第8話 さらば、愛しき日々
哺乳類系魔獣が階を下るにつれて巨大化していく。巨大鹿に巨大馬ときて、遂に現れた、体高5mを越え、異常に長い牙を持つ巨象。どう見てもマンモスだ。という事は、マンモスを追って、奴らの足音が聞こえてきそうだな。新生代も終わりが近いのか?
ロングタスクマンモス:HP1800/1800 [タスクアタック]
ロシアのツンドラから氷漬けで見付かった、小柄で長毛の奴ではなく、とにかくデカいタイプだ。威圧がハンパない。
あんな長い牙、重くないのか? あんなんでしばかれたら堪らんな!
奴が動き出そうと右前足を上げた瞬間、リュミは剣を抜き左前方に走り出す。それに合わせ、俺も抜刀しながら右前方へと突っ込む。
突然の俺たちの行動に機先を制され、巨象は動きを止め、左右に視線を泳がせる。こういう巨体は動き出すと手に負えなくなる。その前に仕掛けるのが常道だ。
俺は奴の左顔を目掛け、[ロックキャノン]を打ち込み左横に回る。リュミは[シルバーショット]を右顔に打ち込みながら、右横に回り込んでいる。そして示し合わせたように左右からその大きい胴に斬り掛かる。タイミングはバッチリだ。
予想はしていたが固い。どんな皮してんだよ。クソっ、斬鉄剣が欲しいぜ!
リュミも剣が通らなかったのか、下に潜り込んで腹を狙っている。潰されるなよ。
腹に刺さった剣が効いたのか、マンモスはリュミのほうを向こうとするが、その前に腹下を潜ってこっちに走り抜けてくるわんこ。
敵を見失った巨象に[フレイムスローワー]で、文字通り尻に火を着けてやる。皮がごつくても焼かれれば熱いだろう。
一鳴きした奴は、前に向けて走り出す。このまま壁にでもぶつかるかと思ったが、意外にも機敏に方向を変え、こちらに向かって突っ込んできた。
この巨体が地響きを立てて向かって来る凄まじい光景は、一度見たら生涯悪夢に魘されそうだ。ハンニバル軍を相手にしたローマ兵はこんな気分だったのだろうか?
身構える俺の前方五mに達した巨象は、いきなりバランスを崩す。勿論、[クアッグマイヤー]に足を取られたからだ。
だがこいつはこけなかった。体勢を崩しながらも、その巨牙で俺を弾き跳ばした。これが[タスクアタック]か!
弾かれた俺は、高さ15m程の天井に叩きつけられ、落下する。頭から地面に激突するところを、走り込んできたリュミに救われ、無事だったが、明らかに肋骨の2、3本はいっていた。吐血もし、呼吸ができず激しく咳き込む。とんでもない力だ。
シアッツといい勝負ができるんじゃないのか? リュミの回復魔法を受けながら、愚にもつかない事を考える。
再び突進してきたマンモスに、リュミが突っ込んでいく。そして鼻が届く直前で跳躍し、眉間を蹴って背に着地する。凄い跳躍力だな。俺には真似できない、てかしないけど。
俺は[タイダルウェーブ]を足元に放ち、進路を大きく逸れながら、[ロックキャノン]を後ろ足に目掛けて打ち込んでやる。
リュミは背中から、後頭部に目掛け、刺突を繰り出しているが、歯が立たないようだ。これは剣でどうこうできる相手ではないな。
リュミに降りるように声をかけ、[サンダーストーム]をお見舞いしてやる。
これはかなり効いたのか、動きを止め、耐えるようにしている。その足元に[エアブレイド]を放つ。やはり雷撃が一番効いてるようだ。
ならばこれはどうだ? 俺はシアッツ戦で会得した、仮称【紫電刀】を使う。気の利いた名前が思いつかなかったので、とりあえずの仮称だ。決してネーミングセンスが壊滅的なわけじゃないんだ。ホントだぞ。
紫色の雷光に輝く同田貫を奴の横腹に刺し込んでやる。切っ先はズブズブとその巨体に吸い込まれていった。そのまま下に向け、斬り下ろす。
『バオォォォッ』 と空気を震わす大音量の咆哮をあげた奴の傷口からは、大量の鮮血が噴き出し、俺を濡らす。
よし、いけるな。このまま一気に方を付けてやる。俺は奴の頭部に向け、大上段に斬りかかる。だが、その斬撃は立派過ぎる牙で受け止められた。
「くっ、これを止めるのか!」
雷を纏った刀は、その太い牙に傷一つ付けられていない。
その瞬間、俺の左顔面を何かが撃った。吹き飛ばされる俺。
どうやらあの長い鼻で殴られたらしい。意識が跳びそうになるのを必死で堪え、立ち上がる。すぐに走ってきたリュミが回復してくれるが、未だ頭がクラクラしている。
顔に手を持っていくが、掛けているグラサンは割れていない。以前トロルに顔面を撃ち抜かれた時もそうだったが、このプラスチック素材だったレンズが、どんなとんでも物質に変わってんだか。それにメガネなのに頭部全体が防御されてるって、まったく……。これだからファンタジーは頭の固い連中にバカにされるんだよな。まぁこれが俺の憧れ続けた夢の世界だ、文句は微塵もないけどな。
リュミが[シルバーショット]を放つが、全て牙と鼻で弾かれている。やはり雷撃しか効きそうにないな。リュミには遠距離から牽制に徹してもらい、俺が決めるしかないか。
リュミは広い空間を一杯に使って走り回り、あらゆる方向から銀弾を打ち込んでいる。奴が気を逸らしている内に、俺は魔力を循環させ、丹田に集めていく。そして充分に練られた魔力を魔法に変換させていく。
「喰らえっ、ジュピターストライク!」
眩い雷光が、脇腹より血を流す巨体を撃ち、今までにない咆哮が轟く。
そして、完全に動きを止めたその首を目掛け、紫に輝く刀を振り下ろす。
血を払った同田貫を鞘に収め、崩れ落ちた巨象を見やる。こんなの石オノだけで倒してた、はじめ人間たちはどんな戦闘力してたんだか? 『ゴンゴン』 言ってたわけだ。
「すごく強かったね」
リュミも傍に寄ってきて、その巨大な牙に触れている。
「ああ、俺たちはまだまだ修業が足りんな。それに、お前の防具も早々に何とか……んっ?」
話しながら巨大な遺骸を収納しようとして気付く。巨体の下に、鞘に収まった一振りの剣が落ちている事を。
「あれっ、そんなのあったっけ?」
リュミも小首を傾げている。
おそらくこれがドロップと言うやつだろう。どういう理屈かわからんが、魔物が武器やアイテムを体内に取り込んでしまったものが、倒された際に出現するという、あれだ。
抜いてみると、アイボリーホワイトに輝く美しいエストックだった。レイピアと同じく細身の刺突剣だが、刀身の中央はかなり厚みがあり、両側に鋭い刃がしっかりついている。
柄も長めだが、見た目に反してかなり軽い。刃渡りは90cmくらいあるのに、片手で持っても軽過ぎるくらいだ。刃は鋭いが素材は明らかに金属ではない。象牙か? とりあえず鑑定する。
大牙のエストック:[自己修復B][重量軽減][鈍化B] だと。リュミに持たせてみると、片手で軽々と扱っている。どうやら結構気に入ったようだ。
しばらく前から、愛用のショートレイピアでは短過ぎると感じていたらしく、また剣士レベルも上がってきて、刺突だけではなく斬撃も使っていきたいと想っていたらしい。
という事で、リュミは[大牙のエストック]を装備し、[真銀のショートレイピア]は[次元収納]に片付ける。いい剣だし、いつかまた使う事もあるだろう。それまでは俺の魔素を吸っててくれ。
背中に背負うか、と効いてやると、(わたし、もう小さくないもん!) と怒られた。
確かにリュミはもう小さくない。この世界の女性の平均身長がどんなもんか知らないが、リュミは既に高いほうだと想う。しかもまだ成長中だ。最近は肉付きも良くなって、決して豊満とまでは言えないが、スレンダーで手足が長く、バランスの良いプロポーションをしている。欲目で言えば、モデル体型というやつか。エストックを腰に佩びても問題はないだろう。
ふと、出逢った頃を思い出す。俺の周りをトテトテ走り回ってた、かわいい子犬のことを。
あの小さかったリュムくんが……。元気に育ってくれた事はホントにうれしいが、どこか寂しい気持ちを拭えない。いつまでもあの頃のままでいて欲しかったような。
親の気持ちってのはこういうものなのかねぇ? 子供がいなかったので俺にはわからんが。
「どうしたの、ラングリード様? 背中に背負ったほうがいいならそうするよ」
二度と戻れない、愛しいヒビに想いを馳せていると、リュミが不安げに問い掛けてくる。
「ああ、いや別にどちらでも構わない。使いやすいほうにすればいいさ」
いかんな。どうも柄にもなくセンチメンタルになってたみたいだ。あの頃のことは俺の記憶と心にしっかりと刻まれている。決して忘れることなんてない。会いたくなれば、いつだって会えるさ。なぁ、そうだろ、りゅむ! だからそれまでは、さよならだ。
少し不安げな表情で俺を見上げているリュミネリアの頭を軽く撫ぜてやる。若いお前にはまだわからんさ。追憶に心を遊ばせ、感傷に浸るのは、年を重ねた大人の特権だからな。
まぁ、0歳児の俺が言うのも何だけどさ……。
◇ ◇ ◇
その先も巨大魔獣ゾーンが続く。ロングタスクマンモスも数頭エンカウントした。大牙のエストックの硬さと切れ味は同田貫を越えており、マンモスの皮膚どころか、その牙を根元から斬り落とした時は、思わずマヌケな声を出してしまった。
マンモス以外で厄介だったのは、いわゆる一つのサーベルタイガー。鑑定すると、
セイバースメラノドン:HP1000/1000 特に何という特殊攻撃はないんだが、噛みつくと言うより、牙を突き下ろすような攻撃はかなり協力だった。意外に足が遅く、魔法のいい標的だったが。
ああ、[剣歯虎の短剣]というダガーを2本落としたな。これもエストック同様、美しく鋭い刃で芸術品としても価値がありそうだ。
そして遂に地下50に辿り着く。このダンジョンの最下層だ。恐竜、マンモスときて、最後は一体何が待っているのやら……。




