表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の名を継ぐ者  作者: 無明流一刀斎
第一章 NAMERESS WORLD
9/47

第8話 紳士には生きづらい世界

 杖で足場を確認しながら歩く。ただ歩く。ひたすら歩く。なぜ歩くのか? 勿論もちろんそれ以外にする事が無いからだ。はぁ、そもそも俺、何を目指して歩いてんのかな。


 お世辞にも歩きやすいとは言えない道無き道を、杖を突きながら彷徨さまよう俺。



 歩き始めてから果たして何時間経っただろうか。こんなとこ歩いてて、人里に辿り着けるとは思えない。大声で誰かを呼ぼうかとも思ったが、魔物がいるらしいこの世界で、えて注目を誘う気にはなれない。


 そもそも自分が何処にいるのかわからない上、目印とするものがあっても俺には見えない。つまりだ、もしかして俺は、何時間も同じところをグルグル回ってる可能性もある。


 (何か目印をつければいいじゃん、あったまわるぅ) とか思った奴、目をつぶってそれやってみろ。目印の前を華麗に素通りするから。目印なんて手探りでしか探せない者にとって、街中ならともかく大自然の中では全く意味のない行為なのである。


 じゃあ、何を目標に歩くか、勘だよ、勘。それ以外何も無い。



 つまづいて転んだところに、ちょうどいい岩があったので、腰かけて休憩する。痛いな。岩場でくと結構痛いんだよな。


 何かもう泣けてくる。不幸中の幸いは、腹が減らないどころか喉も乾かないことだ。


 なぜかはわからないが、心当たりがあるとすれば、女神印の紅茶か? 遠慮なくがぶ飲みしていたが、仮にも神の飲み物だ、何らかのご利益があったのかもしれない。聞いておくんだったな。



 ああ、こんな事なら、駄々(だだ)こねてあそこに居座れば良かったか。あの女神なら、困りながらも許してくれそうだしな。いや、あんだけ世話になっといて、それは無いな。

 はぁ、また溜息1つ。大人にだって、男にだって、泣いていい時くらいあるよね、シクシク……。




 とかやってると、まただ。遠くで何かの鳴き声が聞こえた。先程から何度かある。空からも鳥というより獣のような鳴き声が聞こえた事もある。


 だが、なぜかこちらに近付いて来ない。むしろ避けられてる気がする。あれが魔物なのか、獣なのか知らないが、なぜ襲って来ないんだ? こちらを警戒してるのか、それとも倒れるのを待ってる、禿鷹はげたか的な魔物なのか? 


 こりゃ、不用意に寝る事もできないな。仕方ない、歩こう。




 それからまた何時間歩いただろうか。気分を盛り上げようと、下手な歌を歌いだし、慌ててやめる。こちらからわざわざ危険を呼び込む必要がどこにある?


 せめて話し相手でもいてくれたらどれだけ気が楽か。


 疲れた、疲れたよ。もういいや、もう寝ようかな。なんだかすごく眠いんだ、パトラッ、ってやめとこう。縁起でもない。


 俺は別にルーベンスの絵に興味はない。ラッセンが好き、というわけでもないが。



 もう何時間歩いているのか。それとも何日かわからない。昼か夜かもわからなければ、腹もすかなけりゃ、時間の経過がわからなくなる。


 5時のチャイムとか鳴らないかな? せめてスマホ持ってりゃ、音声機能で時間を確認できるのに……。


 勤務中は鞄に入れてロッカーに置いているため、ここには無い。


 まあ、考えてみれば時間がわかったところで、そもそもこの世界に適応できるほうがおかしいか。ここが球体惑星だったとしても、地球と大きさが違えば1日24時間じゃなくなる。それに経度が違えば時間で昼夜の区別なんてできない。


 太陽が1つとは限らないしな。太陽がいっぱいだったらアランドロンも大喜びだろう。



 とかもう自分の精神状態が心配になるような事をグダグダ考えていた時だった。


「 『ゴンっ!』 つぅっぅぅぅ」


 いきなり顔面に衝撃が走る。鼻の奥が破裂したかと思った。思わず顔を抑えしばらくしゃがみ込む。


 痛みが引いてきたので、周囲を確かめると、頭の上に太い木の枝が張っていた。どうやら顔面からこの枝に突っ込んだらしい。杖で足元を確認していても、空中に突き出している物は察知できない。ぶつかるだけである。


 道を歩いていても、飛び出している看板や、大型トラックのサイドミラーなんかによく顔面から突っ込んだな。あれ、ホントに恐いんだよ。歩道に看板出してたり、平気で路駐している奴らは、もう少し他人への迷惑を考えて欲しい。

 

 まあ、戻れもしない世界の事を考えても仕方がない。枝に文句言っても意味ないしな。



 ん、枝? 木があるのか? 突き落とされてから岩と石しか触っていない。確かめてみると、まばらだが木が生えている。どうやら同じところを回っていたわけではないらしい。


 少しホッとする。別に何が解決したわけでもないが、変化のしない状況というのは辛いものだ。


 いろいろと周囲を手探りしながらゆっくりと歩いて行く。まばらに木が生えているが、ほとんど同じ種類の低木のようだ。特に食べられそうな実もなっていない。


 そのまま歩いて行くと、少しずつ木の数が増えてきており、葉の茂った大きな木も、ちらほら現れる。


 岩と石しかない荒野から、林や森と言える地帯に入ったようだ。人里に近付いているのかどうかはわからないが、荒野よりは森の方が生き残れそうだ。


 相変わらず、魔物だか獣だかの気配は遠くに感じるが、全く近寄ってくる様子はない。

 ただの幸運なのか? それとも何か理由があるのか? 今は考えるだけ無駄だろう。そんな事はとりあえず安全を確保してから、ゆっくりと考えればいい。


 今の状態で安全とは何か? とりあえず人に会う事だ。人間でも亜人でも獣人でもいい。善良な心の持ち主で、俺を助けてくれる余裕があればおんだ。


 その上、独り身の美女だったら尚よし。


 ごめんなさい、我儘言いました。この際彼氏持ちだろうが人妻だろうが美人なら……、いえ、男だろうが老人だろうが構いません。話が通じるだけで手を打ちます。だから誰か出て来て。俺はここにいるよぉ。お金は持ってないけど、小粋こいきなトークでお茶のお供にピッタリだよお。




 本気で疲れた。もう限界かもな。どんだけ警戒しても、一睡もせずに生きられるわけもなし。そのうち倒れるなら、眠っても一緒か。


 俺は下生えの草が柔らかい木の幹に背を預け、座り込む。しばらくは周囲をうかがってはいたが、すぐに睡魔にあらがえなくなり、覚悟を決める。


 女神がくれた杖を抱きかかえるようにして、そのまま深い眠りに落ちていった。



  ◇  ◇  ◇



「くはぁぁぁ。ふぅ、良く寝た」


 目覚めはスッキリだ。どのくらい寝ていたのだろうか? すっかり眠気は取れ、疲れもかなり解消している。まぁ、ちょっと腰や首が痛いけど、軽くストレッチすればすぐに良くなった。HPも全快だぜ。



 ……わかってるよ。俺自身、よくこんなシチュエーションでぐっすり眠れるもんだと関心してる。ここまで神経が図太いとは思わなんだ。よく無事だったな。


 まぁいい、さて歩くか。


 あれ、どっちから来たんだっけ? しまった、方角がわからなくなった!



 どうしよう。ってのはウソぴょーんで、ちゃんと石を置いて、来た方角がわかるようにしてあったぜ、ざまぁみろ! そう毎度毎度泣きそうになったりしねえんだよ。大人をめるな!


「 おっと、そこのお嬢ちゃん。ニヒルなオイラにれちまったのかい? 気持ちはわかるが火傷したくなければやめときな! 後で泣いても遅いんだぜ……」


 よし! 寝起きの1ボケも決まった所で、颯爽さっそうと歩きだす。遠くから聞こえる、カラスのような鳥の鳴き声が、腹立たしい。


 どうやらこの世界は、紳士には生きづらい世界らしい。




 2日目なのかどうかはわからんが、とりあえず1度眠って起きた後、しばらく歩いていると、水の音が聞こえてきた。


 探してみると岩の割れ目から、チョロチョロと水があふれ出している。助かった、さすがに喉が少し乾いてきていた気がする。


 自分の事ながら、はっきりしないが、飲まなくても大丈夫だが、飲めるなら飲みたいってな感じだったんだ。



 匂いを確認し、少しめてみてから、飲む。どうせ毒があったってわからないんだから、気にしても仕方がない。煮沸消毒? 何それ、おいしいの? この状況で腹壊すとか、感染症だとか気にしてられるかよ。ワイルドだろ!



 とかやってると、何かが近くを走り抜けた。大きさから言ってうさぎたぬきのような小動物だろう。


 腹が減った時のために、何とか捕まえる方法を考えないとな。 できるかな? ノッポさんに相談しよう。この際、ゴン太くんでも構わない。



 結論、動物は捕まらなかった。そりゃそうだろうよ。わかってたさ。いいんだ、ボクお腹空いてないもん。そっと涙を拭う。


 でもその代わりに、悪戦苦闘している中、偶然にも実がなっている木を見つけた。一つもいでみる。


 形は無花果いちじくみたいだが結構固い。熟れてないのか? 


 少し悩んだのち食べる事にする。水の時と同じで、ここで悩んでも仕方がない。


「俺のワイルドな所を見逃すなよ!」


 誰にともなく忠告してから、思い切ってかぶりつく。


 モグモグ、意外にいけるか? それ程おいしいというわけでもないが、えて言うなら、昔、婆ちゃんの家で食った、瓜みたいな味だ。結構瑞々(みずみず)しくもあるので、水分補給にもなるだろう。



 俺は背中の破れた上着を脱いで、あちこちをくくり、風呂敷ふろしきのようにして、瓜モドキを詰め込み、首にくくり付けて背負う。右手が杖でふさがっているので、左手は、できるだけフリーにしておきたい。


 とりあえず、これで数日は生きていけるかな。水を組んで行きたいが、さすがに水筒代わりになる物は持っていない。ロッカーに入れてある鞄の中には、買い物した時用に、レジ袋を何枚か入れてあったんだがな。


 用意してたのに、肝心な時には役に立たない。俺の人生、まさにこんなんばっかだ。ホント嫌になるぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ