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魔王の名を継ぐ者  作者: 無明流一刀斎
第四章 魔王雌伏

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第9話 奴らの足音のバラード

 今まで魔物を倒しても、アイテムドロップなんて一度も無かったのに、このダンジョンの下層部ニ下りてから、いきなり3つも手に入った。もしかしたら、あのたまごもドロップだったのかも。だとしたらここはドロップフィーバーゾーンか? ゲキアツだな!




 そしてようやく最下層、地下50階に辿り着いた。広大な空間で待ち受けていたのは、やはり奴らだった。


 恐竜からマンモスへと続けば、その先は奴らの足音が聞こえてくるのは道理だ。ムッシュも歌ってたしな。あの名曲は何度聴いても、いい。



 でも、何かデカくないか? 父ちゃんがサル酒呑んでる、あの愉快な奴らじゃないのか?


 ギガントピセカス:HP1600/1600 [ファイアボール][跳躍]


 ……ロックトロルの2回り程デカいんですけど。4mくらいはあるよね。進撃するあいつらですか? しかも5人家族? 一家団欒を邪魔して申し訳ない。あっ、奥さん、どうかお構いなく!



 リュミはアイボリーのエストックを抜き、氷雪の盾を構える。俺は同田貫(どうだぬき)を抜きながら魔力を練(ね)っていく。奴らがどんな動きをしても、即座に対応する準備は怠(おこた)らない。


 怪力なのは疑いようもない。問題はどの程度の知性があるかと、魔法やスキルをどう駆使してくるか、そして連携の有無だな。石オノかついでないだけまだましか。



 数秒の探り合いの後、中央3体が同時に[ファイアボール]を放ってきた。巨大な火の玉が轟音(ごうおん)を響かせ迫ってくる。物凄(ものすご)い光景だ。


「アクアウォール!」


 二人の前に魔法の水壁を具現化し、直後に左右に回避する。



 3つの火の玉は、高さ3m程の水の壁にブチ当り、高温の蒸気が周囲に広がり、視界が奪われる。その瞬間、頭上の白濁(はくだく)した蒸気が僅かに歪(ゆが)むのを、俺の[魔眼]が捉えた。


 咄嗟(とっさ)にバックステップした俺の眼前を、巨大な拳が叩き下ろされ、大地が爆(は)ぜる。


 こいつら、やはり連携してやがる。中央の3体が魔法を放ったと同時に、左右の2体が跳躍し、魔法を躱(かわ)した敵を捉える。こいつらはかなりヤバい。リュミは無事か?



 俺は踏み込み、大地に刺さった太い腕を左薙(な)ぎに斬り付ける。鮮血が跳ぶが、骨に達してはいない。巨体は既に蒸気の中に消えている。これではリュミの鼻も効かないだろう。



 風C魔法[エアストリーム]で、周囲の水蒸気を吹き飛ばす。この魔法は煙や砂塵(さじん)、細かい羽虫なんかを一気に吹き飛ばせる魔法だ。やや使いどころが限定されるが、力の加減をちゃんとできれば、扇風機やドライヤー代わりにもなる便利な魔法である。



 視界が晴れたと同時に、前方5mくらいに居た、1体に[ロックキャノン]を打ち込みながら距離をとり、リュミを探す。

 PT(パーティー)を組んでいるから、無事である事と大体の場所はわかっていたんだが、巨人3体を相手に立ち回っているのを見た時は、正直肝(きも)が冷えた。



 すぐさま、リュミに掴みかかろうとしていた奴の頭に[ロックキャノン]をお見舞いし、[ファイアボール]を撃とうとしている奴には、水B魔法[アクアストリーム]で大量の水流をぶつけてやる。リュミにはこのくらいの助太刀(すけだち)で充分だろう。



 目の前に迫ってきた巨人の顔に[紫電]を放ち、それを手で防ぎガラ空きになった胴を、右切上げに刀を振るう。


 よし、脇腹に食い込んだ刀身が臓物を裂(さ)き、脊椎(せきつい)に当る感触が手に伝わる。背骨を断つ事は叶(かな)わなかったが、返す刀で、片膝(ひざ)を着いた巨人の喉元に向け、袈裟懸(けさが)けに打ち込む。



 噴き上がり、周囲に降り注ぐ熱い血の雨を潜(くぐ)り抜け、その先から飛んできた[ファイアボール]を[アクアストリーム]で撃ち落とし、魔法を放った直後に動きを止めている奴の懐(ふところ)に跳び込み、臍下丹田(せいかたんでん)に刺突を打ち込む。


 咄嗟(とっさ)に振り下ろされた右拳が左肩をかすめ、すぐさまバックステップで逃れたため、致命傷は追わせられなかったが、それなりのダメージは与えたはずだ。


 撃たれた左肩は痺(しび)れているが、骨には問題なさそうだ。敵が素手で助かった。



 敵が追撃に出る前に、腹の傷に向け、[フレイムスローワー]を放ってやる。放出された炎が奴の腹を襲う。傷口を高熱で焼かれる気分はどうだ?


 思わず両手を地に着いた巨人。俺は渾身(こんしん)の踏み込みと身体の捻(ひね)りを加えた右薙(な)ぎの一撃で、その太い首を跳ねる。


 それで方(かた)が付いた。やはりヒト型の一番の急所は首だな。



 背後に跳ねた首が落ちる音を聞きながら、リュミを見る。


 [ファイアボール]を氷雪の盾で霧散(むさん)させたリュミの白いエストックは鮮血に染まっていた。そして、血まみれの巨人が倒れ伏す。


 俺の視線に気付き、こちらに合流してきた彼女にケガがないか確認し、再び戦闘体勢をとる。残り2体。気を抜くなよ。




「こいつら強いね。でもおっきいトカゲや走る鳥みたいな、変な動きしないから、戦いやすいかも」


 リュミが呼吸を整えながら、こちらを見ずに言う。


 ああ、それは道理だな。強くてもヒト型は行動パターンが読みやすい。まぁ、首を落としても意に介さないアンデットみたいなのもいるから、油断はできないけどな。



「クアッグマイヤー!」


 土範囲魔法の泥沼で残った2体の行動を阻害(そがい)する。


「一気に決める。左の1体は任すぞ!」


 そう叫んで、右の1体に向け走り出す。


「任されたぁ。こいつを倒してご飯だねっ!」


 元気に応えて駆けるリュミ。


 ……、ご飯だなどとは誰も言っていない。だが、まあいい。期待してろ。



 跳躍攻撃を仕掛けてきた巨体を、右に跳んで躱(かわ)し、転がりながら、風A魔法[トルネード]を唱える。巻き起こった竜巻が巨人を襲う。


 にしても、戦闘中に不用意に跳ぶのは下策だと想っていたが、この重量で跳ばれると、それだけでとんでもない攻撃力を産むな。やはり体重は凶器だ。



 リュミは逆に跳躍して頭部への攻撃をしようとしているが、それを狙いすました拳が迎え撃つ。


「バカ、不用意に跳ぶなよ! お前は軽いんだから……」


 っと思ったら、空中で身体を捻(ひね)って軌道(きどう)を変え、敵の拳を躱(かわ)しながら、独楽(こま)のように一回転し、その遠心力を利用して、巨人の側頭に斬撃を叩き込んでいる。


 ……何だよ、あの戦い方! 華麗に舞うダンサーのような動きに思わず目を奪われる。剣の舞か?




 俺も負けてはいられないな。取って置きを使うか。


 [トルネード]で全身を傷だらけにしたギガントピせかすに向け、俺は左手を突き出す。その手には、直径10cm大に加工した魔鋼鉄の砲弾が握られていた。



 雷撃C魔法に[パルスショット]というのがある。電磁気を帯びた光の弾を打ち出す魔法だ。飛距離が長く、速度もかなりのものだ。だが、威力は大した事がない。相手を痺(しび)れさせる程度だ。攻撃魔法というよりは、相手の詠唱中の魔法やスキルを妨害するための魔法だろう。強力な魔術師相手なら有用なんだろうが、魔法を無詠唱で使える俺からすれば、何と言うか、ショボいのである。


 そこでこの魔法を応用して何か違う魔法を作れないかと、ここしばらく悪戦苦闘していた。蒼写真はある。雷、電気系の攻撃といえば、言わずと知れた、[レールガン]だ。これに近い事はできないかといろいろ試し、失敗を繰り返しながら、一つの形に辿り着いた。

 まずは、[創造錬金]で予(あらかじ)め砲弾を作っておく。そして、俺の身体に磁気を纏(まと)わせ、己を射出台とする方法だ。無茶な気もするが、俺は雷撃の素質が高いらしいからな。やってみる価値はあった。


 そして遂に実用に耐えうる魔法が完成した。俺の試算だと、[シアッツ ザ グレート]を一撃で葬り去る威力は出るはずだ。これがお披露目だ。お代は見てのお帰りだぜ!




 刀を鞘に戻し、全身の魔力を循環させ、丹田(たんでん)に集める。それにより、体内を巡っていた魔力が練(ね)られ、その密度を増していく。両手を前に突き出し、左右の親指と小指をそれぞれ密着させ、両手指で筒を作る。その中に磁気を帯(お)びた魔鋼弾が浮くように治まっている。


 腰を落とし、両足を踏ん張り、狙いを定める。両肩から指の先にかけ、ピリピリとした電磁場が震え出し、バリバリという音に変わり、最後には、低いのか高いのかわからないような一定した音が徐々に大きくなって鼓膜(こまく)を震わせる。



 そして、前方より咆哮(ほうこう)をあげ、進撃してくる巨人に向け、一気に打ち出した。


 何と表現したらいいのだろうか。火薬の炸裂(さくれつ)音とは全く違う、『ドゴーン』とも『ズーン』とも聞こえる音とともに、光る球形が迫る太古の巨人の胸に吸い込まれ、その直後、先の壁で、『ドガーン』という爆発音が続いた。




 ふうぅ。静かに息を吐き出し、ビリビリと痺(しび)れる両腕を下ろす。前方に立ち尽くす巨大な身体の胸部には、大穴が空き、その向こうに、崩れた壁が見えている。


 想定していた威力の10%も出ていない。魔力を電気に変換する効率が悪過ぎる上、射出時に磁気を固定できず、殆(ほとん)ど無駄になってしまっている。弾丸にもまだまだ改良の余地がある。だが、第一実験としては充分な結果だろう。


 『ズーン』と重い音を立て、巨体が倒れる姿を見ながら、俺はその結果に満足していた。




 リュミを見ると、ほぼ一方的な戦いになっていた。


 対峙(たいじ)する得物の片目は潰れ、片腕はほぼ千切(ちぎ)れており、もう足は動いていない。ただその体力だけで立っている巨人を、今、正に狼の牙が噛み砕こうとしていた。


 手を貸す必要もなさそうだ。




 エストックを鞘に収めたリュミネリアが、俺の腕にそっと触れてくる。 ちゃんと言う事を聞けた犬が、褒(ほ)めて貰おうと身を寄せてくるように。


 そっと頬に触れてやると、目を細め、首を傾けて掌(てのひら)に顔を預けてくる。


 こいつは最近、一仕事終えるごとにスキンシップを求めてくるよな。まあ、リュミの気持ちは知ってるから、別に不思議ではないが。なんかお預けを食らわせているようで、ちょっと気が引ける。いい加減、想いに応えてやるべきなんだろうがな。



「今のなに? はじめて見たよ。凄いね」


 俺の掌(てのひら)に頬を摺(す)り寄せながら聞いてくる。


「ああ、雷撃魔法の応用だ。俺のオリジナル魔法だよ。いずれ、月をぶち壊してやろうかと想ってな」


 軽口で返してやる。この程度の威力では自慢にもならんからな。


「ダメだよ。月を壊したら銀月魔法が使えなくなるもん」


 いや、真面目に返されてもなぁ。ってか、銀月魔法ってそういうもんなのか?

 っと想ったら、リュミがクスクス笑ってた。なんだ、冗談かよ、まったく。



 とにかく地下50階は攻略終了だ。目標だった[鑑定偽装]も手に入れた。これで俺たちの冒険に新たなる道が開けた。いや、むしろここまではチュートリアルみたいなもんだ。


 魔王ラングリードと幻狼リュミネリアノ冒険が、遂に始まる。


 さあ、行こうぜ、リュミネリア!

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