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悪役令嬢にされる予定でしたが、先に舞台から降ります。【450万PV感謝】  作者: 星渡リン
第2部 第6章 悪役のいない舞台へ

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第59話 悪役のいない舞台

 場は、まだきしんでいた。


 さっきのやり取りで流れは止まった。だが、神殿側の補佐も、学園側の年長者たちも、止まったまま引き下がる顔をしていない。口を閉じているだけだ。腹の中では、まだ誰か一人を差し出して終わらせる算段を捨てていない。


 進行役の額に、薄く汗が浮いている。

 記録係のペン先だけがやけに落ち着いていて、その冷たさがかえって場を刺していた。


「失礼ながら」


 学園側の年長者が、咳払いをひとつ挟んで口を開く。

 穏やかな声だった。こういう声で面倒を人に押しつけてきたのだろうと、すぐわかる声だ。


「このまま進めるとして、では誰が責任を取るのですかな」


 その瞬間、誰かが息を呑んだ。


 来た。

 最後はそこへ戻すつもりなのだ。

 誰のせいで止まったのか。誰が空気を悪くしたのか。誰が退けば丸く収まるのか。

 その一枚を場の中央へ置きたい。どうしても。


「記録も確認も結構」

 年長者は続けた。

「ですが、実際に滞りが生じたのも事実でしょう。誰かが場を乱し、誰かが過度に身構えた。その責任まで曖昧にしたまま進めるのですか」


 神殿側の年長者も、すぐに言葉を重ねる。


「穏やかに収まらぬなら、どこかで線を引くべきでしょうな」

 唇の端だけで笑う。

「綻びが人にあったのなら、人へ返すのが道理ではありませんかな」


 耳の奥で、細い耳鳴りが鳴った。


 ああ、本当にそれしかないのね。

 綺麗な笑顔のまま、最後には誰かの首へ札をかける。それで終わった気になりたいのだ。


 セレフィーナは立ち上がった。


 椅子が床を擦る音が、ひどく乾いて響く。

 視線が集まる。

 今日はその重さがむしろ心地よかった。向けられることに意味がある。逸らされる方がつまらない。


「責任?」

 彼女は軽く首を傾けた。

「そんなに誰かに背負わせたいのなら、この不備だらけの進行をここまで放っておいた人間を、一人ずつ呼んできて並べましょうか」


 年長者の顔から、わずかに色が引く。


 セレフィーナはそのまま畳みかけた。


「確認手順を曖昧にしてきたのは誰ですの。本人の意思より“自然な流れ”を優先してきたのは誰ですの。“場のため”という便利な言葉で役をずらせるままにしていたのは、どなた?」

 声は低い。

「今ここで必要なのは、犯人探しではありません」

 記録机へ顎を向ける。

「そのガタついた手順を修正することよ。記録係。今の滞り、手順上の欠陥として残して」


「はい」

 記録係の返事は短かった。


 ペンが走る。

 紙を削る音が、やけに攻撃的に響く。

 神殿側の男が、苦虫を噛み潰したように口を閉ざした。


「個人へ返す?」

 セレフィーナは笑わないまま言う。

「便利ですものね。誰か一人に持たせれば、あとは皆さん綺麗な顔のままで済む」


 学園側の年長者が、そこでようやく声を硬くした。


「しかし、実際に滞ったのは事実でしょう」

「ええ」

 セレフィーナは即答する。

「だから今、記録しているんです」

 一歩だけ前へ出る。

「気に入らない人間を決めるためではなく、どこが詰まり、何を塞げば次に同じ綻びが出ないかを見るために」


 何人かが反論しかけた。

 けれど、そこで続かなかった。

 喉元まで出た言葉を、皆きれいに飲み込んでいた。


 その沈みかけた場を、今度はミレイアが踏み割った。


 床板が小さく鳴る。

 一歩。

 その目に宿っているのは、もう以前の怯えではなかった。


「私からも申し上げます」


 声は細い。だが、逃げない。

 婦人たちの方へ、まっすぐ向ける。


「先ほどから、“皆のために”“場のために”と何度もおっしゃっていますね」

 一拍置く。

「もう、それを優しさみたいに言わないでください」


 婦人の目が、わずかに見開いた。


「選ぶ権利を奪っておいて、どの口でそれを気づかいと呼ぶんですか」

 ミレイアの声は震えない。

「前へ出ることも、引くことも、自分で決められないなら、それはただの押しつけです」

 さらに踏み込む。

「私たちは今日、勝手に決められるためにここへ来たのではありません」


 リリアが、その言葉を聞いて顔を上げた。

 袖を掴む指はまだ強張っている。だが、瞳はもう逃げていない。


 神殿側の婦人が、困ったように微笑んだ。


「誤解なさらないで。わたくしたちはただ」

「誤解ではありません」

 ミレイアはきっぱり遮る。

「記録にも残っています」

 視線を逸らさない。

「“場のため”という言葉で、誰に何を譲らせようとしたのか。そこまで残るんです」


 婦人の笑みが、そこで止まった。

 横で記録係のペンがまた走る。

 乾いた筆圧の音が、容赦なく会場へ刻まれていく。


 その時、王家側の席でルシアンが立ち上がった。


 視線が集まる。

 年長者たちは、今度こそ“うまくまとめる”言葉を期待したのかもしれない。

 都合のいい曖昧さで蓋をする、いつものやり方を。


 だが、ルシアンの顔にはもう、その逃げ腰がなかった。


「本件は」

 声がよく通る。

「個人の責として処理しない」

 短く切る。

「本日の滞りは進行上の記録事項だ。責任の押しつけで収束させるな」

 進行役を見た。

「予定された手順に従って続行せよ。必要な修正は、記録に基づいて後刻検討する」


 余計な飾りは一つもない。

 だからこそ、逆らいにくい。


 王子が、“新しい形のまま進める”とここで言った。

 その一言で、場の骨がごり、と鳴って向きを変えた気がした。


 進行役が深く一礼する。


「承知いたしました」


 再開された進行は、やはり不格好だった。


 間が空く。

 紙をめくる音が二度重なる。

 確認の言葉も少しつかえる。

 誰かを悪者にして黙らせれば、もっと早く終わっただろう。もっと見た目もよく整っただろう。


 それでも、今日はその安っぽい綺麗さのために誰かを沈めない。


 エステルは紙を持ったまま残る。

 指の節はまだ白い。だが、その手はもう自分から書類を置くためには動かない。

 リリアも残る。前へ押し出される役としてではなく、自分の返答を持つ人間としてそこに立つ。

 ミレイアは二人の近くで、もう誰の都合でも黙らない目をしていた。


 神殿側の男の眉間には皺が寄り、学園側の婦人は笑顔のまま扇の骨をきつく押している。

 実にいい気味だった。


 するすると滑らない。

 ひっかかる。

 時間もかかる。

 それでも、誰か一人が泣いて終わるより、よほどまともだ。


 セレフィーナはその進行を見ていた。


 少し手間がかかる。

 少し見苦しい。

 でも、そんなことはどうでもいい。


 あの連中の“上品な笑顔”が、少しずつぐしゃぐしゃに崩れていく。

 その様子を真正面から眺められるのだから。


 最高に趣味の悪い舞台だわ、とセレフィーナは思った。


 でもその方が、ずっとましだった。

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― 新着の感想 ―
AI使って小説書いてるのでは? ぐるぐる同じこと繰り返してる。
ずっともやもやしてたんですけどやっと理由が分かりました。 2部に入ってから第三者というか傍観者という名のモブの気配が全然感じられないんですよね。 「公開」確認会を銘打っているのに観覧者の反応が全く入ら…
読んだけど同じ描写がコピペみたいに連続して展開が進まないのが気持ち悪いな。一気に読めば読むほどコピペに見える。 そのわりに作者は後書きで「こう書きたかった。こういうことです」って、じゃあそれを入れ込ん…
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