三浦、荷物まとめとけ」


比嘉くんは軽く伸びをすると、壁に掛けてあったスーツを羽織った。


「分かった。言っとくけど、負けるつもりは無いからね」


「そりゃ俺も同じさ。ケガだけはするんじゃないぞ?」



2. 同日 昼 加藤警備株式会社格技場



「じゃあ三浦、そっちの更衣室使ってくれ。俺はもうこの格好でやるつもりだから、先に待っとくぞ」


比嘉くんは羽織っていたスーツを脱いで、袖をまくりながら向かっていった。私は彼に言われた通り、更衣室で空手をしていた時使っていた道着に着替える。

これに袖を通すのもかなり久しぶりな気がする。一応最近も、ストレッチをして身体が鈍らないように気をつけてはいたけれど、いざ戦うとなると少し不安要素がある。

とはいえ、彼がそこまで強くないなら負ける事は無いだろうし、体格差がある相手との立ち回りも分かっている。

(ここで勝って、一泡吹かせてやる)

帯を締めて更衣室を出る。格技場では比嘉くんが準備運動のように軽く身体を動かしている。


「よお、着替え終わったか?」


「うん。でも少しだけストレッチしていい?ケガしちゃいけないから」


彼はOKと言って、私の方を一瞬だけ見てから、再び身体を動かし始めた。

5分ほどストレッチをして比嘉くんに向き直ると、ニヤッと笑った。


「準備OK?」


「うん。でもルールはどうするの?」


「あーそうだな……。なら、共通ルールで急所攻撃はなし、ヒジでの攻撃はあり。時間はとりあえず3分で」


「りょーかい」


比嘉くんは、奥にあったタイマーをいじって時間を設定した。


「よし、じゃあ……始め!」


彼の開始の合図と共に、私は一気に距離を詰めて右回し蹴りを脇腹めがけ放つ。比嘉くんも素早く反応して左腕で防ぐが、防いだ一瞬表情が曇った。

多分、防いだのは良かったけれど思っていたよりも痛かったのだ。

(模擬戦の最中にそんな表情するなんて、随分弱気じゃない?)

彼は接近した私を嫌うように離れようとした。ただ、私も離される訳にもいかない。

追撃に左回し蹴りを放ったが右腕で防がれる。私は彼の防御を完全に崩すために、さらに右後ろ回し蹴りに繋げた。


「思ったよりやるな」


防御を崩された彼は、まだ余裕があるようにそう言うと距離をとった。 


「私から逃げてばっかりで、かなり弱気じゃない?」


あえて挑発すると動きを止めた。口元にわずかに笑みを浮かべて。


「なら、少しだけ本気出してやる」


初めてまともに構えをとると、かかってこいと右手で招いてきた。

一度深呼吸をして脚に力を溜める。そして、一足飛びに間合いを詰め、旋風脚で頭を狙う。

しかし、彼はまるでその攻撃を分かっていたかのように身体を後ろに引き、私の脚は彼の前髪をかすめて空を切らされた。

比嘉くんはすぐさま反撃に移ろうと一歩踏み込む。


「悪いけど、お前の攻撃パターンは大体分かったよ」


「なら、これくらいかわせるよね!」


私は旋風脚の勢いをそのままに、旋回突きでみぞおちを狙った。

お互いに近づいたため、間合いはほとんど無い。これだけ近ければかわされる事はまずない。

いや、無いはずだった。

拳が彼の服に触れてそのまま殴ろうとしたが、突然手から服の感触が消え、さらに彼の姿もかき消えた。

(ウソ、どこにいったの⁉︎)

頭が真っ白になって血の気が引いていると、右肩を軽く叩かれた。

振り向くと右頬に何かが当たっている。見るとそれは比嘉くんの指だった。


「あはは!いい表情してるねって、危ねぇ!」


笑っていた彼の横顔を裏拳で殴ろうとしたが、またもかわされた。

何がなんだか分からず、右頬に触れている間も比嘉くんはずっと笑っている。


「いやー、今の表情良かったよー。出来たら写真撮りたかったけど、流石に無理だったなー」


「な、なんでずっと笑ってんの!第一、さっきのアレなんて完全にふざけてるでしょ!」


「さあ、どうだろうね」


悪びれもせずに笑っているのを見せられて、ジーっと睨んでいると、彼は苦笑いをした。


「あーまぁ多少お前で遊んだ節はあるな」


「やっぱりふざけてるじゃない!」


「でも今の試合も本気は出してたぞ?」


そう言われて思い出すと、確かに彼の本気を垣間見る事ができたのはできた。

さっきの旋風脚の攻防は、かわされない自信があったのにも関わらずかわされて、しかも追撃の旋回突きは至近距離で避けられて、挙句背後もとられた。

ついでに言うと最後のアレが個人的は恥ずかしかった。


「じゃあ俺がもうちょい本気出したくなるようにかかってこいよ、半人前ちゃん」


「は、半人前ちゃん⁉︎何そのあだ名!」


「じゃあ3分の1人前でいいか?」


「もっとちっさくなってるじゃない!」


私が怒っているのを楽しがるように彼は笑っている。

上等だ、なら半人前じゃなくて一人前って言わせてやる。そう考えながら再び模擬戦を始めた。



3. 同日 夕方 弧門私立探偵事務所



「門矢、今日何日だっけ?」


「今日?今日は18日ですけど、どうしたんすか?」


「そっか、18日か」


俺は壁に掛かっているカレンダーに視線を移す。ついこの前5月になったと思ったら、もう半分終わっている。


「比嘉にとっちゃあ嫌な季節だろうな」


「そうですか?梅雨はまだ先でしょ?」


俺の一言に門矢が返してきた。

門矢が言ったのは雨の事だろう。比嘉は実は雨が嫌いで、雨の日に外周りの仕事が入っていると嫌そうな表情をする。


「あー、確かに梅雨はアイツ嫌いだけど、そうじゃなくてさ」 


「……あー、そうか。アイツの……」


門矢も思い出したのか息を吐いて頭を掻いた。


「忘れる訳にはいかないってのは分かるけど、何もあそこまで根詰める事無いと思うんだけどな……」


「分かってないねー士」


突然第三者の声がして、声の方を見ると休憩室の奥から海藤くんが出てきた。


「やあ海藤くん、またどこかにお宝を盗みに行っていたのかい?」


「ええ、その話はまた後で」


「つーかカイト、分かってないってどう言う事だよ」


門矢がそう聞くと、海藤くんはやれやれと首を横に振った。


「僕も一応知ってるけど、アレばっかりは忘れられないんじゃないかな。多分何年経っても、何らかの形でケジメを付けない限りは。確か、今でも比嘉くんはお友達に協力してもらって、関係している人を探しているんじゃなかったかな」


「あー、そういえば聞いた事あるな。確かその友達ってその道で有名な占い師だったよな」


話し合っていると、ドアがノックされて1人の青年が入ってきた。


「すみません、ここに比嘉という男が勤めてると思うんですけど」


入ってきたのはピンクのシャツに黒のスーツを羽織った青年で、胸元に変わった形のラペルピンを付けていた。


「ああすみません、今比嘉はちょっと外に出ていまして。何か比嘉に御用ですか?」


「そうですか……なら、比嘉に伝えて欲しい事があるんです。今度来れる時でいいから、なるべく早く俺のところに来てくれ、と」


「分かりました。えーっと、それでお名前は?」


「あ、俺の名前は手塚、手塚 瑛斗です」


「分かりました。では比嘉が帰ってきたら伝えます」


そう言うと、ありがとうございますと言って事務所を出て行った。


「彼、随分変わった格好だね。ピンク色のシャツって」


「ピンク?ピンクじゃない、アレはマゼンタだ」


門矢は海藤くんのピンク色という色に反応してそう返した。

この流れ、どこかで見た事がある。


「って言っても、ピンクとマゼンタの違いは分からないよ」


「いいか、ピンクはマゼンタにイエローが混ざった色だ。ただ、あの色は間違いなくマゼンタ100%だ」


そう力説する門矢に異様な執着を感じた。その執着を見ていると、ふとある事を思い出した。


「そういえば、門矢の持ってるカメラもピンク色だったよな?」


「だから、ピンクじゃなくてマ•ゼ•ン•タ!」


「しかも撮った写真は全てピンボケするやつ」


「……何度か修理に出したんだけどなー」


「アレ自体が壊れてるんじゃないのか?」


色々話し合っていると、手元にあった事務所用の電話が鳴った。一度話をやめて電話を取ると、電話の向こうから加藤の声が聞こえてきた。


「よお加藤、どうしたんだ?また彼女とケンカしたのか?」


[……お前、俺は一度も電話で彼女とのケンカの話はしてないだろ]


「あ、そうだったな。じゃあ何だ、仕事か?」


[そうだ。6月の初めにあるんだが、同じ日に俺らも仕事があるから頼みたいんだ]


久しぶりに加藤から仕事の話が出た。どんな仕事かは分からないが、特に断る理由もない。


「了解。じゃあまた詳しい話をしてくれ」


[そりゃ勿論だが……たまにはウチに来たらどうだ?]


「どうしたんだよ急に」


[いや、まぁ色々な]


「分かったよ、明後日仕事の話聞きに行くから」


そう言うと、加藤は安堵したように息をついた。


[じゃあ明後日な]


加藤が電話を切ったのを確認して電話を置いた。


「弧門さん、仕事ですか?」


「ああ、また今度詳しい事は話すから」


俺はゆっくり身体を伸ばした。

仕事があれば退屈はしない。比嘉みたいな、子どもがそのまま大きくなったヤツはヒマを持て余させてはいけないのだ。



4. 同日 夕方 格技場



「な、何で当たらないの……」


私は乱れた息を何とか整えながら比嘉くんを見る。一方の比嘉くんはまるで当然の事のように、ニコニコと笑っている。

私と比嘉くんはあの後もずっと模擬戦をしていた。最初の方こそ、そこそこマシだったけれど時間が経つにつれて、当たる気配がなくなっていった。


「そりゃあ、お前の攻撃パターンが何となく分かったからな。パターンとか流れが分かったら後は楽だよ」


「でも、自分で言うのはなんだけど私の攻撃パターンって、読みにくい方だと思うんだけど」


「あー、確かに読みにくかったな。ただ読みにくても、俺にとっては避けられなくはなかったよ」


少し感覚的な彼にツッコミを入れたかったけれど、事実彼は攻撃を避け続けていた。私は今後の為にも彼からアドバイスをもらう事にした。


「うーん、もっと具体的に教えてよ」


「そうだな、具体的にね……」


そう考え始めて、しばらくすると何か思い付いたのか話し始めた。


「最初の方さ、お前の攻撃を何度か受けただろ?」


「うん。当たったからコレなら勝てるって思ってたんだけど」


「実はな、アレで何となくお前の攻撃のモーションが分かったんだよ」


「嘘でしょ⁉︎」


「いや、コレは本当。あ、コレはお前の攻撃のモーションが一辺倒とかそういう意味じゃ無くて、その人特有のクセが分かったって事だよ」


「そうなの?」


「そう。あとさ、俺が避けてた時の違和感とか無かった?」


そう言われて彼との模擬戦を思い出す。

(言われてみれば……何か変だったよなー)


「あ、そうだ。全部ギリギリで避けてたよね!」


「その通り」


「アレってワザとやってたの?」


「そうだよ。避けられるか試したかったからさ」


「ねぇ、どうやって避けてたの?」


「あー簡単だよ、お前の腕と脚の長さが分かったから、同時に攻撃出来る範囲が大方分かったんだ。だからお前の攻撃にあわせてギリギリの距離で、かつ当たる寸前で避けてたんだ」


彼は簡単な事のように話すけれど、実際そんな簡単な事ではない。

相手の攻撃をギリギリの距離で避けるとなると、やたら距離を離せば良いわけでも無い。

まして相手の攻撃に合わせて、当たる寸前で避けるのは一度や二度なら私でも出来なくはない。ただ、彼のように終始避け続けるのは不可能に近い。

避け続ける感覚は、何度も実戦を繰り返さない限り掴めない。この会話だけで、彼が普通では無いという事が分かった。


「まぁコレに関しては俺が異常なだけだから気にしないでくれ」


そう笑って彼はまくっていた袖を伸ばしている。


「さてと、そろそろ帰ろう。また模擬戦やりたかったら言ってくれ」


「絶対次は当てる!」


「ああ、期待してるぜ半人前ちゃん」


比嘉くんは不敵に笑って、部屋の隅に置いていたスーツを羽織っている。

透かしたような態度の彼に若干の殺意を持ちながらも、私は大人しく更衣室に向かった。

(あーもうムカつくコイツ!絶対殴ってやる!)














Twitterで宣言した通り、サブタイトルと特撮モチーフのキャラについて書きたいと思います(いつもより長くなりますがご容赦ください)


まずサブタイトルについて。

サブタイトルは基本、本文を書きながら考えています。サブタイトルの内容は、その話の中身を匂わせて、なおかつそこまでネタバレにならないよう気をつけています。

そして第二話からの変更点として、サブタイトルを2文書くようにしました。理由は単純で、より多く書けるようにするためです。


次に特撮モチーフのキャラについて。

現在出ている中で、特撮キャラがモチーフになっているのは以下のキャラクターです。

門矢 零士

海藤 大樹

手塚 瑛斗

如月 剣

ちょっとモチーフになっているキャラ

比嘉 翔太郎

弧門 将吾

門矢、海藤、手塚は何となく分かった人もいるかもしれません。全員モチーフは仮面ライダーのキャラクターです。

彼らを書くにあたって気にしたのが、どのくらい原作に寄せるかで、結構悩んだ点でもあります。

結果的に、それぞれの元となったキャラにまつわる設定やアイテムを持たせる事で、その問題は終了しました。

具体的には、門矢はカメラを持っていてナマコ嫌い、海藤は裏職業が怪盗で武器が拳銃、手塚は職業が占い師で名前にエイが入っている、と少しだけではありますが原作に寄せています。

では、如月は何の特撮のキャラなのかといいますと、とある15年前に放送されていた特撮キャラがモチーフになっています。もしここで言うとかなりのネタバレになってしまうので言いませんが、如月は立ち位置と武器を原作に近づけました。

ちょっとモチーフになっているキャラの比嘉と弧門ですが、2人は分かりやすく言うと名前を取ったキャラクターです。

比嘉は下の名前の翔太郎を、弧門は苗字の弧門をそれぞれとりました。ただ2人ともそこまで原作には忠実ではなく、言動や性格は随分と変わっています。

と、いかがでしたでしょうか?

どうしても書く内容が決まらず、だったらと個人的な趣味で書きました。今後もキャラ解説が書けないと判断した場合は、こういう形を取らせていただきますが、どうかご理解いただけますようよろしくお願いします。

ではまた第九話又はTwitterでお会いしましょう。

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