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魔王の名を継ぐ者  作者: 無明流一刀斎
第三章 魔境彷徨
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第10話 二つの月のせれなーぜ

 魔王城に戻ってしばらくはゆっくりする事にした。いろいろと試したい事もあったしな。

 まずはリュミネリアとPT(パーティー)を組む。鑑定が可能になったのであっさり組めた。組んだからといって何が変わったわけでもないが、えて言うなら、リュミネリアがどこにいるか、何となくわかるようになった事か。それは向こうも同じらしく、用のある時は、的確に見つかってしまう。別に隠れてないけどさ。


 リュミネリアにはプライバシーって概念を教えておく必要があるだろうな。


 午前中は訓練場で戦闘訓練をし、午後は梨狩りに行く。勿論もちろん他の果物やラビットトードも狩ってるよ。次元収納のおかげで腐らせる心配はないからな。


 その他の時間は調味料や食材の研究をしている。味がわからないと料理に仕えないからな。これにはアレクサンドラにも協力してもらっている。つまり、俺の記憶にある調味料や食材と、この世界にある物を比較し、似ている物を探してもらったりしている。

 これでかなり料理のバリエーションが増えた。元々一人暮らしで最低限の料理はしていたが、お世辞にも料理が得意などとは言えないレベルだった上、目が見えなくなってからは、できる料理が限られていたから、大した料理は作れないんだが、アレクサンドラに作り方を調べてもらえば、簡単な物なら何とかなりそうだ。


 喜んで食べてくれる奴もいるので、作り甲斐がいがある。やはり料理ってのは誰かに食べてもらってこそだな。



 夜、リュミネリアが寝てからは、少し[創造錬金]の練習をしている。ゴブリンに貰った貴金属や宝石を加工し、アクセサリを作っている。本来は魔力を込め、様々な魔法やスキルを付与したAF(アーティファクト)を作るのが目的なんだが、今の俺には造形するだけで精一杯だ。ゴブリンたちのおかげで材料には困らないので、とにかく練習を重ねていく。勿体ないが、良い物を作るためには、犠牲ぎせいは必要だ。


 ベッドで寝息を立てる狼娘を眺める。最初はこいつの役に立つAF(アーティファクト)を作れればいいんだがな。まだしばらくは掛かりそうだ。まあ、期待せずに待っててくれ。



  ◇  ◇  ◇



 翌日、午前の訓練が終わり、午後は自由時間とする。食材集めはもう充分だからな。


 リュミネリアは城の外に行くと言うので、がけの扉にだけは入らないよう厳命げんめいし、送り出す。この辺りの魔物ではもはや相手にもならないから心配はいらないだろう。


 彼女はご満悦まんえつでリュックにおやつを詰め込み、出掛けて行った。




 そして俺は、先代相手に剣を交えている。久々のこの感覚、全身の力を引き出されるような感じ、感覚がまされ、全細胞が活性化していく。ぶっ倒れるまで戦い続け、魔法で回復してまた戦う。それを数回繰り返した頃、リュミネリアが帰って来た。


 訓練場の中央でぶっ倒れている俺に駆け寄って来たリュミネリアは、わんぱくを絵に画いたような格好をしていた。頭の上には葉っぱが乗っかり、尻尾には蜘蛛くもの巣や草がからみついている。山で犬を遊ばせたらこうなる、の典型だな。



 こいつが現れる直前に、ヤツはいなくなった。どうもアレクサンドラともども、リュミネリアとは極力顔を合わせないようにしているようだ。どういうつもりか知らんが、まったく面倒臭い奴らだな。



 リュミネリアはボコボコにされた俺を見て御冠おかんむりだ。訓練だと説明したんだが、ここまでする事ないのにとプンスカしている。そのまま俺の手を引いて、湯殿に向かう。

 どういう風の吹き回しか知らんが、一緒に風呂に入るつもりらしい。まあ、俺は汗だくだし、こいつは泥だらけ草まみれだ。風呂に向かうのは当然なんだが……。


 こいつ、今までは俺が風呂に誘うと、とりあえずは拒否ってたのに、女だとカミングアウトしたら、腹が据わったのか?




 湯船にかる俺の前で、リュミネリアは頭を洗っている。試しに作ってみた石鹸は樹液より泡立ちがいいらしく、全身をあわあわのもこもこにしている。


 俺が身体を洗っている時は、甲斐甲斐かいがいしく背中を流してくれた。どうも従者しているつもりらしい。できれば妙齢みょうれいのご婦人に頼みたいのだが……。当然口にはしない。命は大事だからな。



 並んで湯船にかり、くつろぐ二人。以前のようにこそこそしなくなったが、妙なアピールしてくる事もない。まあ、変に意識されたりするよりはましだけどな。




 その後、晩飯を食ってから、頼んでおいたキノコを受け取る。遊びに行くついでに、キノコの森で食べれるキノコを集めてもらっていたんだ。こいつは一度嗅いだ匂いは忘れないから、間違えて毒キノコを採ってくる心配はない。

 ついでに菌糸を大量に持って帰ってきた。リュックはパンパンだ。これは傷薬や回復薬の材料になる。[創造錬金]で薬作りの練習も始めているので助かる。少しずつだがいろいろできるようになってきたからな。



 その後、リュックの改造にかかる。一回り大きくして、内側に防具用の革を張る。ゲロルとの一戦をかえりみて、どうせ背負うのなら防御力を上げておく事にする。形も整うしな。中や外にもポケットを付けたりして使いやすいように工夫した。


 出来上がるのを、尻尾をブンブン振りながら待っていたリュミネリアは、嬉々(きき)として小物を入れ分けたりしている。その姿を見ていて思う、服どうしよう。


 この間作ったばかりだから大きさは問題ないが、……男前提の服なんだよな。いや、服はいいだろう、前世界のように子供から男女がはっきりわかる服なんて着てないだろうからな。問題は下着だ。この世界の女性はどんなの着けてるんだ?


 ……聞ける相手がいない。いっそアレクサンドラに脱いでもらうか。お好きに……とか言ってたしな。まぁ、シャイな紳士にはハードルが高過ぎるな。


 ってか、ブラとか着けさせるべきなのか? それにそろそろ冬服も必要か。ハァ、今夜は眠れなくなりそうだな。



  ◇  ◇  ◇



 ってなヒビが数日続いた。なかなか有意義な時間で、いろいろな事を試せたし、技術もかなり向上した。料理も結構作って収納してある。


 やはり、こういうのは本拠地があってこそだな。野営ではなかなかこうはいかない。いずれ俺も一国一城の主を目指すか、魔王だしな。




 城に滞在すること10日、そろそろ旅立つ準備を始める。食料も作り置きの料理も充分だし、武器防具の予備も揃えた。[創造錬金]を使った様々な技術もある程度は目処めどが立ってきた。後は研鑽けんさんを積むだけだ。


 二人の冬服も作っておいた。問題のリュミネリアノ下着だが、伸縮性が強く吸水性も高い虫系魔物の糸があったので、それで昭和の中学生っぽいファーストブラとパンツを数枚造っておいた。姉も妹もいなかった俺には、ここら辺が限界だ。正直、ファーストブラとスポーツブラの違いもわかってないレベルだからな。


 ここから先は、こいつがもう少し大人になったら考えよう。そのためにも市井しせいに出たら、いろんな女性に服を脱いでもらおう。自分から脱いでもらえば犯罪じゃないしね。リュミネリアノためだから仕方ないんだ。うん、仕方ない! 自分のためじゃないからね。まだ見ぬお姉さんたちに胸が膨らむ。



 リュミリュックには完成した傷薬と回復薬、毒消しを少々と歯ブラシ、石鹸を入れさせる。この世界では歯磨きは殺菌消臭効果のある木の枝を使うのが普通らしいが、恐ろしく使い勝手が悪いので自作した。いずれ石鹸ともども売り出すか。ホント[創造錬金]さまさまだな。



 ブラは最初意味がわからないらしく、首をかしげながら着けていたようだが、しばらくすると、


「うん、これ着けてるとこすれて痛くならない」


 とか言って積極的に着けているようだ。何がこすれるのかは聞かないようにしよう。俺が知る必要のない事だろうからな。Curiosity killed the cat.



 そして最後に、俺が造ったAF(アーティファクト)第一号をリュミネリアの首に掛けてやる。シルバープレートにヘキサグラムのレリーフがきざまれ、その中央に青く輝くムーンストーンを埋め込んだ物を、シルバーチェーンでとめたアクセサリだ。鑑定すると[幸運上昇]のスキルが付いていた。できた時は感激したもんだ。初めてスキルが付いたからな。


 この石は、ムーンストーンの中でも最も美しい青色のものを選んだ。詳しくないが、ロイヤルブルーというヤツだろうか。リュミネリアノ銀髪と青い瞳をイメージして造ったものだ。喜んでくれればいいんだがな。



 最初驚いたように固まっていたリュミネリアは、目から涙を長し、突然俺に抱き付いてきた。そして俺の腹に顔をうずめて、肩を震わせ泣いている。


「いや、これ初めて作ったモンだから、大したもんじゃないぞ。造りもヘタッピだし、宝石も大して高級貧者ないと思うから、そんな喜ぶようなモンじゃないっての」


 だがリュミネリアは首をブンブン振って顔を上げる。目からは涙がこぼれている。


「ううん、うれしいよ! ラングリード様からは沢山うれしいの貰ったけど、これが一番うれしい。グスッ、アリガト、大事にするね」


 そう言って泣きながら笑うリュミネリア。梨とどっちが? とは聞かない。応えによっては立ち直れなくなりそうだからな。



 俺はそんな少女をグッと抱き寄せ、涙をぬぐってやり、顔を近付け、そっとささやく。


「ほら、もう泣きやめ。お前は泣くと、……ブサくなるからなぁ」


「っ‼ ……ううう、ブっブサくないもん! ラングリード様のバカァッ‼」


 世界を狙える右が俺のあごを捉える。


 俺は何を間違えてしまったのだろうか? ただ、笑顔のほうが可愛いと伝えたかっただけなんだが……。



 薄れゆく意識の中で、左右に揺れる銀色の房のきらめきだけが、俺の目を捉えていた……。



  ◇  ◇  ◇



「まったく、ラングリード様はっ! まったく、もう。まったくなんだからぁ!」


 月のように輝く石が埋め込まれた小さな銀板を撫ぜながら、少女は微笑ほほえむ。怒ってるんだ、笑っちゃダメ、そう何度も自分に言い聞かせるが、ほっぺが言う事を聞いてくれない。尻尾もだ。動いちゃダメって言ってるのに、ブンブン動くのを止めてくれない。


 なんでだろう、なんでかわからないけど、身体が全然言う事を聞いてくれない。こんなんじゃ、怒ってるってラングリード様に言えないよ。許してあげないって言えない。


 うれしいって、大好きって、絶対キライになんてなってあげないって……、全部バレちゃうよぉ。バレちゃったら……、ずっと一緒にいれるかなぁ?




 魔王城の夜は静かにけていく。夜空に架かる銀月と、少女の手の中で優しく輝く青い月に照らされながら……。

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