128 天下分け目の戦い 11日昼「BATTLE of ASHIHARA」
央暦1970年4月7日
葦原連邦直轄領夷俘島 斗米空軍基地
葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』
志村“Chase”良介二等空尉
「人間が考えることはどこも一緒……とは思うけどさ」
良介は目前で鎮座するその機体を見て、思わず呟いてしまった。
資料曰く、P-104の余剰推力を利用して高速飛行中の機動性を向上させる設計思想。
そしてオロールから得たデルタ翼の有用性を参考に、両立を目指したという。
その図体に反して小さな主翼はデルタ翼の先端を切り取ったような形状───いわゆるクリップトデルタ翼となっており、良介から見て現代的な戦闘機のシルエットと見えた。
エンジンは左右に並べた双発となっており、生存性を意識したものになっている。
良介がこの世界に転移した当初の夷俘島防衛戦では、新選組のオロール喪失理由の大半がひとつしかないエンジンの停止や破壊によるものだった。
一方で双発の五式打撃戦闘機は片方が損傷しても帰還した例が多かったため、この機体ではあえて生産・維持コストが増える双発を選んだのだ。
主翼が小さいのも相まって、全体的なシルエットが細長く見える。
どこかで見た───というか、良介の所属する羅宮凪基地に隣接する広報館に非常によく似た機体が展示されているのだ。
「……どー見てもT-2だろ」
厳密には単座だからF-1だな。
エースコンバットにも出て来た、アレだ。
ただし、差異は座席の数だけではない。
エア・インテーク外側には水平のカナード翼。
そして胴体下部前方には垂直カナード翼がある。
これはいわゆるT-2 CCVというやつだ。
いや、単座のT-2 CCVならば、F-1 CCVという事になるのだろうか?
どちらにせよ、ボスが見たら狂喜乱舞しそうな代物である。
「FS-1……アシハラ的な言い方をすれば一式打撃戦闘機、ということになるね」
隣で見上げていたエラが、良介の独り言を補足した。
彼女の立ち上げたロング・イラ社こそ、このFS-1のフライ・バイ・ワイヤ制御システム構築に協力した企業なのだ。
そう、この機体はT-2でもT-2 CCVでも、F-1でもない。
FS-1という、現実の戦闘機とは何ら一切関係のない機体なのだ。
「この機体にカナードがついてるのは、エラちゃんの仕業?」
彼女はカナード翼が癖であると自称していた。
どこまで深く携わっているかは知れないが───無関係ではないだろう。
「私は悩んでいる設計者に少しだけ、助言をしただけだよ。
美しさを受け入れろ、ってね」
「ガッツリ関わっているではないか」
「最終判断をしたのは彼らだよ」
お決まりの責任回避の文句だが、聞くところによると評判はいいらしい。
カナード翼がなかった頃の試作機が空戦に必要な機動性に欠けていたという評価を、良介は耳にしていた。
これは良介が知るよく似た機体と同じ評価なので、趣味100%で決まった判断ではないと評さざるを得ない。
「で、エラちゃんは何の用事でここに?」
普段なら俺に会いに来たの?
などと舐めた口を叩くのだが───
この男、相手が本気でその気だと距離を置こうとするカス野郎なので、少し日和った態度を見せているのだ。
「量産型の様子を見たくてね。
うちが関わったのはカナードと制御システムだけど、
最後まで見届けないと」
「技術屋として、必要な姿勢だな」
「本来デスクで寛いでいるはずの私がいちいち危険な現場に出るのは、
こうするためだからね」
「ああ……現場主義のおかげで、目の保養になる」
エラに視線をやると、突如彼女は良介の首に腕を回した。
「な、なに……?」
「これ全部……誰のためにやってると思う?」
耳元で、彼女はそう囁いた。
典型的なアピールという名の圧力である。
「お国のためだろ?」
「……」
「……」
しばし、沈黙がふたりの間を流れた。
「ぅおっほん! ごっほん、ごっほん! うーーーっ、ごっほん!」
その沈黙を破ったのは、非常にわざとらしい咳払いであった。
空知ゆき、良介のウィングマンである。
彼女の背後にいるオメガ隊の面々は揃って、呆れという感情を顔に貼り付けていた。
「志村殿っ、エラ・アーロン様っ! そろそろ時間ですっ」
ゆきの叱責は至極当然の正論だ。
もう間もなく、航路の安定化作戦に向けた訓練が始まるのだから。
「じゃ、リョースケ。この事はじっくりと考えておいてね。
期限を早めてくれたって、私は一向に構わないから」
どうやら、彼女の抱く感情は一過性の気まぐれではないらしい。
角度の問題で見ることは叶わなかったが、エラはゆきに何らかの視線を送ると、訓練の見学者として相応しい位置に遠ざかった。
「すげぇな……マジでこんな感じなのか」
オメガ隊の誰かが呟いた言葉に良介は視線をやると、口を開いた。
「その通り。そして俺は、空でも噂通りだぜ?」
再び、場を沈黙が支配した。
親近感を持ってもらうのは悪い話ではないが、舐められるのは問題だ。
良介は笑みを浮かべて軽く挨拶すると、オメガ隊の面々に促した。
「さ、それじゃあ始めるか」
オメガ隊、その実力を確かめるために。




