まぎれもなく失言だったが、経緯ゆえ情状酌量された
ファンタジー マイルドプランタジネット 長兄の話
金鱗双角王国は普通に王位継承は長子相続を基本としているが、王太子であるアルフレートは実は第二王子である。これは実に簡単な話で、第一王子ガニエダが幼くして王位を継げぬことになったから、繰り上がった形になる。それこそアルフレートが生まれてすぐの話ゆえ、弟妹たちは長兄の顔も知らない。ただ、そんな兄がいたという話を聞いただけである。
ガニエダは遥か遠くの国の精霊の血を引く王に見初められ、誘拐同然に連れ去られた。当然、父王は怒り狂って精霊王の国を攻めようとしたが、当のガニエダがその王こそ自分の運命の番いであると認めたため、渋々遠国に嫁がせることとなり、国交を結んだのだと。でも本当に遥か遠くの国であるため、一年に一度のペースでしかやり取りは出来ていない。
第二王子と第四王子は運命の番いという話にまあまあの理解を示し。第三王子は運命などというものがいるのであれば是非出会ってみたいものだと笑った。そして末の第五王子はこまっしゃくれた子供だったので、要は幼くして死んだということの言い換えなのでは?と疑っていた。なにしろ、物心つかないを通り越して父親でもおかしくないくらい年の離れた兄である。全く兄弟である実感がない。なんでだか毎年ガニエダ名義で的確に彼の喜ぶ誕生日祝いが贈られてくるが(他の兄弟にもある)、的確過ぎて面識のない相手が贈ってきているとは信じられない。長兄の名義を使っているだけで他の家族からのものだろうと思っていた。
だから、番いを説得できたからと云十年ぶりに故郷の土を踏んだガニエダに
「やあ、こうして実際に顔を合わせるのは初めてだね。ガニエダお兄様だよ、ノエル」
とにこやかに言われたノエルは脳直出力で
「えっ、本当に生きてらっしゃったんですね。てっきり死んでいるものかと」
と言ってしまったのだった。他の相手だったら立派な外交問題になっていたところだが、ガニエダはからりと笑って流した。末弟にそんな反応をされても仕方がない自覚があったからである。なんなら不審者や兄を騙る偽物扱いされなかっただけ上等であるともいえる。
末弟は末弟で内心めちゃくちゃ混乱していたが、相手がガチで親族であることは一目でわかった。別に顔を知っていたわけではない。寧ろ全く知らなかった。父も母も同じくする兄弟でも見目がぱっと見違う例は自分と兄で知っている。
とはいえ、ガニエダは金竜王家に多い金髪である。第二王子と並べたら成程兄弟とわかる程度には似た顔立ちをしている。まあ正直なところ末王子からすれば見知らぬおっさんではあるのだが。ちょっと見覚えないけどまあ親族かなって感じのおっさん。
「どうやって顔も知らない相手に毎年的確な誕生日プレゼントを贈ってこられたのですか?リカルド兄上なんて物量で数打てば当たるしてくるのに」
「その辺りは水鏡と占術を使ってごにょごにょってね。私から顔を見せることはできなかったけれど、弟妹や両親の様子は遠鏡で時々見せてもらっていたよ」
「…そういえばガニエダ兄上を見初めた番いは精霊王だという話でしたね…」
純正であれ血を引く人間であれ、精霊と名のつく存在が魔法の一つも使えないわけがない。王族であるなら尚更だ。生物は基本的に己より弱いものには従わない。少なくとも何かしら己より優れたところがあると認めた相手でないと。
「竜と精霊って相性悪くないんですか?」
「私はそこまで濃く竜の血は出ていないから。でもリカルドは多分私の番いや部下たちと相性が悪いと思うよ。両極端だよねぇ、今代」
「まあリカルド兄上はちょっと頓痴気に足突っ込んでるところありますけど…」
「お前もあんまり他人のことは言えないんだよ?ノエル。金竜の血が一切出ていない代わりに夜魔の血が強く出ているようじゃないか」
「初耳なんですが…」
「おや。知恵の泉のお嬢さんあたりから聞いてないのかい。彼女なら一目で大体…ああいや。あれはわかりすぎるから、あえて尋ねられた時のみ答えるよう縛っているのだっけか」
知恵の泉というのは彼の婚約者の家についた二つ名である。それが彼女の婚約について場合によって王家が物言いを付けられる理由になるということを彼は知っていた。
「まあ、そうだね。大っぴらにはともかく、お前は魔法を修めておいた方が良いと思うよ。何かしらの力を持っておくに越したことはないからね」
「それは…予言か何かですか?」
「そんな高尚なものではないさ。精々が兄としてのお節介、くらいかな」
「そうですか…」
透き通るような橙色の瞳は、何か普通の人間には見えないものまで見通していそうで、彼はこの縁の薄い兄の言葉を適当に流さない方がいいと直感した。なんなら彼の兄姉らの言葉は根拠が不明瞭で内容が端的であるほど無視すると厄介なことになる。多分人ならざる血が作用して何かしらを伝えてきているのだろう。碌でもねー兄たちである。別の意味で碌でも無さを抱える己を棚に上げて末王子は思う。




