最終話 そして悪役令嬢はいなくなった
親愛なる、リリアーナへ。
……いや、やっぱこれ変じゃない?
絶対リリィ、これ見たら「なにそれ。気味が悪いわね」って嫌そうな顔するでしょ。
まあ、いいや。
せっかくだし、今日はちゃんと真面目に書いてみる。
◇
あの日から、十年が経った。
王都を襲った、あの古代魔獣召喚事件。
あの日を境に、この国は本当に色々変わった。
王家による禁術運用、精神干渉、監視拘束、そしてアルヴェルト公爵家への不当な支配。リリィが地下室に残した記録は、結局、言い逃れのできない証拠として全部表に出た。
当然、王家は大混乱。隠蔽なんてできるはずもなかった。
レオンハルト・ヴァルディアは、王位継承権を剥奪され、王城西棟の封印区画へ永久収監された。
今どうしてるのか、あたしは知らない。
……まあ、別に知りたくもないけど。
エドガーも、カイルも、ユリウスも。
真実が明らかになったからって、壊れてしまった彼らが全部元通りとはいかなかった。
エドガーは廃嫡後、精神の摩耗で療養。
カイルは騎士の道を絶たれ、ユリウスは薬物依存に苦しんでいる。
それぞれが、今も別の重い問題を抱えて生きている。
だから、ゲームみたいな都合のいい“大団円”にはならなかった。
でも、あたしだけは違った。
リリィが全部の記録を暴露してくれたおかげで、あたしは無罪として釈放された。
あたしの聖女としての適性のこと、学園の事件を操ったように見せたこと、全部リリィが仕組んだことだということが明らかになった。
……まあ、投獄されたことまで、なかったことにはならないけどね。
◇
釈放されてすぐ。
リネットさんが、あたしを訪ねてきた。
一通の手紙を持って。
『リリアーナ様に万が一のことがあった場合、ミレイア様へお渡しするようにと』
最初はさ、巻き込んだことへの謝罪の手紙かなって思ったの。
でも、中に書いてあったのは、謝罪なんかじゃなかった。
びっくりするくらい、いつものリリィだった。
淡々としてて、変に冷静で、でもところどころ、ちょっとだけ不器用で。
なんでこんなことを仕組んだのか。今まで攻略対象のみんなに何をされてきたのか。王家の何を知っていたのか。
告発した内容だけではない、そのすべてが、綺麗な文字で綴られていた。
正直、読んでてすごく苦しかった。
ゲームの裏側で、あの子がそんな地獄を生きてたなんて、画面越しには思いもしなかったから。
でも。だからってリリィのしたことが、“正しかった”とも、あたしにはやっぱり思えない。
だってあの日、たくさんの人が傷ついた。泣いた人もいたし、家を失った人も、怖い思いをした人も大勢いたんだから。
……でもね。不思議なことに、死んだ人は一人もいなかったの。
古代魔獣の召喚は、最後まで完全には成功していなかったからだと思う。
それから、ずっと考えてた。
なんでリリィ、あそこまで自分の手の内を全部暴露したんだろって。
だって、そこまでしなくても、王家の罪は魔獣召喚の時点で暴かれていたわけだし、あたしたちを陥れたことなんて黙ってれば良かったじゃない。
なのに、リリィはあたしの被害記録まで表に出した。
あたしが被害者として釈放されるように。
だから、思ったんだ。
リリィにとってあたしは邪魔だったけど、最後はあなたなりに、あたしを助けてくれたのかなって。
◇
あたしは、あれから聖女の訓練を再開した。
最初はほんっとうに大変だった。
周りの視線は痛いし、“災厄の関係者”とか普通に陰口を叩かれるし。
訓練も超辛くて、ぶっちゃけ毎日吐いた。
ゲームのパラメータ上げとは全然違う。
何回も一人で泣いた。逃げ出したくなった。
でも。ここで逃げたら、絶対リリィに笑われる気がしたんだよね。
「は?それくらいで?」とか言いそうじゃん。むかつくけど。
だから頑張った。必死に、泥臭く。
そしたらだんだん、あたしのことを認めてくれる人たちが出てきた。
信頼できる本当の仲間も、友達もできた。
その結果、あたしは正式に最高位の聖女として認定を受けた。
そして――あたしは長い旅の末に、世界を脅かす真の災厄を止めた。
本来なら、ゲームの攻略対象たちみんなでやるはずだったシナリオ。
あたしは自分の足で、ちゃんとやり遂げたよ。
◇
「……本当に行くのか?」
王城の瑞々しいバルコニー。
初夏の風が、遠くで綺麗に復旧した王都の街並みを抜けていく。
呆れたような声に振り返ると、第二王子のエーベルハルトが腕を組んで立っていた。
兄のレオンハルトが失脚し、彼が新たな王太子になってからも、相変わらず態度が大きくて偉そう。
原作ゲームじゃ攻略対象にすら入っていなかったサブキャラのくせに、プレイヤー間では妙に人気が高かったんだよね。
「国の最高功労者であるお前を、次期王妃にって推す声も多いんだぞ?」
「権威を回復するため、聖女を王妃にしたいだけでしょ」
「……俺だってお前を妃に迎えてやってもいいと思ってる」
「なにその上から目線。プロポーズのセンス最悪だよ」
「事実を言ったまでだ」
「うーわ」
あたしは笑いながら、旅用の大きな荷物を抱え直す。
「ごめん。でも無理!」
「即答かよ」
「だって、あたしにはこれから、やらなきゃいけないことがあるし」
「やらなきゃいけないこと?」
それは、世界を救う旅の途中で、風の噂に聞いた話。
遠い東の国。深い森の奥に住む銀髪の魔女。
気まぐれに困っている人々を助けて回っているらしい。
「会って、思いっきり一発殴ってやらなきゃいけない友達がいるの」
エーベルが、何言ってんだこいつ、みたいな顔で絶句している。
あたしはそれを気にも留めず、楽しげに踵を返した。
◇
待っててよね、リリィ。
会ったら、めちゃくちゃ喧嘩しよう。
十年分、いっぱい怒る。いっぱい文句を言う。
なんで勝手にいなくなるのって。
なんで一人で全部抱え込むのって。
近所迷惑になるくらい、いっぱい怒鳴ってやる。
でも。
そのあとで、ちゃんと仲直りしよう。
――だから、今からあなたに会いに行く。
最後まで『転生悪役令嬢ですが、やることなすこと裏目に出ます!』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
リリアーナたちの物語は、これにてひとまず完結です。
ここまで応援してくださった皆様には、心より感謝申し上げます。
もし「面白かった!」「最後まで読んで良かった!」と思っていただけましたら、評価やブックマーク、ご感想をいただけると、今後の創作の大きな励みになります。
また、本編では描ききれなかったエピソードもまだいくつかあります。番外編については、皆様の反応も見ながら、書けたらいいなと思っています。
そして、完結を記念して、この作品をイメージしたアニメ風PVも制作しました! 本日公開している活動報告に掲載していますので、興味を持っていただけた方は、ぜひご覧いただけると嬉しいです。
さらに、本日より新作も公開しました!
もしこちらの作品を楽しんでいただけましたら、新しい物語ものぞいていただけると幸いです。
改めまして、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また次の物語でお会いできることを、心より楽しみにしております。




