4話 出発とスライム娘
始まりの村から出て数十分と言ったところだろう。勇者である俺はというと……、道の端で座り込んでいた。
「おいガキ……、次の村はまだなのか……!?」
「まだ数十分くらいしか歩いてませんよ」
呆れたようにため息をつくマリア。
「あと、ガキって言うのやめてください。私にはちゃんとマリアっていう名前があるんです」
何言ってんだこいつ。いちいち名前呼ばねえといけないのか。めんどくせえ。
だがマリアはじとっとした目でこちらを見てくる。
「はいはい。じゃあマリ子なマリ子」
「なんですかそれ!?」
適当にあしらったら顔を真っ赤にして怒ってきた。表情が本当にコロコロとよく変わる。ふと見ると、マリアも重そうな荷物を背負っていた。俺は何も言わずに手を差し出す。
「ん」
怪訝そうな顔をするマリア。
「なんですか?」
「荷物。持つ。俺が」
初めて言葉を覚えたモンスターか俺は。
もう半ば無理やり荷物を引っ掴んで背負う。そして、何事もなかったかのようにまた歩き出した。
「ちょっと、どういう風の吹き回しですか……!?」
後ろをちょこちょこついてくるマリアに、鬱陶しい気持ちを抑えながら言う。
「うるせえな。女が重そうな荷物持ってたら持ってやるもんだろ普通」
それを聞くと、マリアはまた顔を赤くした。先ほどもそうだったが、どうやらこういうことには免疫がないらしい。
俺らはさらに歩き、平原を抜け、森に入った。平原にはゲームで見るようなモンスターはほぼいず、のどかな田舎のような風景が続くばかりだった。
「おいマリ子。ほんとにここは魔王ってのから危険な目に合ってんのか? そういう風には見えねえんだけど」
俺の方を向かずにマリアは答えた。
「村の周辺はエレノア様の加護によって守られているんです。だから、危険な魔物もほとんどいません。森もなく、平原が広がっているでしょう?」
エレノア。俺をこの世界に送った張本人の顔が思い出される。魔王を倒せとは言われたが、倒した後はどうなるのかは言わなかったはずだ。不親切な奴である。まぁ、倒した後に問い詰めて聞き出せば何とかなるはずだ。多分。
「そうだな。牛とかもいたもんな」
「いませんでしたよ?」
森は、平原とは違い、薄暗く少し湿っていた。服の首元を掴み、パタパタと扇ぐ。
「湿度がすげーな」
「風通しも悪いですし、太陽の光が当たらないからですね」
そのまま先へ進んでいると、森の奥から気配がした。俺が気づくよりも先に、マリアが足を止める。
「勇者様、お下がりください!」
そう言うとマリアは、荷物から分厚い本を取り出して、何やら森の一点を見つめぶつぶつと呟き始めた。
「……天にましますエレノア様よ。迷える者に導きを、邪なる者には裁きをお与えください。今ここに、聖なる御力を行使することをお許しください……」
その後、キッと森の奥をにらみつけた。
「『母とその大地の子らよ、すべての敬虔なる者に祝福を。すべての悪しき者に制裁を』!」
本から光が放たれたと同時に、気配が消えたと思った……が。
「フフフ……」
声が聞こえた。マリアと共に森の奥へ目を凝らすと、そこにはスライムがいた。ちゃんとしたリアルなどろっとしたものである。
「スライムとか初めて見たな」
「勇者様の元居た世界にはいなかったんですか?」
スライムから目を離さずにマリアが聞いた。
「ああ。しかもファンタジーの世界の話だったし、言われてるようなイメージだと雑魚だしな」
「えっ」と驚きの声を上げるマリア。思わず俺の顔を見て言った。
「魔物は皆等しく恐ろしいものです!」
そんな話をしている間に、スライムは形を変えて、俺たちが気づいたころには人間の女のような姿になっていた。しかもナイスバディの。ある一点を見つめてしまう。
「うぉっ、デカッ」
「そこですか……」
この様子を見て、不敵にスライムが笑った。
「あら坊や。見る目があるじゃない」
「女は数えきれねえほど見てきたからな」
マリアが、なんで魔物と普通に会話してるんですかこの人、とでも言いたげな顔で俺を見ていた。
俺はスライムの頭から足元まで、ゆっくりと視線を滑らせた。髪型はショートで癖毛。スライムに毛という概念があるかはわからないが形状としてはある。体の成分は多分スライムだろう。俺はスライムに近づいた。
「勇者様!?」
マリアが止めようとする。
「止めるなよ。マリア」
後ろを振り向かずに続ける。
「こいつは、俺が仕留める」
「勇者様……!」
さて、このスライム娘をどうしてやろうか。




