第4話 安全地帯 鬼は入って来ちゃダメ!
何とかいう名のダークゴブリンを倒し、一息ついたので、先に進む事にする。ヴァンパイアファングも忘れずに回収し、序でにショートソードも貰って行く。ギリギリのきつい戦いだったし、一旦引き返し、再度挑戦してもいいかと思ったのだが、リュムに言わせると、(何で? ご飯持ってきてるんでしょ、じゃあどんどん行こうよ) だそうだ。こいつは俺なんかよりも、よっぽど肝が据わっているようだな。実に頼もしい限りである。
そしてしばらく探索を続ける。ホブゴブリンやゴブリンとは頻繁に遭遇するが、ダークゴブリンとはその後1度も出くわさなかった。
まぁ、あんなのとそう度々エンカウントしてたら命がいくつあっても足りないけどね。
そして地下3の探索も、そろそろ終わりが見え始めた頃、妙な部屋を見つけた。
一変10mくらいの拾い部屋だが、特に何があるわけでもない。だだっ広いだけの部屋だが、これまでダンジョンに入ってから感じていた、刺々しい魔素に満ちた領域と違い、とても穏やかで一種神聖さすら感じられる。ヒーリング音楽でも流れてきそうな空間だ。決して魔素量が少ないわけではなく、その質がとても柔らかく優しい感じがする。ここは一体?
「ここって何なの? お外に出たみたいな感じだね」
リュムが不思議そうに聞いてくる。
「ああ、何だろうな。安全地帯か何かか? だったらいいんだがな……」
「あんぜんちたい? ……何、それ?」
リュムが小首を傾げる。う~ん、何と説明するかな。入口が開いてて、自分たちは出入り自由なのに、敵だけ入って来れないなんて、現実的にはあり得ない話だしな。でも、ダンジョンモノの創作じゃあ定番なんだがなぁ……。
「鬼は入ってきちゃダメって部屋なの?」
安全地帯の概念を説明している内に、鬼ごっこのローカルルールなんかを教えていると、リュムの解釈がそこに落ち着いてしまった。
鬼って……、いやゴブリンはよく小鬼って表現されるしな、満更間違いでもないのか?
とりあえずここで休憩する事にする。俺の魔法じゃ傷は治せても疲労は取れないからな。それに、いい感じに腹も減ってきた。そう思っていると隣で盛大に腹が鳴る。うん、食うか!
俺は[アースマニピュレート]で入口を塞ぎ、[次元収納]から調理済みの食事を出す。献立は、焼いた肉に果実から作った少し甘めのソースをかけて、パンに挟んだサンドイッチと、根菜と香草を煮込んで濃い目の味に調整したスープだ。塩と砂糖以外の調味料はいまいちよくわからない物ばかりなんだが、大体味が理解できてきたので、概ね思った味に近付けるようになった。ウスターソースやケチャップが欲しいところだが、どうも無さそうなので、現在、試行錯誤中である。
リュムは無心でパクついている。そして喉に詰まらせては慌ててカップのスープを飲み、その熱さに悶絶する、を繰り返している。学習能力ないのか、お前は?
食事が終わると、好物の梨を齧るリュム。それを眺めながら、俺はアレクサンドラを呼び出し、いろいろと質問中だ。特にゲロルの鑑定結果について聞くべき点が多くある。
『ネームドとは、種族の長が次代の長となるべき見込みのある者に対してや、力のある魔人が臣下に加える際に、名を与えられた魔物の事です。その種族でも突然変異的に発生した個体が殆どですので、同種とは比べ物にならない程の強者であったり、上位魔人などは名付けとともに特殊な力を与える事があるため、ほぼ別種と考えて対応すべきでしょう。大抵はジョブを持っており、寿命も延びるので、ネームドは魔物から特殊な魔人という扱いになります。そのため、鑑定内容も既存の魔物とは異なるのが常です』
先生の話では、ゴブリン族は繁殖力が強く、生後2、3ヵ月で成体となり、5年程度が寿命らしいが、ネームドや上位種となればその枠から外れ、高位になればなる程、寿命は延びるとのことだ。22歳って若造かと想ったら、結構長くは生きてたみたいだ。
元々ダークゴブリンというゴブリン族の中でも希少な最上位種の一角らしいので、そりゃ強いよな。
話してて思い出した。子供の頃、読んだヨーロッパの妖精についての本に、[ボーンゴブリン]や[ブラッドゴブリン]なんかと一緒に載ってた気がする。まぁ、あれは確かゴブリンは種族名ではなく、人に仇なす妖精の総称だったと思うが。
何にせよアレクサンドラには、ちゃんと問い正さねばならない事がある。ここはうやむやにしてはいけない。今後のためにも勇気を出さねば。
『このダンジョンって初心者向けでそこそこの敵しかいないって言ってなかったか? 俺、死にかけたんですけど……。どういうこと?』
『はい、真の魔王を目指す者にとって、その程度の試練は当然です。格上を倒した時、その力は飛躍的に向上します。それにはそこにいる魔人は程よい相手と言えましょう。まずは最初の勝利、おめでとうございます。今後のご活躍も期待しております』
…………アレクサンドラ先生には勝てない。いや、最初からわかってたけどね。ところで、俺、いつから[真の魔王]目指してたんだっけ? うん、考えたら負けだな。先生の玄に間違いなどない!
それと、この不思議な部屋についても聞いておく。思い込みは危険だからな。
『以前にも話しましたが、ダンジョンを始めとする魔境とは、神魔大戦後、神々が魔界を人間界に造り変えた際、それが叶わなかった場所、言わば人間界に残った魔界と言うべき領域です。ですが神々が改変しようとした名残りが存在します。それが今、ラングリード様のいる部屋です。ダンジョンには大抵数ヵ所存在し、その中は神界に近い空間となります。人間にとっては、体力回復や自然治癒力が向上するなど恩恵を受けられる場所となりますが、魔に属する者にとっては、かなり力を持った魔人でもない限り、近寄る事すらできません。本来魔王であるラングリード様は入る事はできますが、心地の良い場所ではないのです。しかし、女神の呪いを受けてしまったがゆえに、そこにいても特に問題は出ませんし、むしろ回復効果などを受けてしまいます。神の悪意、口惜しい限りです』
……女神の呪い? 神の悪意? ……それは加護とか祝福って言うんじゃないのか?
とにもかくにもここは安全地帯で間違いないらしいし、そろそろいい時間にもなっているので、ここで軽く眠る事にする。確かに落ち着くんだよな、ここ。
だがその前に、リュムのリュックと水筒、穴の空いた鎧を修理する。
リュクと鎧は簡単に直るのだが、水筒を直そうとして手を止める。毒付加のスキル持ち武器で刺されたんだから毒付いてるよな。飲み水入れるものにそれはちょっと……。どうしたものかと思案していて、ふと思い付く。
[アンチドート]って無機物にも効くのか? そこで[鑑定]の出番だ。
結果、解毒前は鑑定内容に、毒とあったのに、解毒後は消えていた。スゲェな、って事は、毒盛られた食べ物にも有効って事だろ。まぁ、俺毒効かねえから毒入りだろうが食えるけどね、やっぱり気持ち悪いし、リュムの事も考えると、やはりかなり有効な魔法だと言えるだろう。
ところで、毒で思い出したんだが、ゲロルが持ってたショートソードはかなり強力な武器だ。遊ばしておくのは勿体ない。そこでリュムに使わせようかと考えた。リュムの剣術もそれなりになってきている。もうナイフでは物足りないのではないかと思ったのだが、全力で拒否された。
「やだ、それキライ! それ持ってたアイツもキライ! だからそんなのいらない!」
だ、そうだ。どうも、俺や大事な水筒を傷つけたこの武器が許せないらしい。道具に罪は無いんだがな。こういうのはメンタルの問題だし、無理強いしても仕方がない。いずれ魔王城に戻ったら、何か良い物を見繕う事にしよう。今はまだ、使ってるナイフでも充分だしな。
そして最後に自分を鑑定しておく。小まめなチェックは重要だからな。
名前:ラングリード 種族:魔王 性別:男 年齢:0歳 ジョブ:[剣士Lv.19][魔王Lv.3] スキル:[次元収納][紫電][創造錬金][剣術B] 魔法:[火B][水B][風B][土B][光C][闇C][雷撃C][治癒B] 称号:[次元超越者][女神の茶飲み友達][魔王継承者]
おおっ、魔王がLv.3になってる。それに風と治癒の魔法がBに。
魔王ジョブを確認する。魔王Lv3:魔界を統べる者、またはそう定められた者 全ステータス中+ スキル:[全言語理解][魔眼][魔王覇気][魔素生成][魔力放出][必要経験値減少][PT編制]。[PT編制]これが自由にPT任命ができるってスキルか。
それと治癒魔法がBになっている。確認すると、[ヒール]:回復中。[スタミナヒール]:体力回復。が追加されていた。これは以前アレクサンドラが使ってくれた魔法だ。[ライトヒール]じゃ回復しきれなくなってきてたからな。これはかなり助かる。俺もなかなかのステータスになってきたな。
リュムはブランケットにくるまって、寝る準備は万端だ。本来は交互に見張りを立てるんだが、ここには魔物は近付かないってことと、入口を[アースマニピュレート]で塞いでいるので問題ないだろう。あと、お手洗いは穴を掘り土壁で周囲を囲った簡易トイレを作ってある。俺は[ウォッシュ]があるし、リュムには窪みに水を貯めておいてやる。終わったらそのまま土に埋めればいい。土魔法、便利過ぎるぜ。
このせいか、最近リュムがこれらの魔法を覚えたいらしく、
(うぉっしゅ~。……。あ~すまににゅぴゅれろ~)
とか唱えている。そんなんで魔法覚えられて堪るか! まぁ、いずれ覚えられるようにしてやろう。そのためにも早く鑑定できるようにしたいんだが、アレクサンドラは含みのある物言いで、(おそらく時間の問題かと……) とか言っている。どうもこいつは何かを知っているようなんだがな……。
まあいいさ、もう寝よう。俺はブランケットを被り、目を閉じる。
優しく神聖な感覚が昂っていた心を癒していってくれるようだ。
安全地帯、ねぇ。恋の予感がただ駆け抜けるだけなのか? って事は、まさか遂にヒロイン候補が現れるのか? 遅すぎるぜ、まったくよぉ。
……結局、いつまで待っても誰も現れなかった。そりゃそうだろ、しかも入口しっかり塞いでたし。隣のリュムが妙な寝言をかましてただけだった。何だよ、チョモルマンって! ヒーローなのか? カッコいいのか? 遊園地でボクと握手、してくれるのか? 嫌だぞ、俺はそんなヒーローショー見に行かなイからな!




