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人間不信の無能勇者、裏切りと地獄の最果てに  作者: 兎成
第一章 心蝕の無能勇者
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58.王都防衛戦――②

 女神により古の竜を模して創られた神竜アウレリウス。その役目は祭壇に封印されし結晶を守護すること。しかし突如現れたイレギュラーにより、アウレリウスは深い傷を受けその役目を奪われた。そして奪われた役目を取り戻さんと、この大地に舞い降りたのだった。


『奴は……どこだ……』


 頭の奥に響く様な、深い声が轟く。

 上空に浮かぶ白竜が言葉を発した。誰もがその事実に驚きを隠せない。

 自身の天恵〈浮遊〉によって上空に浮かぶルキウスは、相対した神なる竜に対し高揚を抑えきれぬようだった。


「今度は喋るドラゴンとはな……戦場に赴いた甲斐がありそうだ」

『邪魔をするな…………矮小なる存在よ』


 白竜が水晶の様な青い瞳で威圧した。

 次の瞬間――。


「――ッ!?」


 ルキウスの胴が斜めに斬り裂かれた。

 更に、地上にいた騎士の半数以上が突如として悲鳴をあげ、即座にその身をバラバラの肉片へと変えた。

 斬撃を受けた上で致命を免れたのは、尋常ならざる肉体を保持するルキウスとガレオン、そしてベルザムの三名のみ。

 唐突な回避不能の初撃を受け、ルキウスは驚愕と共に目を見開いた。

 ルキウスの天恵〈炯眼〉が捉える、神竜の力。


 ――目視した対象に必中の斬撃を浴びせる能力か……。


 ルキウスの口元が釣り上がる。


「面白い……!」


 閃光の様にルキウスの姿がその場から消え去り、突如白竜の右側面に現れた。

 その速度は竜の眼光ですら捉える暇は無い。

 抜かれた魔剣ヴァルキュリアの刀身が輝く。


「マナブレイド」


 繰り出された騎士の斬撃が白竜の巨体を弾き飛ばし、弾丸の様に大地へと叩きつけた。

 地上の騎士たちから歓声が上がる。


「神聖術――ホーリーライト」


 ルキウスが剣を構えたまま澄まし顔で呟くと、眩い輝きがルキウスの肉体を包み込みその傷を完治に至らしめる。

 斬撃により深手を負ったベルザムが驚愕の表情で上空を見上げた。

 あの光は間違いなく神聖術。それもとてつもない精度だ。神聖術を行使する騎士など殆どいない。神聖術は才能が十割を占める非常に特異な術である。その才を持って生まれてくる者はごく稀で、微弱であれ神聖術が使える人間は非常に重宝される。それほど貴重な存在が、騎士としての才をも併せ持つなど天文学的な確率なのだ。

 ベルザムは無意識に拳を握り、上空に佇むルキウスを睨んだ。フェルマニアのマスターと呼ばれるベルザムが思わず嫉妬に歯を軋ませるほど、その男は全てを持ち合わせていた。


 大地に叩きつけられた白竜。

 その場からは大きな砂煙が漂う。

 煙の中、青く光る眼光が上空のルキウスを睨み付けていた。


「神聖術――エルティシオル」


 ルキウスが打ち出した、不可視の斬撃への対抗策。神聖術による光の障壁は神竜の斬撃発動より先に展開されていた。さらに自身の肉体に対し高密度のマナガードを付与してある。

 それはルキウスの誇る鉄壁の防衛体制であった。

 だが――。


「――ッ!」


 神竜の放つ斬撃は天恵〈滅殺〉により相手の状態に関わらず、その効力を与える。

 どれほど鉄壁の防御で身を固めようと、どれほど特異な耐性を持とうと、神竜の放つ攻撃がその状態に左右されることはない。


 ルキウスの口元から僅かに血が垂れる。

 白竜が白銀に輝くブレスを地上から撃ち放つ。

 しかし尚も彼は、笑った。


「はははッ!見せてくれたな……!」


 ルキウスの全身が雷光によって包まれる。

 そこから繰り出される超速の移動は、まるで黒雲に走る雷光の如く轟き、白竜のブレスを容易に回避した。


「略式召喚――迅雷」


 略式召喚は契約中の精霊の顕現を省き、その能力の一部のみを引き出す精霊術の極めて高度な技術である。

 そして略式召喚――迅雷は術者を雷の如き速度へと導く。

 再び迅雷が行使され、黒雲を蛇行する雷の様に瞬く間に白竜の足元へと移動した。


「マナブレイド」


 光の太刀が再び白竜の身体を上空へと弾き上げた。


「硬いな」


 薄ら笑みを浮かべて、ルキウスが呟く。

 飛ばされた上空にて白竜が翼を広げ、地上を睨み付ける。だが、既にその場にルキウスの姿はなかった。

 白竜が戸惑う暇もなく、上空背後から突如突き刺さる強烈な落雷。

 痺れる竜の肉体が小刻みに震える。


『なんだ……まるで動きが見えん』


 堪らず白竜は翼を広げて巨大な咆哮を叩き上げた。

 大気が震え、全方位に無数の光線が打ち出される。

 地上にいた騎士の軍勢が悲鳴をあげながら逃げ惑い、魔物の群れが次々に消し飛ばされていく。

 咄嗟にガレオンが出現させた反り返る様な巨大な大地の壁が、白竜の光線から辛うじて味方軍勢を守っていた。


「ガハハハッ!地上は任せろッ!やれルキウスゥ!!」


 ガレオンが豪快に笑う。

 それを横目に捉え、ルキウスがニヤリと笑う。


「少し遊びすぎたな」


 ルキウスが自身の魔剣を胸元に構えた。

 そして――。


「精霊召喚――焼き尽くせ……ヴォルカン」


 雷の王の完全顕現。それと同時に驚異的な速度で広がるマナゾーンが白竜だけでなく、地上に蠢く魔物の群れを瞬く間に焼き尽くした。


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