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暗殺者との戦闘 ついに掴んだ手がかり


1. 5月25日 夜 繁華街外れ雑居ビル



目の前の謎の不良もどきは、腰のホルスターから随分と変わった形の拳銃と、筒状の何かを取り出した。


「さぁ比嘉 翔太郎、お互い楽しもうやないか?」


「1人で楽しんでろこのイカれ金髪野郎」


名前を呼ばれた比嘉くんは、鋭い目つきを崩さずに素早く周囲を見渡した。私も背後に気配を感じて構えると、さっき比嘉くんが蹴り飛ばしていた男たちがナイフを構えていた。


「な、何なのコイツら!」


「ただのイカれた殺し屋達だよ」


比嘉くんの口調はまるで、この状況に慣れているように呆れている。


「殺し屋って⁉︎」


「読んで字の如く。俺の事殺しに来た連中だって」


もっと穏便に済ませてくれないかな……と呟く比嘉くんに対して、私は正直動揺を隠せない。


「ちょ、ちょっと!何でそんなに冷静でいられるの⁉︎」


そんな問いかけをしている間も、ジリジリと私たちと距離を詰めてくる3人のナイフを持った男と不良もどき。

どうやって打開するかを考えていると、背中越しに比嘉くんの声が聞こえた。


「……三浦、少しいいか?」


「な、なによ急に」


いつもよりトーンの低い声に思わず寒気がした。無理やりいつものように返そうとしたせいで、声が少し裏返る。


「俺、お前にずっと隠してた事があるんだ」


「……え、どういう事?」


私の発した質問に、彼は答える事なく自分の言葉を続ける。


「打開策がコレしか無いから、今からその一片を見せる事になるけど……多分知ったら、今までみたいな関係を続けられないかもしれない。

もちろん、知った後どうするかはお前に任せるけど……それでもいいなら俺は……隠すのを辞める」


その言葉は私に向けられた言葉のように見えて、実は話している彼自身を何とか説得するものだった。

隠している事を知られたら、今までのように一緒に暮らしたり仕事をしたり出来ないかもしれない。それでも隠すのをやめて打開しようとしてくれている。


「分かった。それで打開出来るなら、比嘉くんに任せるよ」


私も決意を固めて言葉を返す。

彼は低いトーンのままOKとだけ言うと、私の左脇を異常なスピードですり抜け、にじり寄って来ていた男の1人の顔面を蹴り飛ばして、少しふらつきながら顔を押さえた男の背中に手を回し、逃げ場を無くして至近距離でパンチを放つ。

殴られた男は、比嘉くんが回していた腕を解くと、手からナイフを落として膝から崩れ落ちる。


「……随分な殺意だな。ま、相手が悪かったんだよ」


比嘉くんは、崩れ落ちてもなお敵意を剥き出しにしている男を一瞥すると、落ちていたナイフを拾い上げ、一切の躊躇なく男の胸に突き刺した。

刺された男は一瞬だけ痙攣したかと思うと、傷口からおびただしい血を流して動かなくなった。


「……え、ウソ…………死んじゃったの?」


その直後、部屋を覆い尽くさんばかりの血の臭いがして気持ち悪くなり、思わず口元を押さえる。

比嘉くんは、気持ち悪くなっている私を一瞬見たかと思うと、別の男を睨みつけた。

すると、今までの気持ち悪さを忘れそうになるほどの冷気が背筋を走った。


「ほぉ、隣のツレは気持ち悪そうになるくらいの血ぃやいうのに、顔色一つ変えんとは。さすが殺し慣れているだけはあるな」


「悪いが、こうなったからにはお前には死んでもらうしかないぞ」


血まみれになったナイフを手に取って、ゆっくりと構えをつくる。後ろに回り込もうとする相手の仲間を視線で牽制しながらも、一切隙を見せないその様子は、まさに歴戦の戦士といった様相だ。

(私と同じ年のはずなのに……全然動きが違う)


「ゴメンな三浦、こんな事に巻き込んじまって」


少しだけ顔を振り向けて比嘉くんは謝ってきた。


「……謝る事ないよ。元はと言えば、私が勝手に来ちゃっただけなんだからさ」


そう応えると、顔は見えなかったけれど比嘉くんは少し安堵した様子だ。


「三浦、危険だって感じたらすぐに逃げろ」


膠着しかけた場の均衡を破ったのは比嘉くんだった。

にじり寄ってきた2人の特殊部隊の隊員のような格好をした男のうち、1人に手にしていたナイフを投げつけた。男は完全には避けきれず左肩に刺さる。

しかし彼の本当の標的は、もう1人の男の方だった。

比嘉くんはもう1人の男に視線を向けると、3mは離れていた距離を側転蹴りで詰めて、左脚でアゴを蹴り上げる。アゴを蹴られて怯んだ隙を逃さず、卍蹴りですかさず追撃。

最後に男がまだ手にしていたナイフで男の首の動脈を斬り、床に叩きつけた。


「さっさとかかってこいよ。時間が惜しいんだ」


床で未だ痛みで悶える男にはまるで興味が無いといった様子で、もう1人の男を睨む比嘉くん。睨まれた男は僅かに怯んだように見えたが、少し膝を曲げたかと思うと比嘉くんに正面から突っ込んだ。


「正面からか。芸が無いな」


つまらなさそうに呟いて回し蹴りで迎撃しようとしたが、彼の蹴りが当たる直前に素早くかわして背後までまわり込み、ナイフで突き刺そうとした。もし相手が比嘉くんでなければ、間違いなく刺されていただろう。

しかし相手が悪かった。


「分かりやすいなぁホント」


そう言って笑うと、始めから分かっていたように逆にカウンターの回し蹴りで蹴り飛ばした。

しかし相手も蹴られた瞬間にうまくガードしていたのか、すぐさま体勢を立て直して反撃する。

私もいてもたってもいられなくなって加勢しようとしたが、私と比嘉くんの間にあの不良もどきが割って入ってきた。


「なんや、お前も死にたいんか」


「何よ。邪魔しないでくれる?その気なら、相手になるけど」


睨みながら構えをとったが、男はなぜか笑っている。


「まぁ、言っちまえばお前が俺に勝つのは無理やろうな」


「ふざけるのも程々にしなさ……い!」


不意打ちで左回し蹴りを放ったが、男は腕でガードすると逆に蹴り返してきた。最初は防ごうかと考えていたが、体格差があまりにも大きいから、すぐさま回避に切り替えた。

男の軸足を左脚で蹴って素早く距離を取る。

(私がコイツに勝てるとしたらスピードね。この体格差じゃ、パワーでは太刀打ちなんて出来ない)

もう一度構えて観察していると、男は大袈裟に落胆したように声を上げた。


「はぁー、面倒な女やのお前も。俺はそっちの男と戦いたいのにのぉ。……ほな、死んでもらおうか」


すると、腰のホルスターから拳銃を取り出して私に銃口を向けてきた。

(え⁉︎マズイ!)

顔を腕で隠しながら限界まで銃口から逃れようと試みたが、一度銃声が轟いたと思うと、私の太ももに灼けるような痛みが走る。

少しだけ視線を動かして確認すると、銃弾が掠めたのか血が滲んでいた。


「ほぉ、よう避けたの。やけど、その足じゃあ次は無理やろ」


勝ちを確信したように笑い、銃口を私に向ける。なんとか避けようと足に力を入れるが、傷のせいで足に力が入らない。

(ヤバい……もう避けられない……)

そう死を覚悟した時、


「なーに勝手に、俺の仲間に手出してんだ!」


比嘉くんの声が聞こえたと思うと、男の背中に飛び蹴りを放って無理やり私から引き離した。さらに、男が拳銃を持っているのを確認すると、持っていた右手を掴んでそのまま抱きかかえる。

その直後、もみ合っていた2人の間で銃声がひびき、比嘉くんが膝から崩れ落ちた。

いや、膝から崩れ落ちたように見えた。


「お……お前……」


「驚いたかよバーカ」


男が歓喜とも驚きとも捉えられる表情を浮かべると同時に、比嘉くんは低い体勢から強烈なタックルを放ち一度距離を取る。


「とんでもない男やな。道理で如月も苦戦するわけや」


「お褒めに預かり恐縮だな」


セリフとは裏腹に冷徹な表情を浮かべる。その手には、さっきまで男が持っていた拳銃が握られていた。


「な……何が……起きたの……」


愕然としながら呟くと、比嘉くんはそっと笑った。


「ただの手品だよ」



2. 同日 同時刻 繁華街外れ雑居ビル内



「ただの手品だよ」


俺はそうはぐらかすと、持っていた拳銃を手早く分解した。実際は手品なんかではなく、しっかりタネも仕掛けもある技だ。

今の攻防で俺がとった行動は簡潔に表すと武装解除術だ。

まず相手の拳銃を持っている手を掴み『マガジンリリースボタン』を押し、銃のマガジンを排出させる。こうする事で、相手はこれ以上弾を撃つことが出来なくなる。

最後に薬室に残っている銃弾を消費させて、そのまま銃を奪い取れば終わりだ。


「お前、どさくさ紛れにワイを殺そうとしたやろ?ホンマにタチ悪いのお」


「だから撃たせてくれなかっただろうが。テメェ、仲間に手出しといてタダで済むと思うなよ。

三浦、下がってろ。あとは俺が殺る」


俺は落ちていたナイフを逆手に持つ。対するこの男もとい佐野も、腰からナイフを抜いて俺に向ける。


「お前もやで?どうやらお前は、本気で殺しにいかんといけんみたいやな」


そう言い終わるやいなや、ポケットから円筒形の物を取り出し、俺に向けた。

(なんだアレ、新型の銃か?)

何なのか判らないその正体を見極めようと直視した。が、その判断がまずかった。


「ほないくで?」


その直後佐野の姿が見えなくなった。

正確には、佐野の姿が見えなくなるほどの強力な光を浴びせられた。

(フラッシュライトか!)

俺は理解してとっさに腕でガードしたが、そのガードの隙間を縫うようにしてナイフで攻撃を繰り出してくる。まだ視界が回復しないながらも攻撃が来た方に闇雲にナイフを振るが、そんな攻撃が当たる訳が無かった。


「へぇ、見えんのに攻撃を防ぐのは流石やな。やけど、ソレがいつまでもつかの?」


頭を振って、必死に目の中に残った残像を消そうとするが、消えない内に佐野の追撃がくる。

(ヤバい、避けられるのか⁉︎)

目をギリギリまで細めて、佐野の次の攻撃の軌道を見極めるがやはり視界を奪われたのがキツい。結果攻撃を完全には見極められず、深傷は避けたものの右腕と左の脇腹に一撃ずつくらってしまった。


「チッ、なりの割にすばしっこい奴やの」


舌打ちをして、再度攻撃の構えをとる佐野。このままだと、あと1分もしないまま俺は斬り刻まれてしまうだろう。

(マズイな、コイツの戦い方は変則的すぎて対抗出来る気がしねぇ)


「さっさと、死んで終え!」


最悪刺し違えればいいと思いながら、未だに回復しきらない目を見開いて迎撃しようとした。だが、その時。


「そんな事、させるか!」


なんと、負傷して下がったはずの三浦が乱入してきた。

挨拶代わりの回し蹴りを回避されても、なお裏拳で果敢に攻める。


「比嘉くん大丈夫?」


「お、お前……下がってろって言っただろ!」


「そんなの、大人しく聞いてられる訳無いでしょ?」


俺の顔を見つめる三浦に返す言葉も無い。


「早く、倒すよ?」


意を決した三浦に俺も静かに頷く。


「前もって言っとくが、コイツはかなり強敵だ。俺たち2人がかりでも勝てるかどうか怪しい。

俺が勝てないと判断したらすぐに逃げろよ。でなきゃお前が死ぬ事になる」


「……分かった」


背中合わせの三浦と短く言葉を交わして、再度佐野との戦いに臨む。


「さぁ佐野、全部教えてもらうぜ?悠夏の命を奪った奴について、洗いざらい全てな」



3. 同日 同時刻 繁華街外れ雑居ビル内



「ハン、手負い2人がかかって来ても、どうて事無いで!」


私と比嘉くんが組んだのを見ても意気揚々と宣言した佐野は、左手に持っていたライトを私たちに向けた。


「3度目は喰らうかよ!」


そう叫ぶと彼は、自分が着ていた上着を翻してライトの光を遮り、向かってきた佐野にカウンターでサイドキックを叩き込んだ。叩き込まれる寸前、左腕でガードして多少威力を殺した佐野だったが、やはり少しふらついた。私もその隙を逃さずに回し蹴りで追撃する。


「チッ、しゃらくさいな!」


今度は私に狙いを定めたのか、佐野は左に動くとナイフで突きにきたが、そのナイフの切先を比嘉くんが素早く蹴りで逸らし、そのまま顔面に膝を叩き込む。

佐野は僅かに顔を傾けて膝蹴りをかわすと、蹴ってきた脚をナイフで斬り裂こうとした。それを見た瞬間に私の身体が反射的に動き、体重を支えていた左脚の膝を力一杯蹴り飛ばして、体勢を崩させる。

流石にこの蹴りは響いたのか、佐野は苦い表情を浮かべてナイフも空を斬った。


「合わせろ三浦!」


「そっちこそ……外さないでよね!」


お互いに佐野と少し距離を取ると、私は正面から頭を狙っての回し蹴り、背後にまわった比嘉くんは水面蹴りを同時に放った。

だが……


「あッ……ぶないのぉ!」


なんと佐野は、蹴りが来た瞬間にバク宙をして私と比嘉くんの蹴りを避け切り、さらに床に手をついた直後に飛び退って私たちから離れた。


「お……おいおい、あんなの避けられるかよフツー……」


予想外の避け方をされ、比嘉くんが苦笑いをしながらそう言った。私も呆気に取られると共に、背筋に冷たい汗が流れたのが分かった。


「……思ったより、やるやないか」


口の端から流れていた血を拭いながらゾッとする笑みを浮かべた佐野。本当に勝てるのかと不安になっていたその時、佐野から発せられたのは意外な言葉だった。


「……まぁええわ、今勝てんでも隊長には怒られんやろうしな」


「な……逃げるつもりかよテメェ!」


再び突っかかろうとする比嘉くんを何とか制止させる。


「待って!さっきのあの技が避けられたんじゃあ、このまんま戦っても勝てないよ!」


「そんなの俺には関係ねぇ!とにかくコイツをぶっ潰して……」


「コレを手に入れるんやろ?」


ニヤッと笑った佐野が手にしていたのは、一つの紙袋だった。


「ここには、お前のお望みの情報が入っとる。まあ、俺にとっては別にどうでもいいから、コレを餌にお前を呼び出したって訳や」


「……お前、最初から俺と戦うのだけが目的だったのかよ」


「ああ。『八宮 悠夏』……この名前はお前を釣るには丁度いいからのぉ」


「…………そうかよ」


小さく一言呟くと、比嘉くんから発せられる殺気が今まで以上に攻撃的で冷たいものに変わった。


「まあ安心せえや、約束通りこの情報は渡したる。ほなまた戦おうで、比嘉 翔太郎?」


佐野はヘラヘラと笑ったまま紙袋を床に置くと、窓から外へと出て行った。比嘉くんは、自分を落ち着かせるように何度か呼吸をした後紙袋の近くに歩み寄り、ゆっくりと紙袋を手に取った。

彼は紙袋の中に入っていた紙を取り出して、内容を確認していた。


「『義野 怜治』……か。帰るよ、三浦」


「う……うん」


静かに紙を袋に戻すと、比嘉くんは私にそう呟いた。

この時の私は思いもしなかった。彼が執着するその男と比嘉くんの戦いに、遠くない内に私も巻き込まれる事になるなんて。




どうもごきげんよう、RARUHIです。

長距離ドライブ&日々の学業の疲れもあり、あとがきはこの形式を取らせていただきました。

いかがでしたでしょうか、楽しんでいただけましたでしょうか?最近は、本格的に学校が忙しくなり書く暇も無くなってきていますが、それでもアイデアが尽きることも無いので書き続けております。

実はこの度、自分の中であるチャレンジをする事にしました。

それが『異世界系の小説を書く』という試みです。

コレはTwitterでも少しだけ呟きましたが、今までは『絶対に何かとかぶる』という理由で手を出していませんでしたが、数日前からアイデアが湧いてきたため、今書いている作品『黒衣の青年は正義を嫌う』を書き終えてしばらくしたら、異世界系の作品にも手を出してみようと思います。

そのためには、何としても今作を書き上げなければいけないので、今後とも応援よろしくお願いします。

それでは次のお話で会いましょう。

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