第2話
朝食は、焼きたてのパンと温かいスープ、それと目玉焼きだ。パンにしっかりバターを塗って口にしようとした瞬間、メイドが近くに寄って来た。
「クリスお嬢様。旦那様がお呼びです」
父が呼んでいるらしい。何だろう? とりあえず答える。
「分かったわ。朝食を食べ終えたらすぐ行きます」
「いや、お嬢様。旦那様はお急ぎとのことで、すぐに行かれた方がよろしいかと」
それを聞いて、思わず大きな声を出してしまう。
「(私が)まだ食ってる途中でしょうがッ!!」
「ひっ! すみません……」
メイドは、ビクッとして後ずさった。食事の邪魔は、何人たりとも許さないのだ。
メイドが下がった後、朝食を再開する。バターを塗ったパンをかじり。温かいスープを飲み。半熟の目玉焼きを食べた。幸せだ。
父の部屋に入ると、父トーマスは机に向かって様々な書類に目を通していた。
「お呼びでしょうか? お父様」
父は、書類からこちらにジロリと視線を移した。
「遅かったな。すぐに来るように申し伝えたはずだが?」
「申し訳ありません。お父様。朝食を食べていたものですから」
「いや、何のんきに朝飯食ってるの? すぐ来いって言ったら、すぐに来るのが普通でしょ?」
父の鼻息が荒くなる。興奮させないよう落ち着いた声で話した。
「でも、お父様。朝食は大事でしょう? 健康のためにも朝ご飯はしっかり食べることにしていますの」
「いやいや、健康とかそういう話してないから! すぐ来いって言ったら、すぐ来る。そういう常識の話をしてるの! 分かるかなあ?」
「でも私のペースでは、朝起きたらまず朝ご飯にするのが……」
「お前のペースはどうでもいい! そんなマイペースだから、バーナード王子に婚約破棄されるんでしょうが!」
父は、すっかり興奮してしまった。なだめるように言った。
「まあまあ、婚約破棄されたものは今さら仕方ありませんわ。また良い縁談を見つければいいじゃない? ねえ。お父様♡」
「ねえ。お父様♡じゃねえよッ! 誰がその縁談見つけてくると思ってるんだ!?」
「チッ! すみません、お父様」
「今、親に向かって舌打ちしたね! すみませんじゃあすまないよ本当!」
「それで、お父様。結局、何の用で私を呼んだんですか?」
父は、興奮を治めるために「ハァハァ」と息を整えた。
「マイペースなやつめ。誰に似たんだか。親の顔が見てみたいよ。まったく」
いや、親はあんたですけど。心の中で突っ込む。父は話を続けた。
「昨日、私はバーナード王子に会ったのだ。土下座して謝った。すると、王子はこう言ってくださった。婚約破棄を撤回してもいいと」
「はあ……」
「その条件は、お前が王子に謝罪することだ。簡単なことだろう? 今日さっそく王宮に行って王子に謝ってくるのだ! いいな?」
「嫌でーす♡」
父は立ち上がって、バンッと机を叩いた。大きな音が部屋に響きわたる。
「クリス! これは命令だ! 王子に謝れ!」
「そんな命令聞けませんわ! だいたい私は悪いことしてないのに何で謝らないといけないの?」
「王子はお前が謝れば許すと言ってるんだ。男を立てろ! いいから謝るんだ!」
「嫌です! そんな男に謝るくらいなら死んだほうがマシよ!」
父は「はあーッ」とため息をついて椅子に座った。そして頭を抱え込む。
「マイペースで自己中心的で頑固で融通が利かない。いったい誰に似たんだか。親の顔が見たいよ、まったく」
「鏡でも持ってこさせましょうか? お父様♡」
父との話は結局、平行線のまま終わった。
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