第3話
クリスは、町の酒場を訪れていた。まだ昼間なので、店内は常連客が何人かいるだけだ。
「とりあえずエールをちょうだい。それと料理を適当に」
店員に酒と料理を注文する。すぐに木製のジョッキに入ったエールが運ばれてきた。それをグビグビとのどに流し込んだ。
「ぷはぁーッ! やっぱり昼から飲むお酒は格別ですわ」
さっきは父から、王子に謝りに行けなどと言われてむしゃくしゃしていたが。酒を飲むとそんな気分が薄れてきた。
「お待たせしました」
店員が料理を運んできた。皿の上には焼いた鶏肉が乗っている。美味しそうだ。
おひとり様で酒と料理を楽しんでいると、常連客と思われる酔っ払いのおじさんが絡んできた。
「おいおい。お嬢ちゃん。ここは、あんたみたいな貴族の来るところじゃないぜ。とっとと家に帰りな!」
「うるさいわね! どこで飲もうと私の勝手でしょうがッ! その臭い息を私に吐きかけるんじゃないわよ! 殺すわよ!」
「ん? よく見たら、あんた侯爵令嬢のクリス・フェアチャイルドじゃねーか?」
こんな酒場の酔っ払いにまで面が割れているとは。すっかり有名人になってしまったものだ。
「うるさいわね。それがどうしたっていうのよ!」
「性格の悪さが原因で王子から婚約破棄されたんだろ? どんだけ性格悪いんだよ! ぎゃははは!」
「何がおかしいのよ! 言っとくけど、あんたよりは性格は良い自信があるわよ! この間抜けヅラ!」
それを聞くと酔っ払いは急に怒り出した。
「何だと? 喧嘩売ってんのか? お嬢ちゃん」
「何よ! やる気? このジジイ!」
立ち上がって酔っ払いを睨みつける。店内は一触即発の状態だ。
そして、10分後……
「HEY! YO! 私、侯爵令嬢! ここに来場!」
「YO! YO! YO!」
酔っ払いのおじさんと共に熱いビートを刻む。店内の皆が手拍子して盛り上がった。
「YO! 私、ぬるま湯生まれの温室育ち! ダメそうなヤツはだいたい友達! チェケラッ!」
すっかり、酔っ払いのおじさんたちと意気投合してしまった。
「ウェーイ! じゃあ、もう1回乾杯しましょう! 今日という日は?」
「今日しかなーい! ウェーイ!」
木製のジョッキを打ち鳴らして乾杯する。グビグビとエールをのどに流し込む。
酔っ払いのおじさんは、さらに酔っ払っている。
「クリスさん。あんた最高だよ! 王子はダメだね。あんたとの婚約を破棄するなんて、見る目がない!」
「そうなのよ! そのとおりなのよ! あのバカ王子。謝れば婚約破棄を撤回してもいいだなんて、いったい何様のつもりだってのよ! そうでしょ?」
「そのとおり! 逆に王子がクリスさんに謝るべきだ! 婚約破棄してごめんなさいって!」
「そうよそうよ! そうなのよ! あいつの方が謝るべきなのよ! だいたい私は何も悪いことしてないんだから!」
焼いた鶏肉にかじりつく。肉を噛み切って咀嚼した。
「クリスさん! 俺は、あんたを応援するよ! 絶対にあんな王子なんかに謝るんじゃないぞ!」
「ありがとう! 嬉しいこと言ってくれるじゃない。あんた良い人ね。私と婚約する?」
酔っ払いのおじさんは、一瞬酔いが冷めたような顔をした。
「え? ああ。うん。それは…… そんなことより、もう1回乾杯しましょう! 今日という日は?」
「今日しかなーい! ウェーイ!」
木製のジョッキを打ち鳴らす音が店内に響いた。
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