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最終話 そして悪役令嬢はいなくなった

 親愛なる、リリアーナへ。


 ……いや、やっぱこれ変じゃない?

 絶対リリィ、これ見たら「なにそれ。気味が悪いわね」って嫌そうな顔するでしょ。


 まあ、いいや。

 せっかくだし、今日はちゃんと真面目に書いてみる。



 あの日から、十年が経った。


 王都を襲った、あの古代魔獣召喚事件。

 あの日を境に、この国は本当に色々変わった。


 王家による禁術運用、精神干渉、監視拘束、そしてアルヴェルト公爵家への不当な支配。リリィが地下室に残した記録は、結局、言い逃れのできない証拠として全部表に出た。

 当然、王家は大混乱。隠蔽なんてできるはずもなかった。


 レオンハルト・ヴァルディアは、王位継承権を剥奪され、王城西棟の封印区画へ永久収監された。

 今どうしてるのか、あたしは知らない。

 ……まあ、別に知りたくもないけど。


 エドガーも、カイルも、ユリウスも。

 真実が明らかになったからって、壊れてしまった彼らが全部元通りとはいかなかった。


 エドガーは廃嫡後、精神の摩耗で療養。

 カイルは騎士の道を絶たれ、ユリウスは薬物依存に苦しんでいる。

 それぞれが、今も別の重い問題を抱えて生きている。

 だから、ゲームみたいな都合のいい“大団円”にはならなかった。


 でも、あたしだけは違った。

 リリィが全部の記録を暴露してくれたおかげで、あたしは無罪として釈放された。

 あたしの聖女としての適性のこと、学園の事件を操ったように見せたこと、全部リリィが仕組んだことだということが明らかになった。

 ……まあ、投獄されたことまで、なかったことにはならないけどね。



 釈放されてすぐ。

 リネットさんが、あたしを訪ねてきた。

 一通の手紙を持って。


『リリアーナ様に万が一のことがあった場合、ミレイア様へお渡しするようにと』


 最初はさ、巻き込んだことへの謝罪の手紙かなって思ったの。

 でも、中に書いてあったのは、謝罪なんかじゃなかった。


 びっくりするくらい、いつものリリィだった。

 淡々としてて、変に冷静で、でもところどころ、ちょっとだけ不器用で。

 なんでこんなことを仕組んだのか。今まで攻略対象のみんなに何をされてきたのか。王家の何を知っていたのか。

 告発した内容だけではない、そのすべてが、綺麗な文字で綴られていた。


 正直、読んでてすごく苦しかった。

 ゲームの裏側で、あの子がそんな地獄を生きてたなんて、画面越しには思いもしなかったから。


 でも。だからってリリィのしたことが、“正しかった”とも、あたしにはやっぱり思えない。

 だってあの日、たくさんの人が傷ついた。泣いた人もいたし、家を失った人も、怖い思いをした人も大勢いたんだから。


 ……でもね。不思議なことに、死んだ人は一人もいなかったの。

 古代魔獣の召喚は、最後まで完全には成功していなかったからだと思う。


 それから、ずっと考えてた。

 なんでリリィ、あそこまで自分の手の内を全部暴露したんだろって。

 だって、そこまでしなくても、王家の罪は魔獣召喚の時点で暴かれていたわけだし、あたしたちを陥れたことなんて黙ってれば良かったじゃない。


 なのに、リリィはあたしの被害記録まで表に出した。

 あたしが被害者として釈放されるように。


 だから、思ったんだ。

 リリィにとってあたしは邪魔だったけど、最後はあなたなりに、あたしを助けてくれたのかなって。



 あたしは、あれから聖女の訓練を再開した。


 最初はほんっとうに大変だった。

 周りの視線は痛いし、“災厄の関係者”とか普通に陰口を叩かれるし。

 訓練も超辛くて、ぶっちゃけ毎日吐いた。


 ゲームのパラメータ上げとは全然違う。

 何回も一人で泣いた。逃げ出したくなった。


 でも。ここで逃げたら、絶対リリィに笑われる気がしたんだよね。

 「は?それくらいで?」とか言いそうじゃん。むかつくけど。


 だから頑張った。必死に、泥臭く。

 そしたらだんだん、あたしのことを認めてくれる人たちが出てきた。

 信頼できる本当の仲間も、友達もできた。

 その結果、あたしは正式に最高位の聖女として認定を受けた。


 そして――あたしは長い旅の末に、世界を脅かす真の災厄を止めた。

 本来なら、ゲームの攻略対象たちみんなでやるはずだったシナリオ。

 あたしは自分の足で、ちゃんとやり遂げたよ。



「……本当に行くのか?」


 王城の瑞々しいバルコニー。

 初夏の風が、遠くで綺麗に復旧した王都の街並みを抜けていく。


 呆れたような声に振り返ると、第二王子のエーベルハルトが腕を組んで立っていた。

 兄のレオンハルトが失脚し、彼が新たな王太子になってからも、相変わらず態度が大きくて偉そう。

 原作ゲームじゃ攻略対象にすら入っていなかったサブキャラのくせに、プレイヤー間では妙に人気が高かったんだよね。


「国の最高功労者であるお前を、次期王妃にって推す声も多いんだぞ?」


「権威を回復するため、聖女を王妃にしたいだけでしょ」


「……俺だってお前を妃に迎えてやってもいいと思ってる」


「なにその上から目線。プロポーズのセンス最悪だよ」


「事実を言ったまでだ」


「うーわ」


 あたしは笑いながら、旅用の大きな荷物を抱え直す。


「ごめん。でも無理!」


「即答かよ」


「だって、あたしにはこれから、やらなきゃいけないことがあるし」


「やらなきゃいけないこと?」


 それは、世界を救う旅の途中で、風の噂に聞いた話。

 遠い東の国。深い森の奥に住む銀髪の魔女。

 気まぐれに困っている人々を助けて回っているらしい。


「会って、思いっきり一発殴ってやらなきゃいけない友達がいるの」


 エーベルが、何言ってんだこいつ、みたいな顔で絶句している。

 あたしはそれを気にも留めず、楽しげに踵を返した。



 待っててよね、リリィ。

 会ったら、めちゃくちゃ喧嘩しよう。


 十年分、いっぱい怒る。いっぱい文句を言う。


 なんで勝手にいなくなるのって。

 なんで一人で全部抱え込むのって。

 近所迷惑になるくらい、いっぱい怒鳴ってやる。


 でも。

 そのあとで、ちゃんと仲直りしよう。


 ――だから、今からあなたに会いに行く。

最後まで『転生悪役令嬢ですが、やることなすこと裏目に出ます!』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


リリアーナたちの物語は、これにてひとまず完結です。


ここまで応援してくださった皆様には、心より感謝申し上げます。


もし「面白かった!」「最後まで読んで良かった!」と思っていただけましたら、評価やブックマーク、ご感想をいただけると、今後の創作の大きな励みになります。


また、本編では描ききれなかったエピソードもまだいくつかあります。番外編については、皆様の反応も見ながら、書けたらいいなと思っています。


そして、完結を記念して、この作品をイメージしたアニメ風PVも制作しました! 本日公開している活動報告に掲載していますので、興味を持っていただけた方は、ぜひご覧いただけると嬉しいです。


さらに、本日より新作も公開しました!

もしこちらの作品を楽しんでいただけましたら、新しい物語ものぞいていただけると幸いです。


改めまして、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


また次の物語でお会いできることを、心より楽しみにしております。

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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした 化物のごとき深謀遠慮で見事復讐相手を再起不能にして王家にもダメージを与えたわけですが、それはそれとしてやり方がかなり優しかった、甘かったですね 下手人たる攻略対象は再起不能だけど王…
とても面白かったです! 良くも悪くも予想を裏切られる展開でよくできてました! 次回作に勝手に期待します!
とても面白かったです。 ところどころ違和感があった部分(エドガーの読字障害という大きな設定を忘れていた所とか、ミレイア編に入ってからのリリアーナの態度とか)が、すべて伏線だったとわかった時の驚きは、読…
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