第12話 ホネホネロック
スケルトンを一掃し、少し休憩する。軽い食事を取りながら、アンデットの概念を講義する。リュミネリアは、(うん、他のモンスターと全然匂いが違った。覚えた!) とか言っている。どうも俺とは物事の捉え方が違うらしい。やっぱりわんこだな。
とかやってると、リュミネリアが鼻をヒクひくさせだした。階段を見ている。
「上からホネホネの匂いがする。こっち来てるよ、いっぱいいる」
言われて俺も気付く。確かに階上から気配がしている。敵察知能力はもう抜かれたみたいだな。まったく、どんどん頼もしくなってくるな、こいつは。って、ホネホネって何だ?
立ち上がり体勢を整える俺とリュミネリア。その視線の先、広い階段の上から、白い骨たちが下りて来た。一見スケルトンと大差ない。違いは一つ、武器と防具を装備している事だ。剣と盾を持ったスケルトンソルジャーと兜と鎧も着けているスケルトンナイトだ。
スケルトンソルジャー HP130/130 死霊 [剣術D] スケルトンナイト HP200/200 死霊 [剣術B][カース]
スケルトンとは段違いの強さだ。特にスケルトンナイトは剣術ランクも高い上、[カース]が厄介だな。効果は全ステータス低下だそうだ。気を付けないといけない危険なスキルだが、気を付けてどうにかなるのか、これ?
「鎧着てる奴には気を付けろ。強いぞ!」
注意を喚起しておいて、[ファイアボール]を打ち込み、そのまま斬り込む。
リュミネリアも[シルバームーンレイ]を使って相手を寸断してから、数体のグループに突っ込んで行った。彼女のショートレイピアは一撃でスケルトンソルジャーを葬っていく。やはりミスリルってのは、アンデットに有効みたいだな。
俺はバスターどそーどを振るい、スケルトンソルジャーを薙ぎ払う。が、スケルトンナイトはそうはいかなかった。ヤツは剣と盾を巧みに使い、剣術を駆使して俺の攻撃を迎え撃ってくる。
左凪ぎに首を跳ね飛ばすが、何事もなかったように反撃してくる。一瞬焦るが、冷静に考えると、まあそうか。アンデットにとって頭なんて飾りなのだろう。偉い人にはわからんだろうがな。
こいつらは、斬るんじゃなくて、叩き潰すべきだな。
3体目のスケルトンナイトを片付けていると、リュミネリアが変な声をあげる。『ふにゃあ』 っとか、気の抜けた声だ。何言ってんだ、あいつ。
見ると、スケルトンナイトと対峙していたリュミネリアが、何かフラフラしている。
そんなリュミネリアに斬りかかろうとしていたスケルトンナイトに向け、[アースクロー]を放つ。大地から3本の爪が走り、骸骨騎士を切り裂き、破壊した。
駆け寄って抱きとめた腕の中で、リュミネリアは蒼い顔をしている。
「身体に力が入んない。何これ? 気持ち悪いよ」
鑑定すると、[カース]が付いていた。やられたな!
近付いてくるスケルトンどもに、[サンダーボルト]を唱え、リュミネリアに[ヒール]を使うが、当然[カース]は消えない。
そこで思い出す。銀月魔法にそういうのがあった事を。それを使わせると……。
「聖なる銀光よ、邪な呪いを消し去れ、[ムーンライトディスペル]! あれ、なんか楽になった。治ったみたい」
だと。効いたみたいだな。にしても銀月魔法、ハンパないな。
元気になったリュミネリアは、お返しとばかりに、[サンダーボルト]でボロボロになってる骸骨騎士たちに[シルバームーンレイ]でトドメを刺している。容赦ないな。
その後は残った敵を二人で駆逐し、戦闘終了だ。ふぅ、結構疲れたな、水分補給をしておこう。
さて、階段を上がるか。俺はゆっくりと階上を目指す。元気なわんこは止める間もなく走り上がって行った。だから警戒しろって。
駆け上がる後姿を眺めながら、ふと思う。こいつなんか脚長くなってないか?
俺のかわいいチビッ子リュムくんが、いつの間にかスレンダーで手足の長いスポーティーな体型に。今後はほど良く要所に肉が付けば申し分ないんだがな……。
とか考えていると、階上から、(早く、早く) と手を振るわんこ。
身体の成長に比べ、精神の成長が送れている気がする。大丈夫なんだろうか? 俺に子供の教育なんて求められても困るぞ。
こんな感じでどんどん上へと進んで行く。かれこれ10階くらいには来ているだろうか? 途中、骸骨系アンデットだけじゃなく、半透明な[ゴースト]や宙を浮いてる[レイス]なんかも現れたが、真銀の剣と魔法で対処していく。
物理攻撃専門の連中にはキツい場所だろうな。
にしても、これだけ登れば、ここが何処か見当は付く。あの岩山の中だろうな。問題は一体何階まであるのかって事だな。いい加減疲れてきたぞ。
と思った頃に安全地帯? の部屋を見つける。よかった、ここで一泊しよう。お腹もすいたしな。
[ウォッシュ]で身体をキレイにしてから食事にする。献立は根菜と肉たっぷりのシチューと焼いた厚切りベーコン、そして固めのぱんだ。
少し固めのパンをシチューに浸すとうまいんだよな。リュミネリアも夢中で食ってくれてる。この食いっぷりが何よりの報酬だな。
その後は交代で眠る。大丈夫だとは思うが、さすがに二人とも眠るのはな。
◇ ◇ ◇
翌朝、ここを越えた辺りから、毛色の違う敵が現れた。鉤爪を持った二足歩行のトカゲっぽい奴だ。頭にはトサカが付いてる。顔は何となく犬っぽく、粗末だが布服を着ている。
って事は、やっぱりアレか? 鑑定の結果、予想通りだった。
コボルト HP220/220 洞窟や坑道に住む下級魔族 だ。ゲームなんかではコボルトと言えば服着たわんこのイメージだが、これが本来の姿だろう。あれ、確かゴブリンの語源もコボルトだった気がするが……、まあ気にしない気にしない。
試しに話しかけるが、通じなかった。殺るしかないか。
コボルトは純粋に力が強く、動きも俊敏で、スケルトンナイトより強かった。
リュミネリアも時々傷を追っている。こまめに回復しながら倒していくが、何体住み付いてんだ、キリがないぞ。おっと、鉤爪を躱し損ねて左腕に裂傷を受け、血が跳ぶ。
「慈愛の癒しを! [ムーンライトキュア]。」
隣からリュミネリアノ魔法が掛かり、痛みが和らいでいく。実は銀月魔法にも治療魔法が含まれていた。回復度合いは[ヒール]と同等だが、精神異常改善[メンタルキュア]の効果も含んでいる、かなり優れた魔法だ。
「すまんな、助かった」
礼を言う俺に、笑顔を見せるリュミネリア。いつしかお互いの背中を預けながら戦っていた。妙なものだ、見ていないのに背後のリュミネリアがどんな動きをしているのか、次にどう動くのかが、手に取るようにわかる。ずっとお互いの戦いを見て、互いにフォローし合ってきたからな。こいつが傍にいると思うだけで、安心できる。
最後のコボルトを斬り倒し、さらに上のフロアを目指す。
ちなみに爪は素材として役に立ちそうなので、回収していく。骸骨たちの持ってた武器なんかも、ちゃんと回収してある。収納に余裕がありまくりなんでとても助かるな。錬金の材料や売り物になるだろう。
さらに上に向かう。1フロアはコボルトと戦いながら、1時間弱で回れる。特に目を引くような部屋も無いしね。そろそろ20階くらいかと思った頃、変化があった。
一回り大きい個体が現れたのである。これまでのコボルトは身長150~160cmぐらいだったのが、明らかに175cmくらいある連中である。しかもそいつらは筋肉量も多く、そして剣や槍を持っている。鑑定すると、ハイコボルトとあった。コボルトの上位種ね。
見た目がかなり怖いんですけど。しかも知恵も回るのか、いきなり襲ってくる事はなく、こちらの動きを伺っている。リュミネリアも突っ込まず、慎重になっているようだ。えらいぞ。
5体の武装ハイコボルトが連携を取りながらこちらににじり寄ってくる。俺は中央の1体に向け、[ファイアボール]を飛ばす。炎の玉は正面から奴を捉えた。
それを合図に右の2体を俺が、左の2体をリュミネリアが受け持ち、駆け出す。
槍を持った奴の突きを躱し、もう1体の剣と斬り結ぶ。決して一ヵ所にとどまらず、常に身体の位置を変えつつ剣と槍を捌きながら、[紫電]で攻撃する。一撃で仕留められるようなヤワな連中ではないようだ。
リュミネリアを見ると、剣を持った奴2体を相手に、動き回っている。スピードでは圧倒しているか。中央にいた奴も全身焦げてはいるが、死んではいない。強いな!
HPも350あり、これまでのモンスターの中では最強レベルだ。
俺は数歩さがり、[マッドバインド]を唱える。これは[土B]の魔法で、相手の動きを止めるものだ。ネバついた泥が2体のハイコボルトを襲う。
2体のうち、槍持ちが泥に身体を捕られもがいている。それを抜けてきた剣持ちに[紫電]を放ち、それを剣で受けた隙に胴を薙ぐ。
そのまま奴らの背後に向かい、全身火傷で動きの鈍い1体の首を跳ねる。
その勢いのまま、リュミネリアの獲物の1体に斬りこみ、彼女から引き離す。
「ハァっ、ハァっ、ハァっ」
荒い息をつきつつ、眼前の1体と鍔迫り合いを演じながら、リュミネリアを確認すると、その剣がハイコボルトの喉に突き刺さるところだった。
『グゲェエ』 という断末魔を残し、剣士は崩れ落ちる。それに気を取られた奴を、俺のバスタードソードが袈裟切りにし、そいつは大量の血を噴き出させ背後に倒れていった。
一瞬、リュミネリアと視線を交わらせ、そのまま槍持ちを見やる。だが、奴は泥の拘束を逃れ、退却を始めている。
その後姿に[ライトニング]を放つが、片腕を穿っただけで倒す事は叶わず、奴は階上へ駆け上がって行った。チッ、逃したな。
一息つき、リュミネリアを見ると、腕や足に傷を負っているが、自分で回復しているようだ。俺も自分を回復し、二人で水を飲んで少し休憩する。
それから意を決して階上を目指す。
上のフロアには誰もおらず、さらに2階分を上がったところの大広間に、奴らは待ち構えていた。
そう、決死の面持ちで……。




