表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
64/76

第64話 祝福された完璧な王太子様⑥

 聖銀のレガリアには少し特殊なルートがあった。

 その特定ルートでは、リリアーナはヒロインと対立関係にならない。

 当然、孤独に狂うこともないから、彼女は魔族と手を組んだりもしない。

 

 ――それなのに。

 なぜかそのルートでも、リリアーナは必ず『古代魔獣を召喚する大災厄』を引き起こす。

 魔族のバックアップもないのに、なぜ、リリアーナ単独で国家封印級の術式を起動できたのか。


 前世のプレイヤーたちの間でも“シナリオ上のご都合主義”だと片付けられていた謎。

 けれど、そこにヒントがあると思い、私は秘密裏に調査を行い、この方法に辿り着いた。



 地下旧礼拝堂。


 崩壊しかけた封印空間の中で、空気が悲鳴のように軋んでいた。


「精神干渉……?」


「そんなの、禁忌だぞ……?」


 凄まじい動揺が、現場の騎士や術師たちの間に広がっていく。アルヴェルト家管理に携わるごく一部の人間を除き、王家が裏で精神干渉を行っていたとは知らされていなかったのだ。

 完璧で清廉潔白だったはずの王太子の背中に、部下たちの不信の視線が突き刺さる。


 だが、レオンハルトの顔に動揺の色は一切浮かばなかった。彼は見苦しい言い訳も、否定すらもしない。


「……国を維持するための、必要な処置だった」


 どこまでも静かで、冷徹な声。


「アルヴェルトの血統は危険だ。お前は現に、国家を滅ぼす災厄を起こそうとしている。私の判断は間違っていなかった」


 迷いのない、純粋な声音。

 本気で、それが正義だと信じ込んでいる目だった。

 

 リリアーナは、そんな彼の独善を憐れむように、少しだけ目を細める。


「……そう」


 レオンハルトは、正面からリリアーナを真っ直ぐに見据えた。


「リリアーナ・フォン・アルヴェルト。今すぐ召喚術式を停止しろ」


 それは、弱者を従える次代の王としての声だった。

 揺らがず、絶対的。

 その声音を耳にした周囲の騎士たちは、僅かに安堵の息を漏らす。


(あの完璧な殿下なら、この状況すら止められる)


 彼らの中には、まだそんな空気が残っていた。

 

 だが、光の渦の中にいるリリアーナは、そんな彼らを可哀想なものを見る目で、小さく笑った。


「この期に及んで、まだ私に命令?」


 赤黒い魔力が、彼女の細い身体の周囲でゆらゆらと揺らめく。


「それ以上の暴走は許さないと言っている」


 レオンハルトは淡々と言い放った。どこまでも自分が世界の秩序であると信じて疑わない口調。


「暴走、ね」


 リリアーナが首を傾げる。


「その原因を作ったのは、他でもないあなたでしょう?」


 ーーその時だった。


「教会より緊急報告です!!」


「結界崩壊率四十八%突破!!このままでは市街地が待ちません!!」


 悲鳴のような報告。


 それを聞いたレオンハルトは静かに剣を抜いた。

 金属の擦れる音が、静まり返った地下に響いた。


 「……全員、下がれ」


 「殿下……!?」


 「この場に残れば無駄死にだ」


 揺らぎのない声。


 「全員地上へ向かい、大聖堂の結界維持に回れ。王都防衛を優先しろ」


 「ですが、殿下お一人では――」


 「問題ない」


 青い瞳が、魔法陣の中心を見据える。


 「原因を排除すれば終わる」


 その声音は、あまりにも冷静だった。

 リリアーナは、自分に剣先を向ける王太子を、静かに見つめ返していた。



 やがて足音が遠のき、地下空間にはレオンハルトとリリアーナだけが残された。


 巨大魔法陣の中心。

 吹き荒れる赤黒い魔力が、リリアーナの長い銀髪を激しく揺らす。

 彼女の足元では、古代の術式紋様が生き物のように脈打つ輝きを増していた。


「綺麗ね」


 滅びの光を見つめ、リリアーナがぽつりと言った。

 レオンハルトは、一片の容赦もなく剣を構える。


 「……お前は危険すぎた。だから管理されていた。だから、こうしてここで封じる必要がある」


 そこに迷いはない。後悔もない。

 ただ、“処理”として語っている。


 リリアーナは小さく笑った。


 「あら、ようやく本音?」


 空間が脈動する。

 裂け目の奥で、古代魔獣が低く唸った。


 レオンハルトは剣先を向ける。


 「覚悟しろ、リリアーナ」


 リリアーナは微笑んだ。


 そして。


 「ねえ、レオンハルト」


 穏やかな声で言った。


 「“世界の危機”って……こうやって始まるのね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ