第57話 悪役令嬢の独白④
ユリウスへの復讐を始めようとしたとき、予想外のことが起きた。
――ミレイア。
彼女もまた、転生者だったのだ。
本来の予定では、私はユリウスの心の奥底にある、“自信のなさ”を利用するつもりだった。
未来の知識を使って成功体験を積ませる。
少しずつ自己評価を引き上げる。
そうして、過剰な自信を植え付けたところで崩す。
カイルの時と、同じように。
でも、ミレイアの存在によって、その未来知識は思うように使えなくなった。
ゲームの知識を持つ、もう一人の存在。
それだけで、不確定要素が増える。
……厄介だった。
それでも結果として、彼女は役に立った。
ミレイアがユリウスと距離を縮めたことで、彼は私たちの輪の中に“居場所”を感じるようになった。
だから私は、その執着を育てた。
わざと彼の知らない話題を、彼の前で話す。
ミレイアと二人きりになる時間を作る。
そうして少しずつ、“自分だけが入れない”と思わせていった。
ユリウスは元々、そういった対人関係の不安に弱い。
孤立を極端に恐れるタイプだった。
そして、孤独感からくる執着の矛先が私へ向き始めた時点で、誘導は完成していた。
私は彼の不安を煽り、告白をさせた上で、完膚なきまでに拒絶した。
その後で、クラウスの薬を渡した。
あの薬は、『聖銀のレガリア』にも存在していたものだ。
ストレス値を軽減する代わりに、能力値を鈍らせる薬。
この世界では精神を安定させる一方で、判断力や魔力制御に悪影響を及ぼす。副作用込みの危険な薬。
ミレイアは、この薬の存在を知っていたはずだった。
ゲーム知識としても、魔法科生徒の知識としても。
でも彼女の性格ならあまり重苦しい注意はしないだろうと思い、薬を託した。
……結果は、想定通り。
ミレイアが、あっさり私の名前を出したのは予想外だった。
でも、それを知った時のユリウスの顔を見て、成功を確信した。
元々ユリウスがあの薬を飲むかどうかは賭けだった。
飲まなくとも、いずれ酒や女で失態を犯すだろうとは思っていた。
それでも、彼をさらに失墜させるために用意したのだ。
私の賭けはミレイアの後押しもあり成功し、ユリウスはさらに不安定になった。
薬へ依存し、勝手に壊れていった。
◇
ユリウスには、元々家庭の問題があった。
だから、彼の歪みは子供の頃から変わらなかった。
そして、その矛先は私へ向いた。
幼い頃から孤立していた私は、最初は優しく近づいてきたユリウスを初めての友達のように思い、心を開いてしまった。
そして……ユリウスに、“言葉にできないほど悍ましい行為”をされたのだ。
向こうは大したことだと思っていなかったのかもしれない。
せいぜい、“幼馴染との距離感を間違えた”程度。
でも私は、忘れていない。
だから、あの結界の中で再び手を伸ばされた時、昔の記憶が、一気に蘇り、本気で恐怖した。
理解できなかった。どうして、一度拒絶された相手に、もう一度手を伸ばせるのか。
どうして、自分が受け入れられると、本気で思えるのか。
その感覚だけは、今でも理解できない。
◇
結局、ユリウスは最後まで変わらなかった。
欲しいものを、欲しいまま求めて。
拒絶されれば傷ついた顔をして、自分が被害者みたいな目をする。
……本当に、不快な人だった。
◇
私はワインを揺らしながら、小さく笑う。
「ふふ……」
赤い液体がグラスの中で揺れた。
夜の部屋に、炎がひとつ揺れている。その静けさが、今はちょうどよかった。
私は少し、背もたれへ体を預ける。
エドガー。
カイル。
ユリウス。
みんな、落ちていった。




