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魔王の名を継ぐ者  作者: 無明流一刀斎
第三章 魔境彷徨
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第13話 従者 VS 王

 ここは一体何階になるんだろうか? 正直、途中から数えるの忘れてた。まぁ、地下から始まってるから、数えてたってわからないんだけどね。


 とにかく俺たちは今、大広間の入口に立っていた。そしてそこには、50体程の武装したハイコボルトたちがこちらをにらんでいる。いくらなんでも多過ぎないか?



 そしてその中央には、他を圧する覇気を放つ1体が屹立きつりつし、その背後にはいかめしい鎧をまとった、一段大柄な奴が2体(ひか)えている。明らかにこの3体は別格だ。



 鑑定の結果、中央の柳葉りゅうよう刀のような肉厚の湾刀を握っているのがコボルトキング、背後の2体はコボルトジェネラル、だと。王様に将軍ね、ここで総力戦ってことか?




 俺たちは獲物を構え、ゆっくりと部屋に入る。まずは先制の範囲魔法か? と思案していると、重々しい声が広間に響き渡った。



「何用だ、侵入者よ! 何を求めて来た? この地の侵略か? それとも我が命か?」


 ……まぁ、そうなるよな。ゴブリンの時と同じで、俺たちは一方的な侵略者だ。RPGなんかをやっていると、正義の勇者気取りで洞窟や遺跡に攻め入り、抵抗する者を殺していくが、そこでやってる事って、虐殺ぎゃくさつ窃盗せっとう、押し入り強盗ごうとうの連続だしな。なんでそんな犯罪ゲームがR指定されてなかったんだ? 疑問だな。



「わわっ、トカゲがしゃべったぁ!」


 ……ここに至って、驚くとこそこかよ!


「喋って悪いか! 貴様も喋っておるではないか、この野良犬が!」


 キングが激昂げっこうする。


「犬じゃないもんっ、狼だもん! 狼はトカゲより賢いから喋れるんだもん! それにわたし野良じゃないよ。ラングリード様のものだもんっ!」


 ムキになってのたまうワンコ娘。


 オイ、言い方! 誤解されたら俺が社会的に詰むだろうが! まったくこいつは。


「ふんっ、貴様が誰の女だろうが知ったことか! これ以上貴様らの好きにはさせん。王たるこの我が相手をしてやる。ゆえに家臣どもには手を出すな! 我に勝てれば我々は貴様らに従おう。我が勝ったら、……そうだな、貴様を我の嫁の独りに加えて、こき使ってやるわ」



 ほら、やっぱり誤解されてるじゃんか。にしてもこのキング、家臣を守るために自分が戦うとはね。嫌いじゃないな、こういう真のガキ大将タイプの奴。



「そんなのダメっ! わたしはラングリード様のおヨメさんだから、トカゲなんかのおヨメさんにはならないよ! ねっ、ラングリード様?」


「違う! 俺は嫁なんて持ってない」


 即答してやる。何言ってやがんだ、まったく。


「ええ~! 何で? 一のおヨメさんにしてくれるってぇ」


 心底驚くリュミネリア。


「言ってない! お前が勝手に言ってただけだ。それに大きくなったらッて話だったろうが」


「うう~、ズルい。あっ、でも大きくなったらいいんだぁ!」


 ぱぁっと笑顔になるリュミネリア。


「いや、そのなんだ、まぁ、あくまでそういう展開も無くはないというか、そのくらいの話だからな。可能性の一つというか何と言うか」


 必死に誤魔化ごまかす俺を、言質げんちは取ったとばかりに見つめるリュミネリア。背中を冷や汗が垂れる。こいつ目がマジだ!



「貴様ら我を無視して何をイチャついておる。王を愚弄ぐろうするか!」


 御冠おかんむりのキング。



 その時、リュミネリアが世界を凍り付かせた。


「王様? ……一番ちっちゃいのに王様なの?」


 オイ~、空気読め、空気! 皆そこから目、そらしてただろうがぁ! 無邪気とかいう都合のいい言い訳が通じる雰囲気じゃないぞ、これ。



 そう、コボルトキングはチビだった。従えているジェネラルは2体とも180cmはある巨漢だが、キングはおそらく150cm無い。スタンダードコボルトよりも低い。今や155cmに達したリュミネリアから見ても、かなり小さいのだろう。だからって、言っていい事と悪い事ってもんが……。



「へ、陛下。その、なんです。背の高低など王の資質に何の関わりもありませんぞ!」


「そっそうです陛下。陛下は偉大な王ですぞ!」


 必死に取りつくろう2体のジェネラル。


 ……いたたまれない。もう謝って帰ろうかな。




「貴様、よくもこのような残虐ざんぎゃくな心理攻撃を。許さぬぞ!」


 涙目でのたまうキング。


 まったく状況を理解していないリュミネリアが一歩進み出る。



「わたしは魔王ラングリード様の一の家臣、リュミネリア・ファントムウルフ。ここでお前を倒してラングリード様の一のおヨメさんの座は、わたしが貰う。お前もおヨメさんになりたければ、一騎打ちでわたしを倒して奪い取れ! いざ、尋常じんじょうに勝負だぁ!」


 【魔王】の一字に、ビクリと身体を震わせた2体のジェネラル。だが、トサカに来ているキングには冷静な判断など、もはや期待できない。



「貴様などに渡すものか! 一の嫁の座は、貴様を倒して我が貰う! 吠えづらかかせてくれるわ!」


 言い放つキング。



 今ここに、俺の嫁の座を巡り、狼とトカゲ、いやコボルトの激しい戦いの火蓋ひぶたが切って落とされたのである。



 って何だこの展開! もう趣旨しゅしが全く理解できない。それはジェネラルや他のコボルトたちも同じようで、皆、一様に遠い目をしている。おそらく俺も同じ目をしているのだろう。彼らに強いシンパシーを感じる。


 っていうか、いつの間にリュミネリアが一人で戦うって事になってるんだ? そんな許可出してないぞ。それにそいつはマジ強いぞ……。



 そう思った時、(キャアッ) という悲鳴とともに、リュミネリアが吹っ飛んで来た。



「リュミィ!」


 思わず抱きとめる。特にダメージはないようだが、軽く5mは飛んで来たぞ!



「一騎打ちと言いながら、助勢を得るとはな、所詮しょせん下賤げせんか?」


 嘲笑ちょうしょうするキング。


「一騎打ちと言いながら、俺にも攻撃を仕掛けるとはな、それでも王か?」


 挑発し返す俺。なんせリュミネリアが負けたら俺はあれを嫁にしないといけないらしいからな。絶対に御免だ!



「う~ん、すごい力。剣で受けたのに吹っ飛ばされた」


 そう言いながらも俺を見上げ、照れたような顔をするリュミネリア。どうしたんだ?



「へへへっ、リュミぃって呼ばれた……。リュムって呼ばれてた時みたいで、なんかうれしい。ちょっと元気出たぁ。絶対負けないから、時々そう呼んで欲しいな」


 はにかみながらそう言うと、リュミネリアは、キッと敵をにらむ。そして、


「夜を支配する銀月よ、我が心の狂気を解き放て。ルナティックブースと!」



 リュミネリアの身体を、いつもとは違う刺々(とげとげ)しいメタリックシルバーのきらめきが覆っていく。その直後、リュミネリアは弾かれたように敵に突進して行った。



 銀月魔法[ルナティックブースト]とは、心の狂気を解き放ち、攻撃力とスピードを大幅に向上させる魔法である。その代償として、防御力が大幅に低下する諸刃もろはの剣だ。

 元々防御力の低いリュミネリアにとっては、一撃受ければ即致命傷になりかねない危険な魔法だ。



 だが、今のリュミネリアには無用の心配だった。迎え撃つキングの斬撃は、リュミネリアノ残像をむなしく斬るだけで、本体を捉える事はかなわない。捉えたかと想えば霧散し、別方向から刺突がかかる。

 それどころか、キングは全くあらぬ方向に斬り込み、完全にすきさらしている。まるで勝負になっていない。



 あれは……、[幻惑]か?


 リュミネリアノ持っていたスキル、[幻惑]。おそらく幻狼族の固有スキルと思われるが、どんなスキルかいまいちわかっていなかったんだがな。


 かつて魔王の右腕と言われた幻狼族の戦士。Lv.1,000の魔王とこまを並べた存在。これがその強さの一端いったんなのだろうか。こいつはどこまで強くなるんだろうな? その時、俺はこいつの主に相応しい存在でいられるのだろうか?




 間もなく決着は付いた。キングは湾刀を落とし、全身から血を長しひざをついている。


「……、我の負けだ。殺せ! だが、家臣たちには寛大かんだいな処置を頼む」



「おっ、お待ちください、魔王様!」


 そこにジェネラルが割って入る。


「魔王様がお越しになられたというのに、出迎えるどころか刃向かった我らの罪、万死に価する事は承知しております。されど、それは全て、王をいさめなかった愚かな臣の罪。どうか私の首一つでお怒りをお沈め頂きたく——」


「——一つとは申しませぬ。愚かな私の首もささげまする。ゆえにどうか王の命だけは……」



「貴様ら、余計なことを! 家臣の命をかてに生きようとは思わぬわ! それでは王としての……? ん? 魔王? ……今、魔王と申したか?」


 キングが目を見開く。ようやく気付いた?



「ああ、名乗りが遅れてすまんな。俺の名はラングリード。魔王ラングリードだ」


 面倒臭いので、名乗りとともに[魔王覇気]をはなっておく。これで理解できるだろう。今後は印籠いんろうでも作って、リュミネリアに持たそうかな。



  ◇  ◇  ◇



 岩山ダンジョンの大広間に用意されたソファーに座る俺とリュミネリア。


 その前には、コボルトたちが一斉にひれ伏している。ああ、キングは回復しておいた。


 で、彼らの話を聞く。どうやら彼らは部族的にかなり追い詰められていたようである。



 実はこの岩山ダンジョンの出入り口は、岩山の中腹にあるんだそうだが、いつからかその周囲に強力な魔物が住みつき、外に出られなくなったんだそうだ。何度か討伐を試みたが、全て失敗し、ただ悪戯いたずらに家臣を失っただけだった。


 食料も底を尽き始め、後が無くなった頃に、タイミング悪く俺たちが攻め登って来たと。それであんなに悲壮感たっぷりだったわけね。


 地下に入口あったぞ、と教えてやったが、(あんな深い穴からどうやって出れば?) と真剣に聞かれた。そりゃそうか、ごめんよ。


「ちっちゃいもんね」


 リュミネリアノつぶやきは、全力で聞かなかった事にする。



 まぁ、俺が足場作ったから出入りできると思うが、その魔物とやらも何とかしないとな。




 コボルトたちは皆俺の傘下さんかに入った。キングと2体のジェネラルは直臣じきしんとして契約を結び、名を与える。


 キングの名は【ゴルドヴァルト】。意味はない。見た目が小さいおっさんなので、せめて名前だけでも威厳いげんを持たせただけだ。2体のジェネラルには、【ゴルディアル】と【ゴルディエル】。右に立ってたからR、左はLとかそんな安直あんちょくな……まぁそうなんだけどさ。



 3体、いや3人の喜びようは、もうウザいレベルだった。後は魔物退治だな。




 この段階で、俺の剣士がLv.30を越え、上位ジョブである[剣聖]へとクラスアップし、Lv.3になっている。ジョブ魔王もLv.4になっている。剣術スキルはSとなり、もう一端いっぱしの剣士と言っても過言ではないだろう。[雷撃魔法]もBに上がっている。


 リュミネリアは[戦士Lv.25]となり、[短剣術A]となったところで、ジョブを[剣士Lv.1]に変え、現在Lv.2へと上がっている。どうも剣術を覚えたいらしい。

 ジョブ[戦士]は使う武器によって上がる技術が変わり、ナイフを使っていたリュミネリアは[短剣術]を会得していた。だが、ショートレイピアに持ち替えたので、[剣士]に成りたかったようだ。


 時々ザコ相手にはナイフで戦って、[短剣術]はAまで上げていた。結構いい感じになってきてるな、俺たち。

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