第10話 銀狼の騎士
戦いが終わったらご飯! リュミとの約束だからな。だがその前に巨人の遺骸を片付けないとな。正直ヒト型魔物の遺骸から素材を剥ぐのは気が進まない。肉も食いたくないし、皮も剥ぎたくない。だが、有用な物なら我慢して解体するよ。男の子だもん。
……と思ったが、全て収納する。城に帰ってやってもらおう。使い魔の先生方、お願いします!
「あっ、あったぁ」
突然リュミが大声をあげる。箪笥の裏に転がった10円玉でも見付かったのか? うん、それはうれしいよな。
リュミは巨人の陰から何かを持ち上げようとしている。だが何か持ち上がらなさそうだ。
「ううっ、おもい~。なんで?」
持ち上がらないので引きずってやって来るリュミ。よく見ると、大振りな両刃のバトルアックスだった。かなりごつい。
「そんなに重いのか?」
そう言って、持ち上げてみる。……うん、確かに重い。持ち上がらない程、重いわけではないが、これを振り回すのは至難だろう。
破砕の斧:[破壊B][自己修復C] オリハルコンと魔鋼鉄を鍛えた戦斧
キター! オリハルコン、キター! やっぱあるよね、オリハルコン。オリハルコンなしにファンタジー世界語ったら、プラトンが激怒するぞ。でも斧って……。
俺もリュミも使わないしな。ってかこんな重い武器使いたくない。まあいい、高く売れるだろう。とりあえず収納だ。遺骸も全て収納だ。
そして奥に小部屋を見つける。アイツらのデカさから考えたら、トイレくらいの小ささだ。何の部屋だ? と覗いたら、何と宝箱があった。
早速駆けだすわんこの後頭部を鷲掴みにし、[魔力視]を使ってみるが、特に魔法トラップとかは無さそうだ。行っていいが注意しろよ。
解き放たれたわんこは凄い勢いで宝箱に駆け寄り、大きな蓋を開け、尻尾をブンブン振りながら中を覗き込んでいる。そして、(おお~!) と声をあげた。
だから、注意しろって言ってるだろ。物理的なトラップもあるんだよ!
「何だ?何かいい物入ってたのか?」
近付く俺に満面の笑顔を見せ、『ジャジャーン!』とばかりに中身を取り出して、見せつけてくる。
それは銀色に輝く軽装鎧だった。
真銀のメイルアーマー:[魔法防御B][自己修復B]
これは! 宝箱の中には、銀色に輝く美しい防具一式が入っていた。チェーンとプレートを組み合わせた胴鎧、フルヘルムではなく、額と顔の横をガードするタイプの兜、肘までの籠手、そして膝から側部までを保護するグリーブというのか? とにかく、全身を覆うというよりも、動き易さを重視し、必要な所だけをガードするような軽装鎧だ。なんか鎧というより聖闘士聖衣みたいだな。シルバー聖衣か?
待望のリュミネリアのちゃんとした防具がこれで揃った。
真銀の美しい聖衣、いや鎧に身を包み、左手にはアイスブルーのラウンドシールド。そして右手にはアイボリーホワイトのエストック。銀の髪と尻尾を輝かせた美麗なオオカミ戦士がそこにいた。
思わず見蕩れる俺。リュミってこんなにかっこ良かったっけ?
以前、たまたま行った場所でコスプレイベントをやっていて、本物の金髪碧眼の西洋人美少女たちが、勇者PTのコスをしていた。剣に西洋甲冑、ロッドにローブ。日本人レイヤーではこうはいかないほど異常に似合っていたが、リュミは完全にその上をいっている。
そんな娘が俺のヨメを宣言している。もしかして俺って、とんでもない果報者なんじゃあ。
「なんかすごいよ、これ。わたしが貰っていいの?」
「ああ、俺は必要ないからな。遠慮なく取っとけ」
言いながらリュミが外した革鎧や帽子、グローブを収納していく。
ん? 何か複雑な表情で俺を見ているリュミ。どうしたんだ?
「何だ? もしかして嫌なのか?」
「ううん、すごくうれしい。でも、ラングリード様が作ってくれた帽子やブーツ……」
ああ、そういう事か。こいつは俺が作ってやった物を妙に大事にするからな。
「この鎧はもういらないだろ。帽子とグローブ、ブーツは普段用にすればいい。街なんかに行ったら、いつも武装してはいられないからな。使わない時は俺が預かっとくさ」
それなら、っと俺にブーツを渡しかけて、一瞬固まる。そして俺に背中を向けて、何かクンクンやっている。そして……。
「エアブレッシング! ……。だっ大丈夫、臭くなんかなかったよ!」
「……、そ、そうか。ちゃんと閉まっとく」
リュミもお年頃だ、余計な事は言うまい。
にしてもファンタジー金属は恐るべしだな。サイズや体型は防具側が合わせてくれる。勿論男女兼用だ。魔鋼鉄以上の材質に限るらしいけどね。
部屋を眺めると、もう一つ宝箱があった。縦20cm、横30cm、高さ20cmくらいの煌びやかな宝石が鏤められた、これ自体が高価そうな宝箱だ。開けてみると中には、真珠のネックレスやルビーの指輪、ダイヤのイヤリングなど、装飾品が数種類入っていた。鑑定してみるが全てただの装飾品だった。ただ高価なだけ。この世界での価値はよくわからんが……。
欲しいのがあるか、リュミに聞いてみると、胸元からシルバープレートのペンダントを出し、その青い宝石を見つめながら、首を横に振る。
「いい。わたしには、これがあるもん」
だと。まったく、こいつは……。
他には何も無さそうなので、安全地帯に戻って食事にする。腹減ったよな。
食事の後は、ステータスを確認する。俺の剣聖が[Lv.18]に上がっていた。[剣聖術]はBだ。
リュミは[剣士Lv.23]に上がり、[剣術A]になっていた。
今夜はゆっくりしよう。後は帰るだけだしな。それにしても、ダンジョンボスを倒したら、入口まで帰れる転移装置が現れるとか、便利設定はないのか? 50階分上がるのは大変なんだがな。転移魔法とかAFとかあるんだろうか? あったら是非手に入れたいものだ。
帰り道は面倒臭かった。リュミの鼻のおかげで、余計な道は通らずに最短距離で帰れるんだが、結構魔物が湧いていやがった。やはり交配説はないな。いちいち子供作ってたら、こんなに早く増えるわけがない。じゃあ、あのたまごは何なんだ?
まぁ、シアッツみたいな大物は復活していなかったのは助かったが。
あと、いくつかのドロップがあった。まあ薬草や鉄のナイフ、鉱石なんかだったけど。もしかしたら、今までもドロップしてたのかもな。気を付けておかないと見逃してしまうかもしれない。
◇ ◇ ◇
そしてようやく地上に出る。帰って来るだけで結構経験値を得た。
俺は[剣聖Lv.20]、[剣聖術A]になり、リュミは[剣士Lv.27]、[剣術S]になっていた。帰り道は、武器と防具をフルチェンジしたリュミが張り切って魔物を斬りまくってたからな。俺の経験値はリュミのおこぼれみたいなもんだ。逆パワーレベリングだな。
そしてリュミには上位ジョブが出現した。[騎士]である。どうも、戦士と剣士のレベルが一定値を越えたからのようだ。上位クラスが出現するパターンは、いろいろあるらしいがな。
そしてリュミは、ジョブ[下級騎士Lv.1]となった。見た目もキマっている。
正に、【銀狼の騎士】だ。思わず惚れちまう程にキマっている。
リュミも満更でもないのか、うれしそうにポージングをしている。写真撮れないのが残念だ。
「えへへ、かっこいい従者になれたかなぁ? ねぇ、ラングリード様。わたしかっこいい?」
久々に外に出たリュミネリアは、ご機嫌ではしゃいでいる。やっぱりわんこはお外が大好きだな。雪が積もっていてもお構いなしだ。まぁ、雪原の銀鎧は、ちと目がチカチカするけどな。
俺は今、サングラスを外して、白銀に輝く大地を眺めている。やはり外は明るいな、眩しさが心地いい。といってもダンジョンの中は常に真っ暗というわけではない。むしろ光源が無いのになぜか明るい場所が多い。所々真っ暗なゾーンがあるので、照明を使うのはそこだけだ。まぁ、そこら辺が自然洞窟との違いだろうな。
俺も少しずつ、この世界のフォーマットが理解できてきた気がする。かつて女神が言っていた、かなり近いが異なる理の世界、という意味が少しだけ理解できる。全く違う理の世界だったら、俺はとっくに発狂していただろう。
そこで問題だ。異世界に飛ばされ、しかも盲目のまま魔境に落とされた俺は、果たして運がいいのか、悪いのか? わかる奴がいたら是非教えてくれ。
どちらにしても、俺は今の境遇を、完全に楽しんでいる。特にリュミと出逢ってからは、この世界に飛ばされた事を、全く恨まなくなっている。
だってそうだろ。盲目で魔物のいる世界に放り出されたと思っていたら、今やチート的能力を手に入れ、美少女ケモミミ娘と冒険の旅をしてんだぜ。こんなのラノベ主人公じゃないか。オタクなら誰もが夢見たポジションに自分が着いてる。こんなのアメリカ大統領やハリウッドスターになるより、よっぽど価値がある!
あくまで俺主観だから異論には耳を貸さんがな。
だからといって、俺を神界から突き落とした、あのクズたちを許す気は毛頭ない。それどころか、恨みはさらに募っている。そりゃそうだろ! 俺の障害につけ込んで、10年もいびり続け、挙句の果てに殺そうとしたんだ。それを許せるほど俺は出来た人間じゃない。いや、それを笑って許せる奴がいたら、そいつは聖人でも善人でもなく、ただの変人だろう。そんな奴、考えただけで喜色が悪い。終わった事をいつまでも根に持つな、など誰にも言わせるものか!
この恨みはいつか必ず晴らすさ。そのための力は手に入れたしな。だからそれまで首洗って待ってろ。勝手に死んでんじゃねぇぞ!
◇ ◇ ◇
「なあ、リュミ。お前、騎士になったんだし、俺の従者でいいのか?」
特に深い考えもなく聴いてみる。
「えっ、騎士になったら従者できないの?」
驚いたように慌てて聞いてくるリュミ。
「いや、そんな事はないと思うが……」
なんか従者って、騎士より身分が下の騎士見習い辺りの少年がやってるイメージだったからな。別に騎士でもいいんだろうけど。
「わたしはずっとラングリード様の従者でいたいよ。でも騎士もやりたい。ダメかな?」
不安げに呟くリュミに、ダメなんて言えるはずがない。というか、ダメな理由がわからない。
「そうだな、俺はそこらの貴族なんかと違い、天下の魔王様だからな。その従者なら、下級騎士どころか最高の騎士じゃないとな。お前は最高の騎士になれるか?」
「なれるもん! わたしラングリード様の騎士になります。最高の騎士に!」
誇らしげに俺を見上げ、胸を張るリュミネリア。
多分、こいつは成るんだろう。誰もが認める最高の騎士に。ならば俺もそれに見合った最高の魔王を目指さないとな。道は遠いだろうが、二人でなら辿り着けるさ。待ち受けているであろう困難でさえ、楽しみに思えてくる。
「ねぇ、ラングリード様。騎士って何すればいいの?」
「‼ ……っ、お前、『なれるもん!』 とか言わなかったか?」
思わずマヌケな声が出る。
「なれるもん! なれるけど、騎士って何すればいいの?」
……。それは普通、なれるとは言わない気がするんだが……。
リュミネリア・ファントムウルフ。魔王の従者であるオオカミ騎士。立派に成長したと思っていたわんこは、まだまだ手のかかる子犬だった。
ついこの間、さよならしたばかりの、愛しき日々は、実はまだまだ続いていたようだ。
短いさよならだったな。おかえり、リュム!




