7話 酒場
「じゃあとりあえず情報を色々集めるか」
頷くマリアを連れてカウンターの女に聞く。
「すみません。ちょっと、最近困ってることとかないですかね? ちょっと奥の方で話せたらなーって」
ぐっと顔を近づけて聞くと、女はすぐに顔を赤らめて「でも……」と口ごもった。
「ちょっと、早速ナンパしてるじゃないですか!」
チッ、ガキが。
マリアの方に顔を近づけて小さな声で話した。
「おい、今いいところだっただろうが」
「女の人に声をかけて何が『情報収集』ですか」
「うるせえ。これが俺なりの方法なんだよ」
女の方をちらっと見ると、気まずそうに笑っていた。俺も愛想笑いをして会釈する。またマリアに向き直った。
「ほら、もう宿屋にあのスラ子と留守番してろ」
マリアはムッとして抗議するように言った。
「いえ、さっきも言ったでしょう。私はあなたのことを信用できない、と」
俺とマリアの間にバチバチと火花が走ったような気がした。そして、マリアの方からため息をついた。
「もういいです。あなたには本当に呆れました」
こいつが折れるなんてこの旅では初めてだった。
「どうぞ、あなたなりの方法で情報収集をよろしくお願いしますね」
そう言って、酒場を歩いて行った。近くにある椅子に座る。帰らないのか。確かにもう外は暗かった。
それから俺は適当に女を口説いたりしたが、勝率は五分五分と言った感じだった。気が散ったからである。暇そうに聖典を読んでいるあのガキに。
「帰らねえのかよ……めんどくせぇ」
一人ぽつりとつぶやいた時だった。一人の男がマリアの方に近づいてきた。遠くにいる俺にも分かるほど酒臭く、顔も赤かった。
「おい、なんでこんなとこに尼さんがいんだぁ?」
大きな声でマリアに向かって嘲笑うように言う。
「しかもガキじゃねえか! とっとと帰れよ。邪魔なんだよ」
マリアはというと、泣かなかった。泣く気はなかったのだ。そういう目をしていた。口を結び、キッと男と向き合っていた。しかし、目の端にたまる涙が、その恐怖を物語っていた。
「なんとか言えよ、クソガキがぁ!」
男が手を振り上げた瞬間、その体が何者かに邪魔されたように強張った。
「おい」
いつの間にか体が先に動いていた。
「!?」
マリアはいつもの間抜け面をさらしている。
「離せよ」
男が俺の方を睨んだ。涼しい顔で俺は答える。
「あいにく、女を泣かせようとするやつは、めんどくせえ女よりも嫌いなんでね」
周りの客たちが固唾を飲んで見てくるのがわかる。男はチッと舌打ちして、その場を去った。
男が去った後、マリアはへなへなと腰を抜かす。
「おい、大丈夫か」
マリアは、小さな声で言った。
「……怖かった」
「……」
やはり、こいつはどれだけ虚勢を張ってもまだガキには変わらないのだ。しかし、俺の中ではその評価は少しだけ変わりつつあった。
「とりあえず、立てよ」
マリアが顔を上げる。
「宿屋、帰るぞ」
「え」
驚いたようにこちらを見るマリア。
「ミレアが心配すんだろうが」
「……っはい」
俺たちが酒場をそれから去ろうとしたとき、カウンターから声がかかった。
「ねえ、あんたら、勇者だろう?」
先ほど俺が声をかけた女だった。
「村長の家に行って、話を聞いてきな。なにか、話したがってたよ」
女の言う通り、村長の家に行ってみることにした。




