第55話 悪役令嬢の独白②
エドガーは、最初からこの家を奪うつもりだった。
野心の強さが隠しきれておらず、初めて会ったときから私を排除しようという強い意思を感じた。
養子でありながら、実質的には後継者候補。
そんな彼にとって、唯一邪魔だったのが私。
――公爵家の娘。
たとえ他家へ嫁ぐとしても、その立場は決して軽くない。
だから、エドガーとその母親であるレイナは、幼い頃から少しずつ私を孤立させていった。
隠れた嫌がらせ。
使用人への印象操作。
“リリアーナ様は気難しい”という空気作り。
私は、それに対抗しようとした。
しかしまだ子供の私はうまく対処することができず、感情的になればなるほど、彼らの印象操作がうまくいくだけだった。
向こうには味方がいて、私にはいなかった。
だから気づけば、“問題のある令嬢”にされていた。
「……本当に、立ち回りが下手だったわね」
自嘲気味に笑う。
そんな時、私は前世の記憶を思い出した。
ここが『聖銀のレガリア』の世界であることも。
そして、このままでは、エドガーがアルヴェルト家の実権を握る未来も。
全部、分かってしまった。
だから排除することにした。
もちろん、最初から”読字障害”のことは知っていた。
知っていたからこそ、わざと大量の手紙を送った。
彼に負荷がかかるように。
精神的に追い詰められるように。
なぜか自分の秘密を知らないはずの義姉が、自分の苦手な大量の文字を送りつけてくる。
しかも何が書いてあるのかもわからない。
自分への侮辱や罵倒なのか、それとも『お前の秘密を知っている』という脅しのつもりなのか。
きっと相当なプレッシャーだったでしょうね。
結果として、リネットの前で手紙を破り捨てる形になり、“拒絶された証拠”も残った。
執務をさせれば、苦戦するとは思っていた。
賢いエドガーならできなくはない。でも時間を要して、そのうち立ち行かなくなる、というのが当初の想定。
しかし予想外だったのは、レイナがエドガーの代わりに執務を行ったこと。
彼が読字障害だと知っていた私は、その字を見た瞬間に気づいた。
レイナは私の目を誤魔化すために、わざと複雑な計算過程まで作り込んでいたのでしょうね。
でも残念。私は最初からちゃんと確認するつもりなんてなかったのよ。
試しにそのまま泳がせてみたら、少しずつ数字の齟齬が出始めた。
そこでようやく、ただ業務を代行しているだけではないと気づいたの。
その後タイミング良く、リネットがエドガーのノートを提供してくれた。
まぁあれがなくとも、エドガーの筆跡を証明できるものは元々入手するつもりだったけど。
リネットのおかげで自然とお父様に耳に入れることができたのはありがたかった。
それに、”読字障害”を隠す最大の協力者である家庭教師も処分された。
そこから先は早かった。
執務の不正、レイナの横領。
父が調べ始めれば、何かしらは出てくると思っていた。
実際、執務代行だけではなく、横領まで見つかった。想定以上の成果だったわ。
どこまでが本当に悪意でどこまでが息子のためだったのかなんて、今となってはもう分からないけれど。
メイドも、家庭教師も、エドガーに加担した時点で同罪だった。
「今頃、どうしてるのかしらね」
窓の外を見る。
公爵家で問題を起こして解雇された使用人が、次の職を見つけるのは難しい。
この世界では、珍しくもない話だ。
そして最後は……
エドガー自身も感情を抑えきれず、暴発した。
あれは本当に想定外だった。
でも、暴行未遂として扱われたのは、こちらとしても都合がよかった。
咄嗟に大袈裟に倒れた自分の判断力には、少し感心する。
「……ええ」
口元が歪む。
「本当に、“想像以上”だったわ。あんな結末になるなんて、思わなかったの」




