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蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~  作者: 穀潰之熊
第四部 東国地方

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137 天下分け目の戦い 12日朝「BATTLE of ASHIHARA」

央暦1970年4月12日

葦原海 USSタナト・ク・マランス

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 この日の空は荒れ模様であった。

 しかし、かといってこれ以上世博スタッフをこの地に縛り付けるのは危険だ。


 撤退は予定通り、この日も決行が決まった。


「……まったく。随分とメンツが減ったな」


 小さな作戦室を見渡した合衆国海軍の作戦参謀は呟いた。

 昨日の夕方に発生した空戦で、空母タナトの戦闘機部隊はほとんどが損耗していた。

 残っているのはジャンをはじめとしたPF-8ヨダ(Yoddha)戦闘機が、わずか3機ばかり。


 戦闘が終息した後、空母タナトの救難ヘリが現場へ向かったが、ほとんどが葦原政府の救難隊に回収されたあとだったらしい。

 彼らが母国に帰れるかは、政治サイドの問題になってくる。


「戦いになった以上、こうなることはあり得る」


「……そうだな」


 ハリー中佐の言葉に、参謀は頷くしかなかった。

 改めて、呼吸を整えると彼は続けた。


「諸君もご存じの通り、本日は荒天ながら撤退作戦は継続される」


 ホワイトボードに葦原海の地図を貼り付け、合衆国海軍の艦隊や葦原にある主要空軍基地及び軍港の位置がマークされる。

 政府側支配圏の基地は、非常に多い。


「事前に排除するのが最良だったのだが、その手は使えなくなった」


「え?」


 作戦参謀の言葉に、思わず良介は声を漏らした。

 昨日の夕方の戦闘は、合衆国軍が政府軍体制支持派の部隊に突っかかったのが原因だという。

 死人が出たとはいえ、いきなり基地に攻撃を仕掛ける口実としては弱い。


 予定では、使えるアテがあったというのだろうか?


「……昨日の、昼間の戦闘では民間機に犠牲が出る計算だった」


「中佐、それは……!」


 良介が抱いた疑問を察したのだろう。

 ハリー中佐は静かに補足した。


 民間機狙いの攻撃を仕掛ける勢力が相手なのだ、犠牲が出る覚悟は必要だろう。

 しかし───参謀の発言と組み合わさると、最悪の計画が浮かび上がる。


「お前ら、民間機犠牲にして介入の口実にするつもりだったのか⁈」


「そうだ……そして、志村二尉。君が台無しにしてくれた」


 肯定の言葉で、海軍連中はうろたえた。

 現場で飛ぶ人間にはそこまでの情報を与えていなかったのだろう。


「民間機の編隊の先頭と最後尾を飛んでいたのは、我々合衆国の機体だ。

血を流すとしたら、まず合衆国(われわれ)になる。これは最低限の配慮だ」


「だったらなんだ、最後尾にはエラも乗ってたんだぞ!

よくもまあファン名乗れたな!」


 落ち着け、良介。

 言ったところでお前に得は一切ない。


 相手は、そういう人間だ。

 国益のためなら崇拝する女の子も売れる、そういうタイプなのだ。


「……あの方にはお見通しだったんだろう。

だから、予定を変えてあのような真似をしたんだ」


 エラは合衆国の誕生から今を知っている生き字引だ。

 後ろ暗いやり口なぞ、お見通しだろう。


「それで、次はどうするんだ?

今度こそ開戦事由を作り出すのか?」


「君が全部阻止してくれるんだろう?

だからなしだ。向かって来る敵だけを叩く」


 つまり、流動的な状況に臨機応変に行動するしかない。

 作戦などあってないようなものである。


「チェイス。君にはガルーダを1機用意したが、ガルーダは攻撃機だ。

念のため自衛用の装備は搭載しているが……

空戦は推奨出来ない事を、改めて確認しておく」


 作戦参謀は良介を見て言った。

 なぜ言われたのかは、指摘されるまでもないだろう?


「もちろん。わかってるよ」


 さすがのお前でも、攻撃機で空戦をするほどではないだろう。

 少し前に、ガルーダで空戦をしていた気もするが。


───俺だって、好き好んでやったりしないよ。


 だといいのだが。


「よし。では1時間後、諸君は哨戒のため発艦。

適宜、民間機及び貨客船の撤退を……」


「参謀! 緊急事態です!」


 その時、海軍の伝令が作戦室に飛び込んできた。

 どうやら、トラブル発生のようだ。


「どうした!」


「哨戒機から通達! 筑紫から当海域へ移動する艦隊を捕捉!

攻撃を受けたとの事! 葦原政府海軍と思われます!」


「葦原政府からの通達は?」


「ありません! 反乱軍の可能性大との事!」


 作戦参謀とハリー中佐は、改めて搭乗員たちと向かい合った。


「聞いての通りだ。総員緊急出撃!

敵艦隊を迎撃し、必要ならば撃沈せよ!」


了解(アイサー)!」


 バトルホークスと空母タナト艦載機部隊の面々が駆けだし、作戦室から飛び出していく。

 良介もそれに続こうとすると、伝令がもうひとり。


「蒼穹の魔王?」


 お前に用事があるようだ。

 抱えている電話機からして、無視しない方が良さそうだぞ?


「俺をなんだと思ってるんだ……なに?」


「電話だ」


「相手は?」


「……」


 睨まれてしまった。

 状況からして、相手は明らかなのだが。


 良介は微笑みで感謝を伝えると、歩きながら電話機を耳に当てた。


「もしもし、どなた?」


「死人」


 エラ・アーロンである。

 昨日、良介が自覚抜きに助けていた合衆国の英雄。

 そして、F-2の救世主でもあった。


 それにしても、シャレにならない冗談である。

 昨日良介が一歩間違えれば、彼女は本当に死人になっていたのだから。


「冗談は、笑えるから許される嘘なんだぜ?」


「傷心の乙女に鶏の真似か? なんて聞く男が言える言葉じゃないね」


 ド正論である。

 この話題では劣勢になるばかりだと見た良介は、話題を変えることにした。


「怪我はなかった?」


「お陰様で。お茶をしばきながらフライトを楽しめたよ……

あなたが死に掛けた、なんて話を聞くまではね」


 F-2の主翼でミサイルを金槌の如くぶっ叩き、撃墜したのだ。

 自分で考えていても意味が分からないが、他に手段がなかったのだから仕方がない。


「……君みたいな人間は普通、早死にする。でも、あなたはなぜか死なない」


「期待してくれる女の子がいる限り、俺は死なないよ。

特に、酷い作戦に命懸けで抗議する、頑張る女の子が期待してくれるなら」


 電話口の向こうで、小さく笑う声が聞こえた。


「そうだね……でも、限度はある。

だからその手伝いをしたかったんだけど……アシハラ・ガバメントめ」


「何かあったの?」


「……昨日の夕方、合衆国の貨客船が鹵獲された話、聞いてる?」


「中破した船だろ? 保護じゃないの?」


「政府と一部反乱軍が繋がってる、っていうのは前提として。

夕方の攻撃は、あの船を鹵獲するための作戦だったの」


 これはまた、とんでもない世界の裏側を知ってしまった。

 政府が反乱軍をけしかけて、船を鹵獲するとは。


 しかし微妙に話が繋がらない。

 なぜそれが、エラが良介を助けることに繋がるのか?


 あるとするなら、船の中身にそれがあるのだろう。


「……積み荷は?」


「夷俘海峡で回収した、F-2の残骸。

それと収集したデータ」


「? ちょ、ちょっと待って……」


 良介は思わず足を止めて、眉間を揉んだ。


 F-2から収集したデータ。

 それが積まれているのは、まだわかる。

 よくないがわかる。


 F-2の残骸?

 それは一体───


「引き揚げたボスの機体(#568)……大破してたんじゃ?」


「それは嘘じゃない。大半が破損と海水の劣化で、使い物にならなかった。

それでもちゃんとした設備のもとで調査すれば、得られる情報は多いと思ったの」


日本(うち)の資産なんだけど?」


「然るべきタイミングでちゃんと返却する予定だったよ。

その時が、本当に来るならね」


 エラをはじめとした合衆国は、葦原が提示した帰還の手段を微塵も信用していない。

 実際、良介も半信半疑だが───

 だからといって、黙って持ち出していいわけではない。


「あ、あのねぇ……」


「もしあの技術をこっちでモノに出来れば、もっとすごいことが出来る。

リョースケがこんな狂った辺境で死なずに済むかもしれない」


 この様子なら、演技などではないのだろう。

 エラは純粋に良介の身を案じて、このような真似をしている。


 有り難いが───彼女はナチュラルに、日本(そこく)をないものと扱っている。

 気持ちはわからなくもないが、気に入らない。


「なあ、エラちゃん。あの機体は、俺達に残された最後の祖国なんだ。

調べたい気持ちも、俺を助けたい気持ちも、ありがたいしわかるよ。

だけど……もうちょっと、手順を踏んで欲しい」


「そうだね。その通りだ……だけど、リョースケ。

あの残骸を欲しがってたのは、合衆国(わたしたち)だけじゃない。

連邦(フェデレーション)も、実際に奪った政府(ガバメント)だってそう。

ロクに解析する技術なんてない癖に。

持て余して、機密保護のため破壊なんてされないように保護する必要があった。

葦原の諸勢力に気づかれないようにね」


 機密保護のため、F-2の残骸を破壊。

 葦原が実際にやるかというと───やるだろう。


 旧幕府、葦原連邦の主な要人は良介の味方をしてくれる。

 しかしあくまで味方、命令全てを聞いてくれるわけではない。


 合衆国や政府に持ち出される可能性が浮上すれば、破壊したに違いない。

 彼らは仲良しグループではなく、命を賭けた争いの最中にいるのだから。


 結果として、連邦も合衆国も裏をかかれ、葦原政府にパクられたのだが。


 なんにせよ、これは善意のぶつかり合いだ。

 話し合わないのは問題だが、ずっと続けても平行線でこじれるばかりだ。


「……とにかく、残ったF-2はこの空母に収容されたやつ(#565)だけだ。

今度こそ、勝手に持ち出さないでくれよ?」


「わかってる。その機体を一番うまく扱えるのは魔王、チェイスだけだ」


「だろうね……それで、収集したデータっていうのはどうなるの?」


「あれはサーバーに保存したデータ。

こっちは私の頭に全部あるから、奪われたのはコピーと言ってもいいよ」


「……昨日は、危うく両方を失うところだったわけだ」


 話している間に、良介は格納庫までやってきた。

 扉をくぐると、すぐ搭乗する予定のガルーダが視界に入った。

 主翼に日の丸、航空自衛隊の国籍標章を持つ機体だ。


「私は、リョースケならどうにかすると信じてたからね。

怖くはなかったよ」


「気を付けてくれよ。エラちゃんは、俺にとって大切な人なんだから」


 すると、格納庫にある視線を一気に集めた。

 彼らにとって、名前の後に出た言葉は聞き捨てならないものだったに違いない。

 良介は笑みを浮かべて、誤魔化しにならない誤魔化しをした。


「……わかった。きをつける」


 気の抜けた声で、エラは応答した。

 乗るべき機体が目前にあり、緊急出撃が下されている以上、お喋りできるのはこれが限界だ。


「じゃあ、俺はこれから上がるから。またね」


「うん、また……」


 通信を切ると、電話機を伝令に返却する。

 周囲の目を気にして、愛想笑いを浮かべながら。


「あ、あはは……」


「蒼穹の魔王、か……」


 伝令だけは、少しだけ態度が違った。


「なるほど。単なる優男(やさおとこ)じゃないわけだ」


「ああ。俺はいずれ、世界を征服する男だからな」


 良介、それはお前の決まり文句だが───

 魔王という異名がついてしまった今、シャレになってないのではないか?


「……」


「はっ、言うじゃないか。死ぬんじゃないぞ、魔王。

アーロン様の期待を裏切るなよ」


 伝令の彼と拳を突き合わせると、良介はガルーダのタラップを昇った。

 動かし方は昨日復習し、発艦手順のマニュアルも読破した。


 あとは、実践とイメージがどれほど違うかだ。


 コクピットに入り込むと、エンジンの始動手順を始める。

 電力とエアーの供給が行われ、電子機器が動き始めた。


「こちらペンギン1、これより発艦準備に入る」


 大空戦に続く、大海戦の舞台へ。

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