第一章 産み落とされたのは悪役令嬢 〜09〜
私とはまた違った色素が薄い、金色っぽいふわりとした茶髪に、緑色掛かった黒い瞳。
ひょええ〜外国人の血が入っているなこれは。
祐麻は純日本人顔の美少年って感じだけど、この子はイギリス系と日本のハーフっぽい。
「ね、ねぇ、だれなの?」
「えっ、あっ、ごめんなさい。はじめまして、わたくし、おおみかみかるらといいます。」
「かるら?かるらはなんでぼくからかくれているの?」
「えっ?かくれてなんて…あ、そっちからみえないのか。いまそっちにいきますね。」
ガゼボからは薔薇の茂みの影になって見えない場所に私は居たみたいだった。舗装された道を通って、ガゼボの真っ白な階段を登ってハーフちゃんのところに行く。
「ごめんなさい、かくれるつもりはなかったの。」
「……。」
「ねぇ、おーい?」
ぽっかーーーん、と放心して私の顔を見つめてくるハーフちゃん。とりあえずハーフちゃん呼びきついから名前教えてくれ。
「ねぇ!!あなたのおなまえはなんていうの?」
「っ!…あ、ご、ごめんなさい。ぼくは、……はるやっていいます。」
「はるやくんっていうのね。よろしくね。」
「う、うん。よろしくね。」
「はるやはなんでひとりでここにいたの?」
目元が擦れて、白いお肌が赤くなっている。事情は分からないけど泣いていたんだろうな。
直接聞くことはせず問い掛けると、はるやくんは少し視線を彷徨わせてから小さな声で喋り始めた。
「ぼ、ぼく、ダンスのレッスンしてたんだけど、ものすごくにがてで…ぼくがとってもへただから、せんせいがいっつもおこってくるんだ。すごくこわくてね。ぼくが、ぼくのおうちのこどもとしてふさわしくないっていうんだ。ぼく、かなしくって…きょうのれっすんがいやでここににげてきちゃった。」
ゔゔ〜ん?なーんだか聞き覚えがあるセリフだなぁ。
『そんな基本的な動きもできないなんて…!物覚えが悪いにも程がありますわ!大御神家の子供とは到底思えない、令嬢にふさわしくない出来損ないですわね。』
……ああ〜。あのくっそダンス教師か〜。まさかはるやくんのところでもあの暴挙を繰り広げていたとはね。
いや、私にやる分には私がもはやおちょくって楽しんでたからいいけど、超純粋まっしろしろみたいな4、5歳の可愛い美少年を年甲斐もなくいびるとは…許せんなぁ。あのクソ女どうしてやろうか。
頭にき過ぎて口元が引きつり、額に皺が寄る。おっと、はるやくんに若干怖がられてしまった。失敬失敬。
「ダンスができないからって、ふさわしくないとか、そんなことないと思うんだけどなぁ。」
「…なんで?」
「だって、わたしもダンスのせんせいにものすごくおこられるんだもん。」
「かるらも?」
「うん。だけどあんなおしえかたじゃ、わたしぜんぜんわからないもん。むずかしいことばばっかりつかうし、しつもんしても、そんなこともわからないんですか!っておこるし。まったくおしえてくれてないもん。ムカつくからダンスのれんしゅうのときにせんせいのあしをふんでやってるんだ!」
よく言えば勇敢、悪く言えば命知らずな私の行動に目を見開くはるやくん。
おっと、教育に悪かったかしら。まあ、あの教師の方が教育に悪いよね。
「せんせいのあしをふんだの?!…ふふっ、かるらってすごいね!」
「そんなことないよー。でもね、ちょーっとずつならできるようになってきたんだ!じぶんでうごきだけおもいだして、なんかいかやってみたりしてたらなんとなくおぼえてきたの!」
「そっか…かるらはすごいね。ぼくはじぶんでれんしゅうしてもやっぱりぜんぜんわからなくて…。」
「じゃあさ!いっしょにここでやってみようよ!」
「えっ?!ここで?」
「うん!わたしがちゃんとリードしてあげるからやってみよう!ほら!」
ベンチに座っているはるやくんに手を差し伸べる。
はるやくんは私の目と差し出された手を何度も見て、くりっとした目をパチパチとさせた。
「でも、ぼく、へただよ?」
「いいの!わたしがはるやくんとおどりたいからいってるの!」
どこか眩しそうに、私を見上げたはるやくんはゆっくりと手を伸ばして、恐る恐る私の手を取った。
立ち上がったはるやくんの手を引いてガゼボの真ん中で向かい合う。
「じゃあいくよ?わん、つー、すりー、わん、つー、すりー、せーの」
私が三拍子をゆっくりと口ずさみながら、ステップを踏む。はるやくんがワンテンポ遅れながら、ステップを踏み出す。
途中で何度かつんのめりそうになるのを私がなんとかリードする。ふふーん、あいつの足を踏んづけながらもやる所はやってるからね。
余裕のなかったはるやくんの顔も、だんだんと和らいでくる。
「わん、つー、すりー、わん、つー、すりー、つぎはターン。はい、わん、つー、すりー。」
完全に私と同じペースになったはるやくんは難なく私のターンをリードする。
なーんだ、もともと筋はいいんじゃん。
いつのまにかリードを奪われた私は、またターンをさせられる。
「わっ。さすがにたくさんやりすぎるとめがまわっちゃうよ。」
「ふふっ。だいじょうぶだよ。ぼくがりーどしてあげるから。」
「えぇ、はるやくんダンスにがてなんじゃなかったっけ?」
「えー、なにそれ〜。」
「うわ。だまされた。」
くすくす笑いながら2人で踊り続ける。
最後に私がくるりと回って、スカートの裾を摘んでちょこんとお辞儀をすれば、はるやくんが私の手を取って、手の甲に静かに口付けた…口付けたァ?!?!
あまりの衝撃にポカーンとしていると、顔を上げたはるやくんがにこりと微笑んだ。
「かるら、ありがとう。きみのおかげでぼくダンスがすきになれた。こんどはぼくからダンスにさそわせてね。」
「え、あ、うん。」
お母様。新しく知り合ったこの子は、将来女たらしになる未来しか見えません。というか外国人手馴れています。怖い。
「そういえば、なんでかるらはここにひとりでいたの?」
「……あっ!!!せんせいわすれてた!!!!」
「華流羅お嬢様ぁぁぁぁあああ!!!どこに行かれたんですかぁぁぁああああ!!!うええぇぇぇん!!!」




