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魔王の名を継ぐ者  作者: 無明流一刀斎
第三章 魔境彷徨
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第11話 新たな狩り場

 目が覚めると、何かが腰の辺りにまとわり付いている。見ると、わんこ、いやリュミネリアが抱き付いて眠っていた。


 俺はいつ寝たんだ? よく思い出せない。何かあった気がするんだが……。時が見えた気が……。なぜか痛むあごさすりながら、少女を起こさないようにベッドを出る。


 軽く着替えて洗面所に向かう。[ウォッシュ]を使えばいいんだが、洗顔や歯磨きはちゃんと水を使ったほうが気持ちいい。まぁ、気持ちの問題だろうけどな。




 その後、訓練場で剣を振る。最初は城の周りを走っていた。あらゆる武術やスポーツの基本は、結局のところ、足腰と体幹だ。そしてそれを鍛えるには走り込みがベストだろう。泳ぐのもいいだろうが場所を選ぶしな。


 だが、正直数十km走っても大して疲れない。魔王の身体ってまったく……。これって意味あるのか、悩んで一旦やめた。今度ピッコロさんのマントみたいなの作って走るかな。そんな素材あるのか? とにかく、今は実戦にそくした訓練をしよう。




 一汗かいたところにリュミネリアが顔を出す。


「オハヨッ、起きたらいないから……。一人で訓練してたの?」


「ああ、おはよう。よく寝てたみたいだから起こさなかった。ところで昨夜、俺いつ寝たっけ? なんかあごが痛いんだが、知らないか?」


「知らないっ!」


 なぜか急にふくれっつらになったリュミネリア。地雷踏んだか? 練習用の剣を手に向かってくるリュミネリアノ首元には、銀の鎖が輝いていた。




 その後、1時間程二人で打ち合い、汗を流して食堂へ向かう。相変わらずうまくてボリューム満点の朝食だ。この城での飯もこれでしばらくお預けか、と思うと何かこう来るものがあるな。


 リュミネリアも大好きだったからな、俺もその内このくらいの物を作ってやれればいいんだが。う~ん、道は遠そうだ。



 アレクサンドラから新たな狩り場は聞いている。ゴブリンダンジョンとは逆方向に数日進んだ所にある岩山の周辺だ。数段強い魔物も住みついてるし、結構深いダンジョンもあるとの事だ。実に楽しみである。


 リュミネリアもわくわくだ。まあ、こいつは単に、遊びに連れて行ってもらう子供みたいなモンだろうがな。単純にお出掛けがうれしいんだろう。



  ◇  ◇  ◇



 出発して4日目、遠くに岩山が見え始めた。明日には到着するだろう。だいぶ寒くなってきたので、冬服に変えている。もう少しすれば、作ってあるマントも必要になるだろう。



 森の中で焚火たきびをし、さっき倒した[フォレストボア]の肉を焼いて食べる。ラビットトードの肉に比べ、固く大味だが、噛めば噛む程肉特有の旨味があふれてくる。

 昨今の日本では柔らかい霜降りがいい肉だとあがめられているが、俺はこういう肉食ってるって実感させてくれる歯応はごたえのある肉は結構好きだ。


 リュミネリアは……うん、食いっぷり見てれば聞くまでもないな。こいつは何でも文句言わず食うが、好きなもん食う時は、顔とテンションが違う。



 腹をさすってご満悦まんえつのワンコを先に寝かせ、……もうわんこでいいだろ。俺はAF(アーティファクト)作りの練習をする。あのシルバープレートは結構綺麗きれいにできたが、いろいろな貴金属や宝石を使うと結構難しい。そのうち高値で売れるような物ができればいいんだが。



 時々小型の魔物が近付くが、軽く[魔王覇気]を飛ばしてやると逃げて行く。5時間程して、リュミネリアと見張りを交代して眠った。



  ◇  ◇  ◇



 岩山付近に到着すると、魔物の種類が変わる。ボア系のものも一回り大きい種類が現れる。[グレートオストリッチ]や[ウィルダネスバイソン]など肉がおいしい魔物が多いので、リュミネリアは大喜びで狩っている。その姿は狼戦士というより野生児だ。モーグリーか?




 さて、とりあえずここにあるというダンジョンの場所でも確認しとくか。と思ったのだが、……見つからない。魔物を狩りながら既に3時間は探しているが、一向に見付からない。というか、荒野なんてどこもかしこも同じ風景で、岩山から見た方角ぐらいしか探索材料がない。



 困ったな、と思っていたら、リュミネリアが何かを見つけた。岩陰に開いた竪穴だ。


 これがどうした? と中をのぞいていると、リュミネリアいわく、ダンジョンの匂いがするらしい。何だよダンジョンの匂いって、なんかくさそうで嫌だぞ。っと思ったが、確かに穴の中は魔素が濃そうだ。わんこの鼻、恐るべし。俺匂ってないよな?



 どうやらここで正解っぽいが、どうしたものかな? 直径5mくらいの竪穴に階段なんてついてない。深さもわからないので、飛び降りるわけにもいかない。


 そこで[アースマニピュレート]で足場を造りながら、徐々に下りて行く。20mくらい下りた辺りで底に着いた。そこから横穴が続いている。


 [ライティング]の光を頼りにしばし進む。リュミネリアには[夜目]スキルがあるが、これは夜のように月明りや星明りというわずかな光源があれば昼間と変わらないように見えるが、[暗視]と違って光が皆無の地下なんかでは役立たない。


 松明たいまつで片手をふさがれない分、照明の魔法は便利である。便利なものは当然使う。文句ある?




 しばらく進んで行くと自然壁が人工的な石壁に変わる。洞窟がいつしかラビリンスに変わってたっていうとわかってもらえるかな? やはりここはダンジョンで間違いないらしい。


 そして前方よりズングリムックリしたのがわらわらいて出た。身長は拾った頃のリュミネリアくらいか、二足歩行のドブネズミみたいな連中だ。


 ラットマン HP50/50 地下道や坑道に群れで住む スキル:[ポイズンネイル] だそうだ。灰色のフードをかぶったナイスなアイツではなく、ブラウン・ジェンキンって感じで、何か不気味だ。弱いけど数で押してくる魔物か? [ポイズンネイル]ってスキルが地味に嫌だ。腕短いのが救いか?


「行くよっ!」


 元気に跳びだすリュミネリア。


「爪に気をつけろ! 毒持ってるぞ」


 そう言う俺の言葉に、(わかったぁ) とだけ返すが、ホントにわかってんのか? 心配だ。



 ショートレイピアを振るい、ネズミ男どもを蹴散らしていくオオカミ娘。俺は[ファイアアロー]で確実に燃やしていく。鼠は不潔だからちゃんと焼却しないとね。


 最近は魔法での戦闘にも慣れ、的中率が格段に上がっている。またレベルが上がったからか、初級魔法の威力も上がっており、[ファイアアロー]1発で、鼠を2、3体を仕留められている。ついでにリュミネリアが倒した遺骸いがいも燃やしていく。結構広いから酸素は大丈夫だろう。




 横穴に入ってから、かれこれ1時間くらいは進んでいる。ほぼ一本道なので迷う事はない。時々壁の穴からラットマンが跳び出してくるが、その穴は小さすぎて、リュミネリアですら入れない。うんうん、ちゃんと育ってるみたいだな。どこがとは言わないが。



 そしてとうとう行き止まりに扉を見つける。迷わず開ける。迷う理由はない。




 中は30m²ぐらいの広間で、奥に登り階段が見えている。そして部屋のあちこちに人間のっぽい白骨が転がっている。しかもご丁寧に1人分がまとまって。全部で20体分ほどあるかな。


 ……不自然だ、これを不自然と思わないのは、隣の狼娘くらいだろう。



「骨しかないねぇ。ここってお墓なのかな?」


「埋葬されていないのにか? それに放置されてる骨ってのは普通あんなに白くねぇよ。誰かがみがきでもしなきゃ、あの白さは不自然だろ。その割には人の手が加わった形跡がない。って事は……」


「ホントだ、すごく白いね。土も付いてない」


 不用意に近付き、触ろうと手を伸ばすわんこ娘。


「バカッ、離れろ!」


 咄嗟とっさに叫ぶが、遅かった。リュミネリアノ足元で白骨が動き出し、たちまち1体の骸骨がいこつが立ち上がり、リュミネリアノ頭を掴もうとする。


「わわっ、何これ? 急に動き出した」


 その手を逃れて数歩さがる。

 避けたリュミネリアを追おうとした骸骨がいこつを、上段から叩き斬る。手応え充分、唐竹に股まで斬り裂かれた骸骨がいこつは、カラカラと軽やかな音を立てて崩れ落ちる。


「ビックリした。死体のフリしてるなんてズルい」


 崩れた骸骨がいこつを爪先でつっ突いている。


「ズルくありません。勝つためには何でもするのが戦いです。兵は詭道きどうだと何度も教えてるだろうが。大体お前はいつもいつも……」


 その時、部屋中で何かが動く音がした。広間に転がっていた無数の骸骨がいこつが一斉に起き上がったのだ。まあ、そうなるよな。



 スケルトン HP80/80 死霊 だそうだ。死霊ね、アンデットモンスターってヤツか? 弱いのが救いだな。特に何のスキルや魔法も使えないようだし。とりあえず全て叩き潰す。




 あと5体くらいかって時に、リュミネリアが声を上げる。


「わぁっ、また起きてきた。やっぱりズルい!」


 だからズルくないっての。アンデットなんだからそりゃそうだろ。放っておいたのは、ホントに復活するかを試してただけだ。



「ファイアボール!」


 一斉焼却だ。4、5体が一気に吹き飛び燃え上がる。


「火の球、すごいね。燃やせばいいのかぁ」


 感心しているリュミネリアに、銀月魔法を試させる。実は鑑定できるようになったので、いろいろ見たところ、[ムーンライト]以外にも魔法を習得しているのがわかった。その一つを試すチャンスだ。


「うん、試してみる。聖なる銀月の光よ、不浄なりし物を撃て、シルバームーンレイ! わっなんか出た」


 詠唱したリュミネリアノ頭上から、銀色の光が前方の骸骨がいこつ

向かって放たれ、3体のスケルトンを消滅させた。


「やった! これ、すごい!」


 初めて使った攻撃魔法に大喜びのリュミネリア。


 ……効果は想像どおりなんだが、思ってたより協力だな。どうやら[銀月魔法]ってのは、神聖な力が宿っているらしい。アンデットには有効だろう。ダンジョンや密閉空間では、俺の[火魔法]より、よっぽど使い勝手がよさそうだ。げ臭くなったりしないしな。



 こいつはいつの間にか、庇護対象の子供から、背中を預けられる相棒に昇進しつつあるようだな。少しさびしい気もするが、この成長は頼もしい限りだ。

 

 どうやら、子連れもそろそろ卒業が近いようだな……。

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