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第24話 強くて正しい騎士見習い⑪

 翌日。

 学園内に正式な発表が出された。


 カイル・レイナード。

 無期限の拘束処分。

 騎士科からの資格停止。

 および、学園内におけるあらゆる警備・臨戦権限の全剥奪。


 そして――

 ロベルト・エインズ傷害事件の主犯として、国家騎士団による継続調査対象。


 それは、実質的な“社会的断罪”の宣告だった。

 彼の輝かしい天才騎士としての将来は、事実上、完全に閉ざされたのだ。



「……カイル」


 誰もいない自室で、思わずぽつりと声が漏れた。

 もちろん、その声が届く場所には、もう彼はいない。


 ふと見上げた廊下の窓の外は、胸が痛くなるほどにやけに明るかった。

 昨日までと全く同じ空のはずなのに、見え方がまるで違う。

 白い雲が高いところをのんびりと流れていく。どこか遠くで鳥が小さく鳴いた。何も知らない、いつも通りの残酷な朝だ。


(違う……)


 そう感じているのは、世界じゃない。

 私のほうだ。


 私の選んだ行動が、前世の知識が、物語の歯車を狂わせ、一人の人間を壊した。

 エドガーに続き、これで二人目。

 しかも今回は、公的な罪人という、二度と取り返しのつかない形で。


 幸いにも、ロベルト先生の命に別状はなかった。

 それでも、彼が心と身体に負った重傷は消えない。


 胸の奥が、少しだけ重い。

 けれど――ここで私が立ち止まるわけにはいかないのだ。

 カイルの未来を狂わせてしまっても、まだこの世界の“運命”は、私を引きずりながら続いていくのだから。



 あの凄惨な事件の後、氷薔薇学園はしばらくの間、強制的な休校措置となった。

 だが、数ヶ月もすれば、生徒たちは何事もなかったかのように、日常へと戻っていった。学園を騒がせた天才の失脚も、今や過去の出来事だ。


 被害に遭ったロベルト先生も、来週から正式に復帰できるらしい。


 ――あの人は、生きている。娘と一緒に。

 私が変えた未来の、その事実だけが、静かに王都の片隅に残っていた。



 心地よい風が吹き抜ける、昼休み。

 事件以降、さらに人の少なくなった中庭のベンチで、私は一人、静かに本を読んでいた。


 その時だった。

 視界の端に、遮るように人影が滑り込んでくる。


「リリアーナ……様」


 鈴を転がすような、どこか儚い声。

 陽光に淡い茶色の髪を揺らしながら、立っていたのは――ミレイア・ルーン。

 聖女とされる強大な光の魔力を持つ、この世界の紛れもない”正ヒロイン”だった。


 彼女は少し戸惑ったような表情でこちらを見ていた。

 その瞳は、迷っているようで、それでも絶対に引き返す気はない、強い決意のようなものが滲んでいる。


「少し……お話、よろしいですか?」


 私は本を閉じ、小さく目を細めて彼女を見つめた。


「ええ、構いませんわ。そこへお掛けになって」


 隣に腰を下ろしたミレイアは、少しの間だけ、膝の上で手をぎゅっと握りしめて黙り込んでいた。

 張り詰めた沈黙。それから、彼女は意を決したように顔を上げた。


「あの……カイルのこと、あの件があってから、ずっと気になっていて……」


 あまりにも唐突に、そして当たり前のように、彼女はカイルの名前を口にした。


(……え?)


 心臓が跳ねる。

 なぜ、この子がそんなことを言うの?


 原作ゲームならともかく、この世界で、私とミレイアはほとんど話したことがない。

 それなのに、彼女はまるで当然みたいに、私へカイルの話を切り出してきた。


 私が警戒を強め、少しだけ首を傾げた、その時――。

 彼女の小さな唇から零れ出たのは、私の想像を遥か斜め上に飛び越えたものだった。


「リリアーナ様、あなたは……」


 ミレイアは、私を真っ直ぐに見据えた。


「もしかして、私と同じ"転生者"ですか?」


 一瞬にして、中庭の空気が完全に凍りついた。


「……は?」


 あまりの衝撃に、思わず素の声が出た。

 冗談を言っているようには見えない。探りを入れているわけでもない。

 ミレイアの瞳にあるのは、絶対的な確信だった。


「私も、あなたと同じなんです」


 その一言で。

 この世界の輪郭が、わずかに歪んだ気がした。



カイル編、これにて終了です。


そして、ミレイアが動き出したことで、物語はまた少し違う顔を見せ始めます。


さすがにちょっと更新頻度を落とそうと思いますが、毎日更新は続けるので、お付き合いいただけると嬉しいです。

次章もよろしくお願いいたします。

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