第11話 進化の悲報⁉
城に戻る途中、ゴブリンダンジョンに寄る事にする。家臣にしといて、ほったらかしってのも気が引けるからな。まぁ、ちょっと覗いていくつもりだったんだが……。
……おかしい。場所は間違っていないはずなんだが、なんだこれ!
そこには、石造りの壁と青銅製の大きな扉があり、両脇には槍を持ったホブゴブリンが立っていた。しかも扉の周りは二本の太い柱があり、屋根がせり出している。ここって確か、剥き出しの岩肌に、穴が空いてるだけだったはずだ。
リュミを見ると、困惑顔でゆっくり頷く。やはり間違いないようだな。わんこの帰巣本能は伊達じゃない。
俺たちに気付いた門衛が一礼して、扉の中に何か言っている。
通された小部屋で待つ事十数分、現れたのは高貴で美しい面持ちをした妙齢のご婦人だった。左には精悍な美少年、右には小柄で愛らしい顔をした美少女を連れている。
そして俺の前で揃って恭しく跪く。
……えっと、誰だ、この人たち?
「よくぞお越しくださいました。我等一同、陛下のお越しを一日千秋の思いでお待ちしておりました。今、宴の準備をさせておりますので、どうか奥へお進みください」
「あっいや、これはご丁寧に!」
この妙に時代掛った物言いには覚えがあるような。
「で、どちら様で? どこかでお会いしましたっけ?」
こんな美人は、一度会ったら忘れないと思うんだが……。
「嫌ですわ、陛下。ご冗談を! 陛下の忠実な臣、グロリアにございます」
妖艶に笑う美女。
『‼』 グロリア? あのグロリアか。じゃあこの子らはグロムスとグロリナか! ……どういう事だ? まさか、こいつらこの魔王を謀る気か!
「ラングリード様、この人、ゴブリン女王だよ。匂いが一緒」
リュミが真顔で告げる。
「マジか? おっお前ら何があった? 変身スキルとか会得したのか?」
動揺が隠せない俺。魔王の威厳何てあったものじゃない。
◇ ◇ ◇
ダンジョンの最奥、以前歓待を受けた部屋で宴が催される。
そこでグロリアの話を聴く俺。傍らではグロリナが酌をしてくれている。以前とは段違いの愛らしさ。やっぱり酒の席には綺麗なねーちゃんって、……飯をがっついてるリュミのメガなんか恐い。
「はい、陛下の臣として頂き、名を与えられた時より、わたくしの中で何かが変わるのを感じました。そして望んだのです。陛下の臣に相応しい者に成りたいと。お役に立てる力が欲しいと。そして気付いたら、このような姿に……」
グロリアは一旦言葉を切り、自らの姿を誇らしげに曝す。
「姿ばかりではございません。内なる魔力も格段に上昇した新たなる存在へと進化する事が叶いました。全ては陛下のお導き、感謝の言葉もございません」
……何、それ? そんなの聞いてないんですけど。何にも考えずに、気軽に主従契約したり名付けしたりしてたけど、大丈夫なのか、俺? 今後はもう少し慎重になるべきかも……。
鑑定してみると、三人の種族名が【ロイヤルゴブリン】になっていた。しかも、それ以外の上位ゴブリンが揃って【ノーブルゴブリン】に。その他は全てホブになっていた。
何だよ、種族ごと進化してるじゃねぇか! もうわけがわからん。頭痛くなってきた。こんな時は酒だ酒! 酒持ってこ~い!
隣のグロリナの肩を抱いて酒を呑む。グロリナは頬を赤らめながら俺に酌をしてくれている。
あれ、さっきまで武装を解いてたはずのリュミの腰に、なぜか剣が……。目の笑っていない笑顔が恐い。
俺はゆっくりとグロリナの肩から手を離す。ごめんなさい、自重します。
その後、じっくり話を聞くと、ダンジョンは魔王の家臣に相応しいようにと改装したそうだ。扉を入ってからずっと床も壁も天井も全て石造りになっていた。以前はただの洞窟だったのに。この短期間で凄いな、ゴブリンの土建技術。
しかも廊下はずっと明るい。魔王城の廊下みたいになってる。
グロリアの話では、[輝光石]という自ら光る鉱石を天井に嵌め込んであるらしい。
配下のゴブリンが採掘している坑道で豊富に出るという。折角だから俺も少し貰った。AF作成時の素材に使えそうだ。やったね!
◇ ◇ ◇
翌日は、グロムスとグロリナに稽古をつける。
グロムスは[戦士Lv.13]で、俺が与えたショートソードを巧みに使う、いい戦士になっていた。
グロリナは[魔法使いLv.10]で水と土の魔法を得意としている。愛らしい見た目にそぐわず、相手の隙を見逃さないエグい戦い方をしてくる。
二人とも女王に将来を嘱望されているだけはある。この先、もっと強くなるだろう。
リュミも楽しそうに指導していた。
結局、3日程滞在し、出立する。土産に鉱石やら宝石やらをいろいろ貰った。
別れ際、グロリナが俺の袖をそっと掴み、上目遣いに、(是非またお越しください) とか言われた。
俺、来ちゃうかも……。アカン! この娘は、計算か天然かは知らんが、夜の蝶の素質がある。
グロリアが妙な含み笑いをしながら俺とグロリナを見ている。しまった! 罠にハマったか!
◇ ◇ ◇
ゴブリンダンジョン、いや、もはやゴブリン館と呼ぶべきか、を去った俺たちは、一路岩山ダンジョンを目指していた。
もう、気になって仕方がない。あいつらだけは無事でいてくれ!
……だが、それは儚い望みだったようだ。
そこには、身長が俺とそう変わらなくなった、ワイルドでマッチョなおっさんが、これもよりマッチョになったRとLを引き連れ、迎えに出て来ていた。
なんかもう、世紀末に覇を唱える風格だ。
「お待ちしておりました、魔王様。そしてリュミネリアの姐さん」
三人の巨漢が跪く。姐さんって……。お前らどこの任侠一家だ!
「ああ、何だ。とりあえず、一応は名乗りを上げろ」
引き攣った笑みを消せない俺。
「はっ、我は魔王様の忠実な臣にして、姐さんの一の舎弟、ゴルドヴァルド!」
腰に大振りの柳葉刀のような湾刀を佩びた筋骨隆々のトサカ親父が誇らしげに名乗る。
「「同じく、ゴルディアル ・ ゴルディエル」」
二人が見事にハモる。
はぁ、こいつら練習でもしてたのか? にしても、あのチビッコ大将がここまでデカくなるとはな。バカの一念、岩をも通す、か。
◇ ◇ ◇
中に通され、宴が催される。進化の過程はグロリアたちとほぼ同じだった。
キングとジェネラルは【グレートコボルト】に、ハイコボルトたちは【ワイルドコボルト】とかいう種族に進化していた。そして皆、一様にトサカと尻尾以外はトカゲというより、ごつい、ウェアウルフみたいになっている。
しかも、雌雄の違いはトサカの有無くらいしか区別がつかなかったのに、雌は色とりどりの髪の毛を持つ、狼女みたいなワイルド系お姉さんたちになっていた。
こっこれは、イイかも! しかも皆、爆乳だ。何でトカゲに乳がある? 俺のためか!
コボルト美女に酌されて、デレデレの俺。
リュミはもう諦めたらしく、三バカ大将たちと楽し気に談笑している。勿論、肉がっつきながらだけどね。
そして、実は俺に酌をしている褐色爆乳ワイルド娘は、なんとキングの実娘だった。
あの時は、武者修行の旅に出ていたらしい。帰って来たら、チビ親父がデカく成ってたので、出来の悪い偽者だと、いきなり襲い掛かったらしい。自分も進化している事に全く気付いてなかったんだと、ゴルドヴァルドが爆笑しながら言っていた。
どうやらこの乳、もとい父にして、この娘あり、らしい。
三バカの頼みで、娘も直臣として、【ヴァルディア】の名を与えた。懲りてないだろうって? 父親に頼まれたら仕方ないだろ! 決してワイルドな乳に目が眩んだわけじゃないからな!
◇ ◇ ◇
次の日は、こいつらがどれだけ強くなったのかを見る。
ゴルドヴァルドはリュミといい勝負ができる程に強くなっていた。ヴァルディアも父と同じく、デカい湾刀をワイルドに振り回す猛者だ。何度打ちのめされても牙を向く、鋼の闘志を持っている。
RとLは双子のように良く似ているが、長剣とデカいラウンドシールドを使い、知性が表情に出ているのがゴルディアル。デカいハルバートを使い、クソ真面目が服を着ているようなのがゴルディエルである。
二人とも、見事に揃ってゴルドヴァルドより3cm程背が低い。苦労と気遣いの相が滲み出ているな。頑張れよ。
◇ ◇ ◇
数日滞在して、魔王城に帰る事にした。
帰り際、ヴァルディアに、(ま、また来てくれよな!) と、プイっと顔を逸らしながら言われた。
こっこいつもかぁ! この世界の娘たちは、どこまで俺の扱いを心得てるんだ。クソっ、可愛過ぎるぞ。本気でハーレムとか作りたくなってきた。魔王がハーレム作って何が悪い!
と、いつかリュミに言える勇気を下さい。そっとお星様に願う俺だった。
ちなみに岩山ダンジョンは俺の一存で、【奇岩城】と名付けている。そしてゴブリン館と奇岩城には常に連絡を取り合い、協力し合う、互助関係を築かせた。
この二種族は、種族的特徴がはっきり出ている。
ゴブリン族は、非力だが手先が器用で物作りに長けており、仕事にせよ戦いにせよ連携して、良い結果を出す。
それに対し、コボルト族は、やや短絡的な所があるが、個々の力が強くスタミナもあり、意外と言っては何だが粘り強く単調な作業を続ける事にも長けている。
そんな二種族を連携させない手はない。ゴブリンの手に余るような敵にはコボルトが協力し、奇岩城の改修や生活用具の作成などはゴブリンの技術が厄に立つだろう。
そして彼等には、数を増やし、戦力の充実と種族の安定を目指すよう指示をした。まぁ数を減らしたのは主に俺とリュミのせいだけど……。魔王にとっては些事だ、些事!
それと二種族とも雑食だったので、小麦やトウモロコシの種や芋の苗を渡し、農耕を教えておいた。うまくいくかはわからんが、安定した食料生産に繋がれば重畳だ。
城の使い魔に指導してもらえるようにアレクサンドラに頼んでみよう。
そして俺たちは久々に魔王城に帰る。城を望む小川には、魚の泳ぐ姿が見られた。
春は、もうすぐそこまで来ているようだ。




