第4話 ギガントパイソン
同田貫の一閃が大とかげの首を跳ばす。ちなみにこいつはアシッドモニター HP270/270 洞窟などに住む酸を吐く凶暴なとかげ だ。
問答無用で襲い掛かってくる上、酸というえげつない攻撃を仕掛けてくるが、動作は速いのに、吐く前にはタメがあるし、吐いた酸は山なりなので躱すのは容易だ。むしろ鉤爪と長い尻尾攻撃のほうが厄介である。
俺もリュミも機動戦を好むので、あまり脅威にはならない。囲まれないようにだけ気を付けながら、1体1体斬り倒していく。リュミは早速弱点を見つけたのか、喉の下辺りを確実に突き、着実に倒していった。
一掃した後は爪を回収する。肉は臭いのでポイだ。とても食えないしね。
その後、広場から延びる横穴を探索し、その一つに下り階段を見つけた。早速下りる。
地下1は完全な迷路だった。しかも曲がりくねっているから方角が全くわからない。俺は早々に脳内マッピングを諦めた。オートマッピングできないかなぁ? できるといいなぁ。
アシッドモニターやツインヘッドパイソンなど、爬虫類系魔獣と、かなりの数エンカウントした。リュミが爬虫類上等の野生児でよかったよ。トカゲ食べてたとか言ってたしな。
ちなみにツインヘッドパイソンの肉は結構イケた。ササミっぽいが焼いたらかなりうまい。うちにははらぺこわんこがいるから、食材は有難いね。
気が付くと、リュミが俺を先導して進んでいる。しかもエンカウントする前から何が出るか教えてくれる。匂いでかなり先までわかるらしい。さすが超嗅覚の持ち主、頼もし過ぎるぜ、わんこの鼻。階段の場所がわからないのは、ちょっと断念だがな。
少し広めの空間を見つけて休憩する。リュミはリュックから水筒を出して水を飲んでいる。蒸したイモを軽く腹に入れ、30分ほど身体を休め、探索を再開する。
こんな調子で地下3まで進んで行った。通路の幅が徐々に広くなってきている。そしてその最奥、巨大な空間に一匹の蛇がいた。……冗談みたいなでかい蛇が。
ギガントパイソン HP900/900 [協賛] もうね、胴幅がリュミの身長くらいあるんだよ。これは昭和の特撮怪獣かっての。リュミも引き攣った笑みを浮かべている。
そして、鎌首を擡げた巨大な頭がこちらを捉えた。
っと、その瞬間、一気に接近してくる。蛇って動き出すと速いんだよな。武器を構える暇もない。
『ゴガァンッ』 と轟音を立て、蛇の頭が岩壁に突っ込む。粉砕された石が周囲にはね跳び、砂煙があがる。
……固いな。突進を右に避けた俺は、その巨大な胴に切っ先を突き入れるも、30cmくらいで止められた。逆側に避けたリュミは胴体の上に跳び乗り、剣を突き立てているが、渋い顔になっている。思うように刺さらなかったのだろう。このデカさでこの固さは厄介だ。
壁から頭を抜き、動き出した蛇の胴より跳び下りたリュミは、少し距離を取って、銀月魔法[シルバーショット]を大きな顔に向けて撃ちだしている。
この魔法は白銀に輝くゴルフボール大の球を複数連続発射するもので、一発一発が結構重い、エグい魔法である。
巨大な蛇の顔に、ドガドガといい音響かせてブチ当てているが、顔に向けて撃ってはいけませんって説明書に書いてなかったのか? PTAに禁止されそうな魔法だ。
大蛇も鬱陶しそうに頭を振っている。俺は反対側から風魔法[ダストデビル]を仕掛け、顔を中心に嫌がらせのような攻撃を繰り返し、開けた大口に向け、[ファイアボール]をブチ込んでやった。大蛇は苦しそうにのたうっている。
リュミは大蛇の尻尾攻撃を華麗に躱している。当たったら一発アウトの強烈な一撃だが、当たらなければ何という事もない。
俺たちは一旦距離をとり、様子を見る。
大蛇は右目が潰れ、口からはドス黒い血を垂らしている。やはり弱点は顔のようだな。ならば引き続き顔への集中攻撃だ。俺とリュミは正面から仕掛けようとした。
その時だった。ほぼノーモーションで大口から大量の液体が噴き出した。
「リュミィッ!」
叫ぶと同時に[アースマニピュレート]を念じる。咄嗟にバックステップしたリュミネリアの前に、土壁が立ちはだかり、液体の直撃から彼女を庇った。
だが、防ぎ切れなかった飛沫が、俺とリュミの身体にかかる。
ジュウゥッ、と嫌な音がして、顔や手に焼けるような痛みが走る。コートも何ヵ所かから煙が出ている。リュミも腕や足の防具が覆っていない場所を手で押さえて顔を歪めていた。
酸か! 作った壁からも煙が出て、徐々に溶かされているようだ。
……酸って普通こんな大量に吐くか? 常識ないのかこの蛇。邪道ならぬ蛇道か? リュミの顔に火傷跡なんか残してみろ、殺すだけでは済まさんぞ! 生きたまま小間切りにしてやる。
……、リュミに[ヒール]を掛けてた俺は、ふと妙なことに気付いた。わんこが何かニヤニヤしながらこっちをみている。何だ? まさか痛みで悦ぶような変な性癖にでも目覚めたんじゃないだろうな?
「わたしの顔が大事なんだぁ。えへへ、許さないんだぁ。わたしのこと先に回復してくれるしぃ。ラングリード様はぁ、わたしのこと、大好きなんだぁ……」
……。どうやら俺は思わず声に出してしまっていたらしい。迂闊だった。クソっ、このニヤケわんこめ、どうしてくれようか!
「バカな事言ってないで、さっさと構えろ。来るぞ!」
言いながら俺は奴の前に[ファイアウォール]を出す。そしてそれを迂回しようとする顔が現れるのを待って、至近距離から[紫電]をブチ込む。紫の稲妻が大蛇の左目を捉え、完全に破壊した。
だが油断はできない。蛇ってのはサーもセンサーを持ってるもんだしな。
とりあえず周囲を移動しながら、俺は[ストーンバレット]で、リュミは[シルバーショット]で、頭部を攻撃する。やはり俺たちの場所をほぼ正確に捉えているようだ。
だが動きは鈍っている。そこへリュミが突っ込み、潰れた左目の上からレイピアを突き刺す。さすがにここは深々と突き刺さる。
悲鳴は上がらない。尻尾の方からシューシューという大きな音が聞こえるだけだ。そういや蛇って鳴かないんだったか。発声器官がないんだっけ?
すぐさま剣を引き抜き、バック宙して背後にさがるリュミ。こいつはそのうち、[ドッグ空中三回転]とか会得しそうだな。その時は、わんこ先制と呼んでやろう。わんぱらり。
とか何とかアホな事を考えながらも、俺は[ジュピターストライク]を大蛇の頭部に落としてやる。
……使っといて何だが、何で地下に雷が落ちるんだ?以前外で使った時は、空に雷雲が現れて、そこから雷が落ちたんだが、今は天井からいきなり落ちてきたぞ。もしかして雷が地面をすり抜けてここまで届いたのか? いや、それなら途中の階に誰かいたりしたら、迷惑極まりないな。魔法って冷静に考えたらいろいろと恐いな。くわばらくわばら。
ギガントパイソンは頭の一部が床に転がり、首から下は、しばらくうねうね動いていたが、やがて動かなくなる。倒したようだな。
死体はどうするか? 牙は回収するとして、この皮、何か売れそうだよな。蛇革って結構高価だしな。だがこのデカさ、解体するのに何時間掛かるんだよ。……そうか、[次元収納]ならこのデカさでもそのまま入れとけるか。
面倒事はまた今度、だな。おかんが聞いたらマジギレしそうな事を考えていると、リュミが寄って来て、俺の腕に自分の両腕を絡ませてくる。何だ、いったい?
「へへへ、わたしのこと大好きなら、もっといっぱい可愛がってくれてもいいよ♡」
涙目で頭を抑えているリュミを放っといて、デカぶつを収納し、一息つく。
「何で? わたしのこと、大好きなはずなのにぃ……。おかしいなぁ。あっ、そうか! ラングリード様は照れ屋さん♡」
『ゴンッ‼』 とりあえず、もう一発拳骨を落としてから、先に進む。速く安全地帯を見つけて、ビバークの準備だ。
アマゾンの大セルバ地帯もビックリな、巨大爬虫類領域をさらに3階下った所で安全地帯を見つける。
ちなみに、勝手に安全地帯とか言ってるが、本来の呼び方は知らない。今度、赤葡萄酒色の心を持った人にでも聞いておこう。
この時点で、俺の剣聖がLv.5となり、[剣術S]が[剣聖術D]に変わっていた。
リュミの剣士もLv.5に達し、[剣術D]を得ている。
結構な激戦の繰り返しだったので、かなり疲れたし腹も減った。まずは傷を回復し、リュミにさっきの酸の跡が残っていないか確認する。
にまにましながら服を脱ごうとするわんこに、教育的指導をかましてから飯にした。
新鮮なツインヘッドパイソンの肉に塩をふり、焚火で炙って食べる。出来合いのスープとパンをつけて、ちょっとしたディナーだ。食べながら思ったんだが、ツインヘッドパイソンの肉がうまいなら、ギガントパイソンの肉もイケるんじゃないか? あれ何人前くらいあるんだろうな。
その後、それぞれの得物と防具の手入れをしてから寝る。いつもはリュミを先に寝かすんだが、今日はリュミの言葉に甘えて、先に寝かせてもらう。
なんか、(従者だから当然!) と譲らないリュミ。あの少女たちの影響か、こいつは俺の役に立とうと一生懸命だ。従者として役に立たなかったら、置いて行かれるとでも思ってるのか? 無理にそんな事しなくても、傍にいてくれるだけでいいんだがな。
当然、そんな事は口にはしない。図に乗らせるだけだからな。リュミが自ら俺の家臣を望んだんだ。ならば主従の関係はきっちりさせとかないとな。それはそれ、これはこれっていうやつだ。
そんな事を、焚火の炎に照らされたリュミネリアの横顔を眺めながら、薄れゆく意識の中で考えていた。




