こちら、王国名物。ちやほやされてブチ切れる末王子です。
ファンタジー マイルドプランタジネット 魔法とかドラゴンとかあるタイプの世界
祖たる竜の血が一番濃いのはリカルド、一番薄いのはノエル
金鱗双角王国の王族は皆美形である。祖王たる竜の血を引く英雄王アルスリードも金髪に怜悧な美貌を持つ男だったと伝えられている。人ならざる竜の血が子孫に至るまで肉体的な優秀さ美しさを保たさせているのだとすら言われる。次期王である王太子アルフレートしかり。祖竜の血が最も濃く出ているのではと言われる第三王子リカルドしかり。太陽の光のように煌めく金髪に怜悧な美貌を持つ偉丈夫である。まあ二人とも普段は朗らかにしているため、あまり怜悧な印象はないのだが。
しかし、世の中の法則には大抵、例外や外れ値といわれるものがある。王家の場合、それは主に末王子だった。兄と違って祖竜の血が全く出ていないのではと言われる末王子ノエルは、夜闇のような黒髪に中性的な顔つきで、あんまり体格がよろしくない。兄弟と比べると(年が離れているとはいえ)華奢すぎて姫君と間違えられることもあった。ちなみに中身は兄らと負けず劣らずの強靭な自我のある負けず嫌いである。全く気弱な感じではない。寧ろクソガキ。
そんなノエルは凶暴で喧嘩っ早い兄らと父からめっぽう可愛がられている。全く脅威を感じない末っ子が可愛くて仕方ないのだろうとは姉の言葉。兄らには敵わないとはいえ、愚昧ではないノエルはその溺愛をいい感じに受け流したり利用したりする術を心得ている。腕力では全く敵わないので逆に遠慮なくぶん殴ったりもする。
その溺愛っぷりが一番よく可視化されるのが舞踏会などのパーティの時である。本人が華やかな服装を好んでいることもあるが、毎度美しい衣装を誂え、装飾をキラキラと飾られて表に出される。婚約者たる伯爵令嬢が並んだ時みすぼらしく見えないよう、ノエルも婚約者を華やかに飾り立てることもあり、この二人が並ぶとそこだけ御伽噺の挿絵を具現化したようにきらきらしくなる。
だがまあ、他国では男が華やかに飾り立てて現れることはトレンドではないので、女装しているわけでもないのにここでもまた男装の姫君と他国からの客人に間違えられるのだった。
「美しい方、どうかお名前を伺っても?」
「パートナーがおられないのでしたら、どうか私と踊っていただけませんか」
「金竜王国は美しい方が多いと聞きましたが、噂通りですね。王家の縁の姫君ですか?」
王国の姫君を娶って良い関係を保てれば暫くは王国から戦を吹っ掛けられずに済む(まあ悪い扱いをした時それを理由に宣戦布告される諸刃の剣だが)との考えからか熱心に口説かれ、ノエルは静かにブチ切れた。
「私は姫ではなく王子だし、こうしてエスコートしているのは婚約者だ。随分と情報収集がお粗末なようだな、貴公らは」
血の気を引かせる客人らの後ろに、いつの間にか第三王子が朗らかな笑みを浮かべて立っていた。
「我が弟と将来の義妹がどうかしたかな、御客人」
「兄上。どうやら彼らには私が侍女を連れて一人で参加している令嬢に見えたようです。…ドレスを着ているわけでもないのに」
「ほう。貴公らはリナリア嬢が侍女に見えたと」
「い、いえ…侍女というか、取り巻き、御友人の御令嬢かと…」
「それは、我が婚約者が私と並び立つ立場には見えないと、そういう事ですかな」
既に慣れっこになっている婚約者は黙ってニコニコしている。ノエル以外の男に口説かれたいとは欠片も思わないし、彼がイキイキしていると嬉しいので。それに身分として一段劣る伯爵令嬢としては自分に水を向けられるまでは沈黙しておくのが正しい対応というものである。沈黙は銀とも言うし。
「リナリアが私と揃いでつけているこの耳飾りもサークレットも首飾りも何一つ目に入らなかったと。随分節穴なのですね、あなたたちの目は」
特に首飾りは互いの瞳の色とぴったり同じ色の宝石を見つけてペアとして作られている、独占欲マシマシの代物である。オーダーメイドゆえ世界に一つしかない。王家と伯爵家の紋章も入っているし、その気になれば身の証として使えるだろう。そもそも王家の紋は許可なく使うことが犯罪になるものだし。
「リナリア嬢がノエルの婚約者となってからもう十年ほど経つのだが。貴公の価値観では、他国の王子の婚約者というのはそんなに覚える価値のない相手なのだな」
それを言ったらそもそも、国外に出たことはないとはいえ、一応外交に顔を出したことのある末王子の顔もわからない時点で落第なのだが。しかも近隣では、末王子自身に力はなくとも彼が口を出せば兄や父が動くため、末王子の機嫌を損ねるのは拙いと既に知れ渡っている。実際には彼が口出すより前に兄が動いているので、このカップルにちょっかいを出した時点でほぼ詰みなのだが。
「パートナーとの時間を無粋な者たちに邪魔されて気分を害しました。私たちは少々退がらせていただきます。行こう、リナリア」
「はい、ノエルさま」
第三王子にだけ軽く目礼して、彼女は彼のエスコートを受けて王家用の休憩室に引っ込む。まあ半分パフォーマンスみたいなものだが、この愛らしいカップルが退場したことで会場の温度が一気に五度くらい下がった。




