表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/25

第15話 強くて正しい騎士見習い②

「……無理では?」


 自室に戻った瞬間、私は机に突っ伏した。

 カイル・レイナード。正義感の強い騎士見習い。そして――。


(私のこと、嫌いすぎじゃない?)


 あそこまで真っ向から警戒されると、さすがに少し傷つく。

 いや、原因は分かっている。記憶が戻る前の私は、かなり態度が悪かった。高圧的だったし、嫌味も言ったし、正直あまり擁護できない。


(それにしたって初手からあのテンションなの、どうなの)


 机に頬を押しつけながら唸る。すると。


「リリアーナ様」


 静かな声。リネットが完璧な所作で紅茶を置く。


「本日のカイル様とのやり取りですが」


「聞いてたの?」


「学園中が聞いておりました」


 そんな大声だったの? 恥ずかしい。


「……まあ、いつものことよ」


「それで済ませてよろしいのですか?」


 その言葉に、私は顔を上げた。


「どういう意味?」


「カイル様は影響力の強い方です。騎士科の生徒だけでなく、教師陣からの信頼も厚い。その方に公然と敵視され続けるのは、リリアーナ様の学園生活において、あまり望ましい状況ではないかと」


「うっ」


 分かっている。彼は数年後、王国の剣聖とまで呼ばれる男になる。


「……それにしても、あそこまで露骨に嫌われるかしら。昔、彼が泥まみれで訓練しているのを『野良犬のようだわ』って笑ったことくらいしか心当たりがないのだけれど」


「十分すぎるほど致命的でございます、リリアーナ様」


「うっ……。やっぱり、過去の私を擁護するのは無理があるわね」


 正論。あまりに正論すぎて胃が痛い。


「つまり……こんな状況でも仲良くしろと」


「少なくとも、無用な敵対は避けるべきかと存じます」


(それができたら苦労してないのよ。カイルは私を見ただけで『抜剣一歩前』みたいな顔するんだから)


 だが、実際問題、カイルとの関係改善は必要だった。なにせ彼は、妙に目立つ。良くも悪くも周囲を巻き込むタイプだ。敵に回すと、非常に厄介だ。


「……でも」


 私は少し考える。カイルの性質を。


「カイルって、“良いことをした実績”には弱そうよね。正義を成して、誰かに喜ばれると嬉しくなっちゃうタイプというか」


「弱い、ですか?」


 リネットが微妙な顔をした。


「何か策がおありで?」


「まあ、ちょっと」


 私は曖昧に笑う。

 ふと思い出すのは、ゲーム序盤のシナリオだ。学園ではこの時期、小さな事件がいくつも起きていた。盗難騒ぎ、魔物侵入、不正試験……。そういう“イベント”をヒロインが解決していく構成だった。


 前半は学園恋愛シミュレーションとしてパラメータを上げながら攻略対象と交流し、問題を解決していく。後半になると急にRPG風になり、攻略対象たちと共に人類滅亡を防ぐ旅に出る。


(今思うと、だいぶ情緒不安定なゲームだったわね)


 小さく息を吐く。

 私はゲームの未来を知っている。それはつまり、“問題が起きる場所”を知っているということだ。


 なら、カイルがそれを「自力で解決できた」形になるよう誘導すればいい。彼は時間を解決して感謝され、評価も上がる。


(そして、その陰で私が動いていたとなれば、彼からの印象も多少は改善されるのでは?)


 ……完璧では?


「……リリアーナ様」


「なに?」


「その顔をしている時、だいたいろくなことになりません」


「失礼ね」


「経験則でございます。主の企みは、常に斜め上の結末を呼び寄せますから」


 否定できないのが辛いところだ。


「今回は大丈夫よ。ちゃんと、人助けだもの」


 私は立ち上がる。そう、誰が解決するかを変えるだけ。事件そのものは解決するのだから、誰も困らないはずだ。


「仲良くなりましょう、カイル」


 小さく呟く。


 その瞬間、窓の外で鳥たちが一斉に飛び立った。


 なぜか少し、不吉な予感がしたけれど。

 私はあえて、気づかないふりをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ