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第九話 祝賀会(1)

「わあ、アメリア様、とってもお綺麗です……!」


 鏡越しに私を見たメイドのココがうっとりした様子でため息をついた。


 ココは我が家に仕え始めてまだ一年目のメイドだ。主に来客対応や外へのお使いをやっているので、普段なら私の部屋に入ることすらないのだけれど、今日は特別。


 お父様とお母様、そして私の三人の身支度を済ませるには人手はいくらあっても足りないのだから。


 私には、アンナとココを含めた五人のメイドが割り当てられた。それぞれが朝からせっせと爪を磨いたり、顔のマッサージをしたり、髪に香油を塗ったりと大忙しだ。


 そうして髪を結い上げドレスを着るところまで済ませ、ようやく一息ついたところに放たれたのが、さっきの台詞だったのだ。


「落ち着きなさい、ココ。これからアクセサリーも選ばなきゃいけないし、化粧もしなくちゃいけないのよ?」


 まだ準備の半分が終わっただけなのにあまりにも褒めるので、なんとなく照れくさくなり嗜めるように言うと、ココはしょんぼりと肩を落とした。


「す、すみません、浮かれてしまって。アメリア様のお手伝いをするのが初めてだったので……」


 思った以上に落ち込むココを見て、慌てて言葉を継ぎ足す。


「褒めてくれたことは嬉しいのよ、ありがとう。先にそれを伝えるべきだったわね」


 私の言葉を聞いた瞬間、ココの表情はぱあっと明るくなった。そんな彼女の顔を、驚きの眼差しで見つめる。


 こんな一言でこれほどまでに喜んでくれるなんて。たった一言の感謝の言葉が、彼女だけではなく私まで嬉しくさせるなんて。


 ふと、休み前の課題提出の時のことを思い出した。アルバートに笑顔を向けられて、思わず出た周りへの感謝の言葉。


 あの時は、班全体がほんの少し私を受け入れてくれたような気がして、心の中が浮き足立つ感覚がした。


 これまでの私は、非を認めたら負けてしまうような気がして、謝罪はおろか感謝すらまともにしてこなかった。


 その結果、ありもしない罪を着せられかけたのだから、今後は少し態度を見直すべきかもしれない。


 今までの自分を変えるのは怖い。でも、少しだけでもお母様のような朗らかさを身につけることができたら。そうすれば、周りは……アルバートはもっと笑ってくれるかしら。


「この後もっとお綺麗になるのが楽しみです! アクセサリーはどれになさいますか?」


 ココの弾んだ声にはっと我に返る。


 いやだわ、夜会の支度中に何を考えているのよ。


「そうね……」


 軽く頭を振って気持ちを切り替えると、ココの抱えるジュエリーボックスに目を移す。中には、この日のために厳選したアクセサリーがいくつかセットで並んでいた。


 当日まで一つに絞らなかったのには理由がある。クラークが贈ると言っていた髪飾りが、一向に届く気配がなかったからだ。


 髪飾りがどんなデザインなのか見ないことには、アクセサリーも決まらないのよね。


 なんなら、髪飾りが届かないことも想定して全て準備はしてあるのだけど、本当にくるのかしら?


 訝しげにジュエリーボックスを睨みつけていると、部屋の扉がノックされた。


「入りなさい」


 許可を出すと静かに扉は開き、アンナが中に入ってきた。手には白い蘭の花束を抱えている。


「アンナ、それは?」


 私の問いに、アンナは花へと視線を落として答えた。


「たった今、クラーク様から届きました。こちらを髪飾りとして使っていただきたいとのことです」


「生花を?」

「えっ、素敵……!」


 私の疑問とココの感嘆はほぼ同時だった。


 アンナは後輩の無作法をぎろりと睨みつけ、次に私に向かって花を差し出した。


「いかがなさいますか? 今晩一晩は保つように処理をなさっているそうです。」


 目の前の蘭は、花びらに疵ひとつない非常に上質なものだった。


 しばらくそれを見つめた後、私は一つため息をついた。


「せっかく用意してくださったのだから、使わなければ失礼でしょう。アンナ、この花をコームにあしらうことは可能かしら?」

「もちろんです」

「じゃあお願いするわ。それからココ」


 アンナの視線に縮こまっていたココは、突然の名指しに飛び上がった。


「はっ、はい!」

「アクセサリーはパールにするから、ネックレスとイヤリングを準備して」

「かしこまりました!」


 また忙しなく動き始めたメイドたちを一瞥し、窓の外に目を向ける。


 暗くなり始めた空からは、ちらちらと細かい雪が降り始めていた。


(この季節に、蘭の花ね……)


 もやもやとした胸の内を表すように、空は灰色の雲で覆われていた。





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