↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間不信の無能勇者、裏切りと地獄の最果てに  作者: 兎成
第一章 心蝕の無能勇者
63/78

62.聖光

 勇者の呼び掛けに応じ召喚されたのは、白銀に輝く片手直剣。その威光に誰もが驚愕と畏怖を示した。

 剣を握ったその瞬間、一神はその恐るべき力を肌身で感じ取った。


 ――すごい力だ…………でも、


 重い。

 どう考えても片手剣の重量ではない。それに、わかるのだ。剣が悲鳴をあげる様に、今にも暴れ出そうとしている。


 ――僕を……主として認めていない、のか……。


 一神が聖剣の扱いに手を焼いていると、目の前のクオレスが薄気味悪い笑みを浮かべていた。


「ふはははっ。それが勇者の持つ聖剣か。ようやく見せたな……ハデルッ!」


 クオレスが叫ぶと同時に、青髪の魔人ハデルが二刀の剣を構えて飛び込んだ。

 更に空間に走った亀裂から、再びワイバーンが姿を現した。


「くっ……うぉおおッ!」


 咄嗟に振るわれた聖剣、その刀身から――


「なにっ!?」


 銀色に輝く光の斬撃が予備動作もなく前方に飛翔する。

 ハデルは咄嗟の判断で斬撃を飛び避けるが、翼を広げて飛び込んだワイバーンは光の斬撃をモロに受けた。

 その巨体が容赦なく真っ二つに引き裂ける。

 その威力に魔人族二人の顔色が変わる。


「気を抜くなハデルッ!」


 叫ぶクオレスが腰の剣を引き抜き、ハデルに合わせて飛び込んだ。

 サイドに回り込むハデルと、正面から斬り込むクオレス。

 一神の反応が鈍い。肉体のダメージが大きい。


「――ッ!」


 一神は聖剣を地面へと突き立てた。

 その瞬間、光の粒子が爆発する様に溢れ出し、魔人二人の斬撃を弾き返した。


「ばかなっ!?」


 体勢が崩れたハデル。

 その眼前に既に聖剣を振りかざす一神の姿。


 ――いけるッ……勝てるッ!


 放たれた光の斬撃。

 しかし、


「――っ!?」


 唐突に現れた亜空の亀裂が斬撃を呑み込み消失させ、間一髪でハデルへの直撃を退ける。

 そして一神が驚愕した隙を、クオレスは見逃さなかった。

 クオレスの剣による斬撃が一神の胴を斬り裂いた。

 吹き出す血飛沫。吹き飛ぶ身体。されど、致命には至らなかった。一神は自身の天恵〈超直感〉によりクオレスの攻撃よりも先に危機を察知していた。完全に避け切ることは叶わなかったが、マナガードによる防衛行動が斬撃との間に滑り込んだのだ。

 しかし既に多量の出血と内蔵へのダメージを抱える一神。立ち上がろうと身体に力を入れるも、震える体が力を失い、最後にはそのまま地に伏し動かなくなった。


「ふっ……流石は伝説の聖剣。手こずらせてくれる。だがこれで――っ!?」


 言いかけたクオレスが驚いて言葉を詰まらせる。

 一度は完全に倒れた一神であったが、再びその身体を震わせ立ち上がったのだ。


「ばかな……その傷でなぜ立てる……」


 その執念と気概に、二人の魔人が僅かにたじろぐ。


「折れない…………こころ、だけは…………」


 ふらつきながら、口から血を吐きながら、一神は立ち塞がる。


「頼む……聖剣。あと一振でいい…………僕に力を貸せッ……!」


 その強き心に呼応するように、聖剣が眩く輝く。

 女神が創りし聖剣――ブレイブウィング。

 その効果は刀身から伸びる無制限の聖光。そして主に齎すは無限のマナ供給。

 それを目撃したクオレスが邪悪に笑った。


「ふはははッ!素晴らしいッ!無限の光……その力があれば……!」

「おいクオレスッ!まずいぞッ!」


 ハデルが焦った様子で叫ぶ。

 しかし聖剣に集約されたマナは、もはや止めることなど出来ない。


「みんなを……守るんだッ!」


 掲げた聖剣が振り下ろされた。

 振り抜かれた刀身から放たれる、放射状の爆発的な光が駆け抜ける。その粒子は触れた物質全てを分解し消滅させる死の閃光。

 輝きの奔流は前方直線上を駆け抜け、フェルマニス上空に眩い線を描き、消失した。

 聖剣の輝きが消え去り、抉り取られた地面から煙が上がる。

 辺りを包む煙の中、イルファはその力を前に呆気にとられていた。

 凄まじい一撃。

 しかし、その一撃で一神は力尽きたようで、膝から崩れるように倒れ伏した。

 その様子を目撃した成村は、


「一神くん……!」


 彼の名前を呼び、立ち上がる。

 その瞬間、彼女たちは背筋から恐怖を抱いた。

 煙の中から除くぼんやりとした人影。

 そこにはあの魔人二人が無傷でそこにいた。

 その光景にイルファが顔を引き攣らせる。


「そんな……あの一撃でどうやって……」


 そんな彼女をクオレスが嘲笑った。


「どんなに優れた攻撃も、当たらなければ意味を持たない。貴様ら猿共でもそれくらいわかるだろう。さあ、終わりにしよう」


 また彼の背後の空間がひび割れる。そこから這い出でる、緑色の肌を持つおぞましい怪物。その姿は岩のような鎧に身を包む巨人。角の生えた頭部、鋭くこちらを睨む四つの複眼、大きな顎からは鋸のように細かく歪な牙が剥き出しとなっている。


「こいつは……オーガ……!」


 イルファは即座に腰の剣に手を掛け、構えた。

 オーガが狂ったように咆哮をあげる。


 ――来るッ。


 イルファは自身の剣にマナを付与し、襲い来るオーガに対しマナブレイドによるカウンターを狙った。

 しかし、手元の違和感に気がついた。

 ガキンッと鋭い鋼音が鳴り、火花が飛び散る。


 ――っ、マナの出力が低下してるっ……断ち切れないッ……!


 頑強なオーガの鎧が、イルファの剣を弾き返した。

 体勢が崩れる。

 そこへ叩き込まれた、オーガの巨腕による強烈無比な殴打がイルファの左手を砕き、その身体を弾き飛ばした。

 地面に転がるイルファが、なんとか震えた足で立ち上がる。

 間一髪マナガードによって攻撃を受け切った。間に合わなければ内蔵にまでダメージが到達していただろう。


「ク……そ、」


 しかしダメージは深刻だった。震える足から力が抜け、思わず膝が落ちる。


「ふふははははっ!」


 大笑いする魔人クオレスの右手には、なんと勇者の聖剣が握られていた。


「遂に手に入れた……女神の聖剣。これさえあれば魔王の復活は目前……」


 イルファが絶望の表情を浮かべる。

 そこに差し込まれた震えた声。


「な、なんで……」


 成村だった。


「どうして……どうして、こんなことするの……」


 クオレスが退屈そうに成村を一瞥する。


「どうして、こんな酷いことばかりっ……」


 するとクオレスが怪訝な顔で言った。


「貴様は何を言っている。我らの目的を阻む者があるのなら、殺して押し通る。ただそれだけだ。貴様らもそうだろう」


 その言葉に、成村はある事実にようやく気がついた。

 言われてみれば、確かにそうだ。自分達だって、いずれは魔大陸へと進軍し魔人の国を攻め落とす予定だった。今回はたまたま魔人族が先に攻めてきただけのこと。タイミングが違えば、立場は逆だったかもしれない。

 なんの現実も見えていなかった成村に対し、クオレスは心底呆れた視線を向ける。


「ふん……この国にも少しは同情の余地があろう。まさか召喚した伝説の勇者らが、貴様らのように軟弱で、敵を殺すことも躊躇うような無能ばかりとは誰も思うまい」

「……」


 成村は何も言えなかった。


「さらばだ勇者。貴様らにもう用はない……殺せ」


 無感情な声でクオレスが告げると、空高く雄叫びを上げたオーガが成村の眼前へと向かった。

 身体中から力が抜け、膝から崩れるように尻餅を着く。

 吠えるオーガの、丸太のような巨腕が振り翳される。

 時が止まったのかと錯覚するほど、目の前の視界がゆっくりと遅延して見えた。

 あの日の悲劇。家族の顔。友達の笑顔。全部が彼女の頭の中を埋めつくした。


 ――ああ、私死ぬんだ。私だけじゃない、みんなも……愛風ちゃんも殺されちゃう……。


 そう理解しても尚、成村のすくみ上がった身体は動くことが出来なかった。


「――――」


 それは、瞬きの合間の出来事だった。

 突如として目の前に映り込んだ、なびく漆黒の外套。

 目の前に突如、現れたのだ。

 顔は見えない。背格好からおそらくは男であるとわかる。気配すらなく、マナすらも感じられない。その者が、オーガの巨腕による振り下ろしを、片腕のみで受け止めた。その反動で彼の足が地面にめり込み、続けて暴風を伴う衝撃波が周囲を突き抜けた。

 暴風で成村の前髪が跳ね上がり、されど目を奪われたように彼女の視線はその者に釘付けだった。

 信じられない。オーガの破壊的な一撃を、その男は易々と受け止めた。

 そしてその男の黒い背中に、どこか懐かしさを憶える。

 そうだ――。

 彼女はこの光景を、その背中を、以前にも見たことがあったのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。