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隠された写真 月夜の戦闘と因縁の始まり



1. 3月15日 夜 [隅の浜署前]



警察での事情聴取がなぜか急遽終わり、帰らざるを得なくなった俺は仕方なく警察署を出た。そのときにはすっかり外は夜になり、空には月が輝いていた。


「やれやれ、お迎えは無しか。とはいえ、もう今から来てもらうわけにもいかねーし。絶対終電無いし。

くそ、こんな事なら警察署に泊まっていきゃよかったな」


そんなふざけた事を口にしながら、渋々マンションまでの帰路につく。

帰路につく、と軽く言ったが、ここからマンションまで歩くと、1時間以上かかる。

ふざけてるな。

これ以上愚痴を言っても仕方が無いので、歩みを進める。そもそもこの辺りには来た事が無い。そのため帰り道は、なんとなく、だ。

とはいえそこそこ順調に進み、気付けば『全く分からない』から『そこそこ知っている』くらいの道になった。

(確かこの公園ショートカットしたら、早く帰れるよな)

すぐ右手に見える公園は今まで2度ほど通った事があり、俺の記憶が正しければこの公園を突っ切ればマンションまで近道のはず。

俺は夜人気の無くなった公園に足を踏み入れた。歩き始めてしばらくすると、横の茂みから1人の長身の男が現れた。長い銀髪に黒のロングコートを羽織り、手には黒い布に包まれた細長い何かが握られている。

(コイツ……不審者だな。黙ってれば横通してくれるだろ。多分)

あえて少し俯き気味に、目を合わせないように横を通り過ぎようとした。


「お前が比嘉 翔太郎か?」


「ああ」


すれ違い様に言った直後、しまった!と思ったがもう遅かった。男は口元に笑みを浮かべて、手にしていた布の包みを解き、それで斬りつけてきた。

咄嗟に一撃目を避けたが、そこから二回、三回と連続で斬りつけてくる。俺は距離を取りつつ剣の軌道を読んで、踏み込んできたところをカウンター気味に腹部を蹴り、一度引き離す。


「お前何者だ?そんじょそこらのゴロツキじゃ無いだろ」


そう聞くが、男は鋭い目つきを崩さずに俺を冷静に観察している。


「お前もそうだろ。その辺の殺人犯じゃ無いのは見え透いてるぞ」


「なるほどな、分かってるのはお互い様って事か」


俺は拳を構えながら意を決した。


「オーケー、戦いたいなら仕切り直しだ。いくぜ不審者」


「キサラギだ」 


「は?」


「俺は"GAT"所属、如月 剣だ」


「如月な、覚えたぜ」


如月と名乗った男は、手にしている長刀の剣先を俺に向けた。


「悪いが、お前にはここで死んでもらう。それが俺の仕事だからな」



2. 同日 夜 [弧門私立探偵事務所前]



「どうも、三浦さんですね?」


夜、一足先に仕事を終えた私が事務所の前で待っていると、スーツ姿の40代の男の人が声をかけてきた。


「はい、えっと畑丸さんですよね?今回は比嘉くんがご迷惑をおかけしました」


「いえいえ。それでは早速なんですが、向かいましょう」


そうして私は畑丸さんと共に車に乗り込み、マンションに向かった。

20分ほど車を走らせ無事にマンションまで着いて、私と畑丸さんは比嘉くんの部屋を調べ始めた。


「でも、どこを探せばいいんですか?」


「彼は確か、部屋にある机の1番大きな引き出しに入ってると言っていたから、そこを調べればいいはずです」


そうして引き出しを開けると、いくつもの書類が中から出てきた。


「うわ、こんなにいっぱいあるの⁉︎」


「仕方ありません、全て取り出して調べてみましょう」


畑丸さんは全ての書類を取り出して、一つづつ中身を確認しながら横によけている。私も一緒に探していると、中から何故か写真が出てきた。

そこに写っていたのは1組の男女。1人は恐らく比嘉くん。その隣に写っているのは、比嘉くんよりも少し歳上に見える女性。ただ2人ともとても楽しそうな笑みを浮かべている。

写真の裏を見ると、2年前の日付が書かれている。


「この人誰だろ?探偵事務所の人じゃ無さそうだし……」


まじまじと写真を見ていると、畑丸さんも気になったのか横から写真を覗き込んできた。


「…………あれ、この女性どこかで」


「え?知ってるんですか?」


「ええ、ただどこで見たのかは憶えていないんですが……どこで見たのかな」


少しの間考えていたけれど、考えても仕方が無いので、再び書類を探すことにした。

15分くらい探していると、一冊の古ぼけたレポートが見つかった。


「あった。これが彼の言っていた」


「これですか」


「はい、恐らくそうだと思います。じゃあ少しだけ中身を確認させてもらっていいですか?」


「はい、いいですよ。よかったらお茶でもお出ししましょうか?」


「いえ、お構いなく。中身が確認できればすぐに退散しますので」


そう言って中を確かめようとした時、畑丸さんの携帯が鳴った。


「あ、ちょっとすみません」


畑丸さんは部屋を出て、廊下で話し始めた。私は私で、取り出した書類を戻しながら、見つけた写真を改めて見直す。

(この女の人誰だろう?凄い美人な人だな……)


「は?打ち切り⁉︎おいおい、詳しく教えろ!」


廊下から突然大声が聞こえた。一体何があったのか気にしていると、畑丸さんは扉を開いた。


「すみません、何でも状況が急変したらしいので、私は署に戻ります。今日はありがとうございました」


そうして慌てた様子で畑丸さんは部屋を後にした。

(さっき、何か打ち切りって言ってたよね?ひょっとして捜査が打ち切りになったの?)

そんな事を考えていると、今度は私の携帯が鳴った。見ると、海藤さんからの着信だった。なぜ海藤さんから着信がきたのか気になりながらも、私は電話に出た。


「もしもし、海藤さん?」


「やあ三浦さん、実はちょっとしたお知らせがあるんだけど」


「お知らせ?」


「ああ、さっきたまたま比嘉くんが勾留されている警察署の前を通ったんだけど、比嘉くん、多分釈放されたよ?」


「え、そうなんですか?」


「うん、だから迎えに行ってあげたらどうかなぁって」


私は正直迎えに行くか迷ったけれど、迎えに行ってあげて恩を売っておくのも悪く無いかなと思って、上着を羽織って警察署に向かうことにした。



3. 同日 夜 あけぼの公園



(大見栄きったのはいいが、これ勝てるか?)

目の前の如月と名乗った男と対峙した俺は、内心そう思わざるを得なかった。そう思った理由は、如月の醸し出す気配だった。

この男は多分俺と同類、今までにも多くの修羅場を乗り越え、多くの人間を殺害したある種の戦士の気配だ。

(アイツは長刀を持ってるが、俺は素手だからな。こうなりゃ、無理やり間合いを詰めて長刀の利点をころしてやるか)

互いに様子を伺っていたが、らちが開かないので俺が先制した。あえて正面から突進して攻撃させ、そこをかわしてから雷電で肋骨を砕くつもりだった。


「……疾いなぁ」


如月はそう呟いて大振りの横一閃で首を狙ってきたが、突進の勢いを殺さずに体勢を低くして避け、完全に間合いを詰めた。

接近された如月は、顔色を変える事なく左の膝蹴りで雷電を使おうと構えていた俺を妨害する。寸前で気付けた俺は右腕一本で防いだが、いつもは着けている籠手を着けていなかったため、右腕に激痛がはしる。

勿論その隙を逃すような如月ではなく、手首を返して剣先で頸動脈を狙ってくる。俺はギリギリまで首を倒して皮一枚を斬らせただけで済ませたが、攻撃の好機を逃してしまった。


「っ痛えな、剣使うクセして格闘も出来るってか」


「口数が多いな」


「しゃべる余裕があるって事だよ」


(黒刀があれば多少話は変わってくるが、無い今じゃあ戦い辛いぞ)

正面から行ってダメなら撹乱するしか無い。

そう思い、今度は素早く後ろにまわり込む。如月は最小限のモーションで振り返ると、そのままの勢いで斬り上げてきた。それも最初のような大振りではなく、対至近距離用の小振りだ。

俺はそれを右のローキックで受け流して軌道を俺の身体から外す。

普通の靴でこんな事をしようものなら、間違いなく足を斬られるが、この靴の爪先には鉄の板が仕込んであるため、斬られる心配は無い。

たしかに靴は傷つくが仕方無い。俺は半身の体勢から右脚を軸に左後ろ回し蹴りを放つ。

剣の軌道を外されて体勢も崩された如月は、身体を後ろに引きながらかわした。ただ俺もこの機を逃す訳にはいかない。そう思いながら左脚で地面を踏み込むと、右回し蹴りに繋げた。

俺の持てる力を出した回し蹴りは、如月の脇腹を確かに捉えたが、蹴る瞬間に俺も右脚を軽く斬られてしまった。


「どうした、斬られたのが嬉しいのか?」


如月が脇腹をさすりながら問いかけてくる。

口元に触れると、間違いなく笑みを浮かべていた。しかしそれは、斬られたから笑っているのでは無い事に既に気づいていた。


「お前だって笑ってるじゃねーかよ如月。蹴られたのが嬉しい……訳じゃ無いだろ?」


そう聞くと、如月はさらに笑みを深くした。

お互い、笑っている理由は同じようだ。


「不思議だな、命の取り合いしてんのにこんなに愉しいのは初めてだよ」


「俺も同じだ比嘉 翔太郎。今まで何度も闘った事はあったが、お前みたいなのは初めてだ」


俺と如月は再度構え直した。


「でも悲しいなぁ」


「ああ、同感だ。何故なら」


ーお前はここで死ぬ事になるからなー


そう同時に言い放つと、まるで惹かれるように距離が縮まる。

俺は捨て身で雷電を放とうとした。

その瞬間


「比嘉くん、頭下げて!」


後ろから声がして、俺は思わず頭を下げた。

俺の頭上を何かが通り過ぎた。如月はそれを刀身で弾く。弾かれたソレは手の平代の石だった。


「大丈夫?ケガは無い?」


もちろん投げてきたのはこの少女、もとい相棒の三浦だ。三浦は俺の側に駆け寄ろうとしていた。


「バカ来るな!」


俺が静止させると、三浦はビクッと体を震わせその場に止まった。急に叫ばれて驚いたのだろう。

俺はヘイトが三浦に向かないように如月を睨む。しかし如月は手にしていた長刀を素早く袋に納めていた。


「邪魔が入った。次は確実に殺すぞ、比嘉 翔太郎!」


そう言って如月はこの場を立ち去り、夜の闇へと消えていった。俺は慌てて追いかけようとしたが、三浦に腕を掴まれた。


「ちょっと、どこ行くの!」


「どこって、アイツを追いかけるに決まってるだろ」


「バカ!ケガしてるんだから自重しなさい!」


何故俺が怒られているのか今一腑に落ちないが、仕方なくマンションに向かう事に。

その道中に、どうしてここに来たのか聞くと、どうやら海藤さんから俺が釈放された話を聞いて来たらしい。これは海藤さんに感謝しなければいけない。


「……にしても、お前何だって石投げてくるんだよ」


「だって、いい方法思いつかなかったんだもん」


そう口を尖らせて三浦は言っていたが、判断としては間違ってはいない。

下手にあの場に突っ込んで来るよりは、まだ石を投げて妨害した方がいい。

ただ……


「俺が避けられなかったらどうするつもりだったんだよ!」


「だから頭下げてって言ったんじゃん!」


俺の反射神経が良かったからいいが、普通の人にやったら間違いなく大変なことになるからな?

本当はそんな事を言いたかったが、今回は助けられた側だからそんな事言えない。


「あー、まぁとにかく今回は助かった。ありがとうな三浦」


すると、まさか感謝されると思っていなかったのか照れ始めた。


「な、何よ急に!別に感謝されても嬉しく無いんだからね!」


「いや、だって本当に助けられたし。あのまんま闘ってたら多分俺死んでたぞ」


「……そんなにヤバかったの?」


「ああ、ただもし次会ったらその時は……」


ー確実に仕留めてやるー

しかしこの一言は言う事はなく、胸の内に収めた。出来れば三浦に俺が殺人をしていると言う事は知られたく無いからだ。

それよりも、早速色々ときな臭くなってきた。

("GAT"って何だ?国内の特殊部隊にそんな名前の部隊は無いし。こうなれば調べるしか無いな)



4. 3月16日 昼 加藤警備株式会社内



昨夜、俺は如月と名乗る男と一騎討ちを行なった末、脚やら首元やら斬られてしまったので、探偵事務所に一瞬顔を出した後加藤さんの会社に向かった。

コイツと一緒に。


「比嘉くん、大丈夫?肩でも貸そうか?」


「肩貸して欲しいほどケガしてたら、俺はバイク運転出来てねーよ」


俺は加藤さんの会社にいるある人に会いにきた。


「加藤さん、お久しぶりです」


「よお比嘉、久しぶりだな。弧門から聞いたぞ?大変だったんだってな?」


「ええ、それで早速なんですけど」


「ああ、早乙女と五十嵐さんだろ?医務室行ってこいよ」


さすが加藤さんは話が早くて助かる。

俺はこの会社に併設されている医務室に向かった。そこはそこそこの広さの病室も備えている、医務室というよりは小さな病院だ。


「いらっしゃい比嘉くん。今回はどうしたの?」


俺に声を掛けてくれたのは、この医務室で働く女性の早乙女 聖那さん。何だかんが昔からお世話になっている人だ。


「あー、すみません早乙女さん。あの、色々ありまして斬られちゃいました」


「はいはい、とりあえず斬られたところ見せて……っと、そっちの子は?」


「は、はい、初めまして。三浦 めぐと申します。この度新たに弧門私立探偵事務所に勤めることになりました。よろしくお願いします」


「よろしく。ふーん、いい子じゃん。ひょっとして比嘉くんの彼女?」


……やっぱりこうなるのか。


「違いますよ早乙女さん。コイツは新しい相棒です。それより早く傷見てくださいよ」


俺が急かすと、ハイハイと言って診察をしてくれた。

早乙女さんの見立て曰く、斬られた右脚は既に血が止まっている為問題無く、首元も傷が浅いため大丈夫らしい。


「にしても、比嘉くんが斬られるなんてねー」


「俺もちょっとやばかったです。三浦に助けられなかったら、多分死んでました」


「ふーん」


早乙女さんは何故かニヤニヤと笑っている。

なぜだろう、俺の知らないところでとんでもない勘違いが起きてそうな気がする。


「はいこれでおしまい。ほら、ぼーっとしてないで、これからまだ行くところあるんでしょ?」


「あ、そうだった。それじゃありがとうございました」


俺はお礼を言って医務室を出た。ふと三浦を見ると、早乙女さんの顔を見ていた。

俺が言うのもアレだが、早乙女さんは結構美人な方だと思う。三浦とは違い、大人の女性という感じだ。

(じゃあ三浦は子供っぽいのかって?言ってしまうと三浦に悪いが、まぁ大人っぽくは無い)

ただ、立ち去る時に小声で『写真の人じゃ無いな』と言っていたのは聞こえた。

医務室を出て向かったのは加藤さんのもと。

そこには加藤さんともう1人、大柄な男の人が立っている。背は180後半くらいでがっしりとしているが、優しそうな表情をしている。


「やあ比嘉くん、僕の力が必要なんだって?」


「どうも五十嵐さん。えっと、力を借りるというよりも、知識を貸して欲しいんです」


「OK。と、その隣のお嬢さんは確か三浦さんだね?うちの社長から聞いてるよ。比嘉くんのガールフレンドだって?」


……どうやら、だいぶ事実が曲げられて伝わっているらしい。

正直訂正しなくてもいいかと思ったが、背後から殺意を感じるのでちゃんと訂正した。


「なるほどね。じゃあ改めまして、五十嵐 総一です。この加藤警備株式会社の副社長、というか加藤さんの右腕を勤めていますよろしく」


無事挨拶も済み、俺は本題に入った。本題はもちろん昨夜遭遇した如月と名乗る男と、所属している"GAT"についてだ。

五十嵐さんは、一見すれば優しいおじさん(とは言ってもまだ歳は35だったはず)に見えるが、これでも元特殊部隊隊員なのだ。今は色々あってこの警備会社に勤めているが、腕は確かだ。

俺は憶えている限りの情報を五十嵐さんに伝えた。五十嵐さんはしばらく考えていたが、多分だけど……と少し保険をかけて話し始めた。


「その"GAT"っていうのは僕が昔所属していた"α部隊"の事だと思う」


「"α部隊"?」


「"α部隊"っていうのは、この国にある裏の特殊部隊。……今度また詳しい話はするけど、隊員は全員戦闘のプロばかり。元隊員の僕が言うのもアレだけど、かなり敵に回すと面倒な部隊だよ」


「なるほど。でも何で今は"α部隊"じゃなくて"GAT"なんですか?」


「それもまた今度。ただ一つ言えるのは、比嘉くんは今、間違いなくとんでも無い事に巻き込まれてるって事」


ここから俺、いや、俺たちは波乱に満ちた日々に身を投じる事になる。

俺たちは、ゴタゴタとした喧騒の中を戦う事を余儀なくされたのだ。


キャラクター解説


早乙女 聖那 サオトメ セナ (26)

加藤警備株式会社社員

加藤の警備会社で働く女性。比嘉は14歳の頃からお世話になっており、ケガをした時はしょっちゅう頼っている。医師の免許を持っており、手術もできるため、比嘉の命を救った事もある。

戦闘はできないため、社員や関係者のケガを看病するのが主な仕事。

作中で比嘉も言っていたように美人で、三浦とは違い大人の女性といった感じらしい。

加藤の会社に入ったのは弧門の紹介で、実は弧門に好意を抱いており、加藤、五十嵐、門矢、比嘉はそれを知っている。弧門は気付いていない。


五十嵐 総一 イガラシ ソウイチ(35)

加藤警備株式会社副社長

自他共に認める加藤の右腕。元は"α部隊"という特殊部隊の隊員だったが、とある作戦中の行動が理由で部隊を追われていた。そこを加藤にスカウトされ、加藤の右腕として働いている。

大柄だが優しい性格で、比嘉の格闘の相手をする事も多い。他の社員にも仕事で必要な格闘を指導しており、事務に追われる社長をさまざまな形でサポートしている。

加藤の事をサポートするとともに、デスクワークの多い加藤を心配しており、健康面を気遣う場面もある。

既婚者で、妻と中学生になる息子がいる。

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