6話 村への到着
俺たち一行は村に着いた。小さいが、ここもあのクソ女神であるエレノアの守護下にあるそうだ。未だに俄かには信じられん。
「この村で一休みしていきましょう」
マリアを先頭にして、俺たちは進んでいった。俺はとある理由により、一番後ろで荷物持ちと化していた。
数時間前のことだった。俺たちは森を抜けた後、また平原に出た。スライム娘は少しエレノアの力のせいか、居心地が悪そうにしていたが、我慢はできるようだった。
「なぁスライム。大丈夫か?」
「ええ。それより、その『スライム』って呼び方、どうにかならないのか?」
スライム娘が俺の方をジトッとした目で見てくる。名前なんて考えたこともなかった。マリアのことは「マリア」だの「マリ子」だの色々言っていたが、思い返せばかれこれ数時間は「スライム」としか呼んでいない。
「別にいいだろ。スライムで」
「良くない! そんなんじゃ他のと区別がつかないじゃないか!」
スライムは腰に手を当てて言う。
「いい? 私たちスライムは、私の姿を見ればわかるだろうけど擬態が可能なのだ。何にでもなれる。つまり、これから先に私に擬態した敵対種が出てきたらどうやって区別するんだ?」
ぐうの音も出ない。はっきりとした正論だ。
「それは……」
反論したいがするための言葉が出てこない。急にマリアが手を叩いて口を開いた。
「では、こうするのはどうでしょう? ぐだぐだ決めるのも何ですし、制限時間内に私か勇者様が決めるっていうのは」
俺か、こいつが決める。しかも制限時間内に。
「ああ、良いな。それでいこう。それならば制限時間があるなら『罰ゲーム』も決めておいた方が面白みも出るな」
何言ってんだスライム。
スライムはニヤニヤと笑いながら俺の方をじろじろ見てくる。何が悲しくて俺を見られながら罰ゲームを決められないといけないのか。
「じゃあこうしよう。罰ゲームは、村まで皆の荷物を誰かが持っていく。というのは」
スライムの提案だった。こいつ、思考が放課後の小学生か。最近の小学生でもしないだろこんなこと。
「おい、待てよ。そんなことしたら明らかに力の差があるだろ。マリ子とか見てみろよ」
抗議の声を上げる。なんとしてでも阻止しなければならない。
「大丈夫ですよ、勇者様。聖典の力もありますし。私が荷物を持つことになってもちゃんと持てますので」
俺に聖典を見せてくるマリア。そうだ。こいつにはこれがあったんだった。
「では決めましょう。制限時間は2分!」
マリアのその声で開始のゴングは鳴らされた。
勝敗はすぐに決まった。俺は荷物持ちになった。
「重い……」
よたよたと歩く。生まれたての小鹿か俺は。
「文句言わないでください。2分間しっかり考えて名前を思いついたのが私だけなんですから仕方ないでしょう」
何も言えない。
そして今に至る。
村には宿屋が一軒あり、そこに荷物を置いた。重かった。スライムは結局「ミレア」という名前になった。ミレアはスライムなので、村の中では宿屋で留守番となった。外に出るときは帽子を目深にかぶらせている。村の中にモンスターがいるとなると大変なことになるので。
「じゃあ、俺は酒場とかで情報収集に行ってくるから」
立ち上がって宿屋から出ようとする俺の肩をマリアが掴んだ。
「ちょっと待ってください」
マリアの方を鬱陶しそうに見る。
「なんだよ」
「あなた、絶対女の人に声かけるつもりですよね」
図星。
「そ、そんなことねえよ」
「では私も同行します」
まずい。こいつが来たらナンパどころじゃなくなっちまう。肩に置かれた手を振り払うように引きはがす。
「いいか。よく聞け。俺が今から行く所はお前みたいなガキが遊びで行くような場所じゃあねえんだ」
俺の圧に少し圧倒されるマリア。こいつは、この旅で大体わかったことだが、押しに弱いところがある。
「わかったなら留守番してろ」
そう言ってドアノブに手をかけた俺の肩に、またマリアの手が置かれた。
「さっきの話を聞いてなったのか?」
「聞いてました」
はっきりと言うマリア。「しかし」と続ける。
「正直言って信用できません」
時間が一瞬止まった気がした。
「これまでの言動により、今あなたを信用することはできません」
「いや、まて。まずお前、酒とか飲めないだろ」
年齢の穴を何とか突いて逃げるはずだった。マリ子はまだ18だ。酒なんて飲めるわけがない。これで逃げられると思っていた。
「勇者様、お酒を飲むために行かれるんですか?」
その言葉が、この言い争いに終止符を打った。




