Like a prince&princess
ファンタジー プラトニック百合と両想い婚約者
「ジャネットさまとリナリアさまよ」
「お二方とも本当に麗しくていらっしゃるわ。並んでいると絵画のよう」
「童話の王子さまとお姫さまみたい」
きゃあきゃあと静かにはしゃぐ少女たちに、彼は眉をしかめた。恐らく悪意はないのだろうが、気に障る。なにしろ、その噂の片割れは彼の婚約者なのだから。政略結婚の一つとして結ばれた婚約とはいえ、彼は婚約者を愛している。その婚約者が他の人間にお似合いだなんて言われていたら面白くない気持ちにもなる。
だから彼はどすどすと足音を立てそうな、不機嫌を全く隠さない態度で二人の前に姿を現したのだった。
「ジャネット!リナリア!」
「まあ、ノエルさま」
「姉上、でしょう、ノエル。王子ともあろうものが往来に不機嫌を振りまいて、はしたない」
「ちっ。リナリアは俺の婚約者です、姉上。過度の接近はお控えください」
「あら、リナリアは私の親友でもあるのよ。そのような揶揄をされる謂れはないわ。ねぇ?リナリア」
煽り散らかす姉弟に彼女はくすくすと笑う。
「私は、ノエルさま一筋ですし、ジャネットの親友です。それでは駄目かしら」
「だ…だめでは、ないが…」
「姉の私が言うのもなんだけど、なかなかの困ったちゃんよ、この愚弟。大丈夫?」
「愛していますもの。私は、ノエルさまと共に平和に、仲良く暮らしていければそれで構いませんわ。我が領地は軍事上の要などではない平凡な穀倉地帯ですし」
彼は学園を卒業したら婚約者の家に婿入りすることになっているし、それでいいと思っている。王位は優秀な兄たちがどうにかするだろうので、出来の悪い彼の出る幕ではないのだ。
「立地は政治的な意味が薄いけれど、血筋には政治的な意味があるのよね…」
なにしろ、彼女は有力公爵家の分家である伯爵家の家付き娘である上に、年の離れた従兄弟である公爵に目をかけられている。兄のようなものというより、殆ど父親面だが。彼の年の離れた兄も大概だが、実父より舅面で婿に厳しい視線を向けてくるのはいかがなものか。
「おかげで幼い頃から人を見る目が鍛えられてきましたわ」
「人を見る目というより、相手の悪意の有無だろう。厄介な人間を退けてはいないしな。まあ、その筆頭が俺なわけだが」
「厄介なのはノエルさまというより、ノエルさまたちの親族だと思いますけれど」
「そう言って許されるの俺たち姉弟以外だとリナリアぐらいのものなんだよなあ…」
何故ならその厄介な親族に彼女も気に入られているため。彼の婚約者だから目をかけられているのか、目をかけられているから婚約者なのかが危ういところである。いや、彼も彼女が好かれること自体に不思議はないのだが。
「でも正直、私としてはノエルにリナリアが守れるか怪しいところもある気がするのよね」
「ぐっ…確かに俺は戦下手だし人付き合いも増えてですけど」
そしてだからこそ、国内貴族の内で特に直接的に重要な家というわけではない彼女の家に婿入りすることになったともいえる。新たな公爵家を興すとかではなく。まあ王家の直轄地に良い感じの分け与える領地がないというのもあるが。
「ノエルさまの苦手な部分は私が補いますわ。婚約者ですもの」
「人付き合いはともかく、戦は無理だろう。…無理だよな?」
「直接武器を取って争うばかりが戦ではありませんわ」
「それはそうなんだが…」
「あら、女だからといって戦えないとは限らないことは私と姉上と母上でよくわかっているでしょう、ノエル」
「姉上たちは例外でしょう。普通の貴族令嬢に姉上たちのようなものを求めたら非難されますよ」
「お二方も女傑と呼ばれたそうですしね…」
ちなみにその姉は既に同盟国に嫁いでいる。政略上の理由だが、夫とはそれなりに良くやっているらしい。ちょこちょこ評判というか武勇伝が聞こえてくる。
そしてこの姉は淑女であると同時に女騎士でもある。なんか姫騎士とは言われない。なんでだろうね。
「…リナリアに実兄でもいたら侍女として私の嫁ぎ先にも連れていけたのに」
「それこそイーディお兄様に物言いを付けられそうな気がしますけれど…」
「そりゃあ俺とリナリアの婚約は俺が婿入りする前提だろうけどな?」
彼女の家を継ぐのが別の人間で、嫁入りせねばならない身であった場合、相手が彼になった可能性はゼロではないが、低いと言わざるをえない。流石に正当な王子を意味もなく平民にはできないので。まあ土地の無い貴族のパターンもないではないが、彼が官僚に向いているかといえば、それはそれで…なので。
「結婚相手はともかく、従兄弟が勤め先に口を出すのはどうなのよ。…いや、国外に出る場合は何としても口を出してくるか…」
王家の正当な姫君であるため、当然政略で嫁ぎ先が決まるに決まっているし、国内有力貴族よりも同盟国などに出される可能性の方が高い。姉が彼女を構いたがるのは、卒業して嫁いでしまえば今のように自由に会えなくなる可能性が高いというのもある。このようにじゃれ合っていられるのは、モラトリアムである今の内だけなのだ。彼女が家を出ることはないのだから。




