表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢にされる予定でしたが、先に舞台から降ります。【450万PV感謝】  作者: 星渡リン
第3部 第2章 地方へ届く押しつけ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/74

第68話 届いていたのは命令だけじゃない

 夜の執務室には、まだ昼の会合の手垢が残っていた。


 机の上に広げられた紙は三つの山になっている。

 王都から届いた照会文。

 イレーネが実費へ落とし直した帳簿。

 それから、フィオナの紹介文案と会合記録。


 セレフィーナは、その山を少しずつ寄せた。


 上等な紙の下へ、荒い筆跡の帳簿を差し込む。

 重ねた瞬間、ぞっとするほどよく似ていた。


 片方には「親善」と書いてある。

 もう片方には「実費」と書いてある。

 けれどどちらも、同じ家を疲れさせ、同じ子を前へ押し出し、同じ子を後ろへ沈めるために並べられている。


 ノアが一枚、紙をめくる。


 乾いた音だけが、耳障りに残った。


「フィオナ様の筆跡、やっぱり震えています」

 ミレイアが、紹介文案を灯りへかざした。

「ここの“よ”と“ろ”、滲んでいます。急いで書いたんじゃありません」

 紙を少し伏せる。

「笑って返事をしながら、手を止められなかったんです」


 それで十分だった。


 “向いている”だの、“似合う”だの、綺麗な言葉を並べ直す必要はない。

 この紙自体が、もう悲鳴の代わりをしていた。


 ルシアンは、王都側の公印が押された照会文を見たまま黙っている。

 まるで指が汚れるのを恐れるみたいに触れずにいたが、次の瞬間、紙の端がわずかに潰れた。握るつもりのなかった手に、勝手に力が入ったのだろう。


 ノアが、その照会文を横へずらした。


 下から現れたのは、会合用の予算案。

 中央欄の一つに、綺麗な空白があった。


 管理統括費


 ノアは何も説明しなかった。

 ただ、そこを指先でゆっくりなぞった。


 それだけで十分だった。


 ああ、そう。

 ここを最初から空けておいたのね。


 セレフィーナは心の中で笑った。

 橋の上で毒が混ざるのではない。最初から、毒を混ぜてから送り出している。そのうえ包装紙には“親善”と書いてある。なんて丁寧な暴力だろう。


 イレーネの帳簿。

 フィオナの震えた文字。

 会合で飛ばされた発言。

 「親善向きではない」という所見。

 「象徴役として期待」と書かれた別の家の名。


 ばらばらに散っていた悪意の欠片が、一枚の机の上で、逃げ場のない包囲網として繋がっていく。


 セレフィーナは、会合記録の上へ指を置いた。


「届いていたのは命令だけじゃない」

 声は低かった。

「誰が従順で、誰が感じが悪くて、誰が前へ出るべきかまで、一緒に運ばれていたのね」


 ミレイアが、ゆっくり顔を上げる。

 ノアは頷かない。

 その代わり、さっきの空欄へもう一度指を置いた。そこが急所だと、黙って告げるみたいに。


 ルシアンはまだ何も言わない。

 ただ、公印の押された紙と、空欄の予算案を交互に見た。王都では整って見えたものが、こちらでは人を黙らせる縄になる。その現実が、ようやく喉元まで来ている顔だった。


 セレフィーナは赤のインク壺を引き寄せた。


「綺麗な顔で来るなら、綺麗なまま返す必要もないわね」


 ペン先を沈める。

 赤が、先端に重たく溜まった。


 そして空欄の上へ、ためらいなく叩きつける。


 中央指示に基づく追加照会、差戻し対応、王都式転記その他「確認」の名で新設された補助業務一式は、地方善意協力ではなく中央管理業務と見なす。よって当該確認人員、再照会対応人員、名簿整合作業人員を中央側で計上し、王都責任部署にて一括処理すること。


 赤い字が、空欄をひどく醜く埋めた。


 ノアが口元だけで笑う。


「それ、嫌がられますよ」

「ええ」

 セレフィーナはペンを置かない。

「だってこれ、王都の帳場が自分で全部やるって意味だもの」

 もう一行、末尾へ書き足す。

 地方側へ未計上のまま負担配分しないこと。


 ミレイアが小さく息を吸った。

 ルシアンも、その赤字から目を離せない。


「透明性を保ちたいのでしょう?」

 セレフィーナは淡々と言う。

「なら、自分たちの机で最後まで透かしてもらいましょうか。地方にだけ夜更かしさせるのは、もう終わりよ」


 書き終えた紙を、インクが乾く前にノアへ放る。


 赤は鮮やかだった。

 宣戦布告にはちょうどいい色だ。


「……『改善』ですって?」

 セレフィーナは薄く笑った。

「なら次は、王都の補佐役にでも聞いてみましょうか。これを、あなた方が自分で処理なさるんですよね、と」

第3部第2章「地方へ届く押しつけ」までお読みいただき、ありがとうございます。


この章では、王都での“改善”が、そのまま地方の救いにはならず、

費用や手間、そして空気の圧として別の形で届いてしまう様子を書きました。


イレーネとフィオナ、二人の危うさも少しずつはっきりしてきたかと思います。

そしてセレフィーナも、王都の中だけではなく、橋を渡る途中で押しつけに変わる仕組みそのものを見なければならない段階へ進みました。


次章は「親善という名の序列」です。

表向きは穏やかなまま進む“配役”のいやらしさを、さらに描いていけたらと思います。


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

続きもお付き合いいただけましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
書きたい事、伝えたい事。作者さんのその思いが空回りしている気がします。 同じような文章のループに気付いていますか? 丁寧だけど、しつこい。それはもう分かってるから、次の展開にいってほしい。 そもそも、…
セレフィーナ編が1番読み応えがあった。 以降は似たような言い回しの話が延々と続く。 断罪系の話を引き延ばすとこうなるのか…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ