68.人類最強
人類最強は誰だ――。
長年にわたり議論されてきた話題のひとつ。勇者も魔王も居ぬ時代に人々は求めた。力の頂点を。
英雄、雷神、勇者の生まれ変わり。ルキウスに授けられた異名の数々は世界中に知れ渡り、当時齢十五にして名実ともに人類最強と謳われるようになった。
彼の戦いを見たものは言う。
彼こそが紛うことなき、世界最強の騎士であると。
開幕初撃。
翳された掌から撃ち放たれた雷閃がユウの腹部を貫いた。
人外の肉体を持つユウですら、反応すら叶わぬ必中の雷。常人ならば、感電と同時に肉体が爆散し即死する超電圧である。
常人ならば。
「……ってぇなくそッ!」
ユウは耐えた。雷をモロに受けても、その意識を失うことなく、肉体への影響を最小限に抑えている。それはユウの類稀な肉体と、全身に揺らめくマナガードによる防御力が合わさり、ルキウスの初見殺しを退けた。
加えて雷撃による意識障害、体の痺れ、熱傷や細胞の破壊、これら全ての状態異常をユウの天恵が即完治。ルキウスの雷を僅か一秒未満で無効化していた。
「ははっ……やはり立ってくるか。我が雷を耐えた人間は貴様で二人目だ。もっと見せてみろ……貴様の力を」
――来るッ。
そう悟った瞬間には、既にルキウスの雷がユウの体を穿っていた。
雷の速度は秒速三十万キロに及ぶという。加えてこの命中精度。回避は疎か、目視すら不可能な速度の領域。
僅かな一瞬、痺れによってユウの動きが停止した瞬間を狙い研ぎ澄まされたのは、ルキウスの光剣である。
「マナブレイド」
雷を帯びた鋭い斬撃が飛翔する。
「……っ!」
天恵による回復が肉体を瞬時に正常へと引き戻し、間一髪でルキウスのマナブレイドを転がり避ける。
地面が爆撃でも受けたかの様に消し飛んだその瞬間、休む暇もなく無数に飛来するルキウスのマナブレイド。
「くそっ……バケモンがッ!!」
即座に対抗し撃ち出した黒剣によるマナブレイドが、ルキウスのマナブレイドと衝突し破壊的な爆発を繰り広げる。
爆風に身体が弾き飛ばされた先で体勢を立て直し、見上げたその場所。
「……っ、」
上空に浮かぶルキウスの剣から、幾重にも広がる分厚い雷が地面を這うように伸びていた。
先程までの雷撃とは明らかに蓄えられたエネルギーの規模が違う。
――まずいっ
「ラグナゾルディオ」
振り翳された刀身から放たれた巨大な雷撃が、即座にユウの全身を覆い尽くす。
咄嗟にクロスした両腕、全身に施したマナガード。しかし肉体へのダメージを受け止めるには、まるで足りない。
大地を砕き溶かしきる超火力をその一身に浴びた、ユウの意識が途切れかける。が、踏みとどまった。
身体から煙を上げながら、なんとか耐え抜いた肉体が再び正常へと回帰する。
「まさか、この一撃にも耐えうるとは」
ルキウスが少し驚いた表情を見せる。
そんな彼を、ユウは地上から睨み上げた。
――雷魔術……有り得ねえ精度だ…………。
属性魔術にはそれぞれ難易度が存在する。中でも取り分けて雷魔術は扱いが非常に難しいとされる魔術だ。全属性の中でも極めて高度なマナ操作技術と精神力を要するだけでなく、大きな溜め、高速性と不安定さ故に狙いが定まらず、練り上げたマナに対して火力減衰が起こりやすい。加えて定まらぬ狙いは自身への感電を招く危険性をも秘めている。
それをこの男は、有り得ない火力と制御力によって回避不能の必中必殺へと極めていた。
肉体の再生を終えたユウが、再び戦場を駆け抜ける。
カウンターを警戒し左右に蛇行し、敵の狙いを散らしながらルキウスに接近を試みる。
更に反撃の隙を与えない為、高速移動の最中に剣を振るいマナブレイドを連続的に撃ち放つ。
その全てをルキウスが最小限の動きで躱す。
その攻防の合間に練り上げた、ユウの左手に集約するマナが解放される。
「フレアバースト……!」
可燃性ガスの生成による大規模な爆炎がルキウスの身体を一瞬にして呑み込んだ。
――決まった……!
そう思ったのも束の間、煙の中から現れたのは白く輝く球体から現れた、未だ無傷のルキウスだった。
「神聖術――エルティシオル」
ルキウスの神聖術による球状障壁である。
「バリア……何でもありかよ!」
納得いかない顔で叫ぶユウに対し、ルキウスが僅かに笑みを零す。
「火の魔術か……即座の構築からこの威力。やはり並ではないな」
「そりゃどー、もッ!!」
再びユウのマナブレイドが連続的に宙を舞う。
そこには思考を続けるユウの計略があった。
――奴に魔術を撃つ溜めを与えさせるな。あいつの攻撃は全部やべえ。全てが死因に繋がるレベルの一撃……特にあの電撃は面倒だ。速すぎて避けらんねえし、当たれば少なからずこっちの動きが止まる。その隙を狙われれば……俺は負ける。奴は俺の近接攻撃を警戒してんのか、まだ接近してくる様子がない。このまま遠距離で押し切るつもりだろうが、そうはいくかよ……。
ユウは地上を駆けながら、剣を両手に持ち変え、自身のマナに深く集中する。
――今ならできる……やって見せる。
肉体の最大速度を維持しつつ、マナブレイドの連射を絶やさない。そして、その間に構築される魔術。
手を翳さず、イメージのみで魔術を構築する技術は高度なマナ操作と凄まじい集中力を要する。だがユウはそれを先のロンダートととの一戦でやってのけた。
ユウのイメージ通りに、徐々に上空に形成されていく圧縮された空気塊。
「……、」
突如上空に現れたマナの塊にルキウスが即座に反応する。それがユウの魔術であることをルキウスの眼は瞬時に見抜いていた。
――あの魔術は厄介だ……先の城を破壊した時ほどの規模では無いにせよ、警戒を怠る訳にはいかない。完成前に破壊……魔術構築を破綻させる。
上空に生成された空気塊に向けて、ルキウスが手を翳した。
その行動を目にしたユウが、口元を釣り上げて笑った。
ルキウスの手元が雷閃によって輝く。
その瞬間、
「……!」
ルキウスの天恵〈危機感知〉が泣き喚いた。だが既に、ルキウスの雷撃は撃ち放たれた後。止めることなど出来ない。
「――――」
雷が上空で空気塊を貫き、それを引き金に圧縮空気が暴発。真っ白な熱光が当たりを包み、巨大な爆炎が巻き起こった。
その爆発はただの空気破裂ではなかった。多量の酸素と可燃性ガスが電熱によって着火され、火炎を伴う凄まじい爆発へと変貌したのだ。
「…………」
爆炎の中から、ルキウスの姿が現れる。
その身の周囲に張られた半壊した光の障壁が、ボロボロと崩れ去っていく。
ルキウスの腕や頬には、僅かな火傷が残っていた。
「なるほど……先の風魔術とは別物…………敢えて私に迎撃させることで予測不能の一撃を完成させたのか…………やるな」
笑みを浮かべながら呟くルキウス。
その背後から、
「――ッらぁ!!」
黒剣が振り落とされる。
ガキンッ――と火花が散り、衝撃波が広がる。
音もなく背後から斬り込んだユウのマナブレイドを、ルキウスは視線も変えず背に構えた剣で受け止めた。
――こいつッ……不意打ちの俺のマナブレイドを受けやがった……!?
驚愕に顔を引き攣るユウ。
「……っ、なめん……なッ!!」
力任せに押し切った刀身が、ルキウスを地上へと弾き飛ばす。
その先で華麗に体勢を整え地に着地するルキウスが、ユウを鋭く睨む。
そして地上に戻ったユウが、それに対抗するようにルキウスを睨み返した。
すると、ルキウスがフッと小さく笑う。
「強いな……」
「あ?」
「先のドラゴンと言い、私に傷を負わせる者がこの世にいようとは。これ程の高揚はいつぶりだろうな」
「チッ……なに調子こいてんだてめぇ。楽しむ余裕なんかすぐに無くしてやるよ」
ユウが剣を構えて腰を落とす。
ユウの作戦はルキウスを地上に叩き降ろし、息もつかせぬ近接攻撃によって徹底的に畳み掛けることだった。しかしここで真っ直ぐに斬り込むには、奴はあまりに隙がない。と言うより、それを躊躇わせる言い知れぬ威圧感が奴にはある。
――くそ……なんでまたすぐに空を飛ばねんだ。何かあんのか……。
考えれば考えるほど分からない。奴からすれば、このまま空を飛んで再び雷を連射すればいい話。だがそれをしないには、何か狙いがあるとしか思えない。
だが対するルキウスも、ユウの動きに睨みを利かせながら深く思考を巡らせていた。
――奴のマナと肉体は、どうやら私すらも上回るようだ。それに奴の天恵が最も厄介だ。神聖術による回復を大きく上回る治癒力。それが私の雷を実質的に無効化している。奴を倒すには一撃で勝負を決める火力がいる……精霊術を使えば即座に決着をつけれるだろう。だが――この男には精霊術を使わず私自身の力で倒したい。
ルキウスが剣を構え、ユウを見据えた。
その恐るべき覇気と殺気に、ユウの脳から全身に向けて凄まじい緊張感が駆け巡る。
その男の力を、肌で感じる。
マナ、天恵、技量。どれをとってもまず間違いなく、過去最強の相手であると確信できる。
――くそっ、迷うな……どのみち遠距離は不利。俺に残された選択肢は――これしかねぇんだッ。
爆発的な速度で直線的に飛び込んだ。
桁違いの身体能力から放たれる嵐の様な斬撃の雨。
だが、ユウの繰り出す全ての剣撃をルキウスの魔剣が迎え撃つ。
両者共に相手を確実に屠る為、互いがその距離を選んだ。
激しくぶつかり合う高速の剣閃に空気が揺らぐ。大地がひび割れ、空間が悲鳴をあげるかのように衝撃波を撒き散らす。
――こいつッ……強えッ!俺の連打に怯まねえ。力では俺が勝ってる……はずなのにッ!
ルキウスは華麗な剣捌きでその猛攻を掻い潜り、着実にユウの動きを見切り始めていた。
ユウの頬、腕、肩、脇腹、腿、至る部位にルキウスの剣が傷を付けては消滅を繰り返す。
その剣戟の形勢が、徐々に傾き始めた。
「ふはははッ!ここまで打ち合えた相手は初めてだぞッ!!」
高揚を抑えきれず叫ぶルキウス。
ユウの剣が弾き上げられ、体勢が完璧に崩れた。
「――しまっ」
狙い打たれた至近距離でのマナブレイド。
雷を纏いし鋭いその一撃が、身を捩ったユウの左腕を弾き飛ばす。
ユウは咄嗟に後方へと飛び退き、血が吹き出す肩を抑えた。
片腕を失ったユウを見て、ルキウスは眉をひそめる。
「ここまでか…………どうやら剣技では私に」
ルキウスの口が止まる。
ユウの失われたはずの左腕は、既に完治していた。
「失った腕をこの速度で……それも無条件…………なんと凄まじい天恵……」
立ち上がったユウはルキウスを睨み付け、焦りを滲ませた。
――あの野郎……なんて分厚いマナガードだ。有り得ない出力で肉体を強化してやがる。一発まぐれで入った俺の剣が弾かれた。当然剣術も俺より遥かに上。このままじゃ接近戦ですら勝てない。
対するルキウスは、
――凄まじい膂力だな。私すらも凌駕するマナ総量と身体力……そしてあの治癒能力。だが、剣技自体は知れている。奴の底は見えた……もはや勝負はついたも同然
ルキウスの眼が映した、その男の成長と進化。
ユウの肉体を覆うマナの層が急激に増幅していく。その密度はもはやマナブラストの放出時にすら到達する出力であった。
「なるほどな……コツがわかってきたぜ」
そう呟いたユウが少しだけ笑った。
それを見たルキウスが、警戒するように腰を落とす。
風が吹く。
「――」
両者の姿が消えた。
次の瞬間には地上中央に現れ、互いの剣が力強く交わり、衝撃と強烈なマナの波動を周囲に轟かせる。
互いに一歩も譲らぬ凄まじい剣戟戦。
暴風の如く荒々しく叩き付けられるユウの剣と、水の様に全てを受け流しカウンターを狙うルキウスの剣技。
ユウの剣は未だルキウスに届かぬが、ルキウスの剣は着実にユウの肉体を削っていく。
しかし、止まらない。先程より剣の入りが悪い。強力なマナガードに阻まれ、ルキウスの誇る魔剣ヴァルキュリアですら致命傷を作れない。
ルキウスの鋭い斬撃がユウの胴体を激しく切り裂き、咄嗟にユウを後退させた。
しかしその傷もやはり、致命傷には至っていない。
――この男、見よう見まねで私のマナ強化術を……いや、更にそれ以上の出力で強化を施している。しかしこれほど膨大なマナで身を包めば、肉体が耐えられないはず。
マナ強化、或いはマナガードと呼ばれるこの技術には、強化限度が存在する。それぞれ術者本人の肉体強度、マナ耐久度を超えての強化は施せない。しかしルキウスは長年の鍛錬により肉体のマナ耐久度を強化、マナガードによる強化限度を大きく底上げすることで竜鱗すらをも凌駕する防御力を確立していた。
だが目の前に立ちはだかるユウは、何の鍛錬も耐性も無く肉体強度を超えて超高出力のマナガードを施している。その秘密は――
――奴の天恵か……。
ユウは〈超回復〉による無限に続く瞬間治癒力を持って、高圧のマナによる肉体の崩壊を相殺していた。だがそれを本人は一切自覚していない。
ユウの全身に揺らめく高圧のマナを見て、ルキウスは思う。
――あれを斬るには骨が折れそうだ……加えてあの回復力……。
ルキウスが剣を胸の前で構えた。
その雰囲気の変貌に、ユウの目付きが変わる。
「どうした。もう疲れちまったのか?」
「フッ……正直に言おう。貴様を侮っていた」
「あ?」
「楽しませてもらった礼だ。剣の極地を見せてやろう」
構えた剣から白銀色の輝きが放たれる。
その輝きはマナブレイドとは全く異質ものであると一目で理解出来る。それ程に濃密で淀みのない力の波動がこの距離でも伝わってくる。
ユウの直感が、全身の細胞に至るまでが、悲鳴をあげて拒絶していた。
なにか、とてつもない何かが来る。
「この剣を目にして生き残った者はいない」
言葉の直後、刀身に宿した白銀の輝きが増幅し、不敵に笑うルキウスが恐ろしい気迫を持って踏み込んだ。
ユウの眼前に差し迫るルキウス。
咄嗟に全身に最大出力のマナガードを施し、強化した黒剣でユウが迎え撃った。
だが、
「教えてやろう。極限まで精錬されたマナは変質し、昇華する」
「――ッ」
異質に輝くその剣閃を前に、ユウの脳裏に戦慄が走る。
「オーラブレイド」
その一太刀が、ユウの左肩から斜めに入る。
凄まじい一撃であった。その光の剣はユウの胴体を斜めに大きく切り開き、その身体を弾き飛ばす。
内臓を撒き散らしながらユウの身体がゴミのように地面を転がり、数十メートル先で勢いを止めた。
即死確定の致命傷。手応えを感じたルキウスが、魔剣に付着した血を振り払い鞘に戻した。
「剣では受けられないと判断し、咄嗟に後方へと飛んで両断を退けたか。だが心の臓を含め内蔵の殆どを斬り裂いた。私の」
有り得ない光景を目の当たりにした、ルキウスの瞳孔が開いた。
ユウは既に絶命不可避の傷の殆どを修復し、再びそこに立っていたのだ。そして恐るべきことに、その肉体のマナは未だ一切の消耗を見せていない。
「バカな……」
驚愕に顔色を変えるルキウスに対し、僅かに呼吸を乱したユウが奴の動きに睨みを利かせる。
呼吸を整えながら、漆黒の剣をキュッと強く握った。
――あの野郎……俺の剣ごと斬るつもりだった…………理屈はわからねえが、あの一撃は俺の防御や武器の強度を無視できると見て間違いない……。
勝てない。
対峙しているだけでそう思わされる、圧倒的な実力差。まるであの白竜を思い起こさせる。
「クソっ…………クソクソクソッ!!」
突然に憤慨し叫ぶユウを見て、ルキウスはその表情に少しばかり戸惑いを見せた。
ユウがルキウスの顔に向けて指先を突き出した。
「ふざっ……ふざけんなよてめぇ!!真面目に戦えッ!!」
ユウの声が戦場に木霊する。
心の底から腹立たしかった。この様な絶技がありながら、今の今まで奴は隠していたのだから。そもそも奴の電撃にユウは為す術がないのだから、遠距離からの電撃で動きを封じてしまえば済む話。
要は完全に舐められている。そうユウは悟ったのだ。
「てめぇさえいなけりゃ今頃この街諸共あいつらを皆殺しに出来たんだッ!!それを急に現れて邪魔しやがって……挙句の果てに舐めプで調子こいてんじゃねぇぞッ!!」
猛烈な怒りに駆られて叫ぶユウ。
そんな彼に対しルキウスは少しフッと笑を零したあと、口を開いた。
「私にはわからない」
「あぁ?」
「私にはわからぬのだ。人類最強などと称えられようが、その頂きの景色を私は見たことがないからだ」
「んの話だよ」
「私は、聖天の四騎士の一人とも剣を混じえたことがある。某国を焼き尽くした邪竜とも戦った。皆が私をこう称える――人類最強の騎士と」
そう語るルキウスの瞳には、どこか孤独が募っている様だった。
「だが私はこれまでどんな強者とも、どんな怪物とも、本当の意味で戦ったことなどない。この雷が、この剣が、その本領を魅せうる前に勝負はついている。始まる前に勝敗が決している戦いを、果たして戦い呼べるのか。私は未だ、なにも証明などしていない。この頂きからは……何も見えない」
ルキウスから漂う静かなる哀愁に、ユウの怒りは少しだけ紛らわされる様だった。
ルキウスの瞳がユウを射抜く。
「貴様に問いたい。貴様はその境地に辿り着いた果てに、何を見た。そこからは…………何が見えるのだ」
「は……言ってる意味がさっぱりわかんねーよ」
ふっ、とルキウスは小さく笑う。
「カーディアの剣聖とならばその答えを見い出せると思ったこともある。だが、そも同盟国の将と本気の殺し合いなど出来るはずもない話。つまるところ私は、退屈なのだな。この退屈を取り払い、自らの存在を証明したいのだろう」
その煮え切らない答えに、ユウは怒りとは別に苛立ちを覚えた。
「あのなあ、自分探しなら他でやってくれよ。生憎と俺は忙しいんだ」
「ハハッ……私としたことがつい興が乗ってしまったようだ」
再びルキウスが構える。
「貴様を侮ったことを詫びよう。なれば、これよりは全霊をもって相手をしてやる。我が名はルキウス・マルティアス・アルシュット。貴様も名乗れ」
「…………雨宮ユウだ」
「アマミヤ・ユウ……我が戦績と記憶に刻むとしよう。見せてやる、私の本気を」
その覇気にユウはゾッと背筋が凍る。もはや嫌気がさすほどだ。対峙しているだけで、先程までのあの戦いがまるで本気では無かったのだと理解させられたからだ。
「略式召喚――神の雷渦」
精霊の顕現を省略し呼び起こされた雷が、地面に留まり莫大な磁場を発生させた。その磁場の影響により、徐々に巨大な竜巻が形成されていく。
更にその竜巻は周囲に電撃を放ちながら、辺り一帯の瓦礫や大地から金属を含む物資を引き寄せ次々に巻き込んでいく。
ユウの握る漆黒の剣がカタカタと震える。力強く剣を握っていなければあっという間に持っていかれてしまうだろう。
「これは……」
風の魔術ではない。それは雷によって発生した磁力の渦。周囲の金属物や砂鉄などを含む土砂岩石を引き込み、触れたものを一瞬にして引き潰す壮絶極地の技であった。
「おい……冗談じゃねぇぞ……!」
巻き込まれればミンチは確定。広がり続ける範囲が、前方行く手のほぼ全てを遮っている。
焦りを見せたユウが、手元に強烈な空気圧縮を形成した。
――間に合うか……止められるのか……。
目の前で膨れ上がり続ける神の渦。その規模にユウの脳裏に死の文字が浮かぶ。
勝利を確信したルキウスが大手を広げて笑った。
「さらばだ勇者アマミヤ。良き戦いであった」
ルキウスの発言にユウは驚きつつも、今はそれどころではない。
「くそっ、エアキャノン……!!」
撃ち出したエアキャノンが地面で爆ぜるが、火力が足りず雷渦に呑み込まれた。
「くそ……」
ユウは竜巻から逃げるため背を向けた。
その動き出しを、
「がっ――!?」
ルキウスの雷撃が撃ち止める。
身体の痺れから地面に転がるユウ。
身体を起こし見上げたそのすぐ先に、神の渦は迫っていた。
「やば……」
ユウが死を覚悟したその時、美しきプラチナブロンドが目の前で靡いた。
ユウが目を見開く。
「アルテッ……!」
ユウの目の前に立っていたのはアルテだった。
凛とした佇まいで、両手を広げて神の渦に立ち向かう。暴風によって彼女の美しい髪が荒ぶる。
振り返った彼女の横顔が、雷光の光に当てられて淡く光る。
そして、優しく笑った。




