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魔王の名を継ぐ者  作者: 無明流一刀斎
第五章 魔王雄飛

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第3話 ポルーク商会

 これから食事の準備をするというので、今夜は俺たちが提供することにした。馬車の裏で、襲われた際に食料がかなりダメになった。次の町まで持つか不安だって相談してたの聞こえちゃったんだよね。


 みんなかなり疲弊してるし、子供もいるからね。食料は充分にあるから、問題はないだろう。それに、盗賊のアジトから奪ってきた酒もある。多少は羽目を外して元気になってもらおう。



 今夜のメニューは、コンソメ風のスープ。あくまで[風]だ、み・た・い・な♡ってヤツだ。それと大量に作ってあったサンドイッチのセットを配る。大きめのサンドイッチが3つずつ、殺菌消臭効果のある大きな葉っぱに包んである。


 1つはたまごサンドイッチ。マヨネーズは作ってないから、少し甘めの玉子焼きサンドイッチだ。2つ目はハムとキュウリのサンドイッチ。マスタードが手に入ったのでイイ感じにできた。城で見つけたマスタードは、香りはいいが、たいして辛(から)くないので、子供でも大丈夫だろう。そして3つめはチキンカツサンドイッチだ。


 実はカツは何度か試していたのだが、油やパン粉の問題と安定した火力が出せなかったことで、ベチャっとしたのしかできず、失敗ばかりだったのだが、ようやく納得のいく物が作れるようになった。いろんな種類を試した結果だ。なぜチキンかというと、一緒に唐揚げも大量に作ったからな。面倒臭かったんだよ。


 ちなみに、肉は[グレートオストリッチ]のものだ。下ごしらえをしっかりすれば、かなり柔らかくなる。カリッと揚がったカツに、少し甘めのソースをたっぷり染(し)み込ませ、千切りキャベツと一緒に挟んである自信作だ。これをまずいなんて言った奴は、[紫電]か[ケツバット]、好きなほうを選ばせてやる。[オストリッチ]って、ダチョウならチキンじゃないじゃん、なんて屁理屈ぬかした奴もな!


 ああ、俺の作った料理だが、[次元収納]内の食糧庫の魔素量を抑えてあるから、人間が食べても特に問題ない。[次元収納]内はかなり自由にいじれるみたいだ。ホント、これだけでもチートなスキルだよな。



 リュミにも手伝ってもらい、みんなに配っていく。みんな一様に遠慮がちだったが、スープの匂いが漂うと、一斉に腹が鳴り出した。


「本当にいいんですか? 助けてもらった上に食事まで頂けるなんて……」


 申し訳なさそうに聞く護衛のリーダーに、できるだけ愛想よく返す。


「ああ、別に気にしなくていいさ。困った時はお互い様だ。それに、この状況で食事が滞(とどこお)ったら、明日からの旅程にも響くだろ。子供もいるんだ、遠慮するな。……それに、賊のアジトで多少の戦利品も手に入ったしな。元は取ってる」


「そうですか。そういう事なら遠慮なく頂きます。……おい、みんな、酒もあるそうだ、頂こう」


 主に護衛たちから歓声が上がる。さすがに逞(たくま)しい連中だ。そうでなくっちゃな。




 こうして夕食が始まった。最初は遠慮がちだった旅人たちも、リュミの喰いっぷりに触発されたのか、次々とスープとサンドイッチに手を伸ばす。


 リュミは、初めて食べるカツに目を見開き、(これ何? 凄い! ズルい!) とがっついている。ズルいの意味がもうわからん。


 子供を見ると、おっかなびっくり齧っていたが、すぐに笑顔で食べだした。それを見た両親も、ようやく表情が和(やわ)らいでいる。どれも初めて食べる味らしく、みな喜んでくれているようだ。



 その雰囲気は、酒が出るとさらに高まり、いつの間にか、酒盛りに変わっていた。酒の肴(さかな)はフライドポテトを出す。酒を呑まないリュミや子供も大喜びだ。



 そうして夜は更けていく……っと、思ったんだが、チビチビと酒をやりながらポテトを齧っていた俺の元に、例の獣人三人組がやって来た。どうも女性がリーダー格のようで、後ろに二人を従えている。その女性は酒のせいか、ほんのりと頬が上気し、なかなかに艶っぽい雰囲気を出している。顔立ちもそれなりの美人だ。さて、何の用かな?



「あのぉ、えろうすんませんけど、うちら兄さんと、ちょっとお話したいことがあるんですわ。今お時間よろしいですやろか?」


 京都弁? なんか微妙に違う気もするが……。まぁ、[全言語理解]が勝手に翻訳してるんだろうし、気にしても仕方がないが。


「ああ、別に構わんが、何の用だ?」


 そう言いながら、少し座る位置を変え、3人が前に座れるようにする。


 するとまず戦闘の女性が、ふわりという感じで腰を下ろす。途端何かいい匂いが漂ってきた。まぁ、べっぴんさんはたいていいい匂いをさせているもんだが、……これは香か何かを服に薫(た)き染(し)めているのか? 何とも風情(ふぜい)があっていいもんだな。


 続いて2人の男がその左右に座る。1人はかなり上背があり、胴回りも太い。マチェットを振るって戦ってた奴だ。もう1人は、やや痩せ型で、真面目そうな顔をしている。どちらも自分からは話す気がないらしく、全てはこのはんなり美人に任せているようだ。



「改めまして、うちはファラナ言います。こっちはうちの愚弟で、フォルナンとフォルト。この度は、命を助けてもろうた上に、こんな珍しいもん分けてもろうて、お礼の言いようもありません。ほんま、おおきにです」


「ああ、俺はラングリード。あそこで芋齧ってるのが相棒のリュミネリアだ」


「えらい、かいらしお嬢さんですなぁ。それに兄さんともどもめっぽう強い。お二人は名の知れた冒険者はんですか?」


「いや、無名の駆け出しだ。まだ冒険者としてギルド登録もしていない。ダンジョン目的にこの国にやって来たばかりだよ」


「へぇ、あの強さで駆け出し? もしかしたらうちら、英雄の卵を見つけてしもたんやろか? 盗賊なんぞに襲われて、えろうついてないと思とりましたけど、兄さんみたいなお人に出会えるやなんて、案外ラッキーやったんかもしれませんわ」


「英雄なんぞになる予定はないんだがな。で、あんたらは兄弟で何してるんだ?」


「うちらは、ぽルーク商会ゆうしがない行商人です。大陸で荷を仕入れて、王都で商(あきな)いしようと思てここまで来たんですけど……」


「しがないって言うか、僕たち3人しかいないんですけどね。姉さんは見栄っ張りですから」


 隣の真面目そうな男が言う。フォルナンだっけ? マチェットくん、改めフォルトは頷(うなず)くだけだ。


「商売人が見栄張らんとどないすんのや! そんな事やからあんたは……、あっいや、えらいすんません。みっともないとこ見せてしもて」


「いや、兄弟仲良くて何よりだ。で、ポルークってのが名字か?」


「ああ、ちゃいます、ちゃいます。うちら名字持ってるような、ええとこの子とちゃいます。ポルークちゅうんはうちらが昔住んでた村の名前です。って言うても、幼い頃に住んでたとこやさかい、ポルーク村っちゅう名前以外、何も覚えてません」


 ファラナが少し目を伏せる。しまったな、また余計なことを聞いちまったか?



「うちらの住んでたポルーク村は山の中の貧しい村でした。でも、えろうキレイな村で、みんな仲良ぉ住んでました。けど、ある時そこに奴隷ハンターたちが襲って来まして、うちらはみんな、取る物も取り敢(あ)えず逃げ出し、そのまま放浪の旅を続けとりました。元々行商やってた大人が何人かおりましたさかい、それで何とか路銀を稼ぎながら、それこそあちこち旅しました。せやから、うちらにはもう、故郷がどこかもわからんようになってまいましたわ」


 どこかで聞いたような話だ。少し離れたところで、子供とポテトを齧っているリュミを盗み見る。リュミの目は笑っていない。聞こえてるんだろうな。



「そうか、すまんな。余計な事を聞いたようだ」


「なんも、構いません。こんな話、あちこちに転がってます。獣人の定(さだめ)みたいなもんです。まぁ、それからゆうもん、徐々にみんなばらばらになってしもて、気付いた時には姉弟3人だけになってしもとりました。最後までうちらの面倒見てくれてた、お師(し)さんが行商人でしたさかい、うちらも行商続けてます」


「ポルーク商会って名乗ってれば、どっかにいる仲間が気付いて会いに来てくれるかもしれませんし、困ってたら助ける事もできるからって、姉さんがこの名前にしたんですよ」


「こら、いらん事言わんとき! 兄さんの前で恥ずかしやないの!」


 ホントに仲の良い3人みたいだな。で、そんな行商人が俺に何の話があるんだ? まさか身の上話聞かせたかったわけでもないだろう。



「で、あんたらは何を商(あきな)ってるんだ?」


 言った途端、ファラナノ目付きが変わる。はんなりお姉さんが、いきなり般若(はんにゃ)の面を被ったようだ。


「お塩です。この国は島国ですさかい、お塩は大して価値はありません。せやけど、西の大陸の南方にある、岩塩地帯で取れるお塩は、海水から作るお塩とは比べもんにならんほど粒が細(こま)こうて、味も格段にええんです。そやから、王族や高位の貴族は高(たこ)う買(こ)うてくれるんです。それで難儀してようやく仕入れて来たのにぃ~、あのクソ賊がぁ~!」


「ね、姉さん、落ち着いて。恐い! 顔が恐いから……」


「はっ、いややわぁ、うちとした事が。兄さんの前でこんなとこ見せてしもて、もう、恥ずかしわぁ」


 このファラなというお姉さん、さっきから表情がコロコロ変わる。百面相って奴か? 元がかなりの美人だから、怒ると迫力があるなぁ。まぁ、こういうタイプは嫌いじゃないが。



「まったく、姉さんは。で、盗賊に襲われて荷馬車が横倒しになった時、塩壺が落ちて割れてしまったんですよ。おまけに濡れた泥の上に塩がこぼれて……。僕たちの全財産つぎ込んだ大商いだったのに」


 なるほどな。ご愁傷様(しゅうしょうさま)としか言いようがない。そりゃまあ、怒り狂いたくもなるか。



「そこでこのお芋さんです。これにかかってるお塩! これ何ですのん? このお塩、うちらが仕入れてきたのに勝るとも劣らん純度! どこで、いや、今、どれだけ持ってますのん? うちらやったら、王都で高(たこ)う買(こ)うてくれる当てがあります。損はさせませんから、うちらに任せて貰えませんやろか?」


 ……なるほどね、そういうわけか。にしても凄い迫力だ。必死だな。



「どうか頼んますぅ。うちと兄さんの仲やないですかぁ。うち、前々から兄さんのことぉ。もう、いややわぁ、おなごにこれ以上言わせんといてぇ、兄さんのイケズぅ」


「……前々からって、さっき会ったばかりだと思うんだがな」


「もぉ、兄さんたらぁ、男と女の仲に野暮(やぼ)言うたらあきません! うち、兄さんとやったら、二人で夜明けの梅こぶ茶飲んでもええと思とりますぅ。あんじょうかわいがったって——」


 ここまで露骨な色仕掛けは初めて見た。もうなりふり構ってる状況じゃないって事か? やれやれだな。


「——姉さん、やめなって。ラングリードさんが困ってるから。恩人に迷惑掛けちゃだめだよ。だいたい使った事もないヘタな色仕掛けで何とかなるわけないだろ! それに、実の姉の全力のボケ見させられる弟たちの気持ちも少しはくんでよ!」


「ヘタなって何ですのん、ヘタなって! 誰もボケなんかかましてません! 兄さんかってもううちの魅力にメロメロになって……」


 はぁ、姉弟漫才がどつき漫才に変わりそうだな。とりあえず蚊帳(かや)の外のフォルトと目が合う。その目は……死んでいた。苦労してんだな、お前も。



「なぁ、フォルト。そのダメになったっていう塩と壺、ちょっと見せてくれないか?」


 フォルトは頷(うなず)くと、黙って荷馬車の方へ行く。ったく、何か喋れよ!




 フライドポテトに振ってある塩は、城にあった塩を[創造錬金]で精製したものだ。俺は塩づくりの方法はよく知らない。だから、日本で普通に売られている食卓塩を想像しながら[創造錬金]を使ってみた。


 最初はあまり上手くいかなかったが、何度か試行錯誤する内に、真っ白で雑味の少ないなかなかのものができるようになった。本来は、すぐに固まったり溶けたりしないように、Mgなんかを混ぜるんだと思うが、そんな過程はすっ飛ばした。全てはイメージだ。スーパーで買って、ゆで玉子に振りかけたアレだ。それ以外の理屈は無視だ、過程なんて知らん、結果がすべてだ!




 フォルトが麻袋を持ってやって来る。そして、それを俺に渡してきた。


 仲を覗くと、割れた壺が3つ分と、泥でぐちゃぐちゃになった無残な塩の成れの果てが入っていた。



 さて、泥まみれになった塩を、どうにかできるだろうか? まぁやるだけやってみるさ。失敗したら、その時はご愛嬌だな。

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