第2話 Little Fair Lady quartet
一旦、彼らを宛がわれた部屋に帰らせる。少女たちには明日の朝一から俺の元で、まあ一つの面接が行われることになっている。せいぜい今夜のうちに作戦会議をするがいい。
でき得るなら彼女たちを一室に泊まらせ、合宿状態で、老妖どもから引き離しておきたかったのだが、それぞれ世話役が付いてきており、そうはいかなかった。ったくこれだから貴族ってのは!
そして俺は先代とアレクサンドラから話を聞く。当然俺はご機嫌斜めだ。
「ふふふ、意外に如才ない奴だな。あの老害どもに手玉に捕られぬとは。感心したぞ」
「うるせぇよ! ったく、こういうのは先に言っとけよな。お前の祖父母だとか言われたら真に受けてたところだぞ」
「申し訳ございません。お伝えする暇が……」
恐縮するアレクサンドラ。
「どうせ性悪魔王の差し金だろうが。気付かないとでも思ったか?」
「ご明察、恐れ入ります」
まったく恐れ入る素振りも見せずに宣うアレクサンドラ。
「バラすでないわ! まあよい。あの者どもは、神魔大戦時、我が軍の中堅を担っていた武闘集団だ。人間相手の集団戦ではそれなりに有用であったが、まあその辺が限界の連中よ。大戦終結後、名だたる上位者は打ち取られるか姿を消し、結果奴らが最上位になったというわけだ。フン、滅びゆくだけとわかっていても、地位や権力は惜しいらしいわ。良い機会だから、貴様に押し付けてやろうかとも思ったのだがな。うまく逃げられたわ」
「んなもん熨斗付けて返してやるよ。で、あの子供たちはどうしろと?」
「フン、慰み者にでもすれば良かろう。あの狼同様にな。……フフ、そう怖い顔をするな。あの娘は貴様にとっては逆鱗であったな。まあ、あの娘たちは貴様に仕える、というよりも抱かれる目的で宛がわれた者、あわよくば子を孕めば御の字というものだ。気に入ればそうすればよいし、気に入らねば放っておけばよかろう。年が気になるのなら、数年待てばよいことだしな。なかなか見映えはよい娘たちのようではないか」
「あの子らの背中に付いてる瘤が気に入らないんだがな。あれ、何とかならないのか?」
「諦めよ。臣を持つとはそういう柵を持つということだ。気にしていては切りがないは」
「ふぅ、つまりあの子らを俺の好きに扱っていいってことなんだな?」
溜息交じりに聞く俺。
「そういう事だ。あれはもう貴様のものになったのだからな。生かすも殺すも貴様次第よ」
自室に戻ると、退屈していたリュミが寄ってきて、みかんを分けてくれる。どうやら一人で採ってきたらしい。うん、疲れた頭にこの甘味は染みるな。
そしてこれまでのことを、リュミに説明する。一瞬で不機嫌になるリュミ。
「おヨメさんにするの?」
じとっとした目で俺を見てくる。
「しねえよ。まだ子供だぞ。だがな、俺も魔王という立場上、今後こういうのは避けて通れないんだよ」
とりあえず王という者の立場とか、周囲の者の思惑とかいろいろ説明する。3割も理解できていないだろうが、一応理解を示してくれた。自分が一のおヨメさんなら、まずは納得するらしい。その辺の考えは俺にはよくわからん。
まぁ、俺が何を言いたいかというとだ、あの子たちには罪はないから、遺恨を持つなってことだ。
そして明日からの面接等にリュミを参加させることにし、話を終える。
その日の晩御飯は俺が作った。決してリュミの機嫌取りではない。
献立はハンバーグ。いろいろと試行錯誤し、ようやく納得のいく物が作れるようになったからな。お披露目だ。ソースはデミグラスソースを完成させている。 俺個人はデミグラスよりも、とんかつソースを少しアレンジしたヤツのほうが好きなんだが、まだその手のソースが作れていない。
トマト、キャベツ、キュウリっぽい野菜を添え、焼きたてパンを付けて出来上がりだ。あの子たちにも食べさせたかったが、まずはリュミだ。そこら辺はちゃんとしておかないと、後々面倒になりそうだしな。
俺って意外に気遣いのできる男だったんだな、びっくりだ。
リュミの反応は推して知るべし、である。満面の笑顔でパクついている。パクついている。パクつくのが止まらない。どんだけ食うんだ、こいつは。
まあ、調子に乗って大量に作ったからな。全く問題ないんだが。俺も一つ食べてみる。うん、うまいな。ソースもしつこすぎず、いい感じだ。これを嫌がる子供はおるまい。食卓の定番になりそうだ。
腹をポンポコリンにしたリュミをベッドに残し、湯殿に向かう。元日本人だからな、湯船に浸からないと疲れがとれないんだよ。シャワーだけで済ませる奴の気が知れない。
俺と入れ違いにリュミも入る。こいつも結構風呂好きになったな。俺の悪影響か?
就寝前に部屋で寛いでいると、来客があった。それも4組。例の少女たちとお付きの侍女だ。就寝のご挨拶がしたいのだとか。
少女たちは皆、イブニングドレスではなく、薄絹のナイトドレスを着ている。しかも露出が多い。少なくとも男の部屋を尋ねる格好ではないな。寒くないのか?
4組が示し合わせてという雰囲気ではない。他者を出し抜こうとした結果、鉢合わせたって感じだな。侍女たちが険しい顔になっている。なるほど、こいつらの企てか、まったく。
少女たちは、恥じらいや蠱惑的と様々な表情で俺を見ている。何とも魅惑的な格好で、後4、5歳も上ならグッときたかもしれんが、如何せんこの歳じゃなぁ。風邪ひくなよ。
とりあえず入室を許可する。そして入って来た8人の視線が一点で固まる。そこには、ベッドに腰かけ、みかんをたべるリュミがいた。そりゃそうだよな。さて、どう説明するかな。
「あっ、あの、その方は?」
震える声で問うたのは、どの娘だったか。
リュミはおもむろに立ち上がり、俺の横に来て胸を張る。
「わたしは、ラングリード様の、お楽しみ!」
『ゴンッ!』 拳骨を落としてやる。最近こいつは妙な言葉を覚えてくる。犯人はあのメイドだろう。
実はこの城にもメイドがいる。勿論使い魔だ。俺とリュミの身の回りの世話をしている奴だが、なぜかリュミを気に入ったようで、よく二人で話し込んでいる。時々チラリと俺を見る二人の眼が妖しかったんだが……。
「こいつは俺の一の家臣で従者を務めるリュミネリアだ。お前たちが俺に仕えると言うのなら、先達ということになる。弁えろ」
未だおヨメさんがどうのと宣う、ワンコは放っておく。構うとややこしい事にしかならんだろう。
早々に挨拶を済ませ、這う這うの体で戻っていった4組。リュミはなぜか勝ち誇ったように仁王立ちで扉を眺めている。何やってんだか。
◇ ◇ ◇
翌朝、朝食を取った後、リュミと少女たちを伴い、訓練場へ向かう。ごねる侍女どもは追い返した。邪魔だ!
4人の少女はリュミが気になるらしく、ちらちらと伺っている。
さて、文武に優れているというのなら、それを見せてもらおうか。まずは武勇のほうだ。
それぞれに自前の獲物を持たせ、リュミと模擬戦をさせる。リュミにはちゃんと手加減するよう充分に言い含めてあるから問題ないだろう。大丈夫だよな? ちょっと心配だ。
1人目は金髪娘。獲物はオーソドックスな剣だ。なるほど、確かに優秀だ。攻守のバランスがよく、基本の型もしっかりしている。戦闘センスもいい。このまま伸ばせば相当な使い手になるだろう。
次は紫髪の娘。ほう、二刀流か。やや細身の剣を両手に持っている。この娘のセンスはさらに上をいっていた。攻撃主体で変幻自在、守りを軽視した危ういスタイルだが、速攻且つ、間髪入れない猛攻で相手を押し切っていく。他者が真似すれば害にしかならないが、この娘にはこれ以上ないスタイルだろう。
白髪の娘はフランベルジュと盾を使うか。この娘は守り主体だ。地に足付いた安定の身のこなしで、戦いを俯瞰で捉え、戦場全体を支配していくような戦い方だ。士官の才も伺える。
最後の長身黒髪の娘は槍を使う。中華風の衣装に流麗な槍さばきの美しさは目を奪われる。
リュミも今まで戦った事のないタイプの相手に楽しそうだ。4人とも期待以上の手練れだった。今後が楽しみだな。
それから俺も相手をし、少女同士でも戦わせる。その後、リュミは4人を連れて風呂に行った。さすがに俺は行かない。面倒な展開しか想像できないからな。
その間俺は昼飯の準備だ。リュミがハンバーグを所望だ。昨夜あんだけ食ったのにな。シチューも作っておく。昼からやや重いが、大人も子供もうまいもんを一緒に食えば、仲良くなれるものだからな。
リュミのがっつきぶりに引いたのか、最初は遠慮がちだった4人も、今はうまそうに食べてくれている。お互いに張り合っていた緊張も少しは緩んだようだ。この先どうなるにせよ、子供たちが大人の思惑で仲良くできないのは、見ていて辛いからな。これでいい。
午後はリュミ主導でミカン狩りと魔獣狩りをし、その後は茶話会をする。
できれば子供たちだけで遊ばせてやりたいが、俺が混ざらないと意味無いしな。リュミネリアが年の近い娘たちと仲良く話しているのは見ていて微笑ましい。若干お姉さん気取りだ。
こうやっていると、4人の特徴が見えてくる。
委員長タイプの金髪、我が道を行く紫髪、全てを包み込んで見守る白髪、物静かだが抜け目ない黒髪。
どうも俺は情が移りやすいらしいな。最初はどうやって追い返そうかと思っていたが、今では、この娘たちなら傍においてもいいかと思い始めている。
当然今すぐの話ではなく、いつか俺が王として君臨するような日が来れば、の話だがな。瘤は害になるなら、その時にでも切除するさ。
こうして少女たちとの三日間は、あっという間に過ぎて行った。
楽しい時間というのは、なぜこうも足が速いのだろうな。




