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真っ白な愛を君に  作者: mia
本編
13/14

最終話 先生は今外出中です

 一気に年月が過ぎています。

 言うなれば、「3年後~」みたいな感じです。


 「暑い…」


 ノースリーブに薄いカーディガンを羽織って、シャーベットカラーのフレアパンツをはいていても汗ばむ。日焼け止めはちゃんと塗ったので紫外線防止は出来ているが、暑さはどうしようもない。

 キャンパス内を歩く未亜は、肩に掛けたショルダーバッグを揺らしながら太陽に手をかざす。赤色のパンプスをじりりと照りつける日差しに、顔をしかめる。

 するとバッグの中の携帯が震えた。スマートフォンのカバーは勿論ミイラパンダ。新しく携帯を購入することになり、機械に疎い未亜に付き添ってくれた彼が帰り道にくれたのだ。

 愛の詰まった携帯を取り出してパネルをタッチすると、メールの相手は彼からだった。

 「〈講義は終わったのか?早く来い〉って。もう、待ってるだけのくせに」

 こっちはコンクリートの上だ。

 〈今向かっています。それと冷たい飲み物が欲しいです(´A `;)〉

 一応要求を述べて送信する。

 今頃、「面倒くさいな」とか言いつつミニ冷蔵庫を開けているのだろう。

 未亜は笑みを浮かべながら、学び舎である華里大学付属高校に向かった。


 なぜ雪生さんがまだ華里大学付属高校の保健室にいるのかって?


 実は花ちゃん先生は今、華里大学の保健健康管理センターで働いているのだ。雪生さんに正規の養護教諭として辞任が下され、私はこうして頻繁に彼に会いに行っている。

 「失礼します」

 ノックの後に開いたドアから現れた未亜は保健室の中を見渡す。

 「来たのか。こっちだ」

 小埜の声がした方に行くと、ちょうどアイスティーを注いでいるところだったようだ。

 白衣の袖を中に着ている黒いシャツと一緒に捲り上げている。

 何千人もの不良をのしてきたという伝説の腕に見入っていると、小埜が気づいた。

 「なんだ。今入れてるから待ってろ」

 「あ、はい」

 ばれなくて良かった。

 二人分のコップに注ぎ終わったコップを持った小埜は、顎でミニ冷蔵庫を指す。

 「例のブツが手に入った」

 「え、嘘。あれが?」

 「ああ」

 頷いた小埜はさっさとテーブルにコップを置きにいってしまう。残された未亜は、震える手でミニ冷蔵庫の扉を開ける。

 その中にあったのは

 「雪生隊長!至急、応答願います!」

 「五月蝿い、さっさと持って来い。食うぞ」

 小埜の冷めた声にも構わず、未亜は興奮したまま箱を取り出した。

 一見何てこともないただの箱だが、未亜にとっては世界遺産のようなものだ。

 「これは、これは…ミイラパンダのキーホルダー付きチョコレートじゃないですか!」

 なかなか手に入らない商品で、ネットで予約しても3ヶ月待ちなほどだ。

 なぜ品薄なのかというと、もともとの生産量が少ないのに、英国のとある貴族が買い占めたからだそうなのだが。

 「グローバル化、侮りがたし」

 やっと手に入ったものを前にして感慨深く頷いていると

 「そんなもん買い占める奴がこの地球上にいたことに俺は驚いたけどな」

 ばさっと切り捨てる小埜をじろりと睨み、未亜は早速チョコレートのおまけの封を切る。

 手のひらの中に転がり出たのは

 「やったあ!ミイラパンダのレアバージョンだ!」

 雑魚キャラとか悪役が出てきたらどうしようかと思ったが、ミイラパンダのレアが出てきて気分が上がる。

 「俺のは…。何だ、こいつかよ」

 未亜は小埜の手の中にあるものを目にして立ち上がる。

 「あ!それミイラパンダの恋人のロリータパンダちゃんじゃないですか!私に下さい!」

 すると小埜は意地悪く笑って、キーホルダーを首にぶら下げている名札のストラップにつけてしまった。

 「あー!」

 「これは俺のだ。お前はそこにレアなやつがあるだろ」

 「ひどいひどい。雪生さんの鬼!悪魔!」

 わめく未亜に小埜は深いため息をつく。

 「お前な、もう21なんだろ。いつまで餓鬼みたいなこと言ってるんだよ」

 「ぶぅー」

 毎度お馴染みのフグになってそっぽを向いてしまった未亜の行動も、小埜から見れば可愛いだけだ。

 ブラインドがかかった窓際で椅子に腰掛けている未亜に手を伸ばすと、僅かな光を集めて左手の薬指のシルバーリングが光った。

 お揃いの指輪をはめた未亜の左手の上に重ねる。

 「お前はその意味不明な格好をした雄パンダ、俺はこの奇想天外な格好をした雌パンダ。お前は俺の彼女なんだから逆にこれでいいじゃないか。それとも、違うのか?」


 いきなり俺の彼女宣言だ。悔しいけど嬉しい


 「…ずるいよ、雪生さん。もう何も言えないじゃないですか」

 秋になれば就活も始まる。

 しばらくはこんな風に二人でゆっくりと過ごすこともできない。

 いまだに本人は似ていることを認めないミイラパンダをペンケースに装着させると、小埜は満足げに笑った。

 「よし。これから俺に会えなくて寂しい時は、こいつを代わりにしておけ」

 「じゃあ、雪生さんはそのロリータパンダちゃんを私の代わりにするんですか」

 未亜の言葉に考え込んだ小埜は、ロリータパンダちゃんと未亜を交互に見る。

 段々厳しい顔つきになって、やがて頭を振って何かを打ち消したようだ。

 「雪生さん?」

 小首を傾げた未亜を、小埜が抱き寄せる。

 「こんな奇天烈なパンダがお前に見えるか。天と地がひっくり返っても、お前の方が可愛い」

 耳元で囁かれた低い声が未亜の肩を震わせた。

 「…私だって、雪生さんの方が格好いいと思ってます」

 そう呟くと小埜の腕に力が込められる。

 「パンダと比べるな。こいつらのことはお互いの分身だということにでもしておくんだ。いいな?」

 「うん、分かった」

 「未亜」

 10歳も上の彼は甘えるように私を呼ぶ。

 「ん?」

 顔を上げて、眼鏡越しにある柔らかな瞳と見つめあう。

 「愛してる」

 彼がこう言うと、私は目を閉じなければいけない。なんでも言った後が恥ずかしいから、顔を見られたくないと言うのだ。

 素直に目を閉じると唇にあたたかいものが触れて、すき間なく重ねられた。胸の奥がざわつくような、落ち着かなくなるような気分になるのを堪えていると、口づけは更に深くなっていく。


 もう止めないと


 そっと小埜の胸を押して離れようとする。だが、まだ物足りなさそうな小埜は椅子に腰掛けたままの未亜を逃がすまいと腰に手を添える。椅子の背もたれと窓に挟まれて身動きの取れない未亜は小埜の熱情を受け止めるしかない。


 ちょっと、ここ学校


 さすがに同意できかねない事態に陥って混乱しているが、小埜は止める気配がない。

 「雪生さ…!」

 腰に添えられた大きな手が不穏な動きを見せ始め、焦った瞬間


 「失礼しまーす」


 がらりとドアが開き、1人の女子生徒が入ってきた。

 未亜は俊敏な動きで距離を取り、平静を装う。

 小埜に至ってはまだ不服そうなようだ。

 「あ、こんにちは」

 女子生徒は1つにまとめた黒髪を揺らして会釈をする。

 はっきりとした顔立ちで快活そうな雰囲気を持つ女子生徒に、未亜は懐かしい気持ちになった。

 「こんにちは」

 「何か用か」

 つっけんどんな態度で応対する小埜は、既に眼鏡を掛けている。


 相変わらずなんだから


 未亜は黙ったまま小埜の腕を叩く。

 何か言いたげにこちらを見下ろす小埜を放置して、未亜は女子生徒に微笑んだ。

 「どうしたの?怪我でもしたとか…」

 見たところ外傷は無いようだ。

 女子生徒は首を横に振る。

 「いえ、そうじゃないんです。従兄弟の圭兄ちゃんから桐原先輩への伝言を預かってきました」

 「圭兄ちゃんって、神城くんのこと?あなたもしかして、木高蓮くんの…」

 「はい。妹の蓬です」


 道理であの二人に似ていると思ったわけだ


 「そうだったの。でも、蓬ちゃんは蓮くんよりも、神城くんに似てるね」

 「姉やら弟やら従兄弟やらその妹やらと、あいつらの遺伝子は強烈だな」

 小埜の呟きに無言で肩を叩くと、今度は睨まれた。

 「よく言われます」

 気にした風でもなく陽気に笑う蓬に、未亜は尋ねる。

 「それで、神城くんからの伝言って?」

 「あ、そうでした。実は未唯の姉貴が日本に来ると連絡がありまして」

 「未唯さんが?本当に?」

 未亜の憧れの人、神城未唯は英国の伯爵と結婚し、ロンドンに定住している。

 「はい。ヴィー君を連れて来るので、ぜひ桐原先輩に会わせたいと未唯の姉貴が」

 「神城の姉はヤクザかマフィアの一味なのか?」

 「違います。話に入ってこないで下さい」

 「…あっち行ってる」

 ぞんざいに扱われて拗ねたのか、小埜は休養室に行ってしまった。


 どうせまた寝るんだろう


 未亜は蓬のコップを用意し、アイスティーを注いで渡す。

 「ありがとうございます」

 「いえいえ。でもどうして蓬ちゃんがわざわざ伝えに来てくれたの?」


 神城くんたら、メールか電話で教えてくれても良かったのに


 「圭兄ちゃんがそうしろって。今絶対保健室にいるから、気づかれないように静かに行けよって言われたんです」


 あの悪戯好きめ


 どこで技を磨いたのか、神城は恋愛に関して聡くなったように思う。

 「あ、あとミイラパンダと私にそっくりな彼氏も連れてきてね、と未唯の姉貴が」

 「え?私そんなこと、未唯さんに言ってないけど…」

 「それは圭兄ちゃんが…っとこれは言っちゃダメだった」


 大分答えが分かった


 しばらくお喋りを楽しみ、部活があるからと不敵な笑みを浮かべて保健室を去っていく蓬を、座ったまま見送った未亜は休養室に足を運ぶ。

 「雪生さん。蓬ちゃん部活に行きましたよ」

 カーテンをそっと開けて覗き込むと、丸くなって寝ている小埜がいた。

 眼鏡は無造作にベッド脇の台に置かれている。

 ベッドの端に腰掛けて小埜の艶やかな髪を撫でると、微かに瞼が動いた。


 起こしちゃまずいよね


 「私、大学に戻りますから。また連絡します。ばいばい、雪生さん」 

 声を抑えて言い、ゆっくりとベッドから降りようと足を伸ばした時――

 「わっ」

 腕が引かれて、視界が反転した。

 目に映るのは真っ白な天井。

 真横に視線を巡らせるとそこにいたはずの小埜がいない。

 いきなり目の前に白衣の袖が現れ、その先を辿ると覆い被さるような体勢の小埜が見下ろしている。

 「雪生さん、起きてたの?」

 「俺を除け者にした罰だ。お前ら二人だけで楽しくしやがって」

 「あらあら。さみしんぼな子ですね」

 可笑しそうにしている未亜に、小埜はむっとする。

 「俺を子ども扱いするな」

 「いつもの仕返しです」

 ふんっと顔を逸らした小埜が何だか可愛く見えて、未亜は手を伸ばして小埜の頬に触れた。

 「…やめろ」

 指でなぞるようにされてくすぐったかったのか、小埜がその手を掴んで真っ白なシーツに押し付けた。

 「私に触られるのは嫌ですか?」

 「そうじゃない。…我慢できなくなる」

 切なげに細められた瞳を間近で見つめていると、衣擦れの音がした。

 消毒液の匂いに混じって、微かに香る大人の香り。

 意味が無いとぶつくさ言いながらも、未亜が誕生日に贈った香水を使ってくれているのだ。


 向けられる視線も、包み込む温もりも、耳朶を打つ甘い声も、全てが愛おしい


 大切な人


 「雪生さんも未唯さんに会ってほしいな。この人が私の自慢の彼氏なんです、って堂々と言いたいの」

 今はまだ公にはできないけれど、応援してくれている人達は沢山いる。

 小埜はシーツに散らばった柔らかな髪を、指で梳きながら微笑む。

 「ああ。それから色々と聞きたいこともあるしな」

 「聞きたいことって?」

 問いかける未亜の耳元に口を近づけると、びくりと肩を強張らせた。

 文句を言いたそうな視線に、子供のあどけなさと大人の女性らしさを感じる。

 「秘密」

 「むぅ。雪生さんめ」


 どんな言葉も、仕草も、表情も、全てが愛おしいと思うのは病気だろうか

 これは不治の病だな


 心の中で苦笑いし、小埜は目を閉じて顔を寄せた。

 「…責任取れよ」

 「それはこっちの台詞です」

 そっと目を閉じた未亜は挑むように言い返す。


 分かってる


 言葉の代わりに口付けで応える。絡み合う指は、お互いの想いを映しだす。


 〈ずっと放さない〉


 愛で囲まれた鳥かごの中で寄り添う二羽の鳥。その鳥かごは大空のように広くて、彼らは自由に飛び回ることができる。

 愛する人と生きるこの世界は、とても色鮮やかだ。



 降り積もる雪のように、私達は想いを高めあう。永遠に、とは言えないけれど限られた時の中で溢れるほど捧げたい。

 穢れなく曇りなく何色にも染められて、間違ってもすれ違っても喧嘩してもまた塗り直せる――


 真っ白な愛を、君に


 fin.



 …最後の最後で、何かすいません。

 番外編とか書こうか迷っているmiaです。

 気が向いたら書くかもしれません。


 これまで読んでくださった方々、ありがとうございます。

 次回作は、あの英語教師…の予定です。


 ちなみに、サブタイトルは木高蓬の策略です。


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