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交渉と協力 深まる謎と疑問

今回、冒頭の話が3月の頃の話になっています。

時系列が前後してしまいますが、ご了承下さい


1. 3月16日 夜 GAT基地



「よぉ如月、任務をし損じたらしいな?」


俺が暗殺を失敗した次の日の夜、愛剣の月蝕剣の手入れをしていると、第三小隊の隊長の佐野が声を掛けてきた。


「珍しい事もあるもんやな。ウチでも1.2を争う実力の持ち主のお前が、まさか失敗するなんてな。明日は季節外れの台風かの?」


「……随分と嬉しそうだな佐野」


皮肉を込めてくる佐野を睨むが、そんな事は気にならないという感じで笑っている。


「"比嘉"やったか、そんなに強いんか?」


「ああ。今まで任務で戦った中ではずば抜けて強い」


「ほぉーお前が認めるとは、相当な奴なんやろうなぁ」


そう言われあの闘いを思い出す。

あの時は俺は月蝕剣で、比嘉は素手でやりあったが闘っている間はかなり不思議な感覚だった。

今まで戦ってきた中でもずば抜けて異質だったのだ。


「ところで、義野隊長からは何て言われたんや?」


「……任務は継続。ただし、次の暗殺まで期間をしばらく開ける事、だとさ」


「なるほどなぁ」


佐野はしばらく考えた後に、笑いながら身を乗り出してきた。


「なあ如月、今回の任務俺に代わってくれんか?」


「……なんだお前も闘いたいのか?」


「最近はえらい暇やからな。その比嘉やったか、ソイツと遊んでみたいんや」


佐野の余りにも軽い態度にため息をつきながら月蝕剣を鞘に収めた。


「悪いことは言わない、やめておけ。アイツはただの殺人者じゃない」


「まあまあ、そんな硬いこと言わんといてや。とりあえず隊長に話してみるわ」


俺の言葉に聞く耳を持たない、というよりかは元から持ち合わせていなかった佐野は手を軽く振りながら基地の奥へと消えていった。

(やれやれ……比嘉とまた闘えると思ったんだがな。アイツが本気を出すとなるとアイツも……)



2. 5月20日 夜 門矢家



「やあ士、お帰り」


俺が家に帰ると、エプロン姿の海藤が笑顔で出迎えてきた。


「何が『やあ士』だ。なんでウチに居るんだよ」


「そりゃあ仕事で疲れてる士を労るために、料理作ってたからに決まってるだろ?」


そう言われれば奥の方からいい匂いがしてくる。どうやら本当に料理を作っていたらしい。


「そうかお疲れさん。よし帰れ」


「何でさ?」


「何でって決まってるだろ、他人の家に勝手に上がり込んだうえに知らない間に料理まで作って。

こんな新手の変態を家に置いておけるか!」


俺はだいぶ前からコイツの事を知っているが、コイツは時々ある意味異常性を感じさせる言動をする事がある。

今回のコレもいい例だ。


「僕は変態じゃない。ストーカーだよ?」


「もっとダメじゃないか……」


自分で認めている辺り、普通のストーカーよりもタチが悪い。ダメだ、話しているだけで頭が痛くなってくる。


「ホラ早く上がって。ご飯冷めちゃうからさ」


「さも自分の家のごとく振る舞ってるが、ココは俺の家だからな⁉︎」


「じゃあ僕が家に行っていいようにルームシェアしようよ」


「ダメだ。断る。絶対嫌だ」


駄々をこねる海藤を言いくるめて家に上がる。奥のテーブルを見ると、半ば予想通り海藤の作った夕食が並べられている。

仕方なく2人で夕食を食べていると、海藤が今俺たちがあたっている任務について聞いてきた。


「そういえばさ、今士たちって何か調査してたよね?」


「ああ。文月議員のパーティーの警護があるから、それに関係してるのを色々な」


「へぇー。なら、僕も協力するよ」


一瞬聞き間違えたかと思って、聞き返したが答えは変わらず『協力する』という一言だった。


「おいおい冗談はよせ、お前の力借りるほど俺らは困っちゃあ……」


そう言いつつも俺は、今日の事務所での現状報告の中身を思い返した。

俺の単独調査は思うように進まず、比嘉たちの調査も手掛かりはあったものの、恐らく行き詰まるだろう。いや、裏社会の情報網に関しては俺と同レベルでエゲツない比嘉の事だ、行き詰まったとしても時間をかければ確実に情報を手に入れるだろう。

ただ今回は時間も限られている。


「……協力いるでしょ?」


したり顔の海藤を軽く睨みつけながら頭を乱暴にかきむしる。


「で、目的はなんだ?」


「目的?」


「お前が何の目的も思惑も無しにこんな事する訳ないだろ」


「な、なんだい?別に僕は何にもやましい事は……」


いつもの冷静さはどこへやら。

あからさまにうろたえる海藤は視線を泳がせている。


「……分かったよ。最初はルームシェアを条件にしてもらおうかと思ってたんだけど、流石に無理なのは分かってるから。

僕が今使ってるリボルバーは知ってるだろう?」


「ああ、確か親父さんから受け継いだんだったよな」


「それの弾丸を入手して欲しいのさ」


どういう事だ?と思ったが、冷静に考えれば当たり前だ。

海藤の愛銃のリボルバーはかなり昔のもので、ただでさえ銃関係の道具が手に入りにくいこの国ではリボルバーの弾丸は手に入らない。

それでも、俺なら裏ルートをうまく使って入手する事ができる。


「分かった、.45longCで合ってるよな?」


「そそ、頼んだよ?」


正直この弾は手に入れるのが難しいが、海藤の力を借りれるなら仕方ない。

俺は海藤に今調査している内容を詳しく伝えた。



3. 5月22日 朝 津村警備会社前



「やれやれ、士たちも大変だねー。大仕事の前にさらに別の独自調査をするとは」


小声で呟きながらも僕はとある警備会社の中にいた。

ここは昨日比嘉くんペアが聴き込みに訪れた会社。どの会社に潜入するかを考えた結果、何か情報を掴めそうだったというここに潜入することにした。

問題なのはどうやって情報を手に入れるかだ。まず間違いなく、正面から普通に聴きに行っても手には入らない。

そうなると僕の取れる手段はただ一つ。

そう、盗むのだ。

会社の入り口まで来ると、バッグの中から社員証を取り出す。もちろん正規品ではなく偽造のもの。


「おはようございます。今日もいい天気ですね」


「そうですか?あいにくの曇り空ですけど……」


「"黄砂"ですよ。晴れてはいます。曇っているように見えますけどね」


入り口に立っていた事務員さんに挨拶をしてそっと僕の社員証を見せると、快く通してくれた。

(思った通りだ)

さっき入り口に立っていた事務員さんは、僕が昨日ちょっとした取引を持ちかけた人だ。

もし今みたいに偽造の社員証を見せると、普通ならすぐにバレてしまう。そこで、いくらかお金を渡す代わりに僕の偽造の社員証でも通してもらえるようにした。

さっきの挨拶は合言葉みたいなものだ。


「さてと、でも情報なんてどこに置いてあるのかな。ひょっとしたら社長が自宅に持って帰ってるかも……」


軽く辺りを見回しながら上のフロアに向かう。今はまだ昼前だから下手には動けない。

今のうちに出来ることといえば、せいぜいこの会社の下見をするくらいだ。

昨日のうちに暗記しておいた建物の部屋割りとすり合わせながら、一部屋づつ確認をする。

(うーん、やっぱ社長室に行くしかないか……)

あまりやりたくは無かったけれど、仕方ない。意を決して社長室に潜入する事にした。



4. 同日 夜 津村警備会社内



退社時間もとっくに過ぎて人気が無くなったのを見計らって、僕は隠れていた物置から抜け出した。

(あーキツかった。にしても、結構警備はゆるいみたいだな)

辺りを見ても巡回をしている人もいない上、防犯カメラも多くない。警備会社という割に自社の警備はガバガバのようだ。


「さてと、さっそく社長室に潜入しますか」


念のために足音は立てずに素早く移動する。

所々に防犯カメラは設置されていたけれど、迂回すれば通れない訳では無く、すんなりと社長室前までたどり着いた。

(……変だな、いくら何でも警備が手薄過ぎる)

警戒しながらドアを開けると、どこからか男の声が流れてきた。


「やあ、こんな夜に何用かな?」


(この声、まさか社長か?)

声を聞いたことがないから判断は出来ないけれど、この老人のような声から察するに社長だろう。


「ああ、少し探し物をしてるんですよ。この部屋にあるはずなんですけどねぇ……」


潜入しているのがバレてしまったのはもうどうしようも無いが、あえて不遜な態度で相対する。


「……なるほど、つまりあなたは"泥棒"ですか」


「"泥棒"ではなく"怪盗"です。同じ盗む側の人間でも、そこを間違えてもらっては困りますね」


あくまでも冷静に受け応えをしていると、社長らしい男は突然笑い始めた。

(やった、めっちゃウケてる)

一人謎の手応えを感じていると男は指を鳴らす。すると背後のドアのロックが掛かり、天井の排気口らしき穴から白いガスが流れ出てきた。


「泥棒でも怪盗でもどちらでも同じ事、あなたには悪いですがしばらくの間眠っていてもらいましょう」


「これは……睡眠ガスか何かですか?」


「ええ、お察しの通り。流石に殺してしまうのは気が引けますからねぇ。大人しく警察に捕まってもらいます」


色々会話を続けている間にも、どんどんとガスが部屋の中に充満してくる。

(あー、まずいかな?)


「あなたの様子はちゃんと上のカメラでモニタリングしています。私は臆病なのでね、ちゃんと寝たのを確認してからあなたの対処はさせてもらいますよ」


勝ち誇ったように言葉を並べる社長に、しかし僕はあくまでも冷静にカメラに顔を向けた。


「あんまり僕を舐めないでくださいね?」


最後にそう言うと、僕は真っ白なガスの中に倒れ込み、そっと目を閉じた。



5. 同日 夕方 隅の浜署内



「畑丸さん、またそれ読んでたんですか?」


そろそろ休もうかと思い、ふと畑丸さんを見るとその手には一つの少し厚いレポートが握られていた。

その"レポート"とはもう3ヶ月も前のこと、ある殺人事件の重要参考人として連れてきた比嘉という青年が、警察を見限る原因になった事件に関する独自の調査書だった。


「ああ。にしてもこれは凄いな、当時の警察の捜査資料と見比べてみたが、情報の量と質の訳が違う。

恐らく警察とは違って令状が無いからこそここまで出来たんだろうが、それにしても念入りに調査しているな」


関心している畑丸さんの横から俺も覗き込んでみる。

そこには被害者の死因だけではなく、独自に調べた結果浮かんできた容疑者や、被害者の交友関係などを事細かに記してあった。


「これを全て、いち探偵事務所だけで?」


「多分そうだろう。そりゃあこれだけ熱心に調べたのに門前払いじゃあ、怒るのも無理無いか」


確かにそうだ。この情報量、相当な労力がかかっているのは容易に想像できる上、比嘉の話が本当なら警察よりも早く犯人を断定していたという。

にも関わらず見向きもされず、挙句別の殺人事件が起きたとなれば尚更だろう。


「にしても比嘉 翔太郎……どこかで聞いたんだよなぁ」


「それ前も言ってましたよね?」


「うーん、何かの捜査資料で見た気がするんだが……どの事件だったかな」


(とうとう老けたか……)

我ながら失礼な事を考えてるなと思いつつ、一緒に悩む仕草をしていると、思わぬ来客がやって来た。


「畑丸くん、仕事中済まない。少しいいかね?」


そう言って入って来たのは、先の隅の浜港での殺人事件である種世話になった菅警視長だ。


「これはこれは、自分に一体どのようなご用事でしょうか?」


「キミもニュースで聞いたかもしれないが、近々、文月環境大臣の就任パーティーが開かれるのは知っているかい?」


「ええ、それがどうかしましたか?」


「非常に頼みにくいんだが、そのパーティーの会場警護に人手を少しまわしてもらえるかね?」


その要件を聞いて、俺と畑丸さんは思わず顔を見合わせた。理由は単純。

普通この手の仕事は俺たちにはまわってこないからだ。


「失礼ですが、どうして自分達なのでしょうか?」


すると、周りの視線を気にするように見渡した後声を潜めて、こうなった経緯を話し始めた。


「本来なら君の言う通り、君たちに頼む予定では無かったんだ」


「という事は急遽自分達にまわって来たということですか?」


「ああ。最初は専門の部署や特殊部隊の"SAF"に依頼する予定だったんだが、本部長が『部署は全て人手が足りていない。"SAF"も近々大規模な訓練を行うから人員を割くことが出来ない』と却下されたのだ」


そう言ってため息をつく菅警視長の表情は苦い。ただ俺たちも俺たちで色々引っかかる事がある。

そもそも、その話は本当なのか。

文月環境大臣といえば今かなり人気の政治家だ。そんな人のパーティーの警備なら、警察は市民へのアピールも兼ねて惜しみなく人員を割きそうだが、なぜ誰一人として割こうとしないのか。

ただ逆にこの話が菅警視長の嘘だと考えると、なぜ菅警視長がそんな嘘話をでっち上げる必要があるのかが分からない。


「……わかりました。ですが、私たちもそこまで多くの人員は割けません」


「ああ、それは私も百も承知だ。最悪2、3人しか出せなくとも文句は言わない。

他の上層部からは『警察から人員を出したというカタチがあればいい』と言われたからな」


それだけ言い残すと、まだ別の部署に用があるのか畑丸さんと俺に軽く礼を言って去っていった。


「……畑丸さん、明らかに変じゃないですか?」


「ああ。『2、3人出せばいい』というのはどうも引っかかる。本当にそれが上層部の意向なのか?」


この話には明らかに何か裏がある。

この時点で既にそれは分かってはいたが、全容が分かったのはかなり後の事だ。

俺たちにとって、コレは事が大き過ぎた。




























比嘉 翔太郎 以下"翔")さて、じゃあまた今回もやっていくか

三浦 めぐ 以下"め")……

翔)どうした?

め)……前言った事覚えてる?

翔)あー、うん

め)覚えてるなら呼ばないでよ!

翔)だって、みんな忙しそうだったんだもん。それに、今回は前ほど質問もキツくないからさ

め)え〜?(疑いの目)

翔)ほら、さっさといくぞ。『2人の苦手な事を教えてください』だって

め)あー、得意な事は言うから割と知られてるもんね。

翔)俺は交渉とか苦手だな。あとは心理戦とか勉強とか……

め)単純にバカなんじゃない?

翔)あ、ひどい

め)私は……料理だね

翔)俺は知ってた。この前料理させたら消し炭作ってたもんな

め)あの話は勘弁してよ……

翔)じゃあ分かった、今度教えるよ。何教えてほしい?

め)え?教えるって……

翔)だってさ、いくら何でもこの先料理の一つも出来なきゃ俺が居なくなってからがきついだろ?

め)……確かに

翔)ま、今の仕事がひと段落したらな?

め)オッケー

翔)じゃあもうこんくらいでいいか

め)え、まだ質問一つしか答えてないけど

翔)大丈夫大丈夫、また次もあるから

め)う、ウソ

翔)ホント

め)……出来ればやりたく無いんだけど

翔)拒否権はないよ?

め)い、い、嫌だぁー‼︎

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