第58話 悪役令嬢の独白⑤
ミレイア。
あなたは、別に悪人ではなかったわ。
むしろ、驚くほどお人好しだったわね。
ただ――運が悪かった。
せっかく『聖銀のレガリア』の世界へ転生できたのにね。
でも、あなたの存在は、どうしても邪魔だったの。
ユリウスの件では、偶然あなたのおかげで上手く転がった。
けれど、次もそう都合よくはいかない。
だから、排除する必要があった。
あなた、とても分かりやすかったもの。
焦れば焦るほど空回りして。
期待されればされるほど失敗する。
だから私は、ずっとあなたを誘導した。
友達のふりをして。
周囲から浮くように。
レオンハルトに距離を置かれるように。
光魔法が成功しないように。
“聖女候補として不安視される空気”を、少しずつ作っていった。
でも、それだけじゃ弱い。
たとえ聖女認定されなくても、あなたは学園に残れてしまう。
それでは私の計画に支障が出る。
だから――あの事件を起こした。
裏の人間に金を流し、結界へ細工をさせ、魔物を放たせた。
侵入した魔物には、最初から命令してあったの。
“ミレイアには手を出さないこと”
そして、
“私を狙うこと”。
もちろん、命を賭ける必要があったわ。
だから急所には防御魔法を重ねていたし、クラウス経由で手に入れた強力な傷薬も隠し持っていた。
でも、あなたはきっと私を助けると信じてた。
瀕死の人間を前にして、見捨てられる子じゃないもの。
『聖銀のレガリア』では、通常の治癒や状態異常回復と違って、“瀕死からの蘇生級治癒”には莫大なMPを消費する。
だから、もしあなたが本当に聖女級の力を持っていたなら――あの場で、魔力を使い切る。
逆に、もし発動できなければ、その時点で、“聖女候補として致命的”だった。
どちらに転んでも、あなたは終わる。
奇跡を起こしても証明できない。
起こせなければ無能の烙印を押される。
どちらも同じことだった。
元々、周囲はあなたを疑い始めていた。
光魔法の不安定さ。聖女らしくない言動。
そこに追い打ちをかけた、魔物襲撃時の“ミレイアだけが不自然に無傷だった”という事実。
そんな状態で審問を重ねれば、追い詰められるのは目に見えていた。
……でも。
未来予知の話を、自分から口にした時は少し驚いたわ。
だってその時には、もう準備を終えていたんだもの。
アルヴェルト家の便箋と筆跡の練習紙。
全部、あなたの部屋へ置いてあった。
あなたがゲーム知識をメモしていることも知っていたから、カイルの件と結びつけるのは、簡単だった。
そうしたら、あなた、自分から言うんだもの。
『未来のことが分かる』って。
ふふ……もしかしたら、本当に特別な力を持っているのかもしれないわね。
でもね。
……少しだけ。
ほんの少しだけ、可哀想だとは思っているの。
私は左手をじっと見つめる。
ミレイアが光魔法を発動させたとき、必死で握っていた温もりを思い出した。
◇
私はワインをもう一口、静かに飲み干した。
――さあ。
あと一人。
レオンハルト・フォン・ヴァルディア。
国民から絶大な支持を集める、完璧な王太子様。
私はグラスをそっとテーブルに置く。
手の中の熱が、少しだけ落ち着いていった。
私は、エドガーたちのせいで家に居場所がなかった。
カイルの正義に傷つけられ。
ユリウスの悪意に踏みにじられ。
ずっと、息苦しかった。
……でも、それだけじゃない。
もし、お母様が生きていてくれたなら。
きっと、こんな人生にはならなかった。
優しくて、誰からも愛される。
私の大好きだった人。
お母様がいてくれたなら、エドガー親子に家を好き勝手にはさせなかった。
カイルやユリウスからも、きっと守ってくれた。
……でも。
それを奪ったのは、あなたよ。レオンハルト。
あなたが、お母様を追い詰めた。
あなたが、お母様を殺した。
だから、許さない。
絶対に。
待っていなさい、レオンハルト。
――次は、あなたの番よ。
次回からいよいよ最終章、レオンハルト編です!
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